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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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そこに自由はあるのかい?



 一足先に戻ったワイアットたちが状況を説明していたのもあって、ウェズンたちが戻った時点で話はとてもスムーズだった。


 スピカが直接人前に出る事はないので、代理で現在いるのはメルトとクロナである。

 ある程度の人数が集められたそこは、言ってしまえば会議室として現在機能していた。


「報告は聞いた。レジーナ本人の危険性は低いがしかし神の楔より番人を生み出す事ができる以上、彼女の危険度はそのせいで上位ランクと言える程に上がるわけで」

「いくら本人が無害であろうとも、追い詰められて危険を感じた時、もしくは何らかの心変わりをして世界に牙をむく事になった場合。

 それらが絶対にない、と断言はできない以上、そのままにしておくわけにはいきません」


 メルトとクロナが厳しい表情をして言う。


 番人を作り出さなければ本人は大して強くもないし、むしろ平穏を望んでいるので放置で問題ないのだが、番人を生み出す事ができるせいでレジーナの望みが叶う可能性は現状とても低かった。

 今は己の現状を嘆き悲しみ引きこもってこれ以上傷つかないようにしているけれど、いつ彼女が吹っ切ってじゃあいっそ世界諸共みんなで死ねばいっかー! なんて事になろうものなら、その時は即座に彼女を仕留めなければならない。


 そういう可能性が無いと言いきれない以上、彼女を放置するわけにはいかない。

 それは誰でも理解できた。


 ちなみにレジーナの事をあまりよく知らない相手もこの中に集められていたが、とりあえずざっくりと事情を説明されたらしく、周囲は何となく理解したような顔をしていたが恐らく半分以上わかってないだろう。

 ウェズンが見る限りではそんな印象だった。


「ま、次から次に番人生成されて? あまつさえそれが失敗作になった時点で瘴気まき散らして、ってなれば問題でしかねぇわな」

「そうだね。瘴気汚染度の低い場所であってもそれをやられただけであっという間に高濃度汚染地域ができあがってしまう。そうなれば僕みたいな汚染耐性の低い人間からすれば、あっという間に死の大地ができあがるわけで。

 地獄の誕生じゃないか」

「でも本人は無害なんだよね? じゃあ条件付きでこう……なんとかしてあげらんないかな?」


 レイとヴァンはレジーナが脅威とは考えていないようだが、しかし瘴気汚染を世界各地に広める事が可能な手段を持っていると考えれば排除の方向も已む無し、と思ったのだろう。

 けれどもウィルはそう簡単に排除していいものなのかなぁ……とやや違う意見を述べる。


 相手がこれまた世界を滅ぼして何もかもを根絶やしにしてやるとかいう思想の持ち主であったなら、ウィルとてそんな風には言わなかっただろう。


 けれどもイアからレジーナについて補足説明をされたらしきウィルは、流石にそんなありきたりな願いしか持ってない相手を殺すようなのは……と同情心が芽生えたらしい。


 隣にいたファラムも「まぁ、無条件で、とはいきませんが。条件付きでこちらの監視下におけるのであれば……」なんて言っている。


「彼女の願いがどこにでもあるような、誰でもふわっと想像するささやかなものであるのなら、それを与える事でおとなしくさせる事は可能だと思う。

 ただ……」


 人は変わる生き物である。


 最初は仲良くできていても、ふとした瞬間、意見の相違から仲違いをする事もある。仲直りができる場合もあれば、永遠に道が交わる事もないまま、という事だってある。

 それは別にレジーナに限った話ではない。誰にだってあり得る話だ。


 ただ、レジーナの場合はそこが問題になりかねないだけで。


 最初の内はよくても、どこかで致命的なまでに関係が決裂した場合。

 その時になって世界に牙をむかれても困るし、そうならないためにとこちらが常に気を使い続けるのもそれはそれで違うだろう。

 そんな取り繕った関係をレジーナが望んでいるとも限らない。


 だが、何の事情も知らない相手とレジーナとが結ばれた場合、もし相手が途中で心変わりをしたとなれば。

 知らないからこそ全力でやらかす可能性は思い切り存在しているのである。

 それが世界を滅ぼす事になるとも知らないで……なんて展開は流石にごめんだ。


 ぴく、とメルトとクロナが僅かに身じろぐ。

 同時に同じ方向に視線を向けたので、恐らくそこに何かがある、と思ったもののしかしそこには何もない。


『ただの念話だな』


 ウェズンの頭の中にオルドの声がする。

(あぁ、つまり今スピカから何か言われたって事?)

『恐らくは』


 オルドと何食わぬ顔をして脳内会話をしているが、ウェズンも正直気まずさを覚えていた。

 だって、別れの言葉を告げて、そうして浄化魔法を発動させるつもりだったのだ。

 それがリィトによってキャンセルされたとはいえ、あの後オルドは無言のままだったからこっちも何事もなかったかのようにしようと思っていたのに、ここに集められる直前で脳内で、

『まだしばらくは共にある事になるな。もしまた機会があれば次もきちんと別れの挨拶は頼む』

 などと言われてしまったのだ。


 なんとなく黒歴史を穿り返された気分だった。

 突然発狂しなかっただけウェズンも頑張った方である。

 そうじゃなかったら「うわああああああ!」とか叫んでベッドにダイヴして枕をぼこすか叩きながら足をバタバタさせていたに違いないのだから。


 今生の別れとばかりだったアレが不発に終わったのだと、終わって遅れてから気付いた時の気まずさといったら……!


 これがあの場面でオルドが犠牲になった後で、何らかの奇跡が起きてオルドが新たな肉体を得てウェズンの前に現れる……とかであったなら、まだ、創作物あるあるな展開のご都合主義な奇跡だろうとなんだろうとウェズンだって受け入れていたはずなのに。


 そうは言っても、そんなウェズンの葛藤含むその他の感情を周囲が知るはずもなく。


「あー……レジーナの存在は確かに危険ではあるのだが、だがしかし向こうはこちら側に属したい、と言っているわけで。

 であれば、相手を監視下に……こう、あからさまに置くのではなく、相手の願いを叶える形で伴侶として……相手を作ってこっち側に引き入れればいいのではないか、と上から通達があった」


 メルトが困惑した様子でそう告げる。


「あと、神の楔に関しても現在存在している物を放置は問題があると判断されたらしく、そちらもどうにかする予定のようです。詳しい話はもう少し先になるかと思いますが」


 クロナもそれに続いた。


 レジーナに関してもそうだが、確かに神の楔をずっとそのままにしておくのも問題がある、と言われれば理解はできる。

 元は世界を分断し閉じ込めるための物であったとしても。

 世界各地を自在に転移できる便利道具の側面があるにしても。


 それだけなら既に世界を分断する必要はどこにもなくなったので、であれば後は便利な転移アイテムとしての役割しかないはずが、しかし実は番人が宿ってるだとか、大地の奥深く、底にたまっている瘴気を吸い上げ番人を生成できるだのという情報が出てしまえば便利アイテムとしてそのままにしておくわけにもいかない。


 レスカがどこまで考えていたのか、既に知りようもないけれど。

 思えば神の楔を世界に穿ったのはレスカだ。

 彼女の悪意が潜んでいる可能性のある物を、いつまでも残しておくわけにもいかない。


 だが、神の楔がなくなれば世界は移動という点で大層不便になるのもわかりきっている。


 恐らくそのあたりはスピカも考えているのだろうけれど、そうであるのなら、神の楔が別の何かに変わるのであれば。


 レジーナを排除する必要性はかなり低くなる。


(まぁ、レジーナ本人はなぁ……ほとんど何もやってなかったもんなぁ……

 ただあっちの陣営にいたってだけで、それで最後の責任だけ背負えと言われても、貧乏くじってレベルじゃないもんな)


 例えるならば入ったばかりの会社の負債を突然何もかも押し付けられたようなもの。

 そりゃあ泣きたくもなるし、他の安定してそうな職場にいきたいと言いたくもなる。

 むしろあれで闇落ちして世界を滅ぼしてやる、とか言わないだけかなりマシな方。


 そうなっていてもおかしくはないのに、それでもレジーナがやった事は、さっさと逃げた同僚と似た気配の相手に言いがかりをつけたくらいだ。

 それをやられた側からするといい迷惑ではあるけれど、レジーナからすればそのくらいの八つ当たりもしたくはなる気持ちはわからないでもない。


「でも伴侶ったって相手誰にするつもりだよ」


 どこか呆れた様子でレイが当たり前のような疑問を口にした。

 伴侶。配偶者。まぁ言い方は色々あれど、要するにレジーナの夫となるべき存在。


 確かにレジーナの泣き言を集約すると、あまりにも平凡な普通の幸せを望んでいたので、まぁ相手の希望に沿うのならそうなる……のだが。


(でもそれこっちで勝手に決めるものじゃないような)


 至極真っ当な感想なのだが、けれども普通の一般人にレジーナを任せるのも問題がある、というのは理解できる。


 レジーナ自身は無害でも、それでもお目付け役という点である程度何かがあった時にどうにかできる相手じゃないといけないわけで。

 というか無害という判定だって、ウェズンたちからみればそう、というだけで、戦う手段を持たない非戦闘員からすればそこそこの脅威になり得る。


「この中で誰が立候補する人~?」


 メルトが小首を傾げながら言うが、当然ながらそんなものに立候補する奴などいるわけがない。

 しら~っとした空気だけが、場を支配していた。

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