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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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軽度の極限状態



 魔物は倒せば勝手に消えるけれど、人間はそうもいかない。

 人目につかないようにひっそりこっそり移動していく途中で、ウェズンは数名死んでいるのを確認していた。今のところ明確にどこの誰かがわからない相手ばかりなのが若干心の救いだった。


 これで自分のクラスのそこそこ話をしていて個人を認識しているような――かろうじて友人と言ってもいいんじゃないかな、みたいな相手が死んでいるのを見たら多分メンタルがごりっと逝っていたに違いないのだ。


 そりゃあ人生二度目で前世の経験だとか記憶だとかがあるとはいえ、平和なところで生活していて実際に物騒な事件に巻き込まれるような事はほとんどなかった。ちょっと兄弟喧嘩で拳を使う事はあったけれど、人が死ぬだとかまでは勿論やりあった事はないし、病院送りにしたなんて事もない。

 ニュースでは毎日人が死んだ事件が取り扱われていたけれど、実際自分の身の回りで自分の親しい相手が死んだ、という話はなかった。だからこそ、そんな悲しいニュースは最初の頃はそれなりに「酷い事件だなぁ」なんて心を痛めた事もあったけれど、気付けばすっかり慣れてしまって単なる雑音と化していた程だ。


 自分にとって近しい人物の死、というのは精々親戚のおじいちゃんおばあちゃんが老衰で死んだとか、風邪拗らせて肺炎になって入院したら他の病気も発見されてそこからは治療をしても残念な事に……みたいな、まぁでも年齢考えたら大往生だよ、なんて言ってどうにか自分を慰められるようなもので。


 まだ幼い誰かが不幸にも事故に巻き込まれただとか、そういった悲しいニュースになりそうなものは身の回りにはなかったのである。そういう意味では幸せだったのかもしれない。


 人が死ぬ話に耐性はあっても、直接目にするとなるとやはり違う。


 見知らぬ人物であっても同じ学園にいた生徒、という点で、完全な他人事にならなかった。

 どこのクラスかもわからない人の死でもこうして目の当たりにすれば気分は落ち込むのだから、これが知り合いであったらなおの事だろう。

 実際寮の入口で死んだイールの事は今もまだ脳裏にこびりついている。

 もしかしたら夢に出てくるかもしれない。


 ちょっと話しただけの相手でこれだ、イアは寮にいるから大丈夫だろうけれど、それ以外の――それこそ自分が一緒に行動した相手とかがそうなっていたら。

 なんで異世界転生なんてしてるんだ。

 半ば八つ当たりのようにそう思う。


 日本と違ってここは命の価値が想像以上に軽い。

 前世だって日本以外の海外で、場所によってはとんでもなく治安が悪くて命なんて石ころみたいな価値しかないような国もあったようだけど、前世そんな国に行く機会はなかった。


 それなりに法律で守られている日本から、安全な場所でぬくぬくと創作物を楽しむ程度であれば内容がどれだけ地獄だろうと楽しめただろう。けれどもそれを自分がリアルで体験したいとは勿論思うはずもない。

 それなのに。

 それでもウェズンは転生してしまっている。どういう事なの神様。


 脳内で見た事もない神の姿を想像して文句を言ってみるが、勿論どこからともなく神の声が……なんて事もない。


 割とついさっき死んだ相手を横目に、ウェズンは周囲を警戒しつつ進んでいく。


 既に周囲に白い制服を着た連中がいないのは喜ばしいが、つまりこの近辺に味方になりそうなこちらの生徒はいないと言えるわけで。いい加減ソロでの行動から仲間が欲しい。パーティー組みたい……なんて思いながら、更に進む。


 できればある程度お互い協力できる相手が望ましい。

 手を組んだとしても、相手がこちらを裏切る事前提で、なんて事になれば逆に危険だし。


 そうして進んでいくうちに、段々と身を隠せそうな場所が少なくなってきた。

 学舎に入れば大丈夫だろうか……と一瞬考えたけれど入口付近で白い制服を着た人物が四名ほど見えたので侵入しようとは思わなかったのだ。


 男子寮にいた一人と比べればまだそこまで強くはない、と思う。


 前世だったらそもそも相手の実力を推し量るだなんてできるはずもなかったが、この世界で父にある程度鍛えられたからかそういうのがわかるのは素直にありがたかった。そのおかげで自分も相手は一人だし……なんて思って男子寮の前にいた奴に挑むことはなかったのだから。

 多分イールは相手が一人なら、隙を突けばどうにかなるとでも思ったのだろう。


 教師でもあるテラ程ではないにしろ、それでも男子寮の前にいたあいつは、間違いなく今の自分よりは強い。一対一で挑めば負け確定。しかもゲームならそこからセーブしたところからやり直せるか、負けイベントで先に話が進むかもしれないが、間違いなく負けたら死ぬ。イールという前例があったのだから、自分は大丈夫だなんて思えるはずもない。



 身を隠す場所が少なくなってきたという事は、つまりあの白い制服を着た連中に見つかりやすくなるという事だ。だが、ある程度移動した時点でこちらの生徒を見つけられたか、となるとそうはいかなかった。

 とっくに外にいたやつは全滅しているだとか、はたまた身を隠す場所が少なかろうとも学園のある場所からかなり離れたところまで逃げているか……神の楔を使って学外に出る、というのも考えたが、先程見かけた学園内部に存在している神の楔は、ゲームやアニメで見かけるような青白いケースみたいなのに覆われていた。あれ、多分結界なんだろうな、と思う。勿論神の楔に元から仕掛けられたものではなく、学園側かあの白い連中がやったやつなんだろうなと察するしかない。


 ……いや、どうなんだろう?


 そこまで考えてふと何か違う気がした。


 多分放送がかかる前までは、実際平和だったんだろうと思う。

 放送がかかった時点で既にあちこちに分散していたような気がするが、もし神の楔で一斉にやって来たならその時点で誰かしらこの学園の生徒が目撃していたはずだ。神の楔がある場所は学園の建物の近くにある課外授業だとか学外に行く時用のやつと、島外から学園に来る時に使用した浮島の上の方にあるやつ。

 上の方のを使う場合、多分誰かしら気付いただろうしそうなればモノリスフィアに何らかの情報が届いていた可能性はある。

 別のクラスの誰かが目撃したとしても、そこから知り合いの知り合いを経由して。

 学園の近くの神の楔から来たならもうちょっと早い段階で騒ぎになっていてもおかしくない。


 たまたまその時近くに学園の生徒が誰もいなかったとは考えにくい。


 特別授業。学園の許可があっての事。

 となると、神の楔が現時点で使えませんよと視覚化されているのは学園側でやっている事のような気がした。


(となると、あいつらが帰る時にあの結界みたいなのが解除されるって事なんだろうけど……タイムリミットはいつなんだろう……?)


 使えないように凍結されてます、みたいな見た目になってる以上、向こうも帰りたいけど今すぐに帰れないという状況だと思える。


 安全圏にいる連中は部屋から出なきゃいいだけだし、そうなると今こうして外にいる奴らだけでどうにかしないといけないわけだが、今現在果たしてどれくらいの生き残りがいるのかもわからない。

 生き残れ、と言われているがいつまでと明確に言われていないのも困る。


 時間経過で終了するならいいが、仮にこれ、どちらかが全滅しないと終わらないなんて事になっていたら。

 最悪の想像がよぎる。

 そうなれば時間が経過すればするだけこちらが不利ではないか。既に数名死んでいるのを確認しているのだから。しかし白い制服を着た死体は見ていない。


 モノリスフィアで誰かに助けを求めるにしても、その相手が寮の自室にいるなら助けは望めないだろう。好き好んで危険な場所に行くとか有り得ないだろうし。

 これが唯一無二の親友で死なれたら困る、くらいの仲の相手から助けを求められたとかなら危険とわかっていても……なんて事はあるかもしれないが、多分そこまでの関係性を築いてる奴はいない。


 いやホント、どうしたものかな、なんて困り果てながらもとにかく移動は続けている。下手に立ち止まっていたら、うっかり見つかるんじゃないかとしか思えないので。


 大体前世だったら学校で死人が出た時点で休校ものだぞ、とか思うもののここは前世の世界と異なるのでそんな常識を叫んだところで逆にこちらが異端であろう。

 正直前世で何やってたかわからないけど、こっちの世界でPTAとかないんだろうか……という思いさえしてくる。いかんせん前世でPTAと関わる事がなかったので、具体的にどういう活動をしているかとかいうのはさっぱりだったが。


 現状を打開する具体的な策も何も浮かばなさすぎて、ウェズンの思考はかなりあちこちに飛んでいた。一応周囲を警戒してはいるけれど、脳内は大変愉快な状態になっている。



 そんな中で。


「ふぎゃんっ!?」


 なんて声が聞こえて。


 ウェズンはとりあえずその声がした方へ行く事にした。

 敵か、味方になりそうな相手か。

 どちらにしてもいい加減一人で行動するのもうんざりだったのだ。

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