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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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ラスボスなんかじゃない



 ウェズンから見たレジーナは、何となくレスカに似てる気がしないでもないけど、でもそっくりって程でもないな……という程度でしかなかった。


 確かに似てはいるけれど、あくまでも面影があるな、という程度で見てすぐにレスカを思い浮かべて警戒する程のものではない。レスカを知っている者が見れば似てるなぁ、となるけれど本人だと勘違いするところまではいかない。そんな、微妙なラインであった。


 そしてそんなレジーナは、弱かった。


 レスカが残していった厄災の種みたいな認識だったから、警戒はしていた。

 だってあのレスカだ。

 スピカからその立場と権能を奪い、この世界を滅亡に導こうとしていた異世界の神。

 その眷属、と言われれば警戒をするのは当然だと思えるし、ましてや一応見た目は似てなくもない……となれば、能力的にもさぞ厄介な何かを隠していてもおかしくはないと思うのが当たり前ではないだろうか。


 今までの状況から考えて、警戒こそすれ「ま、大丈夫だって」と楽観的に見るなど以ての外。


 警戒していたからこそ、レジーナがいるかもしれない、という場所に向かうにあたってメンバーがそれなりに厳選されたわけだし。


 レジーナと直接会って顔を見たことがあるイア。

 彼女が行くのであれば、何かあった際連携が上手くとれる相手をつけた方がいい。

 事情をそこまで詳しく説明しなくても大体把握してしまったウェズンは、イアの身内でもあるしそうなると参加メンバーに決定するのは当然だった。

 その場に居合わせたアレスはある意味でとばっちりではあるけれど、彼の実力は疑うまでもないのでとばっちりだろうとなんだろうと共に行動するのに何の不都合もない。


 それどころか、学院側から参加を名乗り出たワイアットの事を考えると、元学院の生徒でそこそこワイアットと関わる羽目になっていたアレスはまさに、と言えなくもない。

 いや、学院から学園に移る際に、ワイアットと関わりのあった連中ぶち殺してきてるし、その際生き残った面々を考えると本当にそれでいいのか? と思わないでもないのだが、中途半端な実力の誰かを参加させるよりは、お互いにお互いの扱いを把握しているだろうという点でアレスなら大丈夫だろうと思われたのかもしれない。


 あと、テラプロメの一件でどうしてかウェズンはワイアットに身内認定を食らったようだし、イアを嫁にと目論んでいるようなので、だったらまぁ、下手な事はしないだろうとも思われてこのメンバーに決まった、と言われてしまえば。

 実際本当にそこまで言われたわけではないが、仮にそういう理由だったとして納得できてしまうのがもうどうしようもなかった。


 ともあれ、何があったとしても、学院で最強の名を欲しいままにしている歩く災厄みたいなワイアットと、それと行動を共にできるだけの実力はあるザインとシュヴェルがいて、そんな彼らと途中で仲間割れのような事をやらかして対立しないだけの存在。


 そういう風に組み合わせた結果、戦力面で言えば何も心配する必要がなさそうな結果に落ち着いてしまったわけだ。


 ウェズンからすれば、それこそ自分の両親が本気で殺しにかかってくるような状況だったらこのメンバーでも不安があるが、それ以外ならなんかどうにかなるんじゃないか。

 そう思うくらいには、安心感があった。



 だからこそ、思っていた以上に弱く拍子抜けする結果となったレジーナとの戦闘は、戦闘という言葉を使うのもどうかと思うくらいに呆気なく終わってしまったのだ。


 ぼっこぼこにされたレジーナだが、ぼっこぼこにしたのはほぼシュヴェルである。

 途中で抵抗しようとしたレジーナが何やら魔術を発動させようとしたものの、それはザインとワイアットが対処してしまった。


 つまるところ、ウェズンたち学園側の三人は見てるだけで終わった。

 手や口を挟む間なんてなかった。

 あまりにもスムーズすぎて、その光景を見ている間、その手際の良さに感心してレジーナの安否とか思った以上の弱さとか、そんな部分を気にする思考になったのはむしろ終わってレジーナがギャン泣きを始めたあたりである。


 泣いて許されると思ってんじゃねぇぞ、とかシュヴェルあたり言いそうだが、しかしシュヴェル本人も思った以上の弱さに言えなかった。もうちょっと強かったら言ってたかもしれないが、文字通り手も足もほとんど出なかったレジーナである。ついでに現在進行形で泣いてるし、泣きすぎてひきつけを起こしそうになっている。


 とはいえ、このままにしておけるわけもなく、とりあえずウェズンは会話を試みた。


 結果として、彼女の目的はあっさりと判明したし、同時に上手い事こっちの陣営に入れないか考えていた、というところまでレジーナは何もかも全てをゲロったのである。


 素直にいーれーて、と言ったところで確かに警戒されていただろうな、とウェズンですら思ったので、ちょっとしたトラブルを起こしてからそれを解決された後で、負けたのでそっちに従いますから命ばかりはお助けを作戦は、そこまでおかしな考えではない……と思う。

 むしろ無条件でそっちの陣営に入りますとか言われたところで、レジーナはレスカが創造した眷属である。

 従順な振りをして裏で何かを企んでいる可能性を疑われて、何かがある前に処分しようぜ、なんて展開を恐れたという言い分も理解はできた。


 敵対していたけど負けた事で主人公側にしれっと仲間入りを果たす悪役、というのは前世、様々な作品で履修済みであるので、そう考えるとレジーナの考えは穏便な方だ。

 これが散々大量虐殺をした後、とかであれば話はまた違ってくるが、しかし現状レジーナがした事と言えば、学園がある島に番人を送り付けてきた事だけで。

 番人と戦って一歩間違えば命を落としていた者もいたかもしれないが、しかしそれは番人に限った話ではない。瘴気汚染度の高い所で魔物と遭遇すればそんな危険はいくらでもあるし、平和な場所であっても野生動物の脅威がある。

 魔物じゃないからと油断してやられる、なんて者だっているので。


 嗚咽というか最早汚い鳴き声としか言いようのないレジーナの言い分を一通り聞いて。


 一同はさてどうしたものかと顔を見合わせた。


 ついでにウェズンが話を聞いている間、ザインがしれっとシェルターの中を確認してきたが、特に何もなかった、と報告を受けている。

 強いて言うなら、頑張って作ったであろう工作っぽい感じの生活道具がいくつかあるだけで、テラプロメ旧市街地として何かがわかるような情報だとかは一切なかったらしい。

 頑張って作ったであろう道具、という部分に関しても聞いてみたが、お金をほとんど持ってないというなんともしょっぱすぎる答えが返ってきたので、シュヴェルの目にも同情が浮かんだ程だ。

 魔法道具ですらない代物。文明とは程遠い原始的な生活。

 お金がないなら食料はどうしているのか。

 そんな質問に関しては、海の近くまで行って釣りをしていると返された。


 棒に糸をくくりつけただけの簡素すぎる釣り竿が確かにあったっすね、というザインの言葉でレジーナに向ける目がますます同情でいっぱいになる。


 魔法や魔術が使えるなら、それで捕獲した方が確実だろうに、余計な消耗をしないようにと日がな一日釣り糸を垂らしているだけの時もあると言われてしまえば。


 レジーナの言い分を疑うのも可哀そうになってくる始末。

 一日釣り糸を垂らしたところで釣果が残念な結果である場合も多く、むしろその時間があるならそれこそどこぞの小悪党のように人里で略奪をした方が手っ取り早いし、そうでなくともレスカの命令に従ってもっと悪い事だってできたはずだ。

 けれども今の今までに費やされた時間でそういった事をしていないという点で。


 穏便に仲間に入る方法を選ぼうとしていた、という言葉に嘘がないと認めるしかないのだ。


「イアの身内にもう片方の眷属がいたかどうかを調べるのは難しいよね」

「そだね。どやって調べるのって話だし」


 イアの本当の母親は既に死んでいるし、父親に至ってはイアが産まれた時には既にいなかった。

 イアの本当の両親から辿るにしても、手掛かりがない。


 なので、仮にイアの母親がそうだとは思えないので父親がそうだったとしても。

 それをどう証明するのかという話である。


「でも、神曰く違うと思うって言ってたんだよなぁ……」

「え、そうなのおにい?」

「でもレジーナはかつての同僚の気配を感じるって言ってる」

「他人の空似的な気配とかじゃなくて?」

「その可能性もあるけど、結局そこが明らかになる事ってないわけで。

 明らかになったところで、だから何って話でもあるわけだし」


「そりゃそうだ」


 ウェズンの言葉にイアは大きく頷いた。

 もしイアの本当の血筋にその眷属がいたとしてもだ。

 イア本人は顔を見たこともなければ会って話をした事もない。そんな相手についてとやかく言われても知らんよ、としか言えないのだ。


「じゃ、人違いで絡まれたって事?」

「実際同僚本人ではないわけだから……そう、なるな」


 ある意味通り魔みたいな犯行だが、それをしでかした本人は今もギャン泣きしている。絡まれたイアにもっと被害があったなら泣いている今ももうちょっと糾弾されたかもしれないが、なんだかんだ番人と戦った相手で死亡者は出ていないのもあって、イアとしてはそこまで深く考えていなかった。

 これでまだ見当違いの憎しみを向けられたらイラっとしたかもしれないが、向けられた番人よりも弱いのである。レジーナは。

 ワイアットくらいの実力者に目をつけられてしつこくしぶとく攻撃をされればイアだって普通にキレるかもしれないが、レジーナができる事といえば、魔術や魔法での攻撃か番人をけしかける事。

 レジーナ本人の魔力量はかなり多いとイアでも判別できたが、戦い方が素人すぎて現状イア一人でも対処可能なレベルである。

 それで、そんなレジーナ相手に憎しみを募らせろと言われたところで、イアにとっては面倒で難しい話であった。

 そこまで憎む理由がない相手を憎むとなると労力が半端ないし、そんなどうでもいい事に思考を費やすくらいならもっと違う事を考えていたいというのが本音だ。


「あ、そういえば番人けしかけてきたのは事実だから忘れちゃいけない事なんだけど。

 どこの神の楔の番人けしかけてきたの?」


 レジーナは自分の状況も事情も考えも全部ゲロリはしたものの、番人をけしかけたくだりはそこまで詳しく言っていない。

 意図的に伏せたというよりは、自分の保身に精一杯すぎて頭からすっぽ抜けていたのだろう。


 だからこそウェズンは別にキツイ口調で問いかけたわけでもない。


「どごっで……どごのでもないんだも」


 ずびっと鼻水を啜りながら返された言葉に雲行きの怪しさを感じとる。


「あの番人は――」


 ごぉん!


 レジーナがずびずびと鼻を鳴らしながらも続けようとした言葉を遮るように。


 穴が広がっていた方角から、大きな音が響いた。

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