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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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穏便な救助



「あっ、ウェズン様お久しぶりです」


 ウィルに手を引かれ連れていかれた先は、鬱蒼とした森を抜けた先であった。

 海が見える。

 けれど、見えるだけで泳げるわけではない。飛び込んだら死ぬ程度には高い場所だったからだ。


 あっ、あれだ、何かサスペンスドラマのラスト15分くらいに犯人がいい感じに動機を告白する場所みたいな……なんてのがウェズンの脳内をよぎった。

 ここじゃなくて、別の場所から行けば海に足をつけるくらいはできそうだけど、ここは無理。


 海が見えるけれど泳ぐにはちょっと……といったサスペンスドラマにありがちな舞台になってそうなところではあるが、殺風景というわけでもなく一応足元を見ればちらほらと小さな花が咲いているのが見えた。

 白やピンクといった色合いが多く、そこら辺を含めてみればサスペンスドラマに出てきそうな舞台には思えないのだが、いかんせん断崖絶壁になっているその先が海というのはどうしたってウェズンにとっては殺人事件がありそうな何やらを想像させるのであった。


 実際殺人事件は現在進行形で起きてるようなものなので、思考が物騒な方向に傾いていても何もおかしくはない。


 そんな中で出会ったファラムは、こちらを見ると嬉しそうに微笑んで弾んだ声を出した。


 様付けされた事に戸惑いを覚えたが、そこはかとなく良い家柄なのだろうなと思わせるファラムなので、様付けはむしろ彼女にとっては当たり前の事なのかもしれない。


「ファラムー、そっちはどう?」

「えぇ、先程数名始末しました」


 さらっと言っているが、ウェズンからすればそれは笑える話ではない。

 つまりファラムはここの生徒を一人や二人どころではない数仕留めたと言ったも同然なのだから。


 今更だけどそんなところにノコノコやってきて大丈夫なんだろうかと思い始める。


 ウィルが敵対している雰囲気でもないし、ファラムもにこやかにウェズンの事を受け入れているようだけれど、何が切っ掛けでその状況が壊れるかわかったものじゃないのだ。

 今回は見逃してもらえるかもしれないが、次はないと考えてもいいだろう。むしろ次が本当にあるかどうかも疑わしい。


「それで、あとは彼だけです」

 つい、と顔ごと動かしたファラムにつられるようにウェズンの視線もそちらへ移動した。

 戦い真っ最中といった雰囲気ではなかったのでてっきり安全な場所で合流したものだとばかり思っていたのだ。


「……ヴァン!?」


 周囲に死体が転がってるわけでもなかったし、だからこそここで戦闘は行われていない。

 そう思っていたというのに、しかしそこには身体を丸めるようにしてうずくまっている見慣れた姿があった。


「は、その声……ウェズン、か……?」


 怪我をしている様子はないが、それでも顔色は悪い。青を通り越して高級紙みたいな真っ白加減である。考えている暇なんてなかった。

 ウィルの隣から急いで移動してヴァンを庇うように立ち塞がる。

 それを見たファラムは「あっ、しまった」なんて言いそうな顔をして困ったようにウィルへ視線を向ける。

 ウィルもまた「あー……」と口の中だけで唸って、気まずそうに見る。


「とりあえずは、無事に戻ることができたみたいで良かったよ。まぁ、こんな形で再会するとは思わなかったけど」

 困ったように笑ってみせれば、ファラムもまた同じように眉を下げて笑みを浮かべた。


「もしかしてそちら」

「あぁうん、友人なんだ」


 正直な話、友人か? と問われれば別に仲が良いわけでもないし精々が同じ教室にいるだけの、知人以上友人未満といった間柄だ。けれどもほぼ他人だというよりは友人といった方が庇ったとしても不自然にはならない。


 大体ここで無関係です、なんて言えばではどいてくださいとか言われてヴァンが殺される可能性が爆上がりである。これが自分の手を汚さずに仕留めてくれるの有難い、とか言えるような相手だったらそもそもウェズンだってこんな事はしないが、それでも何度か学外授業に一緒にいった仲だ。友達という程仲が良いか? と聞かれると困るけれどそれでもクラスの中ではそこそこ親しい方だと思っている。

 まぁ率先してお互い話しかけるような仲ではないけれども。それでも一緒に行動する時だとかはそれなりに話をする。


 そんな相手を見捨てるのは流石に良心が痛むどころの話ではない。


「…………わかりました、わたしも以前助けられた身。恩を仇で返すような真似はできません」


 ふ、と吐息が零れたような音がしたのはそれからすぐの話だ。


「本当にいいの? ファラム」

「えぇ、それなりに最低限の事はやりましたので、彼一人見逃したところで何も問題はありません」


 ウィルの問いにファラムはさらりとこたえた。別に騙して油断させようだなんて感じはしない。これで騙されたならヴァンだけではなくウェズンも危ないのだが、そこは素直に信じる事ができた。


「それに」

「それに?」

「もうそろそろ時間でしょう?」

「あっ、そういえば……えっ、まだウィル獲物見つけてない」

「あぁ、例の……ですがわたしも一応探してみましたけど、それっぽい人は見ませんでしたよ。死体となって転がってもいませんでしたし」

「じゃあ運良く部屋か……だとすると手が出せない……」


 ぎりっと音がしそうな勢いで奥歯を噛みしめるウィルの表情は先程までのぽやんとしたものとは一転し、闇落ち寸前ですと言われれば信じてしまいそうな顔をしていた。えっ、その差が怖ァ……とウェズンは思わず声を出しそうになったけれど、どうにか飲み込む。


 なんだっけほら、前世で見た何か古い映画の……見た目可愛いけど育て方間違ったら分裂して可愛くないのが増えるやつ……あれの可愛いのと可愛くないのくらいの差がある……

 そんな感想である。


「それではウェズン様。折角の再会だというのに慌ただしくて申し訳ありませんが、今回はこれにて失礼します。また、機会があれば会いましょうね」

「え、あ、うん……? でもそれって敵としてって事にならない?」

「あらやだ、こういう授業の時はともかくそれ以外でやりあおうなんて思いませんよ。そちらがどうするか次第ですけれど」

「それもそっか……見逃してくれてありがとうね。気を付けて帰るんだよ」

「はい。気をつけます。それでは」


「ばいばーい、またねー」


 ぺこりと一礼したファラムと、手をぶんぶん振るウィルは、そのまま二人に背を向けるようにして歩き出す。


「くそ、逃がすと思うか……」

「ヴァン、やめておいた方がいい」


 絞り出すような小さな声だったが、ヴァンはそれでもどうにかして起き上がろうとしてそれをウェズンに止められていた。

 怪我をした様子はないけれど、無事とは言い難い。ファラムに何かされたという感じではないが、ここに来るまでの間にそれなりに手負いの状態になっていたのであれば、見た目怪我も何もしていない挙句余力もありそうなファラムとウィルを相手にするのは多分無謀だと思える。


 ファラムの実力はわからないけれど、ウィルはエルフと言っていたし、ウェズンの知識が確かならエルフはかなり魔力が高い。下手に攻撃を仕掛けた場合、辺り一帯魔法で吹っ飛ばされるかもしれないのだ。

 現状マトモな攻撃も防御もできるかどうか疑わしいヴァンが手を出すにはあまりにも無茶がすぎる。


 あと、仮にあの二人と戦うにしても、なんというかとてもやりにくい気しかしない。

 ヴァン一人に任せるわけにもいかないし、仮に戦うとするならばウェズンも加勢するだろう。相手が見知らぬ誰かで、相手にも家族や友人が……なんていう背景を気にする余裕もない勢いで戦うしかない、というならまだしも、ファラムもウィルもそれなりに知り合い状態なのだ。


 いつか。

 神前試合で戦う事になった、だとかであれば腹をくくることもあろう。だがしかしいつか戦うなら今戦っても問題ないよね? とはならないわけで。

 テラがこの場にいたならば、そんな状態であっても戦い抜いてみせろ、くらいは言ったかもしれないが。

 いや無理言うなよって話だ。いくら異世界に転生したとはいえ、前世の記憶を思い出してしまってからというもの倫理観とかは若干前世寄りだ。絶対にできない、と言うつもりもないけれど慣れるまでは相当時間がかかる気がしている。


 もっというなら学園に来た初日、クラスメイトで殴り合いをした日に、もし殴り合いではなく殺し合いをしろと言われていたならばウェズンは最後まで勝ち抜く事もできなかったのではなかろうか。


「……くそ、ここまで手も足もでないとは……」


 悔しそうに顔を歪めるヴァンではあるが、ウェズンの制止を聞く耳はあったようだ。だん、と拳を地面に打ち付けるがその力はどこか弱々しい。


「そんなに強かったんだ?」

「強い、というか……あの女、邪魔をするのが絶妙に上手い……!」


 接近戦を仕掛けようとすればかろやかに躱し、そうして反撃に出てくるし、距離をとって魔術で攻撃をしようとすれば向こうも魔術で攻撃を繰り出す。威力はかなり抑えられていたけれど、それを回避しようとした拍子にさらに攻撃を追加で仕掛けてくるからか、こちらの魔術は不発に終わり、うっかり瘴気が発生しそれが体内に溜まった事で体調不良を起こした。

 それが、まるで手も足も出ないようにうずくまっていたヴァンの状況であった。


 大技一発ぶちかまさなかったのは、魔術を不発に終わらせれば発生した瘴気で勝手に弱っていくと判断されたからとみて間違いない。

 この島はほとんど瘴気に汚染されていないので、生徒が多少瘴気を発生させたからとて一気にヤバイ事になる、とはならない。そうじゃなければこれ以上瘴気を発生させる前に……なんて理由で早々に仕留められていたかもしれない。


 先程の会話を思い返すにあたり、ファラムは既に数人仕留めたらしいし、であればわざわざ積極的にヴァンを仕留めようとしなくとも自滅を狙えるのならそうした方が楽、というのもあったのだろう。結果としてそれがヴァンの命を救ったと言えなくもない。


「今なら周囲に攻撃仕掛けてくるようなのもいないだろうし、今のうちに浄化魔法使った方がいいんじゃないか?」

「あぁ……そうする……」


 正直大分消耗していて魔法が本当に使えるのだろうか、という不安もあるが、それでもヴァンはウェズンの言葉に頷いたのでそれくらいはどうにかなるのだろう。


 呼吸を整え精神を集中させるかのように目を閉じて、そっと小声で魔法を発動させる。パッと一瞬だけ光ったがその淡い光で敵に見つかるという事もなさそうだ。


「あの二人、そろそろ時間みたいな事を言ってたって事は、他の連中もそうと考えていいんだろうか……」

「恐らくは。だが、まだ完全に終わったというわけじゃない。油断はするなよ」

「わかってる」


 浄化魔法を使ったものの、それなりに魔力を消耗した事で疲労は残っているらしく、ヴァンの動きはどこか緩慢だったがそれでもゆっくりと立ち上がる。


「最後の最後で無差別に高威力の魔法だとかをぶちかましていく、なんて奴はいないと思いたいが最後の最後まで粘ろうとして学園近辺に張ってるやつはいるだろうな」

「タイムアップした時点で即帰還って感じじゃなきゃそうなるだろうね」

「とはいえ、だからといってあまり離れた場所にいつまでもいるのもな……帰るだけで一苦労だし」


 立ち上がりはしたもののふらつく足取りから見るに、ヴァンの魔力も体力も相当ギリギリのようだ。正直これでは戦力と考えるのは無理がある。


 安全が確認されてから戻るのがいい、とは思うのだけれど。

 そろそろ時間、と言っていたファラムの言葉がこちらと穏便に離れるための嘘である可能性もある。

 であれば――ウェズンは駄目元でそっとモノリスフィアを取り出した。


 今回の件についてもうちょっと詳細に情報がないだろうかとイアに確認するためである。

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