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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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参加理由



 前世ではそこそこ創作物があふれていた。

 勇者と魔王が出てくる話もそれなりにあった。


 最初の頃は勇者が魔王を倒すため長い旅を経て、そうして死闘の果てに魔王を倒すというのが主流だったと思う。倒せなくとも封印するとか、倒したところで一時的なもので長い年月をかけて復活するとか、まぁ多少の違いはあれど大まかには同じである。


 けれどもある程度そういった話で飽和するようになると、今度は勇者と魔王が出てくるものの倒さない話、なんてもの出るようになってきた。

 実は魔王が平和主義で戦いたくないからどうにか回避しようとして、城を抜け出し勇者の味方としてしれっと仲間に入ってみたりだとか、領地でスローライフして勇者そっちのけで平和な世界を作ってみせる、なんて感じの話だったりだとか。

 勿論その逆でこっちから勇者を倒しにいってやらぁ! みたいなのもあった。


 勇者と魔王がお互いそうとは知らぬまま恋に落ちて――なんて話も。


 他にも色々あるけれど、王道はなんだと問われればとりあえず勇者が魔王を倒しに行く話で合っているだろう。


 様々なあれこれを想像して、なんで気付かなかったんだろう……とウェズンはこっそりと溜息を吐いた。


 魔王を養成する――グラドルーシュ学園。

 考えようによってはここは魔王の居城といったところではあるまいか。


 そして勇者もいるとわかっていたのだから、こういう事がないなんて言えるはずもない。


 ただ、神前試合にて戦うことを目標にお互い鍛え上げるというその部分で、お互いに戦うのはその時だけだと無意識に思い込んでいたと指摘されればそれまでである。


 大体初日にクラスメイト同士で殴り合いをさせられるようなところだ。

 ある日突然勇者が強襲してくる可能性は普通にあったではないか。

 対人戦に慣れておけ、とテラは言っていた。

 勿論いずれ勇者側と戦う事もあるのはわかっている。だからこそ、対人戦という言葉にも初日の殴り合いも理解と納得はしていたはずなのに。


 最近学園の授業に慣れつつあって気が緩んでいたと言われれば否定はできない。

 そしてテラは再三警告していた。


 これについてだったのか……と今更すぎる程に理解した。

 どうしてもっとちゃんと言ってくれなかったのか、なんて言う奴も勿論出るだろう。

 だが、これから勇者たちが奇襲攻撃を仕掛けにきますよなんて言ったら奇襲にならないではないか。


 特別授業。

 見知らぬ強襲者。


 正直これだけでわかれというのも無理じゃないか? と思うけれどヒントはそれなりにあったのだから、正解にたどり着かずともそれなりに近しいところまで推察できたはずだった。


 今回の件で命を危険に晒したのは、それなりに真面目でそれなりに不真面目だった相手だろう。


 教師の言葉を聞いて素直に外に出なければ安全だが、何かをやらかすつもりはないが折角の休みだしちょっと羽を伸ばそうか、なんて考えた連中はまんまと自らを危険に晒したわけだ。

 むしろ明日は休みだヒャッホーウ♪ みたいなノリで夜更かしして起きたら昼過ぎてた……みたいなやつの方が案外安全だったわけだ。


 なんとも理不尽な話である。

 むしろこの世界理不尽が標準装備みたいな部分あるので、そう考えるとこれは当たり前の話なのかもしれない。


 そっか勇者かー、なんてウィルの言葉に相槌を打って、ウェズンとウィルはぽつぽつと言葉を交わす。

 あまり踏み込んだ話はできそうになかったが、とりあえずウィルたちの授業内容を聞けばまず学園に強襲し、外に出ている生徒を仕留める。場合によっては反撃されて自分が死ぬ可能性もあるのだが、この授業なんとこちらと違って選択制であった。


 こっちは拒否権なしに外に出た時点で命を狙われるけれど、向こうは参加するかどうかを事前に決める事ができるとか、ウェズンからすればこっちもせめてもうちょっと事前情報欲しかったなー、と言いたくなるもので。

 まぁ? 襲われるって事前にわかっててノコノコ外に出る奴なんて滅多にいないだろうから、こっち側は知らせる事ができないのはわからなくもない。

 去年これらの一件を乗り越えた先輩方やそれ以外の――部屋の世話係なども口止めをされているのだろう。

 自分たちは何も知らない状態で乗り越えたのだから、お前らも乗り越えろよなんて精神なのか、俺らがひどい目に遭ったんだからお前らも同じ目に遭えという精神なのかはわからない。

 だが、もしかしたら口を滑らせて話した場合そちらに何らかのペナルティがあるのではないか。


 いかにも何かを知っていますよといった先輩方にしつこく話を聞き出そうとしていた者もいたようだが、ちょっとのヒントも漏らす事がなかったのだから。

 今回を無事に生き残ったなら、来年はウェズンたちが同じように新入生を見守る側になるのだろう。生きていればの話だが。


 獲物の数は毎年同じというわけでもないので、勇者側は参加しても誰も狩れないなんて事もあるらしい。けれども一応参加すればそれなりに成績に加点されるのだとか。

 率先して狩りに行きたい奴か、自衛できるから参加だけして成績にちょっと色をつけようと考える奴、そういうのが参加するのだそう。


 参加すればそれなりに成績に加点されるとはいえ、襲撃する側が返り討ちにあわないとも限らない。

 最低限自衛できる実力もないうちに参加して、何がなんだかわからないまま襲われたこちら側の相手が一人でも道連れにしてやらぁ! みたいな勢いで攻撃を仕掛けられた場合、成績加点どころの話ではない。死んだらそれまでなのだから。


 なのでその話を聞いて、ちょっとだけウェズンはそれならどうしてウィルは参加したのだろうか、と思ってしまった。失礼な話だが、すっ転んで泣きそうになっていた光景を思い出すと、こいつこういうの向いてないんじゃないか? と思ってしまったので。


「ウィルはどうして参加したんだ? こう、言っちゃなんだけど率先して狩りにいくって感じじゃないし、成績が悪いとかでもなさそうだし」


 話をしている時点で、口調がゆるっとしている部分はあれどそこまで頭が悪いわけじゃないんだろうな、と思ったので成績がとんでもなく低いとかはなさそう。なら、どうして? そう思うのは当然の流れだったのかもしれない。


「……ウィルは、どうしても戦わなきゃいけない相手がいるから」


 その質問に、ウィルの目から途端に光が消える。どこか剣呑な空気を孕んだその様子に、思わずたじろいだ。


「ふくしぅしないといけない相手がいるの。ここに」

「復讐……」


 言い方可愛いなと思いながらも内容はしかし可愛いものではない。

 そうか。つまりここに知り合いがいる、と。知り合いと言っていいかも微妙だが。

 そいつを殺すつもりで参加したのだろうか。

 それが誰かまではわからないが、もしそいつがうっかりこうやって外に出ているのであれば。


 他の誰かにやられている可能性もあるけれど、そうではなく生き延びたとしてウィルと遭遇したならば間違いなくどちらかが死ぬまで終わらないのだろう。そう思えるだけの気迫はあった。


 一体どこのどいつなんだろう。気になりはしたが、余計なことを言って藪蛇するのはごめんだったのでそっか……とだけ相槌を打ってそれ以上は聞かなかった。

 自分ではない事は確かだ。何せ今日が初対面。

 エルフとかこの世界に生まれて今日初めて見た存在なので、そんな彼女から恨みを買うようなことをしていないのは明らかである。イアは……以前住んでいた所で何かあった可能性もあるけれど、それにしたってないだろう。もしそういう因縁の相手がいるならそれくらいは覚えているだろうし。


 となると、自分の身の回りの誰かという可能性は低い。

 大体それなりに数が減ったとはいえそれでもまだこの学園の生徒は大勢いるのだ。

 ウィルがこうして参加して狙っている生徒がウェズン同様新入生である、というのだけはわかるが、それ以上の情報はあえて知ろうとも思わない。


「聞いた話だと今年ここに入ったって話だから。だから参加したの。……見かけたって話はないけど」

 ちっ、とウィルの外見からは予想もつかないくらい低い舌打ちが聞こえた。


 どうやらウィルたちのところでもモノリスフィアが支給されていて、仲間内での連絡がとれているらしい。そこで他の仲間にも話をしてこいつだけは自分の手で葬るから、と言ってあるのだとか。なので見つかれば連絡がくるらしい。絶対に殺すという意思が強い。


 一体何をしたらそんな恨まれるんだ……ウェズンとしては戦慄するしかない。

 え、何、エルフの村とかそういうの焼いたとかいう経験でもおありで? その復讐相手。

 復讐というくらいだから、パッと思い浮かぶのは大切な誰かが殺されただとかの場合だろうけれど、そもそもエルフの里みたいなのがあるなんて聞いた覚えがない。

 前に少し図書室で地図をあれこれ見たけれど、あからさまにエルフの集落みたいな感じの名前は見た事がない。あの地図がいつ作られたかで載っていない地名はそりゃあるだろうけれども。


 家族や恋人が殺されただとかは、復讐あるあるだ。

 その次だと何だろう……自分の名誉が損なわれた時だろうか。冤罪で陥れられただとか。

 とはいえウィルの様子だとなんというか、そういう感じはしない。

 冤罪だとかで陥れられた場合、どうしたって周囲への不信感は生じる。信じていた相手に裏切られたのであれば、特に信じていない相手など信じるに値しないのだから。


 どこのどいつか知らないが、もしその相手が外に出ていないのであればウィルにとっては無駄足だ。

 けれども、せめてそうであれ、とウェズンは思ってしまった。

 ウィルにとって何があって復讐に至るまでになったかはわからないが、それにしたってこれ以上余計な死者が増えるような展開は避けたい。


 とりあえず何か話題を変えた方がいいかな……などと思っている矢先に、ピコン、と何やら電子音めいた音が小さく響く。

 モノリスフィアの通知音だが、ウェズンは音声通知を切った状態にしてあるので自分のではない。逃げてる途中で音がして居場所が割れるなんて事になれば困るのは自分なので、早々にミュートにしてある。ちなみに音は設定変更できるらしいが、ウェズンも初期設定のままなのでもしミュートにしていなければウィルと同じ通知音なので、どっちのかわからなかっただろう。


 すっとウィルがモノリスフィアを取り出して画面を確認する。


「……ファラムからの応援要請だ。行かなきゃ。あ、ウェズンもくる?」

「えっ?」


 いやあの、今現在そちらとこちらで行われてるのヒューマンハントですよね?

 思わずそう言いたくなったが、ファラムという知った名にウェズンは彼女も参加してるのか……というか勇者側の学校の人だったのか……なんていう今更すぎる事を思ったせいで反応が遅れた。


「いこ」


 ぐいっと手を引かれ、ウェズンはいや遠慮しておきますなんて言う暇もないままウィルに引っ張られていくのであった。

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