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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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モノは言いよう



「こちらが適任者になります」


 どさっと音を立てて落っことされた彼は、何がなんだかわかっていないという表情のまま簀巻きとなって転がされていた。

 適任者というよりは完全に生贄である。猿轡までは嚙まされていないので、そんな彼は、


「え、何、どゆこと……?」


 と完全に困惑している。

 むしろ困惑しない方がおかしいだろう。


 何故なら突然寮の自室にウェズンが踏み込んできて、問答無用で捕獲されたのだから。

 そうして有無を言わさず荷物のように抱えられ連れてこられたのだ。


 何か、自分は悪い事をしただろうか……?


 そんな風に思っても、心当たりがない。

 だがしかし、神前試合で魔王に選ばれた相手である以上下手に抵抗しても痛い目を見るだけだとわかっていたからこそ、色々と言いたい事はあったが大人しく連れてこられたのである。


「というわけでこちら、スウィーノくんです」


「え、何その雑魚」

 それに対して真っ先に声を上げたのが、ワイアットである。

 彼の目から見て、スウィーノはどうしたって雑魚でしかない。これが適任? 本気で言ってる? そう言わんばかりの表情だ。

 もしまだ学園と学院が対抗した状況であったのなら。

 授業中に殺し合うような事になったとして、ワイアットがスウィーノと遭遇したのであれば躊躇う事なく即座に殺していたに違いない。そしてスウィーノはあっさりと死んだだろう。


 秘められし力が……とかそういう事もなさそうだし、どこからどう見ても雑魚すぎて、これが適任者と言われても……という気持ちだったのである。


 レジーナのお目付け役として共に過ごしてくれる相手、という意味で別に戦闘能力が最重要というわけではないのだが、ワイアットの基準ではそうだった。

 確かにレジーナそのものは脅威ではないけれど、だからといって……というのを隠しもしないせいでワイアットがスウィーノを見る目はとことんまで冷ややかである。


 学院で一番強くて厄介な相手として名高いワイアットに見下ろされているという事実にスウィーノの身体が硬直した。その様子はまさしく蛇に睨まれた蛙である。


「さてスウィーノくん」

「お、おう」


 ウェズンがスウィーノの近くにしゃがみ込んで、にこりと笑う。


「きみには世界を救う英雄になってもらう」

「……え?」

「なに、大した事じゃないんだ」

「いや世界を救うって結構な事だけど!?」

「大した事じゃないって言ってるだろ。

 ただ、学園どころか学院の女生徒からも総スカン食らって他の町とかの女性にも振られ続けた悲しきモンスターになりかけてるきみに希望を与えてあげようって言ってるんだ」


「うわボロクソ言うじゃん」


 ワイアットの呟きがスウィーノに聞こえたかは定かではない。


 定かではない、が、しかし実際ウェズンの言葉に嘘はなかった。


 女性を侍らせてハーレム作りたいとばかりだったが、その実たった一人を好きになってその相手に嫌われたら心が死ぬとかいうメンタルの弱さを発揮しつつも結局そのせいで多くの女性から嫌われる事となったスウィーノは、学園や学院では既にあいつ女に節操なさすぎて付き合わんほうがいいよ、と女生徒たちの間でとても有名である。

 誰でもいいなら自分じゃなくてもいいでしょう。

 そんな理由で振られ続けたのだ。


 これがまだ、どうしてもきみじゃなきゃ駄目なんだ! とか言われればもしかしたらちょっとくらい揺らいだ人も出たかもしれないが、建前だろうとそんな事を言う以前に既にスウィーノの事は広まりまくって、今更そんな事を言ったところで誰からも信用されないというところまできてしまった。


 他の町や村といった、学院も学園も関係のないところで新たな出会いを求めようにも、今までのそういった軽薄さがにじみ出ていたのか、上っ面だけだと思われているのか、とにもかくにも女性に相手にされない……という話も既に学園では広まり切っている。


 もう誰からも愛されないんだ……と嘆き落ち込む姿は哀れではあるけれど、そうなるに至ったのは過去の自分の行いのせいでもあるので慰めようにも……といった感じで周囲もその部分にはあえて触れなかった。


 友人として接する分には悪い奴ではないのだ。

 ただ、恋愛方面の話題になると途端に駄目な奴になるだけで。


 噂が広まりすぎて、スウィーノがまだ行った事のなさそうな土地ですらほんのりとこいつの噂が漂ってるとか、噂って広まるの凄いなー、とウェズンも驚いたくらいである。


 もう一生独りで生きてくしかないのかな……と嘆いていた様子はちょっとだけ可哀そうな気もしてきたが、こればかりは他人がどうにかできるものでもない。

 スウィーノの気の持ちようとか、異性に対する関わり方とか、そういったものをどうにかしていくしかないはずなので。


 だが結局のところいくら気の持ちようと言ったところで、スウィーノの気持ちに変化が生じて前向きになれたところで。

 彼と寄り添う相手がいない事にはどうにもならないのだ。

 彼の問題ではあるけれど解決するためには彼だけではどうしようもないという状況。


 ところがそこに、お誂え向きの相手ができてしまった。

 そう、レジーナである。


 本人の意思を完全無視しているものの、しかしウェズンから見ればお似合いだろうなと思える部分があるせいで、彼は選ばれてしまったのである。


「ちょっと詳しくは言えない事情持ちの女性がいる」


 ボロクソ言われた事は流石のスウィーノも理解できていたので、急にこんな所に連れてくるのみならずディスってきたウェズンに対して、相手がいる奴はいいよなあ! と負け惜しみの一つでも言おうとした矢先、それすら封じるタイミングで言葉を放ったウェズンに。


 スウィーノは言葉を発しようとした口を閉じるでもなくぽかんと開けたまま固まった。


「彼女自身に問題があるわけではないんだが、まぁ、家庭環境的な部分で少々あってな。

 そのせいで、立場に難がある。

 野放しにもできない現状、しかし放置しない選択肢を選ぶとなれば、最悪処分という結論に至る可能性があってね……

 流石にそれは可哀そうだ、が。

 だからといって放置はできない。

 彼女自身の望みは至って平凡で、ありきたりな願いだ。

 好きな人と一緒に幸せになりたい。ささやかなものだろう?

 その好きな人というのも、まだいないようでね。

 まぁ、今までが今までだったからそういうの作る余裕もなかったみたいで。


 ところで各地にすっかり女癖が悪くて女だったら誰でもいいと思われて彼女の一人もできそうにないスウィーノくんに、彼女ができるチャンスがここにあるわけなんだけど」


 ウェズンとしては別に恐怖を抱かせようと思ったりしたわけではない。

 相手の事情を深く聞かなくても、いつか相手が話してくれるまで待てそうでなおかつそんな状況でもレジーナの事を好意的に見てくれそうな相手、という点でスウィーノはまさしく打ってつけである事から、彼にとっても悪い話ではない、というのを前面に出しただけのつもりだった。


 だがしかし、周囲は後に語る。


 この時の彼はまさしく魔王みたいだった……と。


 笑顔の圧が半端なかった、とも言われた。



 だがしかしそう思ったのは、周囲で見ていた第三者だけで肝心のスウィーノはそうは思わなかったらしい。


「……え、彼女?

 や、でもそんな事言ってもさ」

「ちなみに彼女はきみの噂は知らないので、初見第一印象でうっすら悪く思われるって事もないんじゃないかな。

 きみさ、前に言ってたよね?

 誰か一人を好きになってその相手に嫌われたらイヤだとかどうとか。

 安心していい。彼女も自分を好きになってくれる相手がいないと何故か思い込んでるから、向けられた好意を無駄にするような事はしないさ」


 レジーナが自分を好きになってくれる相手がいないと思っているのは紛れもなくレスカが原因なのだが、そこの部分の事情を説明しようがない。

 仮にスウィーノが直接レジーナに聞くような事があったとしても、レジーナもレスカの事を何も知らないと思っている相手には軽率に話せないだろうと思うので、まぁ勝手に好かれないと思い込んでる事にされてもレジーナが後になって怒るような事にもならないか……と勝手に判断する。


「いやまて、あんまこういう事言いたかないけど、そうなってる原因が見た目にあるとか、性格にあるとか、どっちだ!?」

「見た目は悪くないんじゃないかな? 少なくとも僕の見立てでスウィーノの好みのタイプからかけ離れてはいないと思うけど」

「マジで!? あ、いや……じゃあなんだよ、性格に難ありとかそういう」

「いや」

「いや!?」

「彼女本人は平和主義だしそこのワイアットみたいな物騒思考してないし、至って平凡な部類に入ると思うんだけど、彼女のバックボーンというか、家系的な面での問題があるってだけ。

 ただ、その厄介な部分は既に問題解決してるから、本当だったらあとはもう自由にしてもいいような気がするんだけど、それでも後になってから問題発生する可能性がまだ残ってるから野放しにできないって感じで」


「つまり、要するに……見張り役みたいなものか!? それは流石にどうなんだよ」

「見張りっていうか、本人が平凡で幸せな結婚したいって言ってたから。

 どうせならお互い敵対関係になるつもりはありませんよ、の意を込めてこっちでお似合いの相手がいた事だし、案外上手くやっていけそうだと思うからくっつけたら、相手もこっちとわざわざコトを構えなくて済むから万事解決するってだけの話なんだ」


 物は言いよう。


 そんな言葉が周囲の脳裏をよぎったが、誰も突っ込まなかった。


 ここで突っ込んでスウィーノに「やっぱ無理」と言われても困るので。

 いや、そもそもそういうのを押し付けるべきではないとわかってはいる。

 わかってはいるけれど、しかしレジーナをそのまま放置にはできないし、かといって監視役を誰かつけるにしてもだ。

 監視役、というのをレジーナが察した場合、お互いに関係がぎくしゃくするのはわかりきっている。こちらが任務を遂行するだけであっても、レジーナからすれば監視されている、となれば内心で快く思うはずもないし、その状況から抜け出したいと彼女なりに足掻いた結果最悪の事態が……なんて事にもなりかねない。


 スウィーノはレジーナの事情を知らない。

 それはこの場の誰もがわかっている。


 それでいて、彼の性質から一度好意を向けた相手、向けられた相手に不誠実な事はしないだろうと思えるもので。



 あっ、言われてみれば本当に適任かも……!?


 ウェズンがスウィーノを言いくるめる光景を眺めていくうちに、周囲もそう思うようになっていったのである。


 後になって冷静に思い返すと、それはまさしく詐欺師のようであった、とは思うのだけれど。



 この一件で誰かがウェズンを糾弾する事にはならなかったのである。

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― 新着の感想 ―
下級生まで周知された状態から大分悪化したなー…
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