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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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一人作戦会議



 とりあえず。

 多分敵だろうなぁと思う相手が何者なのかがわからないというのも困りものだなとウェズンは思っていた。


 明確に敵で殺していいというのであればまだしも、そうじゃなかったら。

 例えば教師が扮しているだとか……いや、それはないか。いくら見た目若く同年代に見えるような人物でも、流石に制服はな……

 というわけで教師という線は消した。


 テラだって背は低く小柄な方だが、だからといって彼がこの学園の制服を今着ているのを目撃したら間違いなくリアクションに困る。似合っていてもとても困る。いっそ似合わないでくれとすら思っている。


 テラですらそう思うのだから、他の教師なんて――それこそウェズンがまともに把握していない教師であろうとも――もっとそう思うわけで。

 それにもし教師が扮しているとするなら、今外に出ている生徒たち、それも新入生には勝ち目がない。


 万が一の可能性はゼロではないけれど、相手が一人でこちらが束になって、とかいっそ奇跡的なまでにこちらに都合のよい状況にでもならない限りは難しいだろう。

 授業で体術だとかをやった時に、テラは一人で生徒数名を鼻歌まじりに沈めていたくらいだ。しかも手加減をした上で。


 そんな相手が本気出した場合、こちらが数の上で有利をとっていても勝てるかどうか……いや無理だろ今の時点じゃ。


 教師じゃない。

 そう結論を出していいとは思う。


 けど、じゃあ、あいつら、何?


 新入生限定の特別授業。

 そのためだけに呼ばれた外部の人間。


 そう考えるのが妥当ではある。


 ということはつまり、冒険者とかかつてのこの学園にいたOB……とかだろうか。

 いや流石にOBはないかと思う。

 いい年した連中が今頃この学園のものではないとはいえ似たデザインの制服を着ているのが痛いという認識がどうしても消えない。


 何となく雰囲気からウェズンとそう年は変わらない気がする。つまりは同年代。


「……もしかして他の学校の生徒か……?」


 その考えは当たっている気がした。

 隠れながら移動して、周囲に誰の気配もない事を確認してウェズンはそっとモノリスフィアを取り出した。

 通話は音が周囲に聞こえると困るので、とりあえずイアにメールを送る事にする。


『今のこの状況は元々あるやつだったのか?』


 原作だとかの言葉は出さずに文字を入力し送れば、案外すぐに返事がやってきた。


『もしかしておにい、外に出ちゃった? だとしたら急いで戻って。最悪マジで死ぬ』


 なんてこった。

 その文字を見て、ウェズンは素直にそう思った。


『ごめん朝起きてから思い出した。というか今起きた』


 更に追撃で送られてきた文字を見て、もっと早くに思い出してほしかったなーと思いはしたが後の祭りだ。

 とりあえずイアは自室にいるというのが判明したので、そちらに関しては安心である。


 最悪マジで死ぬ、という事は彼らは間違いなくこちらを敵とみなしている。それも殺していい相手として。


『反撃してこちらが相手を倒して何か困る事はある?』


 そう送れば、『正当防衛だから大丈夫』と返ってきた。いいのかそれで。

 いやでもまぁ、うん。なんて何に対する相槌なのかもわからない感じで納得する。


 これが日本ならそんなバカなと言ってるところだが、異世界だし。法があろうと治外法権みたいなものかもしれないし。そういうわけでウェズンはそれ以上考えるのをやめた。


 ともあれ、やはり戻るしかないようだ。えっ、でもどう考えても男子寮の入口にも張ってる奴いるよな……果たして無事に戻れるだろうか。不安しかない。



 一応、隠れてコソコソ移動していたとはいえそれなりの距離は移動できていたので、もうちょっとで男子寮には辿り着く。

 着くのだが……



「あっはははは、やっぱ逃げ帰ってきてんじゃん! ただ待ってるだけなんて退屈極まりないとか思ってたけど勝手に獲物がやってくるんだから、案外このポジション美味しいかも!」

「ぐっ……そんな……」

「そんじゃ、バイバーイ♪」


 なんていう声とともに、まさに一人死ぬ瞬間を見てしまった。

 突然の殺人。

 えっ、怖ァ……


 前世でだってこんな体験した事ないのに! いやしてたらそれはそれで問題なんだけど。

 ともあれ、思わず硬直しそうになって、それでもどうにか無理矢理木の陰に隠れるようにしてしゃがみ込んだ。


 ちなみに今しがた殺された人物に見覚えがあった。初めて学外の授業として学園の外へ行った時に出会ったイールである。

 女子寮と違ってこっちの見張りは一人だけだった。

 イールも多分一人ならどうにかできると思ったのかもしれない。

 けれどもあまりにも実力差がありすぎた。


 寮の入口に倒れているイールの死体から、じわじわと赤が広がっていく光景が、瞼の裏に張り付いている。


 ウェズンがあともうちょっと早くここにたどり着いていたら、もしかしたらどうにかなっただろうか……?

 そう考えるも、どちらにしても遅かったことに変わりはない。

 恐る恐る木の陰から顔を出してそっと相手を覗き見る。


 とっくに死んでしまったイールに興味を失って、白い制服を着た男は早く次の獲物来ないかなー、なんて言いながら片手で前髪をいじっていた。わざわざ探し回るつもりはない、というか先程の言葉を考えると多分ここから動くつもりはないのだろう。

 ポジション、という言葉から他の仲間と事前にどう動くかを決めているように感じられた。


「うーん、邪魔だな」


 前髪をいじっていた時間なんて数秒程度だ。

 けれども男は次の獲物が来た時のことを考えてか、イールの死体を足で蹴飛ばしてよけていく。その様子は道端に転がってる石を蹴飛ばすくらい軽い行動であった。


 本来なら、ここでウェズンは怒りを抱くべきだったのかもしれない。

 人の事をなんだと思っているんだ! なんて感じで怒りに燃えて、そうしてあの男に一撃入れるべきだったのかもしれない。

 それこそ少年漫画の主人公みたいに。


 けれどもウェズンは自分をそういったものとみなしてはいなかった。


 イア曰くそりゃあ何かの作品の主人公らしいけれど、生憎その主人公たるウェズン少年と前世がおっさんで転生している今のウェズンは間違いなく別物である。

 第二の人生そこそこエンジョイしとこう、とかどうせだったらそこそこ楽しんでいかないと損! だとか思っているけれど、自分が主人公として相応しく在れるかとなれば話は別。


 イアが覚えてる範囲で言っていた内容からすると、原作での主人公でもあるウェズン少年ならもしかしたら、ここであの男に攻撃を仕掛けている可能性は高い。

 何せ魔王養成学校にいるというのに、本来ならば勇者を目指していたはずの人物なのだ。

 父の騙し討ちみたいな言葉で魔王を目指す事になって、序盤はそこそこ荒れていたとも聞いている。荒れている、がどういった方向で荒れてるかまではよくわからなかったが。


 だがしかし今のウェズンは別に魔王を目指せと言われてもそれに対して反感を抱いて自分がなりたいのは勇者なんだ! なんて言うつもりはこれっぽっちもないのである。

 だってどう考えても魔王も勇者もやる事そう変わらないだろうし。

 ただ立場的な言葉の違いというだけ。外側のパッケージが異なるだけで中身は一緒だとしか思えなかった。


 寮の入口にいるだけで、中に入ろうとまではしていないので恐らくこの新入生限定特別授業にはウェズンの把握していない何らかのルールが存在している。

 寮の自室が安全である、というこちらが知っている以外の情報をあちらも持っているのだろう。


 とはいえ、それが何かまではわかるはずもない。向こうに話しかけて会話をしてくれればいいが、恐らくはしないだろう。多分すぐさま殺し合いに発展する。

 そして困った事に相手はそれなりの実力を持っている、というのもわかってしまった。


(……ここでこうしていても、どうにもならないな……)


 じっとしていれば、流石にずっとは続かないだろう。いつか終わりはやってくる。タイムアップがあると仮定して、それまで無事でいられるならそれでいい、はずなのだ。

 けれどもそれがいつなのかがわからないし、寮の入口を張っているあの男以外にも敵と呼んでいいだろう相手はいる。そちらに万一見つかるような事になれば、その時点で詰む。


 うーん、と悩んだのは数秒だった。


 こうしている間に他の誰かに見つかって、それが敵なら詰むし、仮にこちら側だったとしても、うっかりお前何してんだよ、なんて声をかけられれば間違いなくあの男は気付く。


 もう今日外に出たのが間違いだったんだ……と諦めて、再び気配と足音を消してウェズンは再度移動を開始した。

 他に外に出ている獲物とみなされているだろう誰かしらを、味方に引き込むためである。

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