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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
終章 その後の僕らは

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裏ボスはいた



 合成獣キメラ一掃作戦――と言う程大仰なものでもないが――は一先ず無事に終了した。

 人選をミスっていたら最悪誰かしら死んでいてもおかしくはなかったが、派遣されたのがそもそも簡単には死にそうにない連中だ。

 それぞれ終わるまでの時間こそ違えど皆無事に帰還した。


 戻るなりウェズンが所持していた武器に組み込まれていた魔晶核に精神だけが宿っていたオルドが肉体を得てしれっと存在していた事に驚いた者たちもいるけれど。


 人手が増えたと考えればそう騒ぐほどのものでもなかった。


 その後は特に何か事件が起きるでもなく、新たにできあがった神の楔を旧式と交換していく日々が続いていたのだが。



「ウェズン、すまんが母さんを説得してくれないか」


 じわじわと浄化が進んでいるからなのか、特に魔物が出没したという話も聞かず平和に過ごしていたウェズンの元に、妙に切羽詰まったウェインがやって来たのである。


「母さんを説得? 何、どういう事?」

「旅に出ると言い出してな」

「別に良くない?」

「良くないんだこれが」


 思い切り大真面目な顔をして言う父に、えぇ? と何とも言えない声を出す。


 思い返せばウェズンが幼い頃、それこそ前世の記憶を思い出すよりも前から母はずっと家にいた。

 時折近くの町に買い物に行く事はあっても、遠くまで出かけたりしていないのは確かだ。


 そのかわり、父がしばらくの間帰ってこなかったのもあってウェズンは一時期父親は離婚して既にいないか、死別したものだと思っていたわけだが。


 それが違うと知ってから、父はある程度家にいるようになったけれど、そういえば父は今まで何をしていたのだったか。


 結界によって閉鎖された状態の各地を色々と調べていた、とは後から聞いた。

 そこで丁度神前試合が終わった事で解除された結界の先で、イアを見つけて連れ帰ってきたのも今ならすっかり懐かしい思い出である。



 やってる事はまぁ、冒険者の延長みたいなものだったんだろうなぁ……でウェズンの中では納得して完結する事だった。

 テラプロメの事も内心どうにかしようとしてたんだろうなぁ……とも思うが、そちらは既に解決している。


「あぁ、そういう意味では自由なのか」


 神前試合の願い事でテラプロメが関わってこないように、とかなんかそういう願いを述べた父の真意は母を守る事だったはずだ。

 学園にいる間は生徒として、その後は願いによる縛りによって母はテラプロメの干渉を避けていた。


 表向き干渉はしないという話だったとして、監視くらいは密かについていてもおかしくはなかったけれど、幼いウェズンが何かの事件に巻き込まれたとかそういう事はなかったので、母も別に危険に晒されたわけではない。


 だがそのテラプロメは既にないのだ。

 空中を移動し続ける、数多くの魔道具を搭載した都市は瘴気を浄化するために浄化機が必須であった。けれどもそれだけでは足りないとなったからこそ、生体部品として母やルシアのような存在が生まれる事となった。

 そんな浄化機ドカ食い都市はとっくのとうに海の底だ。崩壊しながら沈んでいったので、都市がまるごと海の底にあるというわけでもない。

 遥か彼方遠い未来で海の底から復活したかつての空中都市が! なんてそこだけ聞けばロマン溢れそうな展開だってあり得ないのである。


 その後にテラプロメ以上に重要な事実が発覚した事もあってすっかりそちらは忘れていたけれど。


 父も母も、もうテラプロメに脅かされる事もないのだ。


 であるのなら、確かに母がこの機会にちょっとあちこち旅行してみたいな、なんて思ったとしても別におかしな話ではないと思う。

 父は案外心配性なんだろうか、なんて思ったがそんなウェズンの考えを読み取ったのだろうか、父は違うそうじゃないとばかりに首を横に振った。


「ウェズン、お前は母さんが主に家にいるところしか見てないし、時々近所の町に買い物に出かけるくらいしか外出してないから知らないだけなんだろうけどな。

 ファムを一人野放しにしたら大変な事になるぞ」


「何それ母さんが美人だからそこらの男に言い寄られるに違いないとかそういう惚気だったら他あたってくれない?」

「確かにファムは美人だけどそうじゃない」

「惚気ではない」

「当たり前だ。それだけだったらわざわざ息子のとこに来て言う程のものでもないだろう」


「じゃあ何」


 母とてかつては学園にいたし、神前試合にも参加した経験があるのだから決して弱くはないだろうし、別にそれなら過保護になる必要はなさそうだと思うのだが。

 前世の記憶を思い出してから今の今まで、ウェズンの目から見た母は決して突拍子のない事をするような人物ではなかったし、常識外れというわけでもなかったはずだ。


 むしろ突然イアを連れ帰ってきた父に何も言わずイアを風呂に入れたり怪我の手当てをしたり、そのままうちの子にしちゃって世話をしたりと、思い返す限りでは概ね善良な人だと思う。


「ファムは加減を知らないから」

「うん?」

「お前は見た事ないのか。そうか、良かったな」

「何、勝手に自己完結しないでくれるかな? 加減?」


 訳が分からないし、もっと順を追って話してほしい。

 そんな気持ちでいっぱいになってきたあたりで、ウェインは片手で顔を覆うようにして、ファムはな……なんて切り出した。



 ――曰く、ファーゼルフィテューネは閉じ込められていた弊害からか、外界との接触は当然なかったし、第三者との関わりもほぼ無かった事で、自分の力が強いという事をあまり理解していないようだった。


 彼女の世話役としてウェインがいたけれど、ウェインは別にファムの事を力尽くで従わせようとする必要もなかったから、気付かなかったのである。


 大人しく従順にしていたのも気付かない要因だったと言える。


 もしかして彼女、弱くはないのでは……? と思ったのはウェインがテラプロメからファムを連れて脱出しようとした時だ。そもそも捨て置けばいいようなどうでもいい存在だったならともかく、ファムはそうではなかった。

 品質で言うのなら高ランクである存在だったが故に、ファムを連れて逃げ出す事を阻止しようと、当時はそれはもう大変な事になったものだ。


 正直邪道な手段を駆使して卑怯だろうとなんだろうと知った事かの精神で使える手段はなんでも使ったけれど、それでも危うい場面はあったのだ。

 けれどもその危機的状況をそれとなくサポートしてくれたのは、ウェインが連れ出すつもりだったファムで。


 彼女を救うつもりが助けられた。それもあってどうにか脱出できたと言ってもいい。


 学園に身を寄せていた時も、普段はあまり目立つ感じではなかったがいざ敵対した相手には一切の容赦がないせいで、周囲への被害がとんでもない事になったなんてのは、一度や二度では済まない。

 おかげでウェインは早々に察した。


 あっ、これ自分が何とかしないといけないな……と。


 彼女に手加減を教えるより自分がフォローに回るか率先して先陣切るかした方がマシ。

 そう判断して、そしてウェインは今の今まで律儀にその考えを実行し続けてきた。


 神前試合で仮初とはいえ安全を確保した後からは、ファムには家にいてもらうようにした。

 学園にいた時に一応それなりに各地に出かけた事もあったので、家でゆっくりするという事に不満を持たれなかったのも大きい。


 けれどもやはり、あまりにも長い年月を一所で過ごした結果なのか。


 テラプロメが消えた事で、じゃあそろそろ自由行動してもいいんじゃない? となったようなのだ。


「つまりな、うっかり外で魔物と出くわしてそれが弱いならまぁいいけど、下手に強盗とかそういう大勢で襲い掛かってくるようなのが相手だと、本っ当に容赦がない。血の雨が降る。強い魔物の場合もやっぱり周囲に被害が及ぶ」


 うっかり街中で絡まれようものなら街ごと壊滅する恐れが……なんて言われると、流石にウェズンも母さんの好きにさせればいいじゃん、とは言えなくなってくる。


 好きにさせた結果無関係の人に迷惑が及ぶのは避けたい。


 しかも何が困るって、母は明らかに強者という感じがしないのだ。

 かつて三回連続で神前試合に参加した挙句、レスカから出禁を言い渡されたウェインに注目が集まりがちだが、しかしそんな父と結婚して妻をやっているのだから、単に守られてるだけのか弱い女なはずがないのだ。


 しかもかつて、イアにどうして父とくっついたのか、なんて質問にこの人の人生滅茶苦茶にできるのは自分だから、とか答えたような女である。


 そうだ、既にピースはそこらにあったも同然のはずなのに。


 ウェズンとしては母が何かをやらかすという状況になかったし、むしろなんだかんだ幼い頃の面倒を見てくれていた相手でもあったから、完全に安全な人認定をしていたのである。

 けれども冷静に考えたらそんなはずがなかった。今更過ぎる気付きに、ウェズンもなんだか段々と不安になってきた。


 折角世界がちょっとずつでも良い方向に進みつつあるというのに、新たな混沌の種を蒔くような事はどうなんだろうか……と。


「ちなみに父さん」

「なんだ」

「母さんってどれくらい強いの?」

「母さんか……母さんはな……一見すると強そうに感じないんだけど、巧妙にこう……色々と仕掛けるのが上手い。というのはあくまでもサポートに回ってくれた時の話で、自分が率先して主戦力になろうとした場合はなんだろうな……普通なら踏みとどまるところで躊躇わず突き進むみたいな……」

「あぁ、うん。大体わかった。一番駄目なタイプだね」


 ウェズンが前世で履修した漫画やアニメ、ゲームなどにもそういった感じのキャラクターはいた。

 いたけれど、大体ロクでもなかったりするので。


 味方にいるならまだしも、敵にいると本当に厄介なタイプだというのはわかった。


 普通に実力が凄くて……とかならまだしも、周囲の被害をものともしないタイプだとストーリー上であいつを絶対に許すな! みたいな事にもなり得るタイプだ。


「むしろこんだけの期間大人しくしてくれてたって事に喜ぶべきでは? って気がしてきた」

「言うな」


 ウェズンのそんなある種無茶な呟きを、ウェインも一瞬納得しかけたのだろう。

 おかしい、どうしてこんな状況で今更ラスボスに挑むみたいな事になりかけているのだろう。


 事の発端は母がお外を一杯お出かけしたいという願いのはずなのに。

 むしろその願いは世間一般で見るならささやかで平穏なもののはずなのに。


「……ところで僕が母さんに挑んだとして、勝てそ?」

「やめとけ死ななくてもトラウマになるぞ」


 試しに聞いてみれば、父の返事は即答かつ真顔だった。冗談の欠片もありゃしない。


「うーん、そっか。流石にそれは困るな……

 じゃあ、僕より強くてトラウマができても僕が困らない相手に頼むとするか……」


「そんな都合のいい相手がいるのか? 私以外に」

「うん。ワイアットって言うんだけど」

「あぁ、うちの娘に言い寄ってるともっぱらの噂の」


 無関係の他人を巻き込む事に若干の罪悪感があったらしきウェインであったが、しかしワイアットの名を耳にした途端その罪悪感は消滅したらしい。

 ウェズンがこれから何をするつもりなのかを詳しく聞くでもなく、じゃぁ、まぁ、いいか。みたいな感じで納得して、そのままGOサインを出すのであった。

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