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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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その後簡易バザーが開催された



「あっ、やらかしてたわ」


 自室に戻ってから、とにかくリングの中に突っ込んだままの不要物を処分しようとして、ウェズンはとりあえずリングの中のアイテム一覧をチェックし始めていた。


 そして気付いてしまった。


 面白半分でリングに石ころ突っ込む奴が出る、とは聞く話だけど、自分ももれなくやらかしていたという事を。

 自分はそんなバカな真似しないぜ、とか思ってたけど、やらかしていた。

 やらかした上で、その記憶を綺麗さっぱり忘れ去っていたのである。


 うーん、と記憶を手繰り寄せてみるが、この石をいつリングに突っ込んだのかも記憶にない。

 いつだ。いつから入ってたやつだこれ……

 そんな風に自問自答したところで、悲しい事に答えが出てこないのである。

 これがもっと別の案件であるのなら、誰かに聞いて解決するという方法もあるのだが、しかしこの答えを知っているのはウェズンだけだ。そのウェズンは答えそのものを完全忘却してしまっているので、真実は闇の中だし事件は迷宮入りしてしまっているわけだが。


 やらかしたとするのなら、リングをもらった直後の入学した年だろうか。

 それならまだやらかしたかもしれない、と思えてくる。

 こう、ゲームみたいな展開にちょっとワクワクして実際に存在していないアイテム図鑑を埋めるノリでそこらのアイテムをぶち込んだ……的な。

 そして最初の頃だとリングの収納容量も余裕がありまくる。何故ならもらった直後にリングにアイテムが大量に入ってるわけがないので。その時に無駄なアイテムを突っ込んで、まぁ邪魔になったらその時どうにかすればいいや、と余裕をかましてそのまますっかり忘れ去ってしまった……考えれば考える程しっくりくる。

 きっとそういうアレだったんだな、と思ったウェズンは、とりあえずリングの中身を全部出すと流石に部屋の中がごちゃごちゃするってレベルじゃねーぞ! と言いたくなるくらいとんでもない事になるとわかっているので、あくまでも少しずつ出して整理する事にしていた。


 掃除の最中に意識を他に逸らすような物はこの部屋にはない。

 前世だとうっかり漫画とか読み始めちゃったり、気分転換にゲーム始めちゃったり、という事を弟たちがよくやらかしていたが、この部屋にそんなものはなかったのでウェズンが前世の弟たちのような事をやらかす事にはならない……とはいえ。


 片づけを始めて早々に集中力が尽きたのか、モノリスフィアに連絡がくるのである。

 ご丁寧に画像を貼り付けて、こんなの出てきた、みたいな報告が。


 最初はイアだった。


『おにい、これどうしよう?』


 そんな一文とともに貼り付けられた画像は、ホットケーキである。

 少し分厚い生地が三段重ねられ、上には四角くカットされたバターと……ハチミツかメープルシロップかはわからないが、ともかく甘いであろうソースがかけられた、お手本のようなホットケーキの図であった。


『食べきれないとかそういうやつ?』

 どうしようも何もな……と思いながらも、とりあえず返信をしてみれば、即座にメッセージが返ってきた。

『前に作ったやつ』


 見た目はとてもお手本のような、それこそどこぞの喫茶店のメニュー写真に使われてそうなものだが、しかしイアが作ったとなれば話は別である。


 イアの料理は基本的に何故だか絶望的な味になる。材料がちゃんとしていても。作り方を間違えていなくても。

 見た目はとても美味しそうなのに、口に入れた途端絶望とはこういうものだ……と理解するような代物なのだ。その事実を既にクラスメイトたちは知っているし、理解させられてしまった。こんなわからせ望んでなかった……と言ったところで後の祭りである。


 どれだけ見た目が美味しそうでも、間違いなくこのホットケーキは絶望の味をしている。

 イアが作ったのだから間違いない。


『飯テロはやめるように。ワイアットにでも差し入れしておけばいいと思うよ』


 目で見るだけなら一級品のそれは、下手にお腹が空いた時に見ればどう足掻いても飯テロになりかねない。実際に食べた時点で別のテロだなとなったとしても。

 ウェズンは何度もイアの料理がどうしてこんな絶望味になるのかを解明するために付き合いで食べてきたけれど、それでもやっぱり食べる時、最初の一口は覚悟してからじゃないと大変なのだ。

 なんの覚悟もなしに口に入れた時点で思わぬダメージを食らう。昔みたいに頽れる程ではないとはいえ、それでも若干くるものはくるのだ。


 仮にも妹が作った物であるのなら、笑顔で完食して美味しかったよご馳走様、と言ってあげたい気持ちがないわけではないのだが、あからさますぎる社交辞令なので今更である。

 イアが作って美味しくなるものは、スターゲイジーパイとか、あとは最初からグロテスクな見た目の料理だろうか。意図的にぐちゃぐちゃな目玉焼きだとかは普通に不味いが、最初からこういう完成図です、みたいなやつは何故か美味しい不思議。

 普通に市販のジュースをゼラチンで固めただけのゼリーですら何故か絶望の味に変わるものの、手間暇かけて作ったハロウィンにありがちな目玉を模したゼリーは何故か美味しかった。

 一体どういう事なんだろうか。

 魔法薬などの薬品調合の場合は何も問題なく仕上がるのだから、それと同じ要領で作った料理も同じように完成しろよと思わないでもないのだが、やっぱり何をどうしたところで駄目だった。魔法薬の場合はそもそも最初の味が不味いというのもあるので、そっちはカウントされないのかと思いきや、薬効を落とさず味の調整をしようとした場合、多少マシに改善されたりもするので、だったら料理が改善できないはずもないのに……!


 世の中の理不尽の一部をイアという存在に埋め込んだのではなかろうか。

 運命にそういう何か……律のようなものを組み込んだりされてやしないだろうか。


 そう思ってスピカに聞いてみたこともあったが、流石に人間一人一人にそういった何かを仕掛けるような事は神と言えどもしないらしいし、やろうとしても難しいと返されてしまった。


 つまり、イアの料理の大半が絶望味になるのは、決して神の悪戯ではないという事だ。

 ますます不思議である。



 その後にもいくつかイアのリングに保存されていたらしき料理の数々が写真で送られてきたが、いずれもワイアットに押し付けておけ、で返信は統一された。

 イアを嫁になどと言い出したのだから、まぁ、試練の一つだと思って頑張ってほしい。

 というか、毒でもないのに毒みたいな一撃を叩き込むイアの料理をワイアット本人は面白がっているので、多分大量に押し付けたところでなんの問題もないだろう。


 イアに関してはこれで大半が解決した。


 その次に送ってきたのはレイだった。


『こういうのってどうしてる?』


 その一文とともに貼り付けられた画像には、大量の骨が映っていた。


「事件の香りぃ!!」


 ウェズンが思わず叫んだのも無理はなかった。

 その叫びに「どうしマシたか? 坊ちゃん」とナビがひょこっと姿を見せたが、ウェズンは手を振って何でもないと答える。

 いや、なんでもないわけないだろうとしか言えないのだが、なんでもないとしか言いようがない。


 人骨だったらどうしようかと思ったが、よくよく見れば大半獣の骨だった。


 どういう事かと聞けば、学外授業で野宿した際、近くに町や村もなかったし近場で食料調達した際の残りだそうだ。

 骨を埋められる場所であればまだしも、そうじゃない場所で放置は問題あるかと思ってリングに収納し、後で処分しとけばいいだろうと思っていたが気付けばすっかり忘れていて……出来上がったのが骨の山だ。


 ゴミを持ち帰る、という点でいやお前それこそ海にでも撒いてそうなのに……? と口から出そうになったが、数秒考えた末にウェズンの指は焼却炉に持って行け、という一文を打ち込む事で終了した。


 とても失礼な話だが、ウェズンとしてはレイとかそこら辺にゴミとか捨てていきそうなのにな……とド偏見まみれな事を考えてしまったので、むしろゴミを持ち帰っていたという事実に驚きである。

 多分海賊とか盗賊っていう家柄が偏見を生み出した原因だろう。


 次にウェズンのモノリスフィアにメッセージを送ってきたのはルシアだった。


『これどうしたらいいと思う?』


 そんな一言と共に添付されていた画像は宝飾品だった。


『一応聞くけどこれはどういう入手経路?』


『学園の外で知らん人から貢がれた。

 返そうとしたけど押し付けるようにして去ってったから、返却のしようもない』

『ちなみに送り主』

『知らない人だけど確実に言えるのは全員野郎だった』


「完全に女性に間違われてるじゃん……」


 メッセージを見て思わずそう呟く。


 しかもこれは突発的な貢物ではない。

 間違いなく以前見かけたルシアを狙っている。


 場当たり的に道で知り合った美女にいつでも贈り物を渡せるように……なんて準備のいい男がそういるとも思えないし、むしろいたとしても問題である。


 あらかじめ友人や親しい間柄の人に渡すために持っているならまだしも、そうではない相手に渡す贈り物であるのなら、それこそもっと無難な代物であるべきだ。

 そもそも親しくもない相手に突発的にプレゼントを渡す、という状況がウェズンにはよくわからないが。


 そんな準備のいい奴がたまたまいた、と考えるには都合が良すぎるし、であればルシアを以前見かけて、次に見かけたら渡そうとしていた相手と考える方がしっくりくる。


 次に見かけた時に前に渡したアレ、使ってくれてる? とか言い出すような相手がいる可能性を考えると、ルシアの顔面がとんでもねぇ美少女だというのも考え物だ。

 勝手に押し付けて去っていった時点で、普通はそんなアイテム気持ち悪くて使わんぞ……と思うのだが、そういうところまで考え付かない輩の場合勝手に変な恨みを拗らせないとも限らないので、なんというかその押し付けられた品々には妙な怨念でもこもっていそうな感じだった。


 それを知らなければ普通に高価なプレゼントが大量だなぁ……で済んだのに。


『お焚き上げかどっかの恵まれないところに寄付しとけばいいんじゃないかな』


 なのでウェズンとしてはそういった無難な返答しかできなかった。

 売り払って得た金をパーッと使って忘れる、というのもあるにはあるが……もしいつかどこかでルシアにプレゼントとして押し付けていった相手と出くわした場合、その贈り物について聞かれたとしても知らない人から急に渡されたので……と困ったようにルシアが然るべき場所に持っていったかのように言えばまぁ、どのみち恨みは買う気がしないでもないが、堂々売り払ったとかうっかり言うかもしれない事を考えるとまだマシだろう。

 どちらにしてもルシアが美少女ではなく男であると判明した時点で女だと勘違いした相手からの恨みを買うのは免れそうにない。


 もしかしてうちの家族の中で一番厄介なネタ持ち込んでくるのって、もしかしなくてもルシアか……?

 今更のようにそんな事を考える。


 まぁ考えたところでどうにもならないのだが。



 そうやって一つ一つメッセージを確認しては返信して、を繰り返していくうちに。


 気付けば一日が終了しかけていた。

 自分の片づけが全然終わっていない。


「なんてこった」

 また明日もこれやるのか……とうんざりした気分になったところで、またもやモノリスフィアにメッセージが届く。


「今度は誰だよ」


 思わず口に出して、メッセージの送り主を見れば。


『こういう石探してるんですけど、見かけた事ありませんかね?』


 今まではリングの中に放置してたやつどうしよう、という内容ばかりだったので、その逆のこういう品探してますコメントをすぐに理解できなかった。


 ちなみに差出人は教授である。


 こういう……とご丁寧に画像を貼り付けてはいるものの、教授の手のひらの上にのせられているであろうその石は小さく、パッと見でどういうものかがよくわからない。

 仕方なく画像を拡大して見ようと試みて――


「あれ?」

 ふと床に出しているそれらに目を向ける。


 ゴロゴロと転がっているそれらは、間違いなく教授がお探しの石だ。

 リングに石ころ突っ込むとかやらかさねぇよとか言いつつやらかしたそれ。


『これですか?』

 なので思わず床に無造作に転がされたそれらを撮影し、画像を添付し返信してみれば。


『言い値で買います』

 即返信がきた。

『魔道具作りに使うものなんですが、最近中々見かけなくて。

 むしろそんな大量にあるとかなんなんですか。

 全部売ってくれとはいいません。でもそこの半分……いえ、更にその半分の量でもいいんで是非とも売ってください』


「必死か」


 あまりの熱量に思わず慄く。

 魔道具に使う材料なんだこれ……へ~。

 そんな気持ちでしかない。

 床に転がっているそれらはどのみち処分しようと思っていたものだ。


 だからこそ。


『言い値と言われても困ります。適正価格で大丈夫ですよ。ちなみに全部売れます』


 どのみち捨てるつもりだったからタダでいいですよ、とは言わなかった。

 売れるとわかって馬鹿みたいに値を吊り上げるまでしてないので良心的な方だと思っている。


 ただ、まぁ。


 感謝の言葉とともにじゃあこれで! と表示された値段が結構していたのもあって。


『知り合い価格でそこから二割引いておきますね』

 ウェズンはしれっとそんな文面を打ち込んだのである。

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