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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
終章 その後の僕らは

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その先の未来は



 母が戦う状況というものを今の今までウェズンが見る事はなかった。

 それ故に、まさか手加減が苦手だなんて思いもしていなかった。


 普段の、それこそ日常生活では特に何か……勢い余って物を壊すだとか、そういった事もなかったので、まさかそんな苦手なものがあったなんて……という気持ちが大きい。


 母曰く、普通に生活する分には手を抜けるから、との事。

 戦いでも手加減というか手を抜く事は可能だが、しかしどこまで手を抜いていいのかの加減がわからないのだと言う。

 中途半端な実力の相手と戦うのが一番苦労するとも言っていた。


 弱すぎるならこちらも壊れ物を扱うように接する事で解決できると思っているが、しかしそこそこの強さの相手にそれをやると逆にこちらが怪我をさせられるかもしれない。

 そんな風に考えると、だったら最初から手加減なしでプチッとやった方が手っ取り早いとの事。


 言い分としては理解できるが、しかしその手加減なしのプチッ、が母の場合どうやら洒落にならないらしく。


「危うく町一つ吹っ飛ぶところだった……勿論未遂で済ませたが」


 そう語るのは父である。


 父の学生時代の武勇伝が馬鹿みたいに多いのは、何気に母を抑えようとしての事だったという真実が明るみに出て、ウェズンとしては「そっかぁ……」と遠い目をするしかない。

 イアからすれば、大変だったんだね、の一言で終わったが。


 テラプロメがなくなった事で、じゃあもう好きにあちこち移動するのも問題ないって事ね、となった母ではあるが、別に一人になりたいとかそういうわけではなかったようなので、この際だからと研究所で雇う事にした。

 アルバイトである。そうなるとなし崩しに父もついてきたので、気付けばウェズンたち一家全員が同じ職場という状況。


「家も職場も変わんないな」


 見る顔ぶれがほぼ同じ。職場の方が家族以外も見るとはいえ。


「まぁ、賑やかなのはいい事だと思う」


 そう言ったのはスピカである。

 その視線の先には、スウィーノとレジーナがいる。

 ランチタイム時なのでそれぞれが食事をしているのだが、今日あの二人は大きめのバスケットに色々と作って詰めてきたものを、お互いに食べさせ合うといういかにもバカップルがやりそうな事をしていた。



 ウェズンたちがファムの件でやらかしていた時もあの二人は完全に蚊帳の外状態で、すっかり世界は二人だけのもの、みたいだったらしい。

 スウィーノは可愛い恋人でそのうち結婚して奥さんになる人とラブラブで幸せ、レジーナにとっても普通の人生を歩ませてくれるスウィーノと毎日過ごせて幸せ、とお互いがやりたい事が大体一致しているのもあって、二人の周囲の空気だけ常にふわふわしていた。


 荒事に関して前にでてさぁやれ、と言うような事もほぼないので、この二人は基本事務に回っている。


「そうだ。次に神の楔を交換する場所についてだが」

「あ、うん」

「町に、行ってほしいんだ」

「あれ? でもまだ」

「そうだ。まだ人が立ち入らないような場所でも交換を終えていないところは沢山ある。

 ある、んだけども……ちょっと場所的に他に適したところがなくて、そこを交換しておかないとその地域だけちょっと地中の瘴気汚染度的に不安な場所があってな」

「地中の瘴気汚染度?」

「教授がコツコツと調べてくれていたらしい。有志の手も借りたようだが」

「へぇー」


「それで場所なんだが――」



 スピカが口にした町の名前を聞いて。

 ウェズンは思わず笑顔のまま固まった。



「――ある意味王道っちゃ王道かもだけどさぁ」

「おにい、でもこれ他の町や村の交換をする前の事前練習だと思えばほら」

「エンディング後の隠しダンジョンとかじゃなくてチュートリアル、って事かな?」

「そんな感じ」



 現在ウェズンとイアの二人だけで、目的地にやって来ている。


 それというのもスピカが告げた町の名前が、ウェズンたちが住んでいるご近所の町だったからだ。

 これといって名物もないような何の変哲もない小さな町は、冒険者たちが訪れるような事もあまりない。

 なのでよそ者がくると目立つのだ。


 正直ウェズンたちもそこまでここに訪れた回数は多くないが、それでもまだマシな部類である。


 父と母に任せる、というか丸投げするというのも考えてしまったが、どのみちいつかは自分たちで他の町や村の神の楔を交換しなければならないのであれば、今のうちに人のいる場所でこっそり交換するやり方を身につけておくべきなのだろう。


 そうする事で少なくとも次に他の場所で仲間たちと行動に出る際に、少しは手際よくできると信じて。



 ウェズンからすれば、確かに実家の近所にあるとはいえこの町にあまり足を運んだ事はない。母と一緒に来たこともあれば、イアを連れてきた事もある。けれども、そう頻繁にというわけでもなかった。


 ゲームで言うところの旅立ちの町とかそんな感じの場所でしかないのだ。

 序盤こそ何度か立ち寄っても、その後は戻る事もないような、そんな場所。


(それこそ、クリア後に最初の町に隠しダンジョンが、とかクリア後にしか挑めない超強いボスが、みたいな事でもない限りゲームだったら立ち寄らないようなのが、ここだもんな)


 町の中に入って周囲を見回しても、これといった変化はないように見受けられる。

 記憶の中の光景とほとんど変わっていない。変わったのは自分たちの方だ。少なくともあの頃はまだもう少し小さかった。とはいえ、そこまで昔の話と言える程でもないけれど。


「あっ、あれだね」

 懐かしさもあってかあちこち見回していたイアが目当ての物を見つける。


 まだ神の楔について知る前、なんであんな場所に突き刺さってるんだろうアレ……なんて思ってみていた事もあるけれど、当時の母は教えてくれなかった。

 大きくなったらわかる、と返されたのは記憶にある。


(今にして思えば、こどもにそんなの教えたら好奇心だけでとんでもない場所に転移するかも、って考えはあったんだろうなぁ……)


 浄化魔法も使えない頃なら、下手をすれば転移先から戻ってこれない可能性しかないのだ。そりゃあ言葉を濁そうというものである。



「でもおにい、どうやって交換しようか?」

「真ん前を陣取られてはいないけど、周囲にそれなりに人がいるのは困るな」

「邪魔だからって武力行使もできないしね」

「それができるならワイアットが嬉々としてやってるからね」


 母とは別の方向性で町がゴーストタウンになりかねない。


 もっとも、そのワイアットは少し前に母にこてんぱんにやられてから、

「僕って割と最強だと思ってたけど世の中ってやっぱ広いんだね……」

 なんて何かを悟ったような事を言っていた。

 次は勝てるように強くなってみせるよ! なんて前向きな事も言っていたが、あまり強くなられても手に負えなくなるから正直やめてほしい。


 ワイアットは現時点たとえ最強なんかじゃなくたって、充分すぎるくらいには強いのだ。もうずっとそのまま己の強さに胡坐をかいていてほしい。けれども彼は鍛錬とかそういったものを嫌悪するでもなく、向上心というものをそれなりに持っている。

 普通に考えると良い事ではあるのだが、ワイアットである、というそれだけでウェズンとしてはあまりよろしくなかった。


 だがまぁ、そうは言ってもだからこれ以上強くなるなとも言えない。

 ウェズンも今後、いざという時のための鍛錬は欠かさないようにするとはいえ……恐らくはいたちごっこな気がしている。


「武力行使が駄目ならとりあえず陽動?」

「あー、まぁ、最初の頃と比べて交換するのも手慣れてきてはいるから五分……いや、三分もかからない、か……?」


 毎回タイムを計測しているわけではないのでハッキリとはいえないが、人里離れた場所で交換する時は周辺に魔物がいないかどうか警戒するくらいで、魔物がいなければ最近は割とすぐ終わる作業と化している。


「というか、昼間にやらないで夜にやればいいのでは?」

「……それもそっか」


 たまたまやって来た時間帯が昼だったから、そのままの流れで早速作業に……とイアは思っていたようだが、しかしこの町は夜になっても騒がしいとかそういうわけでもないのだ。


 なので急ぐ必要がない以上、時間を潰して夜遅くにもう一度来てからやればいい。

 そう判断すると、二人は一先ず時間を潰し、そうして日が沈んだ後で神の楔の前にやってきた。


 思った通りほとんど人はいない。

 だがしかし、完全に静かか、と言われればそうでもなく、少し近くの酒場からは賑わった声が漏れ聞こえてくる。

 何かの拍子にうっかり店から誰かが出てきて目撃されるのも面倒だな……とは思ったがまぁ何かあっても酔っぱらいの戯言でなんとかなるかな、と判断して。


 作業は予想通りあっさりと終了した。


「街中の神の楔の交換が全部こんな感じで終わればいいんだけどね」

「どうだろね。いつか難しすぎて本当に陽動作戦とか災害装うとかのギソーコーサクってのが必要になるかも。

 ……今からそういうのこっそり練習しとく?」

「僕らって一体どこ目指してるんだろうな?」

「さぁ?

 あたしとおにいは元々原作にある程度忠実にいこうって話だったはずなのに、気付いたら全然違う展開になってるわけでしょ?

 じゃあ、どこに行くも何もって感じなんだよきっと」


 言われてみればそうなのかもしれない。


「それに原作のラスボスも……あれ? んん? いないな?」

「思い出したのか?」

「や、ハッキリじゃないけどね。でも影も形もないからどっかで消えたのかも」

「まぁ……仮にいたとしても、スピカがきちんとこの世界の管理をしていくのなら何とかなるだろ……むしろなんとかしてほしい」

「ま、おにいは神前試合で魔王に選ばれたもんね。じゃ、この先の事はこの先にあるかもしれないその後の主人公さんに頑張ってもらおっか」

「続編ありきな言い方だな」

「どうだろね? でもおにいがいて、あたしがいて、だったら他にも主人公になれそうな誰かがいたっておかしくないじゃん?」

「知らん。もう知らん。僕は降りるぞ。これから先は世界の命運とかマジで知らん。働いて家庭築いて一般的な生活を送る事に決めてるからな」


「それはあたしもかな~」

「もしこの後なんかトラブったとしてもその時の主人公はもういっそワイアットにでも押し付けとけ」

「あ、じゃああたし原作に名前だけ出てくる主人公の奥さんポジション狙お」


 本当にあるかもわからない未来の事ではあるけれど。


 イアが知っていたはずの原作は既にもう終わりを迎えているはずなので。


 二人はそんな風に話しながら帰路へとついた。

 次回 最終話。朝五時更新。六時に読まなくてもいいあとがきが更新されて完結します。

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