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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
終章 その後の僕らは

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お掃除代行



 本来ならば魔物と対抗するために作られた合成獣キメラ

 だがしかし、その中には魔物に対抗する、という本来の目的から離れたものも存在していた。


 戦闘に向いていなくとも、それ以外で人間に対して害がありそうなものなども閉じ込められていたものの。

 それらがどうやら館の中で他の合成獣キメラたち同士で食らい合い、融合した結果とんでもない事になっている……らしく。


 ともあれウェズンはアレスとワイアットと共に、館に足を運んでいたのである。


 神の楔がある場所から大分離れているせいで、転移してから目的地にたどり着くまで時間がかかってしまったが。


「困ってるのよね。ここの館を管理していた魔女が消息を絶ってしまって。あたしじゃどうにもできないし」


 依頼を持ってきた魔女は、本来ならばこの館とは無関係であった。少なくとも今の時点では。

 本来この手の館は魔女たちが持ち回りで管理していくらしいのだが、当番である魔女がほとんど管理もしないまま消息を絶ったらしく、どうにかするにしてもどうにもできずに手をこまねいていたらしい。


 管理をしている時ならいざ知らず、そうじゃないのに自由自在に館に出入りはできない。

 入れないので中で何が起きているかはわからないが、それでもこの魔女はなんだか嫌な予感がして、どうにかして中の確認をしたらしい。

 入れなくとも中の様子を確認する方法がないわけではない。魔法を使って確認してみたところ、中では合成獣キメラたちがわんさか増えていて、

「あっ、このままだとマジヤバい……!」

 となってしまったのである。


 だからこそ、順番に管理していた他の魔女仲間に連絡を取って、そうしてそこから学園側に依頼が飛び込んできた。


 というのが今回の一連の流れであった。


 一応マスターキーのようなものはあるらしく、それを使えば館の中に入れるのだが、しかしここを管理している魔女たちは戦闘が得意ではない。魔法を操る事に関しては得意だと言えるけれど、館の中の合成獣キメラたちをこちらに被害が来る前に魔法で殲滅するまではできない。

 だが、このまま放置すると間違いなく大問題に発生する。

 そうなってからでは手遅れ。


 そう考えた結果、戦闘に関しては自分たちよりも得意な相手を頼る事となったのであった。


 それを聞いて、まぁ確かに魔物とかと戦う事もしてきたし、なんだったら神前試合で殺し合い前提の訓練とか色々受けてきたから得意っちゃ得意かもしれないけれどもさぁ……とウェズンは内心で思いきり納得してしまった。ウェズンじゃなくても納得するだろう。


「実のところ、こういった館は他にもあって、そっちはそっちであたしたちとは別のグループで管理してるんだけどさ。念のため連絡とってみたら、どうにもそっちでも似たような状況になってて」


「ふぅん? 成程ね。一度にそういった館から全ての合成獣キメラが解き放たれたら、すぐにとはいかなくてもそのうち人里に辿り着いた合成獣キメラによって間違いなく混乱が起きるのは確かな話だ」

「その前に魔物と遭遇してそっちと相打ちになってくれればいいけど、そう都合よくはいかないだろうしね」

「あぁ、むしろそういった合成獣キメラなら、魔物を取り込んで新たな生命体へ進化する……なんて事もありそうだな」


「既に内部でそういう感じで最初の頃とは違う何かに変貌してるのもいるからさ。余計にどうにもできなかったんだよ」


 戦いが得意ではない魔女がとりあえずでうっかり中に入っていたら、間違いなくもっと面倒な事になっていたかもしれない。であるのなら、確かに外部に助けを求めてきただけでもマシだろう。


「思い返せば以前遭遇した奴は人に成りすましたりもしてたからね。

 ああいうのがうっかり外に出ていたら、間違いなく大変な事になってただろうよ」


 ウェズンが出会ったアレは館の外には出られなかったが、しかし何かのはずみで外に出ていたら。

 成り代わられた人は殺されてるだろうし、成り代わったと気付かないままその人物の知り合いが被害に遭ったかもしれないし、更にはそこから冤罪に次ぐ冤罪が発生し、誰を信じていいのかわからないくらいギスギスした環境になって最終的に精神的に追い詰められた者がやられる前にやれとばかりに疑心暗鬼からの殺し合いに発展していたかもしれない。


 ウェズンが遭遇した合成獣キメラは戦闘面ではそこまで強敵ではなかったけれど、遭遇する場所がもっと異なっていたらそうなっていてもおかしくはなかった。


 館の場所が神の楔から離れた場所にあるのは万が一を考えての事らしいのだが、結果として目的地にたどり着くまでにそこそこの時間を要した。移動中に大体の説明を終えて、更にはどうでもいい世間話をするくらいの時間が経過して、そうしてやっと到着したのである。


「あたしは中には入らない。足手纏いになるからね。今回特に空間を繋げてもいないから、館の中から他の魔女の家に行けたりもしない。

 終わったら外に出て」

「わかりました」


 本来ならば、館を管理している当番の魔女のところと館の地下なり他の場所が繋がっているのだが、しかしその魔女が行方をくらましているせいで繋がってもいない。そのせいで、ウェズンたちを案内していた魔女もこうして同じく長い道のりを歩む形となってしまった。

 繋がっていたのなら、その魔女の家にさえ行けばここに繋がっていたからあっという間に到着できた、とぼやいていた魔女は、ここまでくる時点で既に軽く息切れしていたので、確かに一緒に館の中に入っても体力面で足を引っ張るだろう。


 道中世間話のようなノリで聞いてみれば、一日中家にこもって外には滅多にでないし、ロクに歩く事も無い、と言っていたのでこの体力のなさは納得できた。


 館の中に入る前に、魔女はウェズンたちの手を取ってそこに一つの魔法をかけた。そうして鍵を開けて、扉を開く。

「じゃ、武運を祈ってるよ」

 言って魔女はウェズンたちが館の中に入るのを見届けて、扉を閉めた。


 ガチャン、と鍵がかけられる音が響く。


 これで、ウェズンたちはこの中の合成獣キメラを殲滅し終えないと出られなくなってしまった。


 扉に鍵がかけられたので、合成獣キメラたちが館の外に出る事はない。

 かつてウェズンが入り込む形となった館のように、自分たちそっくりに姿を変える事ができるようなのがいたとしても、そいつが館の中から外で待機している魔女に開けるよう呼びかけたとしても、魔女は決して開ける事はない。


 館に入る前にウェズンたちにかけられた魔法で偽物かどうかの判別がつくらしいし、故に途中で脱出する場合か、終わって出てくる時にも魔法が反応するらしいので少なくとも偽物がどうこう……といった部分に関しては心配する必要はない。


 あとはこの中でうっかり自分たちが命を落とすような事にならないようにするだけだ。


 もっとも、その辺に関しては大丈夫だと思ってはいるが。



「さて、それじゃどうする? 二手に分かれる?」

 入って早々にワイアットがそんな風に言ってくる。

「それは進んでから決めた方がいいんじゃないか? 一か所に集まってるなら別行動する必要もないだろうし。

 バラバラになってたとしても、素早すぎて捕捉しにくい相手ばっかりならその時は手分けした方がいいとは思うけど」


 言いながらも足を進めていけば、廊下の先の方で何かが蠢くのが見えた。

 言うまでもなく合成獣キメラだろうと判断して、ウェズンたちはそれぞれ武器を構える。


 アレスはいつものように剣を。ワイアットもまた細身の剣を。

 そしてウェズンもまたその手には剣を。

 三人ともが剣を手にゆっくりと進んでいく。


 合成獣キメラがどういうタイプかわからないので慎重に進んでいたが、向こうもこちらの気配は早々に察知していたのだろう。警戒しているであろう空気と、そこに混じった殺気を感じて、ワイアットは速度を上げた。


 先陣切って突っ込んでいくワイアットの背を見て、次にアレスが。

 最後にウェズンが続く。


 ホールのような場所に出たと同時にワイアットに襲い掛かってきた合成獣キメラをワイアットは難なく仕留めて、そのままの勢いに任せるように術を放った。


 そこからは、あっという間だった。

 まだ襲い掛かる前だった合成獣キメラの大半がワイアットを危険だとみなしたのか、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。ウェズンたちがやって来た通路とは別の廊下へと我先に逃げ出していくのを見送って。


「やっぱ手分けして行った方がいいかも。パッと見そんな強いのはいないみたいだし」


 最初に襲い掛かってきた合成獣キメラは、少なくともあの中では強い方だったのだろう。だがそれが一撃でやられるくらいだ。他に強いのがいたとしても、そこまでの脅威ではない。そう判断したワイアットが、ちまちま潰してくだけの作業かぁ……と憂鬱そうに呟く。


「確かにあんまり脅威って感じはしなかったね」


 ワイアットの言葉にウェズンも頷いた。

 厄介な能力を持っているであろう合成獣キメラもいるはずなので油断はできないが、しかしワイアットなら別にここで独断行動をしたところで、なんか大丈夫そう……と思ってしまう。


「全員で行動するよりそっちの方が効率的だとワイアットが判断したのなら、それでいいと思うよ」

「俺はウェズンと行動しておく。念のため、な」

「オッケじゃあ僕はこっちの通路から行くから、二人は……まぁ好きにすればいいよ」


 ホールから逃げた合成獣キメラの多くが向かった先を示して、ワイアットはウェズンたちが返事をする前にさっさと移動していた。


「とりあえずなんかあったら連絡して」

「了解」


 その背中に向かって声をかければ、とりあえずは聞こえたのだろう。既にワイアットはそれなりに離れてしまった後だったので、返事は少しばかり聞こえにくかったが、剣を持っていない方の手を振ってこたえていたので、まぁ大丈夫かと思い直す。


「それじゃこっちも行くとしようか」


 どうか、面倒な事にはなりませんように。

 そう思いながらもウェズンはアレスとともに、ワイアットが進んだのとは別の通路へ足を踏み入れた。

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