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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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選べない就職先



 レジーナの事はスウィーノに任せる事にした。

 レジーナも一応この世界の常識とかそういったものは理解している。

 いるけれど、知っているから問題ない、というわけではない。


 知識として知っていても、ではいざ周囲の輪の中に入って問題がないか、となると話は別なのだから。


 そうはいっても、レスカから眷属としてそれなりの力を与えられていたレジーナは、しかしとても弱いので。

 見張り――という言い方もどうかとは思う――がいれば問題は今のところなさそうだった。


 レジーナが弱いのは単純に実戦経験がないという事に尽きる。

 もし封印される事なくもっとずっと昔からこちらと敵対して場数を踏んで戦い続けていたのであれば、こちらが勝てないくらい強くなっていた可能性もあるのだ。

 敵対する必要はもうないのでその部分を心配する必要はなくなったが、だからといって無条件解放ともいかない。結果としてスウィーノに押し付けたと言ってしまえばそれまでだが、しかし二人は案外上手くやっているようだった。


 今現在はお互いに恋人として……というよりは、友人としての距離感だし距離の縮め方もとてもゆっくりなので見ている分には微笑ましい。出会い頭に口説いたというかプロポーズかましたスウィーノは、だがしかし今の今まで彼女の一人もできなかった男だ。

 レジーナが頷いてくれたといっても、そこで暴走して一足飛びに……とはならなかった。


 手を繋ぐだけでも照れてそわそわしているのを見て、シュヴェルが「あいつ童貞?」と聞いてきた直後にアンネがシュヴェルの鳩尾に正拳突きかまして黙らせてはいたけれど、シュヴェルが聞かなくとも、恐らくスウィーノの様子を見れば多分学園と学院の生徒の九割は同じように思ったかもしれない。

 それくらい、初々しいものだった。


 レジーナも人間社会での生活に慣れていないも同然なので、むしろそれくらいでちょうどいいのかもしれない。


 とりあえず当面は二人の様子は少し離れたところから微笑ましく見守る事となった。



「――研究所を設立しようと思う」


 これで一段落……と思った矢先、寮の自室でくつろいでいたウェズンの元にやって来たメルトがそんな風に宣言した。


「研究所……?

 それをどうしてわざわざここで……?」


 普通、そういう宣言はもっと別の場所でするものではないだろうか。

 例えば職員室とか。

 講堂に生徒たちを集めて知らせるとか。

 ウェズンは確かに色々な事件の中心にいたかもしれないが、あくまでも生徒の一人。一生徒である。

 この学園を牛耳っているだとか、裏で黒幕やってるだとか、そんな事は決してないのである。


「どうしても何も、今後の事を考えると学外授業に組み込むわけにもいかない事ができてしまったからな」

「え、なんか危険な事ですかそれ」

「半々といったところだな。それに関してはレジーナの協力もあるからまぁ、どうにか」


「それに僕が巻き込まれるのは確定してるって事ですか」

「それは勿論。主とのやりとりを考えて、適任者がお前以外にいるか?」


 スピカと関わる、となると眷属であるメルトやクロナが適任なのでは……? と思うが、しかし二人は他にやる事があるとか、既に他の案件を抱えているとか、そういう風に言われてしまえば他にスピカと関わる事がスムーズにできる者、となるとウェズンが適任であるという言い分は確かに……とウェズンも思わず納得してしまった。


 もうスピカはかつてのように半透明だったり姿を他の人が認識できていなかったり、なんて事はないので、普通に関わろうと思えば誰とでも会って話ができる状態なのだが、しかし今から新たな関係性を築く事を考えるとウェズンが一番手っ取り早い。


「それでその研究所では何を?」


「神の楔の回収、並びに新たな神の楔の設置だ」

「……は?」


 メルトの話としてはこうだ。


 今ある神の楔はレスカが世界に打ち込んだもの。

 それらの役割は世界を分断するものだった。

 瘴気を留める、というのもあったがどちらかといえば、封じる意味合いの方が強い。


 結界の解除に関しては最初、神前試合の後に一つずつやられていたが、しかし途中で八百長試合のような事をした結果、二重の結界が張られる形となった。

 学園に入って最初の頃にそういや授業でやったっけなぁ……とウェズンは記憶を思い返す。


 ともあれ、レスカがいなくなった今、また理不尽に結界で世界を断絶するような事にはならない。だからこそ、最終的に神の楔はただの転移装置となる……はずだった。

 ところが神の楔には番人が宿っていたり、それどころか番人を生成できる機能が発覚してしまった。

 番人生成は今のところレジーナしかできないようなので、誰かが面白半分で作ってみる、なんて事にはならないが、番人を作り出す際瘴気が用いられるという点で、放置はできない。

 そうでなくとも旧市街地に存在していた神の楔は、何が原因かはわからないがとにかく折れたのだ。


 単純に経年劣化であれば世界各地にある神の楔も同じように危ないし、経年劣化じゃなかったにしても原因を解明しないといけない。このまま放置という選択は絶対に選んではいけないとウェズンでもわかっている。


 だが、神の楔を全て撤去したとして。

 そうなった場合、今まで神の楔で世界各地を移動していたというのにそれがなくなってしまえばどうなるか。


 瘴気の問題もあるにはあるが、世界各地を自由に行き来できるというのはつまり、どこで過ごしていても不便が無いという事に尽きる。


 特に発展していない村や集落でも、神の楔を使って都会へ行けば必要な物は手に入るし、移動が転移で一瞬なら世界の端から端であっても何も問題はないのだ。


 だが、神の楔がなくなれば。


 転移が使えなくなった場合、不便な土地で生活していた人たちがまず死ぬ。

 死ぬは言い過ぎかもしれないが、ともあれ不便な生活、中々手に入らなくなる物資。最悪食料調達もままならない、なんて事もありえるのだ。徒歩で買い出しに出かけるにしても、数か月もかかる距離があったならいっそ故郷を捨てて都会を目指して旅をするしかなくなるかもしれない。


 一応この世界に国は存在しているが、現時点では神の楔による結界のせいで閉ざされていた地もあったため、国がウェズンが思うような機能の仕方をしているか、と言われれば答えは否。

 領土を求めて争う事がすぐに起きるとは限らないが、しかし住みよい土地を求めて移住者が大量発生し、あまつさえ先住民を追い出そうとする可能性は否定できない。


 国同士の争いが起きなくとも、小競り合いが多発してそれがいずれ国を巻き込む争いに発展しない、とは言えないのだ。

 そう考えると、転移できる神の楔を無くすのは問題がある。ありすぎてしまう。


 だが、レスカが作った神の楔をこのまま使い続けるわけにもいかない。

 番人生成どころか、瘴気を吸い上げて地上に噴出なんて事もいずれ発生しないとは言い切れないし。


 だからこそ、スピカが新たに神の楔を作り、レスカの作り出した神の楔と交換してしまおう、というのがメルトの話である。


「レスカの作った神の楔はどうやら地中に瘴気を送り込む事にもなっていたらしいが、いくら自浄作用があるといっても限度はある。であれば、そう遠くない未来にもしかしたら世界が内側から崩壊する可能性もあるわけだ」

「普通に考えたらとんでもなくヤバイ話ですね」

「あぁ、だがあまりにも壮大な話すぎて、大抵の者たちは信じやしないだろう」

「あぁ……わかる気がします」


 前世でだって環境汚染だなんだと色々問題になっていたが、しかし大抵の人間はそこまで危機感を抱いていなかった。

 言葉では環境を大切にとか色々言っていても、実際にそれを意識して行動する者が果たしてどれほどいた事か。漠然と頭で理解していても、それが使命だとばかりに行動する者はいなかったのではないだろうか。


 ウェズンだって一応ゴミは分別して捨ててはいたけれど、じゃあだからといって休日に町内会のゴミ拾いに参加したわけでもないのに率先して近所のゴミを拾い集めるかと言われれば、そこまでやる気はなかった。


 自分の身の回りなら多少気を遣う事はあっても、その先まではあまり考えたり行動に移そうと思う事もなかった。


 自分の手の届く範囲で起きうる話であれば耳を傾ける者もいるだろうけれど、あまりに壮大な話になった場合それを真実だと思わず荒唐無稽なホラ話だと思う者も出るだろう。

 であれば、神の楔が実は地中に瘴気を留めているだとか、最悪の場合地中から瘴気を吸い出して地上を汚染するなんて話せば、信じる者は恐らくいないだろうし、それどころかそれを更に別の方向に話を捻じ曲げて本当に荒唐無稽な話にされて噂として面白おかしく広められる可能性もある。

 それ以前に下手をすれば、そんな話をしたこちら側が悪党扱いになりかねない。


 だったらわざわざそんな話を広めずに、行動に移った方が確実そうではある。


「次の神の楔は浄化機能を備えたものになる」

「あぁ、それでじっくり内側から浄化していくってわけですね」

「そうだ。ただ、そう簡単に大量生産はできないので、相当に時間がかかる事が予想される」

「まぁ、そもそも世界に一体どれだけ神の楔があるんだって話ですしね」

「下手に生徒に授業の一環として任せるにしても、それだと色々と手間がかかってしまってな」


「……それで、研究所」

「そういう事だ。理解が早くて助かる」

「はは」


 え、それって生徒扱いのまま? それとも卒業後の就職先?

 乾いた笑いの後思わず問いかけたウェズンに、メルトは――


「どちらでも構わんぞ」


 とても構う気しかしない事をさらっと言ってのけた。


 以前までの神前試合があった頃なら生徒も十年くらい在籍し続けたりしていたとはいえ、流石にその計画が十年程度で終わるとは考えにくい。

 であれば――


「その場合、就職でお願いします」


 あまり長く生徒として在籍し続けても、いずれ新入生から留年しまくってる先輩扱いされかねない。

 流石にそれは困るので、だったら教師とは別方向で学園で働いてる人扱いの方がマシだ。


「給与その他に関してはそのうち話し合う事になると思う」

「……もしかして最初からそのつもりでしたか?」

「勿論だとも」


 あっ、今揶揄われてたのか……と理解した時には。


 メルトは次の話題に移っていた。

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