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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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跡を濁せない



 神の楔を引き抜く作業に関しては、スピカが事前に渡してきた道具でもって呆気なく抜く事ができた。

 その際に馬鹿みたいな爆音が発生した、なんて事もないので、すっと抜いてサクッと新しい神の楔を差し込んで終了である。

 新しい神の楔は古い神の楔を引き抜いた場所に差し込めば、世界に根を下ろすかのようにしっかりと固定されたので、特に何か大変な事があるわけでもない。


 引っこ抜いた古い神の楔はウェズンがリングの中にしまいこんだ。回収したやつは後程メルトかクロナ、スピカのいずれかに渡すように言われているので、そうする事でこの作業は一段落を迎える。


「……まぁ、呆気なく終了したよね」

「拍子抜けだよね」


 ウェズンの言葉にすぐさま相槌を打ったのはイアだ。


 一応どういう流れでやるのか、というのを把握するためにこの場には他にも数名存在しているが、引っこ抜いて新しいのを差し込むだけ! という簡単2ステップな状況に皆リアクションをするまでもなかった。


 古い神の楔を引き抜くためには特殊な道具を使う必要があるけれど、その道具があれば誰でもできる作業である。


「今回はお試しみたいな感じで簡単に交換できる場所に来たわけだけど、問題はこれからだ」

「あぁ、場所によっては街中とかだもんね」

「というか、魔女の家の敷地内にあったりする」

「スニーキングミッションが既に崩壊しつつあるね」

「まぁ、事情説明すればあの魔女ならどうにかなると思うけれども……」


 ウェズンの頭の中で思い出されたのは、エルアの兄、アインが死ぬ原因となった魔女だ。

 一応話が通じないわけじゃないから、まぁどうにかなると思っているが問題はそれ以外の場所だ。


 森の手前だとか、山の中腹だとか、そういった自然ばかりで人が来るかどうかもわからないような場所はまだいい。一応周辺に誰もいない事を確認する必要はあるが、そこはまだマシな方だ。


 問題はイアが言ったように人が住む場所の近くに存在する神の楔だ。

 それをもし引っこ抜く様を目撃された場合、面倒な事になりかねない。


「町とか村にある神の楔の交換か……まぁ、いけると思うよ」


 だがしかし、思案し難しい気がするな……と渋い声を出したウェズンに、あまりにもあっけらかんと答えたのはワイアットだった。


「一応、聞こうか」

「魔法で眠らせるとか、陽動作戦で別の場所で騒ぎを起こしてそっちに意識が向いてるうち」

「……まぁ、そこら辺が妥当かなぁ……」


 目撃者は皆殺しにしちゃえばいいじゃん、とか言わないだけマシだった。

 実際、その辺が妥当だろう。

 一応人があまりいない時間帯――それこそ深夜だとかが狙い目だとは思っているけれど、それでも誰かしら起きて行動している者はいるだろう。その場合はいかに相手の注意を逸らすか、こちらが相手の意識に入らないかが重要になる。


 少数なら一時的に眠りの魔法をかけるのもありだが、夜でも大勢が起きているような――ネオン輝く夜の街みたいなところだと、確かに別の場所で騒ぎを起こしてそちらに注意を逸らした方が手っ取り早い。


 なるべく穏便な方法をとりたいが、場合によってはこちらは顔を隠して犯罪者みたいにコソコソやらないといけないかもしれない。


 そう考えても、今すぐ実行できるわけでもない。新しい神の楔はまだ充分な数が用意されていないので。


 なので最初は基本的に人がいない場所から始める事にすると言われた。


 人の多い場所で神の楔が以前と色の違う物に変わったとなれば騒ぎになりそうな気もするけれど、そうじゃない場所でいくつか変わっていてもすぐには気付かれない、というのもあるし、気付いた時には他の場所でも同じように変わっていた、となれば神の楔全体がそういう風に変わりつつある、とみなされるかもしれない。


 ある程度新しくなってから今更のように調べられたとしても、その頃ならまぁ、上手く誤魔化しもできるだろう。やや楽観的な思考だがそう思うしかない。


 だからこそ山奥や森の中といった人があまり来ないであろう場所からコツコツと変えていく。

 森の中であってもそこそこ人が訪れる場所は後回しだ。



 そうこうしているうちに、それなりの日数が経過して気付けば元々の神前試合をする日がやってきていた。

 本来ならば、ここで神前試合をするはずだった。だがしかし既にそれはかなり前倒しして行われたので改めてやる、というわけでもない。


 イアが言う原作とやらであったなら、そこでウェズンは魔王に選ばれて神前試合をして。

 そうして。



 どうなるところだったのだろう……?



 漠然としか内容を思い出せなかったイアは、結局ラストは一応ハッピーエンドだったと思う、と最初に言っていたけれど、しかしやはりラストがどういう終わりを迎えるのかは今になっても思い出せないままだった。


 学園を卒業する間近に行われるはずだった神前試合。

 そしてそこで魔王として選ばれたウェズン少年は、最後の戦いをして、そうしてエンディングを迎えるはずだった。


(そう考えると、ラスボスにあたりそうなのって神前試合で対抗する学院の生徒なんだろうけれど……)

 真っ先に思い浮かんだのは言うまでもなくワイアットだ。

 確かに彼ならば、ラスボスの名に相応しい実力を持っているので彼がイアの言う原作とやらのラスボス的立場にいたとしても、納得できる。

 けれどもイアの反応から、ワイアットがラスボスである、というわけではなさそうだ。

 流石にラストがどういう終わり方をしたか忘れていても、ラスボスはふんわりとでも憶えているだろうから。


 ウェズンだって前世で見た作品で、ラストがどういう終わり方を迎えたかすっかり忘れて思い出せないものなんていくらでもある。


 途中の盛り上がる山場のシーンはハッキリ憶えていても、エンディングがどうだったか、なんてのは何も記憶していないなんてのは、一つや二つじゃない。

 まぁ、エンディングだけ憶えていて途中を忘れている作品というのもあるが。


 イアが憶えている範囲での内容からも異なる展開を迎えていたようだし、原作と同じ終わり方ではないのは間違いないだろう。だが、ウェズンとしてはだからなんだという話である。


 色々あったのは事実だし、恐らく原作から遠ざかったのは確かなはずで。

 けれど、世界の滅亡は少なくとも今の時点では回避できたようなもの。


 であれば、何も問題はないはずだ。



 原作のウェズン少年はきっと卒業間近の神前試合を迎えた後、一体どういう風にエンディングを迎えたのかは知らないけれど。

(ま、多分今とそんな変わらない感じになってたんじゃないかなぁ……)


 原作のウェズン少年とこうして今ここにいるウェズンはベツモノであるけれど。

 だが、まぁ、きっと多分恐らく、最終的にたどり着く先はそう変わらないのではないか。

 ハッピーエンドであるというのなら。


 きっとウェズン少年の周囲にも、出会った仲間たちがいるに違いないのだから。


(まぁ、周囲にいる面子が同じかって言われると違う気しかしないんだけどさ)


 うっかり「はは」と乾いた笑いが零れるが、まぁそれも仕方のない事だろう。


 本来ならば、もうじき卒業を迎えるはずで。


 だがしかし、ウェズンの今後は既にある程度決まっている。

 原作ではきっと卒業して、そこでエンディングだったのかもしれない。

 だがしかしここにいるウェズンは卒業した後、正式に研究所勤めとなるのだ。

 やる事は今の延長で、然程変わらないけれど。


 それに伴って学生寮からも出なければならないが、教師たちが生活している職員寮の部屋が与えられるらしく、ウェズンだけではなく同じように研究所所属予定の者たちも、これから自室の大掃除を始めないといけない。


 部屋の荷物は基本的にリングに収納すればいいだけなのだが、人によってはリングに既に収納限界まで荷物を入れてしまった結果、家具が入らない、なんて事にもなっているらしい。


 そのせいで一部の面々はリングの中の道具整理から始めないといけないようだ。


 だがしかし、寮の部屋でそれをやろうにも、下手をすると室内が物で溢れて身動きがとれなくなる……なんて事にもなりかねないし、ゴミを捨てるにしてもだ。

 一応学園にもゴミ捨て場は存在する。空間拡張魔法がかけられているので、ウェズンが前世で見ていたようなゴミ捨て場と比べれば全然広いのだけれど、だがしかし学園と学院が今現在一つの島に存在している状態で。


 大勢の生徒が一度に大量のゴミを持ち込めば、いくら空間を拡張しているといっても限度を超えてしまいかねない。


 だからこそ、生徒が一度に捨てるゴミの量はある程度決められている。

 そうしないと馬鹿みたいな量が捨てられて、あっという間にあふれ出すからだ。

 リングに色々収納できるからといって、面白半分で別に必要でもないそこらで拾った石ころだとかをリングに突っ込んだりする奴は毎年悲しい事に一定数存在する。

 今年は新入生がいないから新入生ではそういう事を仕出かす奴がでなかったとはいえ、他の学年で似たような事をするやつはいるのだ。


 ウェズンも一応無駄なゴミになりそうな物はリングに入れたおぼえはないけれど、だがしかし使うだろうと思って確保したものの、案外使う機会がなかった、という物は存在している。


 ちょっと前までお試し的な感じで皆で新しい神の楔を設置して、その後は今後に思いを馳せていたけれど。


「やるか……」

「やるしかないよね」


「ま、いずれやらなきゃいけないっていうのなら、やるしかないだろう」

「さっさと済ませるか……」


 流石にいつまでも何をするでもなく同じ場所に固まっているわけにもいかない。


 ウェズンはイアやその他の面々と顔を合わせて、覚悟を決めたように頷いた。

 同じようにこれから戦場に向かうかのような顔つきで頷いた一部の仲間たちは、同じようにリングの中にあれこれアイテムを溜め込んだ者たちである。

 学外授業などで出向いた先の街などで買った小物だとか、服だとかならまだ可愛いものだ。

 だがしかし、後で捨てようと思っていたけど捨てに行くのも面倒だから、で後回しにしようと思ってリングに一時収納したまますっかり忘れていたゴミなどもある者たちは、これからそういったあれこれの処分も始めないといけないのである。


 学生寮から職員寮へ移動する際に、部屋の管理を任せていたゴーレムも連れていっていい、と言われているものの、だからといってリングに入りきらない物をゴーレムに運ばせるわけにもいかない。

 ウェズンの部屋にいるナビはまだしも、もっと小さなタイプを選択した者などがそれをやらかせば、最悪荷物に押しつぶされるゴーレムの図が完成する。見る者が見たら虐待かな? とか言い出しそうな光景になりかねない。


 皆、わかっているのだ。


 いい加減、目を逸らし続けてはいられないと。


 だからこそ、それぞれが張り付けたような笑みを浮かべて――


 各々自室へと戻っていったのである……

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