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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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名ばかり研究所



 時間の流れはあっという間である。

 気付けばウェズンたちは学園を卒業し、そしてそのまま研究員として働く事となった。


 そうはいっても、就職先は学園の敷地内にある研究所。

 今まで過ごしていた学生寮から職員寮へ移動しただけで、何かが思い切り変わったというわけではない。


 強いていうのなら、学院の生徒だったワイアットたちも同じ職員寮に移動してきた事もあって、顔を合わせる機会が増えたくらいか。


 ウェズンたちは教師になったわけではないので、学園や学院の生徒に何かを教えたりするわけではない。

 だがそれでも、職員寮に移った事で今まであまり話す機会もなかった教師たちとの会話は増えた。


 去年は新入生を受け入れる事はできなかったが、今年はそうではない。だからこそまた新入生がやってきたのだが、学園と学院が同じ島内に存在するようになってしまったのもあって、今までとは異なる説明をする必要が出てきてしまって、学園も学院も教師たちが色々と面倒な事になっている、というのは聞いた。


 去年は新入生がいなかったからそこら辺は先延ばしにされていたのもあるが、今年はそうもいかない。

 とはいっても、神前試合は殺し合いではなくなったので、そこまで殺伐とした説明は増えていないらしい。


 ただ、まぁ。


 上の学年はそうもいかない者もいるので、そういった事に巻き込まれた場合のあれこれに関しては事前に注意をされているのだとか。


 学園と学院で殺し合いはしないといっても、それでも魔物は発生するし、そういったものと戦うとなれば最悪命を落とす事もあるので、完全に安全性を押し出すような事にはならないのは言うまでもないが、ウェズンからすればそれでも学園と学院の上の世代がギスるだろう事は目に見えてるので、新入生がそういった修羅場にうっかり巻き込まれない事を祈るばかりだ。


 ちなみに今年はそこまで問題児になりそうなのがいなかった、との事でウェズンたちの担任をしていたテラはクラスを受け持たずメルトの補佐に回ったらしい。


 卒業したからまぁいいか、でぶっちゃけられるのもいかがなものかと思う。

 ウェズンが入学してテラのクラスになった当初は実力面だとか適正の問題だとか言われていたような気がするのに、ここにきて面と向かって問題児と称されたようなものなのだ。

 まぁ確かに思い返すと、なんだかんだ問題児だったかもしれないが。

 いやでも別に盗んだバイクで走りだすような真似はしてないし、校舎の窓ガラスを割ってまわったりもしていないし、ましてや画鋲で天井めがけてダーツしたりもしていない。


 授業態度という点ではとても優等生だったような気がするのだが、それでも問題児扱いだったのだろうか……? と手のひらをくるくるさせる勢いで悩んだが、まぁそれ以外の部分でやらかしてる自覚はあるので表立っての反論はしなかった。


 問題児と一言で言っても種類がある。そう思う事にした。

 自分は問題児じゃない、と思ったところで、確実にそれ以外の問題児と関わってるので一括りにされてるのだと思えば、まぁ……と無理に納得させたとも言う。



 研究所で働くと言っても、正直そこまで大きな変化があるわけでもなかった。

 神の楔は一度に大量生産できるものでもないので、とりあえず取り換えたところとそうじゃないところをチェックして、次にどこを交換するかとか案外のんびりとやっている。

 人の目に触れる場所での交換はまだなので、そういった場所の交換をする時は事前にもっと綿密な計画を立てないといけないかもしれないが、今はまだその時ではない。


 それもあって、ウェズンたちはとりあえず学園や学院を卒業した者たちと同じように冒険者紛いなことをして暇を潰したりしていた。


 あまり魔物を倒しすぎると、生徒たちの学外授業での実戦経験の機会を潰してしまいかねないので。生徒たちが行かないような、実力的にまだそこは難しいだろうというようなところだけ任されたりもしている。


 合間合間で教授と他の魔道具について話し合ったりして、改良できそうな物に取り組んだりと、一応研究所っぽい事もしているが、概ね平和……であったのだ。



「――実はちょっと面倒な事になった」


 平穏はいつも簡単に打ち砕かれる。

 けろっとした口調で言われたのもあって、どれくらい面倒なのかもわからないままに、そんな事を口に出したメルトを見る。

 隣にはクロナもいた。


「なんですか。それウチの仕事ですか? 違いますよねきっと」

 雰囲気から絶対に冒険者とかそっち方面に依頼するような事ではあるまいか。

 そう思うのだが、しかしメルトは緩く首を振った。勿論横にだ。

 つまり、どう足掻いても研究所の面々に押し付けられる案件である。


「神の楔を交換して、まだまだ正直一割にも達成していないという亀の歩み状態ですが、それに関しては仕方ないのです」

 クロナが切り出す。

 確かに交換し始めてまだ全然なのはウェズンだけではなく、研究所にいる全員が把握している。そうはいっても、神の楔はスピカが作り出さなければならないもので、ましてや他にも神の力を使って色々と世界の調整をしているそうなので、正直現状スピカも手一杯なのだ。神だからってなんでもかんでも一瞬で解決できるわけではないのは今更である。


 その合間に神の楔を少しずつ作成しているので、ウェズンたちは基本待機しつつそれ以外の事をしているのが現状で。

 なんだかんだあれこれ頼まれたりもしているので、実際今現在、研究所というよりは、学園と学院両方の御用聞きみたいな状態だ。


「本来の業務をこなすにも、肝心のブツができていないのであれば仕方なし。その間に、別件の仕事を引き受けてもらいたいの」


 クロナの言葉に、やっぱりそれ、元々はウチの仕事じゃないのでは……? と思ったが、ここでごねたところで最終的には押し付けられるのだろう。そんな雰囲気がプンプンしていた。


「それで? 一体どんな面倒事を押し付けようっていうんだい?」


 早々に察したワイアットが不躾に訊ねる。


「それが――」



 全員で一緒に行動するわけではなかったが、それでもいくつかのグループになって向かう事にはなった。

 つまりは、仕事先が複数あるのである。


 その中の一つに行く羽目になったウェズンと一緒にいるのは、アレスとワイアットだ。

 アレスはともかくとして、ワイアットは個別で行かせてもいいような気したのだが、それはクロナが待ったをかけた。確かに荒事に関してであれば、実力という点でワイアットは単独行動させても生きて帰ってくるだろう事が簡単に想像できるし、そういう意味では安心感さえあるのだが。


 だがしかし、彼は強者との闘いだけを愉しみにしているわけではない。弱者を嬲る事も躊躇わない性質を持っている。

 本来の目的を達成した後、余計な事をしない、とは断言できないのである。

 それ故に、当たり前のようにワイアットのお目付け役としてウェズンとの行動が決まってしまった。

 ウェズン一人でどうにかなるか、と言われるとどうにもならないと思うのだが、ワイアットは比較的ウェズンの話には耳を傾けるのと、あとはまぁ、多少興味を持っている人間がアレスなので、それと一緒にしておけばいざという時気を逸らすくらいはできるだろうという――まるで幼児に対するかのような考えから、この三人での行動が決められてしまった。


 一応研究所の所長という立場を与えられたといっても、こういった時にウェズンの持つ権力はほぼ無いようなものだった。じゃあよろしく、という一言とともにメルトとクロナに決められたのだから。


 中間管理職はこれだから……と内心毒を吐く気持ちでいっぱいだったが、かといって他のところにワイアットをぶち込むわけにもいかない。

 イアと一緒に行動させた場合も、まぁ多少イアの言葉に耳を傾けるくらいはすると思うが、しかし戦闘で気分が高揚して――テンションがぶち上がった場合、それすら耳を貸さない可能性はある。


 飼い主に逆らうつもりがなくても散歩の際にテンションが上がって飼い主を振り回す犬のような事になるかもしれない。

 当たり前のようにワイアットが犬扱いされているのもどうかとは思うが、ともあれそれ以外の面から考えてもやはりウェズンと行動させるのが一番マシである、という結論に至ってしまったのだ。悲しい事に。


「懐かしいな」

「そうかな?」


 別に誰に言うでもない感じで呟かれたアレスに、ウェズンはそんな風に返した。


「場所は違えど状況は似てるだろ」

「うーん、あの時の事を思い出しても懐かしいか……とはちょっと」

「まぁそうかも」


「えー、僕をさしおいて楽しそうな事してたって事?」

「事の発端は貴方ですが」


 アレスのじとっとした目がワイアットに向けられる。



 今回与えられた仕事というのは、言ってしまえば魔物退治に近いものだ。

 ただ実際戦うのは魔物ではない。

 合成獣キメラである。


 魔物は瘴気がある場所で発生し、そして瘴気を取り込み成長し強くなる。

 強さの段階次第では、そこらの人間では太刀打ちできなくなる事だってあるが、しかしその魔物が倒された場合、取り込んだ瘴気諸共浄化されるので、一度にドカンと浄化したいのであれば強い魔物を倒すというのは考え方としては有りだ。

 ただ、倒せない場合とっても強い魔物がそこらを蹂躙する事になるので倒せるかどうかの見極めはとても重要なのだが。


 合成獣キメラは瘴気を取り込んで成長したりはしないが、人間よりも強い力を持つ事もできる。

 魔物退治に関してそれらを上手く利用できれば、人間の犠牲を少なくして魔物を倒す事もできるかもしれない……という点から、魔女などが合成獣キメラを作り出したりもしていた。


 そうはいっても、命を作り出すというのはそう簡単な話ではなく、これとこれを組み合わせたら絶対強くなるよぉ! と思っていざやってみても、思ったより強くならなかった、なんて事もある。

 その逆に、作成者の考えを無視して手に負えない存在ができたりもした。


 弱いものなら処分に苦労はしないけれど、向こうも単純に処分されてくれる程甘くはない。

 結果として、魔女たちは処分するには微妙だけれど、野に放つわけにもいかない合成獣キメラなどを閉じ込める場所を作り出していたのである。



 かつて、ウェズンが神の楔の転移事故によって飛ばされた先の館もそういった場所だった。

 そしてそこでアレスと出会ったのも懐かしい思い出である。

 ただまぁ、その頃はまだ学園と学院は対立状態にあったので、下手をしていたらあの時二人は殺し合う事になっていたかもしれない。


 ただあの時はアレスが学院の制服を着ていたわけでもなく、それどころか戦闘するには心もとない状態だったのもあって、まずは対話から……となっていたから穏便に事が運んだようなものだけど。

 それでもその時アレスと共にいた相手は館の中で命を落としている。


 ちなみにアレスがその館に行く羽目になった原因がワイアットだ。


 なので、自分を差し置いても何も……となるのは当然の事だった。



 合成獣キメラを押し込めてある館はてっきりウェズンたちが足を踏み入れたあの館だけかと思いきや、実は複数ある事が判明した。

 そしてその中で合成獣キメラたちがそれぞれ殺し合ったり食らい合ったりした結果、魔女たちも予想していなかった方向に進化を遂げたらしく、現状封じてはいるもののそれを破って出てしまうかもしれないとの事。


 魔物とは異なる魔物に近しい存在。

 自由を得た合成獣キメラが果たしてどういう行動に出るのかはわからないが、間違いなくロクな事にはならないだろう。

 それに、魔女たちの多くは既に世界の現状に気付き始めていた。

 レスカからスピカに世界の権利が戻ったとハッキリ理解しているわけではないが、それでもうっすらと何かに気付いてはいるようで、であればこれ以上合成獣キメラの存在は不要だろうとなったのである。

 実戦投入されたものに関しては既に役目を終えて命を終わらせたものもあれば、魔女の命令をきちんと聞く使い魔的な存在となっているものもあるけれど、そうではない――所謂失敗作に該当するものたちに関しては綺麗さっぱり片付ける――となったまではいいものの。


 そうなった時には魔女たちだけでは手に負えなくなってしまったのだとか。


 その尻拭いを要するに任されてしまったのである。


「まぁ、冒険者として活躍してる先輩方に任せるにしても……流石にこれは……手に負える気がしないし」


「ま、暇つぶしには丁度いいんじゃない?」


 一番気楽な発言をしているのは言わずもがなワイアットである。こいつは多分どれだけ劣勢な戦場であっても多分変わらない態度なので、もう何を言っても今更だった。


「つまり、ワイアットが先陣切ってその後ろから俺たちが見物しながら進めばいいって事だな」


 ほとんど投げやりな態度でアレスが言う。

 片眼鏡モノクルの角度を微調整しながらだったので、視界にワイアットを入れてすらいない。


「まぁそれでもいいけど。巻き込まないとは言わないから精々気をつけなね」


「思ったんだけど、僕たちは館の外で待機してればいいのでは……?」


 一緒に建物の中に入ると危険だと思ったのでウェズンとしては一番の安全策を口に出したのだが。


 それはワイアットによって笑顔で黙殺されたのである。

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