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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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狩り



 翌日。

 何というか昨夜から浮ついた雰囲気が寮内にも漂っており、耳をすませば廊下を軽やかに駆けていく音も聞こえていた。

 普段はそんな廊下の音が聞こえてくるような事もないし、ましてや部屋の音が外に漏れる事もそうないのだが突然訪れた休日に浮ついているのが一人や二人じゃない事でそこそこの賑やかさが寮内には満ちていた。


 中には自主練だとかをしようとしている真面目なのもいるようだが、大半は学園の建物周辺以外の場所を見てくるつもりなのだろう。ある意味観光客みたいなものか……と思いたくなるような感じだ。


 まぁ、ウェズンも人の事はあまり言えないのだが。


 朝食を食べ終えて、身支度を――授業もないけど面倒だったので制服のままである――整えて、そうして彼もまた部屋を出た。

 出る直前でナビが、

「坊ちゃん、気をツケテ下さいネ」

 とやたら深刻な声をだしていたのがとても気にかかったので聞いてみれば、ナビは珍しく言葉を濁していた。


「そのぅ、えっと、コレ大っぴらに言っちゃダメなやつなんですよ。タダ、合同で決められたヤツでして……ご武運を祈ってオリマス」


 ビシィッ! と音が出そうな勢いで敬礼までされて、この時点でなんだかとても嫌な予感がした。

 外に出るのやめようかな、と思い始める。

 大体テラだって部屋で大人しくしてろって言ってたじゃないか。


 とはいえ、朝から一日何をするでもなく部屋の中にいるというのも中々に苦痛である。

 社会に出て仕事仕事で疲れ果て、休日はもう外出する気力もなくて部屋で寝てたい……というのであればまだしも、今のウェズンはそうではない。むしろ昨日早めに寝てしまったので、いつもより早くにすっと目が覚めたし、コンディションは悪くない。むしろ万全と言ってもいいくらいだ。


 なのに何もせず部屋にいろ、というのは中々に苦痛である。


 他にやる事があるならまだいい。けれども現時点でこの室内で暇をつぶせるような物は特に何もないのだ。

 こんなことなら昨日図書室から何か本を借りてくれば良かったかな……という後悔すらよぎる。


 嫌な予感がしたからやっぱ外に出るのやめる……と言って部屋にこもるにしても、退屈すぎて逆に疲れそうな状態になるかもしれない。そう考えると軽くでもやっぱ外に出た方がいいかな、と思い直した。


 何かがある。

 けれども、それを直接言えないとなれば、学園側からドッキリ特別課題授業、みたいな何かを仕掛けられるのだろうか。抜き打ちテストみたいな。


 そう考えるとやっぱり外に出ないのが正しいのでは……? と思ったが、ナビは別に外出自体は問題ないと言っていた。でも気をつけろと。


 これは……イアにでもやはり話を持ち掛けておくべきだったかもしれないな……と思い始める。


 一応島内を巡る前に女子寮に行くだけ行ってみようか……いなかったらいないで仕方がないが、まだそこまで遅い時間というわけでもない。高確率で部屋にいると思われる。



 そんな風に考えて、ウェズンはひとまず女子寮を目指す事にした。


 ところが。


 ウェズンが外に出て女子寮を目指している途中で、けたたましいサイレンが鳴り響いたのである。


「えっ!? 何?」


 あまりの大音量に思わず足を止めて周囲を見回すも、そもそもこのサイレン一体どこから鳴ってるんだ……? という疑問しかない。学園の建物からにしても、目に見えてわかりやすいスピーカーなどは確認できなかった。

 なんとも不安を煽ってくるサイレンの音に、やっぱりこれは不味い事が起きているのでは……? という気しかない。何が起きているかはわからないが、一先ずウェズンは建物の陰に隠れるように移動して、そこから木陰などに身を隠しつつ周囲の状況を探ることにした。

 引き返すにしても女子寮に行くにしても、ただぼーっと突っ立ってる方が余程危険だと判断したためである。身を隠す事もなくはっきり姿を視認できるような所にいるのは危険だ。何に対しての危険か、と言われるとわからないが。

 けれどもなんだか肌の表面をざわざわと不吉な何かが纏わりついたような嫌な感覚はある。鳥肌がたっていないのが不思議だった。



『これより、新入生限定の授業が開始されます。安全圏はただ一つ、自室のみ。それでは皆さん、無事に生き残って下さい』


 不気味なサイレンが鳴り終わったかと思えば、そんな声がした。

 女性の声だがウェズンの知っている声ではない。教師の誰か、だとは思うがあまりのわけのわからなさにウェズンは思わず学園がある方を見た。

 見たけれど、そこには普段通りの建物があるだけで別に何が違うというわけでもない。


「授業、つった……?」


 テラの話では今日は臨時の休みとかだったはずなのに?

 思わず首を傾げそうになったが、放送では新入生限定と言っていた。


 あぁ、つまりは。


「そういうことか」


 納得する。

 ここ数日やたら気をつけろと言っていたテラの言葉の意味も、他のクラスの先輩にあたる連中のにやにやとした表情の意味も。


 つまり、今日のこれは突発的な事件などでもなければ、事前に決まっていた事なのだろう。


 安全圏が自室のみ、と言っていた。

 テラが今日は大人しく部屋にこもってろと言った意味をようやく理解した。


 けれども、折角の休みだしと浮かれて外に出た連中は大勢いる。

 実際ウェズンの視界には他の誰かが見えるわけではないけれど、それでも風にのってざわざわとした声らしきものは聞こえてきた。


 とりあえず、このままこうしていても危険である、というのは理解できた。安全圏が自室のみというのであれば、寮に戻ればこの特別授業とやらを何事もなく過ごせるという事も。


 しかし。


「そもそも特別授業っていうけど、一体どんな内容なんだ……?」


 現状周囲に誰かがいる様子はない。だからこそ身を隠すようにしつつも、ウェズンはその場で考え込む。


 生き残れ、という言葉から最悪死ぬ事もあるのだと言われているようで、正直さっさと帰るのが得策だろうとはわかる。

 わかるのだけれど。


 今戻って本当に安全なのだろうか……?


 島内に魔物でも解き放ちました、とかいうのであれば危険なのもわかるけれど、そもそも瘴気汚染がほとんどないこの島に魔物が現れるはずもない。かといって、どこかから連れてくるなんてのもないだろう。

 では、それ以外。

 自分たちを最悪殺せるようなナニカが、この島にいる。そのナニカは寮の中に入ったとしても誰かの部屋にまでは入れないのか、はたまた寮の中に完全に入れないのかどっちかはわからないが、とにかく自室に引きこもればセーフであると考えていい。


 だが、そのナニカだってそれくらいはわかっているだろう。

 であれば、相手が単独なら寮の手前あたりで張り込んでいる可能性は高い。そうして安全圏へ戻ろうとしているこちらを、寮が見えたと安堵したその瞬間――なんて事だって考えられる。

 というか、ウェズンが狩る側であるならとりあえずそうする。

 いずれ戻ってくるとわかっているなら待ち伏せする方が、何処に誰がいるかわからない状況でうろうろするより余程効率的なのだから。


 狩る側。


 自分で考えてなんだか妙にしっくりきてしまった。


 もしそうであるならば。

 単独ではなく複数いたなら、勿論寮付近で仕留める係と、あとは適当に外にいる連中を追い回す係もいるだろう。


 考えれば考える程最悪な状況しか浮かばなくなってくる。


 今現在ウェズンがいるのは女子寮に程近い場所だ。自室へ戻るために男子寮へ引き返すよりは、女子寮の方が近い。

 かといって、イアの部屋に助けを求めにいくわけにもいかない。安全圏は自室のみ。

 イアにとっては安全であっても、はたしてウェズンを引き込んだ場合安全であるかどうかの保障がない。


 放送がかかったという事は、これは学園側で把握している出来事であり何らかのルールも定められているはずだ。新入生限定。

 上級生と言えるべき彼らはきっと去年これを乗り越えた勢だ。であるならば、そういった者たちは大人しく自室にいるのだろう。自分たちは上級生であり新入生ではない、と堂々と外を出歩いている可能性は低い。

 そもそも見分けがつくのかという話である。


 例えば制服のリボンだとかで学年を示しているだとか、ジャージの色が学年で異なるだとかのウェズンの前世で通っていた学校のような何かがあるのならまだしも、そういったものはここにはない。制服は同じデザインだし、女子に関してはスカートか男子と同じようなのを選べるけれどそれだけで、学年といったものを示すようなものはどこにもない。


 自分は去年からここにいるから今年は無関係だ、なんて言ったとして、それが虚偽でないかどうかを判断するのは一体誰だ。

 狩る側というのが実際にいたとして、それをいちいち調べたりするだろうか。

 去年乗り越えて、今年もあるとわかっているのにあえて外に出たならばそれは自己責任だとなったりはしないだろうか……?


 下手に自分の身を危険に晒すような事をするくらいなら、最初から自室にこもっていた方が確実である。


 誰かの部屋に匿ってもらうにしても、それが本当に安全かもわからない。そいつを引き渡さなければそちらの安全も保障しない、なんて言われるような事になれば?

 そうなればその部屋の主とて安全圏を失う事にはなるまいか。


 わけがわからないながらも考えて、一先ずウェズンはそっと移動を開始した。


 もし何かが襲い掛かってくるような状況で、慌てて寮へ戻ろうとしている相手を狩るようなのがいるのであれば。


 女子寮の入口にもきっとそれはいるだろうし、そうなれば男子寮も同様だ。慌てて自室を目指すかどうかはまずそれを確認してからだった。



 そうして足音と気配を殺しそっと移動し、女子寮の入口が見えるところまでやってくる。

 そっと、そっと物音を一切立てないようにして覗き込んで見た先――女子寮の入口には、ウェズンの予想通りまるで番人か門番のように佇んでいる誰かの姿が見えた。


 見えたのだけれど。


 ……あれは、一体なんだろう?


 最初に思ったのはそれだ。


 もしこれが上級生だとか教師だとかが実行している、というのであればもうちょっとわかりやすい反応ができたかもしれない。


 けれども、どうにも違う気がした。


 そこにいるのは二人。

 ウェズンだってこの学園の生徒や教師を全て把握しているわけじゃないとはいえ、しかしなんというか雰囲気がここの人間とは違う気がする。あと、制服を着ているので生徒だとは思うのだが、その制服がここのではない。


 デザインは似ている気がしなくもないが、色が違うのだ。


 白。


 真っ黒なこちらの制服とは正反対の色だ。


 そして手には既に武器が握られていて、もしこちらの姿が見つかれば迷わず襲ってくるだろうというのが言われずともわかってしまった。


 そっと、二人の視界に映る前にウェズンは身を隠し、そっと引き返す。


 何というか張り詰めた空気に、あの二人に「すいませーんちょっといいですかー」なんて感じで声をかけるのも難しかったのだ。

 むしろ視界に入った時点で殺される。それくらいピリピリした空気を纏っていたのである。



 なんだ。一体何が起きてるんだ。


 そういやナビもご武運をなんて言っていた。

 あの時点ではこれから何が始まるか、もしかしたら学園側の制約で言えなかったのだとは思うけれど、既に事が起きているなら情報を得る事は可能なのではないか。


 せめて今、何が起きているのかくらいは知りたい。


(とはいえ、こっちの寮にいる以上、向こうにいないとも限らない……無事に戻れるかどうかが疑問なんだよな……)


 かといっていつまでもこうしているわけにはいかないだろう。


 あの二人以外にも同じようなのがいた場合、そしてこの辺りで見つかった場合は最悪向こうの番人みたいにしていた二人もこちらを追っかけてくるかもしれないのだから。



 何が起きているのかはさっぱりだが、ここから男子寮まではそこまで遠くもない。

 向こうにも似たような感じで人がいたとしても、隙を突けば強引に突破できるかもしれない。


 どちらにしても、部屋に戻ることがゴールなら。



 ここで隠れているよりも行くしかなかったのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 唐突に始まる逃走中24時。命懸けとはいえ正直楽しそう。参加したい。
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