表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
終章 その後の僕らは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

464/468

家族の定義



 更に別の館では、イアとアンネ、それからシュヴェルが突入していた。

 イアに対して可愛い妹分と認識しているアンネはウッキウキで館の中にいる合成獣キメラをそれはもう見ているのが哀れになる勢いでバッタバッタと倒していく。


 アンネの攻撃で仕留め損ねたのをイアがトドメを刺していく事で、驚く程スムーズに解決できそうだった。


「いや流石に浮かれすぎじゃね?」


 率先して突撃しようにもそれより先にアンネが魔法薬とかぶちまけたりするので、下手に前に出ると自分諸共攻撃されると思ったシュヴェルは、そんな二人の後ろからのんびりとついていくだけだったのもあって、ついそんな風に口に出していた。


「そだね、お前がいなきゃもっと良かったのに。

 ……いっそここでお前が不幸な事故に遭ったって事にしていい?」

「いいわけねぇだろブッ殺すぞ」

「できるもんならやってみなぁ。こっちこそ地獄見せてやんよ」


 立ち止まり後ろを振り返ったアンネの表情は、とてもイアには見せられないような表情だった。

 シュヴェルがイアに対してアンネ見てみろ、とか言い出したら即座に表情を取り澄ましたものに変えるだろう事は簡単に想像できる。

 だがしかしシュヴェルは言わなかった。

 何故って既にイアの視界にそんなアンネの表情が映っているからだ。


 アンネはイアを可愛い可愛い妹分としているが、しかしイアは別にアンネを姉のように思っているわけではない。


 確かにかつて、まだ学園と学院が敵対状態にあった時、学院に潜入した事があったしその時に敵だと思われたら困るから相手に嫌われない程度の愛想を振りまいたりして、その中の一人がアンネだったわけだけど。


 確かにその時はお姉ちゃん呼びをしたけれど、別に本当に心から姉と思っているわけでもない。

 アンネがイアを気に入っている事は既に理解しているけれど、それはそれとしてイアから見たアンネは今は単なる知人である。友人と言うにはまだそこまで親交を築いていないので。


 なので、そんな温度差もあってアンネがどれだけゲス顔を晒していたところで、イアは別にドン引きしたりしない。あぁこの人はこういう人なんだな、という風に納得して終わるのである。


 むしろアンネからすればそれで良かったと言えるのかもしれない。


 もしもっとイアの好感度が高く、その状態でアンネの今の様子を見たらもしかしたら失望されたりドン引きしていた可能性があるのだから。

 むしろアンネってそういうとこあるよね、で納得されている方がマシと言えよう。


 仲良くなってからドン引きされて距離を置かれるより、最初からそういうものと認識された上で今後の付き合いが続いていくのであれば、より仲良くなれる可能性は後者であると言えるので。



 ともあれ、館の中の合成獣キメラに関してはほぼ討伐を終えている。

 だからこそアンネとシュヴェルは周囲を全く警戒していないわけではないが、それでもこうやって軽口をたたき合える程度にじゃれ合っているし、イアとしてもそれを止めようとまでは思っていない。

 そんな場合じゃなければ困りながらも一応仲裁に入ったとは思うが。


 気配を隠そうとしているようだが、それでも僅かに感じ取れるところから本当にあと数える程度しか残ってなさそうだな……と思いながらもイアたちは迷う事なくそのかすかな気配がする方へ移動をしている。



 そうして部屋の片隅で震えるようにして縮こまり、どうにか己の存在を無いものにしようとしている合成獣キメラを発見し、内心でちょっと可哀そうだけど……と思いながらもイアたちは残っていた最後の合成獣キメラを倒し終えたのである。


 最後の一体が倒された時、合成獣キメラの姿が一瞬光った。

 そうして室内にその光が広がっていく。


 何かの魔法か、と思いながらも、その光は微弱で脅威を特に感じられず――だからだろうか。反応するのが遅れてしまった。


 開け放っていたはずの扉がパタンと軽やかな音を立てて勝手に閉まった事でようやく三人は動き出した。


 閉じられた扉は、軽やかな音とは反対にシュヴェルがドアノブを回してもピクリとも動かない。

「ちっ、閉じ込められたな……」


 館の内部は魔法をぶちかましても建物が壊れないようになっているので、壁やドアをぶち破って脱出する、という手段が使えない。

 むしろそうやって壊せるのなら、合成獣キメラたちはとっくにそうやって建物をぶち壊して外へ脱出していた事だろう。


 室内でどれだけ暴れても被害が出ないのは、そういうことを考えて立ち回らなくていい分楽ではあるけれど、しかしこういった時は困りもの。


 この中で一番パワーみなぎるシュヴェルがどれだけドアを開けようとしたりタックルかましてブチ開けようとしたところで、ドアはしっかりと閉じたままなのである。


 合成獣キメラが死ぬ間際に残した嫌がらせである、とはわかる。

 自分を殺した相手を閉じ込めて衰弱死させるつもりなのか、それともこの効果が一時的なものなのかもわからない。

 ただ、既に周囲の気配を探っても館の中からはもう何も感じ取れないくらい静かで。

 部屋の外から他の合成獣キメラがこのドアを開けてまで三人に襲い掛かってくる、というような事だけはないと三人は判断していた。


 そもそも、ほとんどの合成獣キメラを倒した後なのだから、外から襲ってくる、という可能性は無いに等しいのだが。


 閉じ込められはしたものの、今すぐ急いで脱出しなきゃ! と焦るような事ではない。

 館に入る前、ここに案内してきた魔女の魔法によって三人の存在は認識されているだろうし、死んでいるならともかく生きているのに長時間出てくる様子がなければ魔女も何かがあったのだと悟るだろう。


 であれば、学園にでも連絡を入れてくれれば外部からの救出が望めないわけではない。

 同じように合成獣キメラ退治に乗り出した他の連中も似たような事になっているのならともかく、そうでないならさっさと終わらせて戻っている奴が誰かしら救助に来る……と思ってもいい。やや楽観的な面は否めないが。


 というか救助にくる相手次第では今回の件をこれでもかと当てこすられる可能性はあるけれどそこはまぁ……背に腹は代えられないというやつだ。


 なので三人がここにどれだけ閉じ込められていようとも、困るのは精々トイレくらいなものだろうか。

 食事に関してはリング収納されているのがあるのでどうにかなると思いたい。


「お、なんか文字出てきた」


 どうしたものかな、といった態度のまま室内を見回していたシュヴェルがそんな風に声を上げた事で、イアとアンネも彼が視線を向けている先を見た。


 天井に張り付くようにして、もわもわ~っと文字が浮かび上がっている。

 そしてそこにはこう書かれていた。


 家族が迎えにこないと出られない部屋。



「はぁ!? なんだそれ」


 その言葉に反射的に噛みつくような叫び声をあげたのはアンネだ。

 死ぬ間際に光った合成獣キメラの能力だろうと理解はしたものの、しかしその内容がいただけない。


 家族、と言ってもそれが直接的な血縁者であるのならアンネには最早そういった存在はいないし、結婚などをした伴侶が含まれるにしても今のアンネにそういった存在はいないのだから。


 血の繋がりがなくとも問題がないのなら、この場でその可能性があるのはイアだけである。


 だからこそ、アンネは思わずイアを見ていた。

 彼女の事を妹のように思ってはいる。いるけれど、だがしかし本当の妹ではないし、役所に書類を出して手続きをしたわけでもないので、第三者がアンネとイアを姉妹として認めてくれるわけでもない。

 イア自身、あの家に引き取られたという話は別に隠してもいないのでアンネもそれを知ってはいるが、しかしそれでもここから出る可能性を持っているのは現時点彼女だけなのである。


 イアもまた、そんな文字を眺めて条件を定めた事でそれに従わないと出られない罠みたいなやつかぁ……と思っていた。


 もしここにウェズンがいたのであればいやそれ二次創作にありがちな〇〇しないと出られない部屋じゃん、と突っ込んでくれそうだったのに、しかしイアは前世で幾多の創作物に触れていたといってもそこまでは履修していなかったので。

 なんかそういうものなんだなぁ……で終わってしまっていたのだ。


 まぁ、脱出方法としては限りなく穏便な方ではある。

 家族、と限定されているとはいえ迎えに来てくれる人がいればどうにでもなるのだから。


 そうはいっても、いつ迎えが来るかは微妙なところではあるのだけれど。



「はぁ? やってらんね。おいチビすけ、どうにかして他の脱出方法探すぞ」


「だからチビって言うな!」


 パシンッとシュヴェルが差し出した手をイアは反射で叩いていた。

 こいつ毎回自分の事をチビチビと……! という気持ちで一杯である。

 確かにシュヴェルから見たらイアは小さいとしか言いようがないのだろうけれど、だからといってその認識を受け入れてしまうのはイアにとって許してはいけない最終防衛ラインである。


 叩いた、と言ってもシュヴェルにとっては全くのダメージにもならないそれ。

 なんだったら他の連中とハイタッチした時の方がまだ威力があるといってもいい。子猫がじゃれついてきた、くらいのものでしかなかったはずのそれはしかし次の瞬間――


 パキン。


 そんな音がした事で、シュヴェルとイアの軽い応酬は唐突に止まってしまった。


「あれ? ドア開いたね」

「開いたな」

「ホントだ」


 最悪誰かが助けに来るのを待つしかない、と思っても、それでも他の脱出方法があるかもしれない。そうは思ってもまぁ可能性は低いだろうなと思っていたのに。

 けれどもドアはあっさりと開いたので三人は思わず呆けて開いたドアを凝視してしまった。何かの罠にしても、あまりにもあっさりしすぎているし、ここからどういう罠が仕掛けられたかも謎。

 ここでこうしてまたドアが閉まって閉じ込められるよりは、と三人はさっさと部屋の外に出て、そうして今閉じ込められていた部屋の方へと振り返る。


 清々しいくらいに何もなかった。


「え、何あれ不発?」

「だったんじゃねぇか? あれが死ぬ間際に発動させたってんなら、その途中で構築が崩れたとかありそうだし」

「なんにせよ、何事もなく終わって良かった~」



 どこか釈然としないものを感じてはいても、だからといって既に仕掛けた合成獣キメラは死んでいる。調べようにもどうしようもないので、三人は念のためもう一度館の中を確認して回って、そうして完全に制圧したと判断した事で。


 館からの脱出を果たしたのである。


 部屋に閉じ込められさえしなければ、この程度余裕余裕、なんて言いながら出てきただろう。

 だがしかし、閉じ込められた時のそれがあまりにも中途半端すぎて逆にもやもやしたものを残す形となってしまった。


(もし仮に。

 ドアが開く直前のあの二人のやり取りがそういうものと認識されていたのなら。

 つまりそれって、家族くらい親しいって事?

 はぁ!?)


「とりあえずシュヴェルは死ね」

「なんだよ唐突に。てめぇが死ね」


 帰り際、思わず漏らした暴言にシュヴェルもまた反射で返していた。


 そんな二人を、イアは相変わらずこの二人物騒だけど仲良いな……なんて思いながら眺めていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ