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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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ある意味深夜の土木工事



 神の楔を新たに作るといっても、世界各地にある全てを取り換えるだけの量を一度に作れるわけでもない。

 故に、最初は少量持たされて、既に神の楔に宿る番人を倒した楔を引っこ抜いて交換する、という事となった。


 そもそも今まで攻撃とかぶつけてもビクともしなかったくせに、引っこ抜けるのかという疑問が生じたが、そこはスピカが神様パワーでどうにかする道具を用意してくれた。


 そんなものを用意するよりもっと優先するべきものがあるのではなかろうか。

 そう思っても、まぁ、コスト的なやつとか、リソースがこれで精一杯とかそういうところなんだろうな……とウェズンは内心で勝手に納得する。


 浄化に関しては今までウェズンがヴァンの瘴気耐性の低さをどうにかするべくあれこれとやっていた事と、教授が長年研究していた事を合わせ、それを更にスピカが強化し……というような感じであるものの、ウェズンは既にそこには関わっていない。

 精々ちょっとここに浄化魔法使ってみてもらえる? とか言われて試しに魔法を発動したりするくらいだ。


 すっかりウェズンが理解できる部分を超えてしまったけれど、ウェズンとしても自分がプロだとかそういう自覚はないので、そこら辺の思考は雑にぶん投げた。

 スピカが関わっているのなら、まさかこの新たな神の楔を用いて更なる問題が……などという事もないだろう。


 時間がかかる事だけは確かだが、既に世界の脅威はなくなったと考えれば、少し時間がかかるくらい大した問題でもない。


 あえて言うのであれば。


「……極秘で交換、ですか」

「あぁ」


 事もなげに言われた内容。

 それにウェズンは思わず眉間に皺を寄せていた。


 新たな神の楔は既にいくつか作られている。

 だがしかし、まだそれらをレスカが作った神の楔と交換できてはいない。

 いくつかできた物を渡されて、じゃあ早速交換してくるか……となった矢先にスピカに告げられたのだ。


 人目につかないよう交換してきてほしい、と。


 神の楔の見た目がガラリと変わるわけではない。精々色がちょっと異なるくらいだ。

 だからまぁ、何も知らない人からするとある日突然神の楔の色が変わった、となるわけだが、下手な混乱を招かないためには事前に連絡した方が良いのでは……と思ったりもしたのだが。

 スピカはそういった告知をしないでほしいと言ったのだ。


「まず、そう簡単に神の楔が引っこ抜けるわけではない」

「まぁ世界に穿たれた物なわけですし、そんなポンポン引っこ抜けてたならそもそも大昔にやってましたね」


 簡単に引っこ抜ける代物であったなら、そもそも世界は分断される事もなく、結界で閉じ込められた各地、なんてものは即解決していた。


「それを今引っこ抜く、なんて事になれば何故もっと早くに引っこ抜かなかったのか、となるだろう」

「あぁ、まぁ、確かに」


 簡単に引っこ抜けるものではないが、それでも引っこ抜けるようになったのであれば、何故もっと早くに……という文句が出るのも頷けた。できるんならもっと早くにやればいいのに、という言葉が出るのは簡単に想像できる。それが、今になってようやくできるようになった、という事であっても。第三者は事情も何も知らないのだから、そういった言葉を軽率に口に出す事くらいはするだろう。


「それに、まだ数が揃っていないので、下手に話が広まると先にこっちを交換しろ、とか言い出す者がいてもおかしくはない」

「あー、まぁ。そうですね」


 レスカの作った神の楔のあれこれを詳しく知っているかはさておき、新しく交換する事を下手に告知した場合、古い物に何らかの不具合、もしくは不都合が生じているというのは容易に考え付く。もしかしたら、古い神の楔が地域一帯に何らかの悪い影響を及ぼすのではないか、とか考える者も出るのは当然と言えた。

 そうなれば、自分たちが暮らしている場所の安全を早急に確保したい者たちが、ここを優先しろと言い出す事も簡単に思い浮かぶ。


「それだけではない。既にある神の楔を引き抜くのだって、簡単にできる事ではないがしかしそれができる、と広まってしまえば。新しい神の楔もまた簡単に引き抜くことができる、と思う者もでるかもしれない」

「否定はできませんね」


 引っこ抜いて、自分にとって便利に使おう、なんて考える者も出るかもしれない。


 ふとそこでウェズンはそういや前世で、バス停をちょっとずつ移動させて少しでも自分の家の近くにやろうとしていた、なんてニュースがあったな……と唐突に思い出した。バス停ですらそういう話があったのであれば、神の楔ともなれば尚の事だろう。


 簡単に引っこ抜ける代物ではないが、それでも引っこ抜いて自分専用として使う、なんて考えを持つ者が現れるかもしれない。

 個人で使う事ができるようになれば、悪用もし放題になるだろうし、そうなれば治安崩壊は免れない。


 絶対に悪用する者が出ない、というのならまだしも、そう楽観視できるものでもないのでスピカがあくまでも極秘で、と言うのは納得できる。


「それにな、楔は確かに世界各地にそれこそ大量に穿たれたし、挙句テラプロメで後から打ち込んだものもある。だがだからと言ってこれ以上軽率に増やしていいものでもない」

「世界に打ち込んでるわけだから、そりゃあ大量にぷすぷす刺してたらそこから世界が崩壊……なんて事にもなりかねないかなぁ、とは思うんだけど、そういう認識で合ってる?」

「あぁ。だからこそこれ以上増やしてはいけない。既に打ち込まれたところを抜いたとしても、そこに傷痕は残るから、であれば新たな神の楔と交換しておくのは仕方ないにしても、な」


 引っこ抜いた部分に新たな神の楔を交換しなかったとしても、そこまで大きな穴が開くわけではない。けれど地中の奥深くに溜まりに溜まった瘴気があるのなら、その深い穴を通じて地表に漏れ出てこないとも限らないし、であれば蓋をしておくのは理屈としてはわかる。


「あぁ、今までの神の楔と違って今度の楔は地中の瘴気の浄化効果も含まれてるから、確かにそれは大っぴらに公表するのは問題が出そうですね」

「そうなんだ。だからこそ、極秘で実行してもらいたい」


 言い分としてはわかる。


 地中の奥深くにまで瘴気が溜まっているなんて知らない人の方が多いだろうし、それが判明したとして何がどうなるというわけでもないが、それでも多少の混乱は起きるかもしれない。

 それでなくとも、次の楔が浄化効果を持つと知れば、じゃあ魔道具を雑に使用したとして問題ない、なんて思われるのも困るというところか。


 年代物の魔道具などを今までは騙し騙し使っていたところもあるが、それは瘴気が大量に発生しないように、というのもあった。使わないという選択が一番いいのは言うまでもない事なのだが、それでもどうしたって必要に駆られて使用しないといけない状況だってあるのだ。

 だが、浄化されると知れば人々はじゃあ瘴気が使用中に大量にあふれ出たとしても問題はないか、なんて考えて気軽に酷使し始めるかもしれない。

 一人がそういう風に考えてやらかすだけであればまだしも、そういった存在は決して一人で済むはずもない。各地でそういった者たちが大勢出てしまえば、地中の瘴気を浄化どころか地上の瘴気も浄化が追い付かず、結果として最悪の事態が引き起こされるかもしれない。


 そうなれば折角レスカから力を取り戻してスピカがこれから世界をどうにか滅亡させないようにしていたとしても、焼け石に水、なんて事にもなるかもしれない。


 いっそ世界中にレスカとスピカの事を公表する、という手段もないわけではないが、しかしそれはリスクが高かった。

 スピカが世界を滅ぼすつもりがない、とわかれば確かに安心できる。

 だがしかし、ウェズンのように身近にスピカがいるわけでもないスピカの事をよく知らない存在からすれば、他の神に一時的に力を乗っ取られるような事になっていた神が果たして信用できるか、という話にもなる。

 頼りない神、と思われてしまえば、神など不要なのではないか――そう考える者も出るだろう。


 世界を滅ぼす事にした、と告げた神はそれだけの力があると知らしめていたからこそ恐れられている。世界を滅亡させないために人々は色々と手を尽くしたし、いざとなったら神を倒そうともしていた。


 だがそれは、今までのように滅亡させるつもりであるのなら、という話だ。

 今はもう滅亡させない方向性に舵をきったというのなら、その状態でわざわざ神を倒そうとする方が余計な混乱を生むとなって反対する者も現れるだろう。


 であれば、頼りない神として真実を明かすよりはこのままの方がいいのかもしれない。


 ウェズンでもどうするのが正解であるかはわからない。だからこそ、スピカの決断にあれこれ口を挟むつもりはなかった。



 ただ、まぁ、その結果として隠密行動をしないといけない、という事に関してはちょっと大変な事になりそうだなとは思っているが。


 真実を知らない者たちの多くは、神前試合の後の願いによって新たな契約を結び、そうして世界の滅亡への道を一時的に閉ざした、と思っている。

 真実を公表しないのならば、それでいいのだろう。


「結果としてスニーキングミッションが発生した挙句それをやるのが僕たちっていうのがどうにも納得いかない部分はあるけれども。

 じゃぁ、まぁ、最初の神の楔交換に行くとしようか」

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