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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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想定外の事象



 レジーナと会う前に見つけた半分ほど折れていた神の楔らしきそれが、本当に神の楔である事がレジーナの言葉で確定した。


「なんで折れてるの……!?」


 と本人は折れている事に戸惑い困惑しきりであったけれど。


「まぁ、番人を作った時になんか負荷が大きくかかったとかじゃないの? 詳しくは知らないけど。

 でも、テラプロメに行く時だって普通に使えば行けない状態だったし、特殊コマンドみたいなのがあるのは明らかなんだし、使いすぎた事でダメになるってのは有り得るよね」


 そしてそんなレジーナへワイアットが告げた言葉がこれである。


 確かにテラプロメの存在を知っていても、神の楔で気軽に行ける場所ではなかったのは事実。

 ウェズンだって行く時には手引きが必要だったのだから、そこを否定はしない。


 単純に結界として各地を分断するもので、転移機能はついでのようなものだと思っていた神の楔に、他の機能が備わっていたとしてもそれもまたおかしな話ではなかった。

 そうは言っても、地中に染みこんでるであろう瘴気を吸い上げたりするだとか、番人を作るだとか、そういう機能があるなんて今の今まで一体誰が想像しただろうか、という話だが。


 神の楔が折れていたからここに直接転移できなかった、というわけでもないだろう。


 仮に折れていなかったとしても、ここもまたテラプロメのように直接転移するために必要な、特殊な操作があったはずだ。

 そしてそれらを知らなかったからこそ、ウェズンたちは直接この旧市街地に転移はできなかった。


「ねぇ、ていうかさ。

 この神の楔、まだ動いてない?」


 驚愕の黒さは先程見た時と相変わらずだが、イアがそんな風に言った事でウェズンは思わず凝視した。


 神の楔が動く、という言い方も微妙ではある。

 転移に使う際だって、別に何か、特殊なエフェクトが発動するとかそういうわけでもないのだから。


 だが確かに。

 よく見ればなんだか脈打つように動いているような気がしてくる。


「あ、あぁ、動いてる……えっ、なんで?

 一切操作してないのに勝手に……!?

 あっ、あっ、どうしよこのままだとまた」

「このままだと何?」

「このままだと地中から瘴気吸い上げてまた番人を作り上げるっぽいんだけど、壊れてるからさっきみたいな中途半端なのが出来上がるんだけど――うわっ!?」


 なんて言ってる間に、折れた先端から黒い光が吐き出される。漆黒の闇のようなそれは、しかし光であると認識できてしまった。


 そしてその光が消えたところには、先程と同じく半壊した番人が。


 すぐさまシュヴェルが破壊するべく攻撃を仕掛けたが、立て続けに更に番人が作り出されていく。


「これ止める方法は?」

「無理だよォ壊れてるもん!」


「じゃあ完膚なきまでにその半分の楔も壊せば止まるんじゃねーの?」

「神の楔を壊したって話はそもそも聞いた事ないから壊れるの? っていうのが正直な感想っすね」


 ザインの言い分は確かに、としか言えない。


 中途半端な状態の番人がぽんぽん現れる。

 壊れた蛇口から水が止まらないような、そんな勢いだった。


 中途半端な状態で作られるものだから、本来の番人と比べれば実力も相当劣っているために、倒すだけならそこまで苦戦はしない。


 しない、がやはり倒したと思った直後にまた出てくるとなると面倒なわけで。


 番人に攻撃を仕掛けたついでにシュヴェルが全力で神の楔に蹴りをいれたが、ビクともしなかった。

 それどころか――


「うわ」


 折れた神の楔を中心に渦巻くように、瘴気が蠢く。

 先程まで視認できるほどの瘴気なんてなかったにも関わらずだ。


「地中の瘴気が一気に溢れてきてるー!?」


 レジーナの悲鳴混じりの叫びに、とりあえずどこからこんな大量の瘴気が……なんて疑問を口にする必要はなくなったけれど。


 地上の表面上の瘴気汚染しか確認できないと先程言われたのはわかっているが、それでもウェズンはモノリスフィアを取り出して確認してみた。


「汚染度120%……!? というか、まだ上昇してるだと……!?」

「げほっ」


「おわっ、浄化魔法浄化魔法!」


 苦しそうに咳き込んで膝をついたザインに、イアが慌てて浄化魔法を発動させる。


 そもそも汚染度の高い地域ですら、百を超えたなんて話は出ていない。

 それでも瘴気耐性が低い者はそれでも異形化するのだから、今現在、もしここにヴァンのような瘴気耐性の低い者がいたのなら、あっという間に倒れて、それから異形化していたかもしれない。


「あっ、これ、もしかしてだけど」


 そんな中、どこか呆然としたレジーナの声がする。


「もしかしなくても、世界中の瘴気ここに集めようとしてる感じかな……?」


 もしかしなくてもそんな気しかしない。

 だが、そんな現実を突き付けられたくはなかった。

 どう考えても一大事である。


 ぼひゅ、と何かが吐き出されるような音と共にまたも番人が生み出されるが、しかし瘴気濃度が急激に高まったせいか、半壊状態の番人はそれを受け止める器として成り立たなかったのか、できた瞬間から崩壊していく。

 そしてそこから更に瘴気が吐き出されるのを見てしまった。


 それは、古い魔法道具が動作しながらも、ガタがきていますよとばかりに瘴気を噴出した時のように。


 地中深くに残っているであろう瘴気を集めるだけではなく、失敗した番人からも瘴気が溢れるというのなら。


 そりゃあ汚染度が百超えたっておかしくはない……!


 作りだされてもすぐに崩壊する番人が、壊れるたびに瘴気を放出していく。

 その状態で番人を作ったところで意味がないのだから、一度作るのを停止すればいいのにしかし番人を生み出している神の楔もまた半分に折れた状態なのだ。

 レジーナが番人を学園に送り出した時は壊れていなかったようなので、その後ガタがきたのか、それとも別の要因かで壊れたとしても。


 このままでは、瘴気汚染度が馬鹿みたいな勢いで上昇するのは明らかな事。

 それこそ、能力値がインフレしっぱなしのバトル漫画みたいな勢いで上がり続ける事になってしまう。


 これももしかしたらレスカが仕組んだ事の一つかもしれない、と思ったところで、だから何だという状況である。


 浄化魔法を使ったところで、今まで以上の瘴気汚染度の中心部にいるようなものだ。

 ひたすら連続して浄化魔法を発動させても、焼け石に水どころの話ですらない。


 最初に倒れたのはザインで、次に立ち上がっていられず膝をついたのはシュヴェルだった。

 ちくしょう……と憎々しげな声がしてそちらを見れば、どうにか倒れまいとしているが、しかし倒れるのは時間の問題だろう。


 アレスとワイアットもふらついている。

「おにい……どうしよう……!?」

 かろうじてまだ無事そうなのはイアだが、しかしそれだってそう長くはない。ウェズンは察してしまった。


 どうしよう、と言われてもこの場から離れたところでそれは根本的な解決にならない。

 これをこのまま放置していたままなら、やがてここを中心に世界中にとんでもない濃度の瘴気汚染が広がりそうだし、であれば一時的に彼らを連れて逃げたところで行きつく先は同じ事。


 神の楔を壊して停止させようにも、攻撃が通っている感じがこれっぽっちもしない。


 浄化魔法を使ったところで、一瞬楽になった気がする、という程度になってしまっていて、このままではウェズンも危うい。


『仕方ないな……おい、我を使え』


 脳内に響くオルドの声。

 浄化機に使われる魔晶核が埋め込まれたウェズンの武器を触媒に浄化魔法を使えば、確かに浄化魔法を強化して使う事ができる、とは前に言われたけれど。

 だが、ウェズンの武器は浄化機ではない。

 浄化機のパーツとして組み込まれて使うのならまだしも、武器に組み込んだ状態で使うとなれば、最悪これらを浄化できてもその後の事は保障できない。そうなればオルドの意識は途絶え、本当の意味で死ぬ事になる。


 それを覚悟の上で言ったのかもしれないが、しかしその後の事を考えるとあまり気が進まなかった。

 ジークになんて言えばいいんだ。

 そんな場合か、と自分で突っ込んだが、しかし助かった後の事を考えればそうなるのは当然の事で。


「くっ……やるしかないのか……」


 だがしかし、ここでそんな風に悩んでも解決するわけもない。

 そうでなくとも、オルドを犠牲にして浄化魔法を極限まで強めて使ったところで、これらの瘴気が全て払われるかはわからないのだ。


 浄化できたところで、瘴気をまき散らし続けている神の楔を何とかしなければ、事態は解決しない。それもわかっている。いる、のだが――


『まぁこれだけ瘴気汚染されれば気休め程度にしか通用しないとは思うがな。それでも、お前が逃げて学園に助けを求めるくらいはできるだろうよ』


 イアやアレス、ワイアットたちを連れて逃げる、という選択肢は与えられなかった。


 イアだけならまだしも、他の連中をウェズン一人で運べと言われても難しいのは確かなのだが、しかし最初から一人だけで離脱するしかないと言われてしまえば、躊躇いが生じるのも仕方のない事だった。


「おにい……」


 か細いイアの声がして、直後にどさりという音がした。

 倒れたのだ、と理解する頃には、周囲は瘴気汚染によって視界が随分と暗くなっていた。


 これ以上迷っている時間はない――


 そう判断して、ウェズンは武器を取り出してそこにありったけの魔力をこめた。

 一時的だろうと浄化ができれば、まだイアたちもどうにかここから距離を取る事ができるかもしれない。

 そう、希望を抱いて。


「オルド、長いようで短い付き合いだったけど……お前の事は忘れない……!」


 そんな風に別れの言葉と共に、ウェズンは浄化魔法を発動させようとして――

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