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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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ささやかな望みではあるけれど



 逃げ出したレジーナが旧市街地を飛び出して他の大陸にまで行っていたのであればウェズンたちも追いかけるだけで一苦労……であったのだけれど。


 幸いにしてレジーナは旧市街地を出る事はなかった。


 先程レジーナがいたシェルターの中に飛び込むのを見てしまったのである。

 そしてシェルターの中はザインが確認した時に、特に奥に続いているでもなければ隠し通路もなかったとの事なので、レジーナは自ら逃げ場のない場所に飛び込んだとも言える。


「で、どうするんだ?」

 アレスに言われてウェズンは少しばかり考え込んだ。


「あ、それならあたしがちょっと覗いてこよっか?」

「うーん……イアが悪いわけではないんだけどどうだろうなぁ……」


 同僚と似た気配を持つイアがいったところで、どうなるかが予想できない。

 事態が好転する可能性も、最悪に転がる可能性もどちらも予想できてしまう。


 いやでも、アレスが行くよりはマシかもしれないんだよな……とウェズンは少しばかり考えて。

「じゃあ、そっと様子を確認してきてくれないか」

「しょーちしたー!」


 自分が行く事も考えたけれど、まぁイアの方が自分よりはマシかな……? と思う事にして。

 かくしてウェズンはイアを送り出したのである。



「なんかね、奥の部屋で障壁ってか結界みたいなの張ってあったからそっちまでは行けなかったんだけど。

 泣いてたよ、レジーナ」


 そうして数分後、戻ってきたイアの報告がこれである。


「泣いてた……?

 いや、そもそも逃げる前から泣いてただろ」


 ボコボコにされた時も泣いてたし、むしろ泣いていない時の方が少ない気すらしてくる。


「もうやだなんでこんな事に、私だって普通に過ごしたかった、って嘆いてるのは聞こえたけど結界の奥の方はよく見えなくなってたんだよね」


「見えなくっていうのは結界に色でもついてたって事?」

「まぁ、そんなとこかなぁ。なんかマーブル模様でもやもや~ってなってたよ。もしかしたら向こうからこっちが見えるかもしれないけど、こっちから向こうは見えてなかった」


 そんなマジックミラーみたいな……と言いかけたが、イアの言い分ももしかしたら間違ってはいない可能性が高いのでウェズンは一先ず自分の目でも確認する事にした。


 そうして少しも行かないうちに、確かにイアが言っていたマーブル模様が見えてくる。

 そっと触れば、確かにそこには壁があった。

 結界か障壁かイアが悩んだのは、正直どっちなのかわからなかったからだろう。

 ウェズンにも判別がつかない。


 だが――


(壊そうと思えば壊せなくもない……かな?)

 触れた時点で弾いてくるとかそういう事があったならまた違ったかもしれないが、触れてもそこに壁がありますよとばかりの感触を伝えてくるだけのそれは、確かに強度はありそうだがしかし。

 これくらいなら壊せるな、と把握できてしまったのである。


 だが今すぐ壊して中に入ってレジーナを引きずり出す必要性もない。

 むしろそれをやればレジーナは一層怯えて逃げようとするだろう。


 確かに番人をけしかけられはしたけれど、その程度ならレスカがやってきた事と比べれば大分マシな方で。

 むしろ学院と学園が対抗していた頃、学院側がこちらに襲撃を仕掛けてきた時の方が被害が大きいと言える。

 正直あの頃のままワイアットと戦う事になっていたら、ウェズンだって今頃命はなかったかもしれないのだから、それと比べればちょっと危険な目に遭ったくらい、学外授業でもある事なのだから巨悪だと責める程のものですらない。


 イアが言っていたように、耳を澄ませると奥の方からレジーナの鳴き声が聞こえてくる。


 くすんくすん、と可愛らしいものではない、

 嗚咽が酷すぎてそのうち吐くんじゃないだろうか、と思えるくらいになっている。


 大丈夫か……? と思って声をかければそれはそれで向こうも余計に怯えそうなので、とりあえず黙っているけれど。



 普通に暮らして普通の人みたいに生きたい……という呟きだけは、ウェズンの耳にもしっかりと届いたのである。


 多分、このまま放っておいても閉じこもりっぱなしでどこかへ逃げ出そうとかしなさそうだな……と判断したウェズンは一先ず踵を返した。


 そうして少し離れた場所で待っていたイアとアレスに手を振って、帰ってきましたアピールをする。


「で、どうするつもりだ?」

「それなんだけど、正直レジーナの脅威度ってかなり低いからさ。

 ここで何が何でも殺してしまえ、とはならないと思うんだよね」

「あ、うん。それは確かに。

 神の楔から番人生成するっていうやり方を知ってる点では確かに厄介な部分もあるけど、でも本人は率先してそれをやろうって感じじゃないもんね」


 率先してけしかけられたイアが言うと説得力がないように思えるが、しかしけしかけたのだって元はと言えばかつての同僚と似たような気配を持つ相手がのうのうと青春を謳歌しているように見えたからであって。

 イアは決して出奔してどこで何やってるかもわからない同僚ではないし、ましてやその血族でもなさそう、となればこれ以上イアに対しても何かを仕掛けてくる事もないだろうと思っている。


 正直な話、レジーナがこちら側につく、というのならそれはそれでいいと思うのだ。

 そうすればスピカに対して敵対する相手は今のところいなくなる。

 まぁ、レスカの存在を知らない大衆はスピカがまたいつ心変わりをして世界を滅亡に進ませるかわかったものではない……! と疑う者もいるとは思うものの、今すぐ反旗を翻そうとはしないだろう。

 現状、前よりは良い方向に進みつつあるのだ。

 そこに余計な横やりを入れて、じゃあやっぱり滅ぼしますね、なんて意見を変えられては困るだろうし。それはない、と知っている者が僅かなのでそういう疑いを持つ者に関して何が言えるでもないのだが。


 潜在的に未だ神を疑う者がいたとしても、現時点でそこまで大っぴらにその存在を主張してもそこまで良い事はない。水面下で密かに活動するにしても、それらが表に出てくるのはまだ先の話だろう。


 その間にこの世界に残されている問題を解決して世界が少しでもマシな方に転がれば良し、そうでなくともこれ以上悪くならなければ、様々な方法を試す時間はあるはずだ。


 確かにワイアットが言ったように、番人を作り出して世界を混乱に陥れようとすればレジーナにはそれが可能であるのだけれど。

 だが、こちら側になればレジーナとてそれを実行しようとはならないだろう。

 彼女の望みはあまりにもささやかすぎるものなのだから。



 むしろ、危険因子だから今のうちに処分してしまえ、となればレジーナだってそう簡単に殺されてたまるかとばかりに抵抗するのは目に見えてるし、そうなった場合は彼女も形振り構わず番人を大量に生成して世界中にばらまきかねない。


 ワイアット自身、その可能性を考えてもこちらが手を出さない限りはそんな選択をレジーナがとる事はないとわかった上で、それでもあえて危険性を指摘しただけなのだろうけれど……


 余計な事を、と言うべきか。

 それとも。


 ああしてレジーナが引きこもった事で、多少の時間を確保できたと考えるべきか……


 レジーナがこっち側に入りたい、と望んでこっちがいいよと言ったところで、スピカがそれを却下すれば結局レジーナにとっては最悪の結末が待っている事を考えれば。


 まぁまだ最悪の展開になってはいないと考えるべきだ。


 そんな風につらつらとそれぞれが思う事を話しながら、ウェズンたちも一先ず学園に戻る事にしていたのだが。



「でもさぁ、あの状態で、仮に仲間に入ってもいいよ、ってなったとして。

 そう簡単にいくかなぁ?」


「動物だって一度受けた仕打ちは忘れないから警戒心が簡単に解ける事はないからな」


 イアとアレスの言葉に。


 やっぱりワイアットが戦犯では……?

 リィトが愉快犯ならあいつは何だ。世界の災厄か?

 そんな風にウェズンが零せば。


「実際そのポテンシャルを秘めてるから何も否定できないな」


 アレスがとても嫌な同意を示した。

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