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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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植え付けなくていい危機感



 大したことはしていない、というリィトの言葉は実際確かにそうだった。


 レスカが学院に来る手前、クロナは増幅器をリィトに託した状態で、隠れるように告げていた。

 その上で、いざという時になんとかしろ、というとても大雑把な指示を受けたのだと言う。


 実際はもう少しきちんと言ってたかもしれないけど、向こうもあまり悠長にしてる余裕がなかったしその雰囲気がビンビンしてたから、こっちも何となく焦ってたせいで正直あまり憶えてないんだけどね、と若干嘘くさい証言であったものの、そのあたりは後でクロナに確認しようと思えば可能であるので細かく突っ込みを入れて根掘り葉掘り問いただす事はやめた。


 ウェズンたちと遭遇した時のリィトは、増幅器を使って瘴気濃度を上げたりしていたけれど、何も瘴気を増幅するためだけのアイテムではない。

 浄化の力もまた増幅可能であるために、万が一を考えると切り札になり得る物でもあった。それもあってクロナはリィトに増幅器を託したのだ、とは何となく理解できた。


 レスカが何かを仕掛けて、世界中に瘴気を満たすような事をした場合、浄化機を騙し騙し使っているようなところは最悪汚染度が急激に進んで一斉に異形化、なんて事も考えられた。

 そうなった場合を考えたなら、浄化機を託して隠れていろ、というのはそこまで間違ってはいない。


 増幅器と言われているだけあって、使い方次第ではとても厄介な事になりかねない。

 何をどこまで増幅できるのかをウェズンは知らないが、しかし知っている者であるのならその危険性は充分すぎるくらいに理解しているのだろう。


「――で、隠れてたはいいんだけどさ。

 なんか気付いたらあいついなくなってるし、でも詳しくどうなったかわからないうちからノコノコ姿を見せるわけにもいかないかなって。

 油断して出てきたところを狙って……とか、ボクだったらそうするし、さ?」


「それはまぁわかる」


 レスカがどうなったか、なんてスピカから聞かない限り知りようがないのだ。

 そこ経由で知っている者だって限られている。


 姿を隠して見つからないよう潜んでいたリィトに正確に状況を把握しておけ、とはとてもじゃないが言えるわけがない。そうでなくとも、増幅器がもしレスカの手に渡っていたのなら事態はもっと大変な事になっていたかもしれないのだ。それを考えれば、うっかりでもなんでも軽率に姿を見せるわけにいかないと考えるのも当然だと言えるだろう。


 隠れたままで、それでもどうにか情報収集をしようにも、リィトは学園と学院が手を組んだも同然な状態になった事を把握していなかった。

 しかもリィトは学院でワイアットの友人であると知られていた。


 学院側の生徒に事情を聞こうにもワイアットと関わりたくない生徒なら逃げるか逆に今のうちに邪魔者を排除しようとした可能性はある。

 ワイアットの前に素直に姿を見せる事ができれば一番良かったのかもしれないが、ワイアットは良くも悪くも目立つ。

 もしレスカが消滅したと知らないのであれば、潜んで何らかの罠を仕掛けていると疑っても無理はないし、その場合そこらの雑魚より厄介な相手を消そうと目論むだろうから……ワイアットの前に現れた時点で罠が発動する、だとか、そうでなくとも事態が一気に不利な状況に、なんて最悪の展開を想像するのは容易だっただろう。


 実際そんな事はなかったので、普通に出てきて良かったのだが。

 しかしそれはウェズンたちが既に状況把握しているから言える事であって、リィトはわかっていなかったのだから警戒して慎重に慎重を重ねたに過ぎないので、それを責めるわけにもいかなかった。


「精霊仲間に確認しようにも色々な制約があったから情報収集ができないままこっちの居場所が割れる可能性もあったし、学園の生徒の前に出るにしてもさ、ほら、色々とあったから……」


「あぁ、お前の事知らない生徒なら警戒して話が進まない可能性もあったし、素直に協力してくれるかどうかは微妙だったかもね。

 知ってる相手なら……あ、いや、でもやっぱ警戒されるか」


「出会い頭に攻撃されても困るからさ。姿を見せるにしても相手を間違えたらアウト。立ち回りどこかで失敗してもアウト。何を信じて何を疑えばいいかもわからないくらいに色々とわからないままだったからね。

 相手が相手だったから絶対に見つからないように隠れないといけなかったし。その状態で情報収集は難易度が高すぎるし」


 めっちゃ疲れた、とぼやくリィトに、まぁそうだろうなと思う。


 神の目を欺いたようなもの、と考えればそりゃそう簡単な話ではないだろう。


 学園側と学院側に精霊も分かれていたとはいっても、リィトは元は学園にいて、途中で学院に移ったクチで挙句その後の行動から裏切っている、と見られている部分もあったが故に。

 そういうのもあったから余計に身動き取れなくてさ、なんて言われてもそりゃそうだろうよ以外の言葉が出てこない。


 そういう動きをしていたからレスカにもそこまで警戒されていなかった、と言えなくもないのだが。


 これが忠実にメルトやクロナの指示に従っているような相手だったなら、レスカも姿が見えない事に警戒したかもしれない。

 割と自由に動いてしかもそれが仲間を裏切っているように見える部分もあったからこそ、リィトの姿が見えなくても見捨てて逃げたかと思われていた可能性はゼロではなさそうだ。


 それ以前にレスカがリィトの存在をどこまで把握していたかも謎ではあるのだけれど。


 意識にすら残っていなかったのであればリィトの動きは無駄に終わるが、もしそうじゃなければリィトの姿が見えない事でレスカが警戒したのであれば。

 クロナと戦った時やそれ以外の事でも、もっと念入りに確実に……なんて動かれていたらこちらにとっては不利になっていたかもしれないのだ。

 ある程度相手が有利な状況であると油断してもらわないと、こちらにとっては色々と不利な部分が多すぎた。


「で、まぁ、それでもどうにかあれこれ探ってたらさ、そいつが現れて」

「私!?」

 レジーナが自分を指さす。


「そう。あいつの眷属がここにきて……って思ったからものすごく警戒した上で探ってたんだけどね?

 ただ、なんていうかさ」


「あぁ……」

「うん……」

「そだね……」


 ウェズンとアレスとイアがほぼ同時に頷く。


 本来ならば警戒対象であるレジーナが、想像以上の弱さであったが故に。


 警戒しただけ無駄に終わった、と言っても過言ではない。


「ただ、番人作りだしたりしてるあたりは脅威になりかねなかったから」

「それは確かに」

「でも、その神の楔が壊れて暴走、世界中の瘴気を一気に集めて……ってなった時にこれはヤバいなってなったらさ、出るしかないだろ?」


「あれ世界中から集まってたんだ……」

「完全に集まり切ったわけじゃないから、まだ残ってるとは思うけど、でもそこにあった神の楔ごと浄化したからここではもう少なくともそうはならないかな」

「他の神の楔で同じ事ができるって言ってるようなものなんだが」

「そうなんだよね。だから、それができるこいつをどうにかしないといけないんだけどさ」


「ひぇっ」


「一応こっち側につきたいって言ってる相手とはいえ、確かにそこは危険なんだよね。僕みたいにテラプロメにいくためのコードを入力するとかはさ、もうテラプロメそのものがなくなったから危険性も何もって感じだけど、でも番人を作成するっていうのはね……

 いくらきみがやらないって言っても、そのやり方を別の誰かに知らせて自分の手を汚さずに……って方法があるわけだし」


「や、やらないよ!?」


「うん、でもさ、たとえばやり方を誰にも言わないって思っていてもだ。

 きみ弱すぎるから、ここで拷問とかされて教えてくれればやめるって言われたら吐くだろ?」

「……否定……できない……ッ!」

「そうでなくとも酒飲まされて口が軽くなる奴もいるし、そうでなくとも薬で自白させるって方法もあるし」

「効果あるかなそれ……」

「今ある酒や薬の効果がなくても、いずれそういうのを作り出す奴がいるかもしれない。そう考えると、危険因子は今のうちに処分するのが世界のためなんじゃないかな」


 にこっと笑って言うワイアットの言葉は、確かにそうかも……と思わせるものではあるけれど。



 世界のためとかお前が言うな、ととても突っ込みそうになったのである。

 ウェズンだけではなく、アレスたちまで。

 世界のためとかお前……みたいな顔をしているのはシュヴェルで、うわぁ、と明らかに引きましたみたいな顔をしているのがザインである。

 つまりその言葉がいくら正しいように思えても、ワイアットがそれを言った時点でとても白々しすぎた。


 けれどもそう思わなかった者がいる。

 レジーナだ。


 彼女はワイアットの事などそこまで知らない。

 だからこそその言葉をそのまま受け取ってしまった。


「なんでぇ!? 私だって普通に平穏に過ごしたいだけなのに!

 そこまで悪い事してないのに!

 なんで私ばっかり!?」


 叫ぶ。

 ボコボコにされてロクに動けなかったはずのレジーナは、しかしこちらの予想を裏切る勢いで立ち上がり、そうして逃げ出した。


 突発的過ぎて気付けばそこそこの距離が開いていて、止める間がなかった。


「……お前な」

「ははっ、ちょっと脅かしすぎたかな」

「思い切り怯えてたよ」


 ウェズンとイアに睨まれても、ワイアットは一切動じていなかった。


「うーん、どうしたものかね? あれでもう何やっても助からないとか思われて他の神の楔で番人大量に作られてもさ、後始末大変だよね」


 そしてリィトは完全に他人事である。


「もう増幅器は壊れたから、また同じような事があったら次はどうしようもなくなるね」


 増幅器がまだあれば対処もできたかもしれないが、壊れたのでリィトからすれば他人事、というのは理解できた。


「……ワイアット、きみら一回戻って報告だけしてもらえる?」

「そっちはどうするの?」

「とりあえずレジーナを探す。で、誤解を解かないと。

 それなのにきみがいたら拗れる気しかしない」


「まぁそうだろうな」

「否定できねっすねぇ……」


 シュヴェルとザインまでもが頷く以上、ワイアットとしても反論したところで無意味だと察したのだろう。

 やれやれ、みたいに肩を竦められたが、その態度はこっちがやりたい――と思わず呟いて。


 ともあれ別行動をする事になったのである。

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