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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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困惑の再会



 ぽっかりと開いた穴を避け、比較的瓦礫が少ない場所を選んで進んだその先にはかろうじてまだ原型を留めていると言っても過言ではない建物があった。

 そうはいっても壁に穴が開いていたり、屋根がなくなっていたり、恐らく窓があった場所がすっかり風通しの良い穴になっていたりと、マトモに雨風を凌いで生活できるかと言われれれば……まぁ、無理そうなのだが。


 その手前の瓦礫があまりにも多すぎた事から、恐らくではあるがその瓦礫だった元建物がこのあたりの崩壊を多少緩和する壁になっていたのではないか、と思われる。

 まぁ、だとしてだから何だと言う話になってしまうのだが。


「しっかしまぁ、見事なまでになんもないっすね」


 ザインがそう言うのも仕方のない事だった。


 見渡す限り壊れた建物の残骸。中心部には巨大な穴。

 あると言えばそれくらい。


 誰かがいるようにも思えない。


 これはハズレかな。

 ウェズンはそんな風に思い始めていた。

 確かに、テラプロメが空中へ上がる際に切り捨ててきたであろう地上部分、という意味では何らかの手掛かりになりそうなものがありそうな気はするものの、しかしこの光景を見て何かがある、と言えるかとなれば。


 恐らくは十人中十人全員がないんじゃないかなぁ……と答えるに違いないのだ。


 確かに、なんとなく気になる物はあった。

 やけに黒ずんだ神の楔と思しき物とか。

 けれどもそれを調べようにも、恐らくは何かがわかるわけでもなさそうだった。

 いや、学園に持ち込んでそういうのを得意とする者が調べたらもしかしたら何かわかるかもしれないけれど。


 果たしてアレを引っこ抜けるのか、という話である。


 テラプロメは神の楔を作る技術力があったからこそレスカが世界を分断した後でも各地にいくつかの楔を打ち込んだけれど、それらを引っこ抜いたという記述はない。

 他の町や村などでも、引っこ抜いて持ち歩いて、なんて話は出てもいないだろう。


 持ち運びできるのなら、それこそいついかなる時でも転移可能な便利アイテムになっただろうけれど、それをレスカが良しとはしないだろうし、自在に持ち運べたのであれば、神の楔を起点として展開されていた結界はどうなるという話である。


「とりあえず、もうちょっと見て回って何もなければこのまま帰還かな。

 それはそれでつまらないけど」

「トラブルを望むな、と言いたいところだけど、今回ばかりは同意かな」


 ワイアットの言葉にアレスがやや呆れを見せつつも頷く。

 ここにレジーナがいないのであれば、では、どこにいるというのか。


 他にももしかしたら……? という候補地らしき場所に他の生徒たちが出向いたとはいえ、もしそちらにいたとして、レジーナとやり合う理由がない。

 というか、ここが一番可能性の高い場所だったからこそ、レジーナと遭遇したイアが来たのだ。

 もし他の場所にいるのなら、そしてそちらで遭遇した生徒がいたとしても。


 果たしてレジーナがレジーナであると気付けるだろうか?


 イアが遭遇した時、彼女は帽子をかぶり髪の毛を隠すようにしていたし、全体的に目立たないよう行動していたようではある。

 なので学園祭で彼女を見かけた生徒がもし遭遇できたとして、果たしてあの時の……! となるかはとても微妙だった。イアのように絡まれでもしなければ、記憶の片隅に残っているかも疑わしい。


 もうちょっと見て回る、と言ったワイアットも望み薄だろうな……という態度を隠さずに適当にそこらを見回している。ここまで見事にどの建物も崩壊しているのだ。

 探しに来たのが人でなければこれら瓦礫の撤去、という大層面倒な作業をする事になっていたかもしれないが、あくまでも探しているのは人である。種族的な意味で人としていいかは別として。


 ここいらが崩壊したのが最近であるのなら、もしかしたら瓦礫の下敷きに……!? と考えたかもしれないが、学園祭後、もしここに彼女が来たとして、既にここが崩壊した後であるのなら、下敷きも何もあったものではない。

 であれば、わざわざ瓦礫を撤去して下敷きになっていないか、なんて確認する必要もないのだ。


 そもそも建物の状態を見る限り、この建物が崩壊したのだってかなりの年月が経過しているように思える。

 だからこそ下敷きになっているという考えはすぐさま消えた。


 じゃああともうちょっと見て回って何もなければ撤収かぁ……とザインが呟く。

 無駄足だったな、とはシュヴェルだ。

 そんな二人にワイアットは特に何も言わなかった。

 アレスも言いたい事は既にザインとシュヴェルが言ったも同然だったからか、無言のままで。

 ウェズンとしても他に言う事なんて何もなかったので、そうだねー、なんて相槌を打つので精いっぱいだった。


 そんな中、イアだけが。


 かろうじて壁だけが残っている建物の方へ近づいて、そっと穴から壁の向こう側を覗き込んだりしていた。



「おにい! 地下室ある!」

「は?」

「見てこれこれ!」

 手をぶんぶん振って早く早くと急かすイアに、ウェズンは地下室っていうか、それ単純にただの穴じゃなくて? と言いたい気持ちをおさえながらもそちらへ足を向けてみれば。


 シェルターでも作ってあったのだろうか。

 いかにもそれらしい扉が床に設置されてあった。

 地上側からだと引き上げるように開けるタイプで、地下側からの場合上に押し上げるようにして開けるタイプだ。もし建物が崩壊した時に扉の上に瓦礫が積もれば、脱出不可能になっていたであろうシェルター。

 イアがシェルターを見つけた建物は、最初に見かけた倒壊したビル群と比べると小さなアパート、と言われれば納得できそうな見た目をしていた。それでも、屋根の半分は穴が開いているし、壁は所々穴が開いてボロボロで、壊れていないのが不思議なくらいだ。

 一見無事そうな部屋を開けようにも、扉がひしゃげて開かなくなっているし、扉が開く部屋は壁に穴があいているせいで、仮に迷った旅人がここで一晩明かそうと思い建物に入ったとしてもだ。

 隙間風どころか普通に風通しがよいし、天井にも穴が開いているので雨が降れば普通に上から水が漏れだすだろうし、実質野宿と変わらない。

 いや、むしろ建物があって野宿をしなくていいと思った矢先に天候が悪化したのであれば、ぬか喜びした事を含めて野宿よりガッカリするだろう。


 イアがシェルターと思しきそれを見つけた場所は、恐らくこの建物をアパートと推測した上で言うのなら、管理人室である可能性が高い。一階の住人たちの部屋に同じように備えられているとは思えないし、ましてや二階の部屋にもないだろうから。


「へぇ、まさかこんなものがあるなんてね」


 ワイアットもちょっとワクワクした様子で足を運んで、その扉を覗き込むようにしていた。

 軽率にそこに行くのは少しばかり躊躇われたのだ。

 その上は穴が開いていて空が見えるであろう状態とはいえ、それでもまだその周辺部分の天井は残っているので。何かの拍子に崩れた破片が落ちてくる可能性を考えると、軽率に動くのは危険である。


「いっそ先にそこの建物ぶち壊すか? 壁が崩れるだとか天井が落っこちてくるとか、その心配がなくなりゃあとはそこ調べるだけだろ」

「ま~、恐らく個人で作ったやつだろうから、仮にそこが開いたとしても、中にはきっと何もないでしょうけどねぇ。や、どうだろ、そこ使ってた奴の死体が……なんてオチがあるかもしれねっすね。

 流石に大昔すぎて白骨死体が残ってるかも微妙かもだけど」


 シュヴェルの言葉は普段であれば、いやお前率先して破壊活動するなよ、と突っ込まれた可能性は高い。

 だがしかし、既にこちらが何をするでもなく壊れまくっているのだ。

 であれば、今更多少原型を残しているといっても住むには適さない建物を破壊する事に、躊躇する者などいなかった。


 どぱんっ!


 と、バカみたいな爆音が炸裂したのは、ワイアットがイアを引っ張って建物から距離をとってからだ。


 周辺の瓦礫も多少吹っ飛ばして、一部分だけぽっかりとした更地に変わる。

 シェルターの扉ごと吹っ飛ばされて新たな穴ができあがるかと思われたが、しかしそうはならなかった。


「これで、あの扉を開けたら中を安全に確認できそうだね」

 やるべきことが決まれば即行動、とばかりのワイアットに「そうだね」と返す以外、果たして何が言えただろう。


 瘴気汚染度も高くないので魔物の危険性も現時点では心配する必要もないだろうし、下手にもだもだ悩むよりは行動に出るのが最適解だとはウェズンも理解はしているものの。


 いやでも、ザインの言ったように、入ってったら中で白骨死体が転がってましたオチとか考えたらちょっとは躊躇うよなぁ……と思っていたのでウェズンはすぐ行動に移れなかった。


 野ざらしなら風化して白骨死体もなくなっていたかもしれないが、地下で雨風にさらされる事もなかったのであれば、まだ残っている可能性はあるのだ。骨だけとはいえ、死体とエンカウントはしたくないなぁ……というのが本音である。


「よーし、じゃまずは扉開けて~、あ、シュヴェルは最後な。お前図体でかいんだから途中で詰まったら困るし」

 いそいそと扉へ近づく途中で思い出したようにワイアットは振り返ってそう告げる。

 シュヴェルも流石にわかっているのだろう。

「むしろ外で見張ってた方がよくねぇか? ま、危険性はなさそうだけどよ」

 むしろ入るつもりはない、という態度であった。


 入った後で今度は出ないといけないのだから、恐らく何もないだろうと思っている場所ならその選択も有りだろう。無駄足を踏んだ後で、もう一度狭苦しい場所を移動しなければならないとなれば、特に。


「ま、それでも構わないよ、何かあったら大声で呼ぶから」

「おう」


 そう言って、ワイアットが扉に近づいて開けるべくしゃがみ込んだ直後――


「あ、なんか聞こえるな。

 下がって」


 即座に立ち上がってワイアットは後ろへと飛んだ。

 それとほとんど同時に、地下からダンダンカンカンという音が響いた。


「まさか生存者が!?」


 驚いた様子のザインであったが、しかし何が出てくるかわかったものではないので彼もまた扉から距離を取っている。それは、この場にいる全員がそうだった。


「なになになになに!? まさか建物壊れて落ちたりしてないでしょうね!? これ開かなかったら全力ぶっぱしないと~ぉおおお?

 開いたな?」


 ガコォン! と勢いよく開いた扉に拍子抜けしました、とばかりの表情を晒して地下から出てきたのは。



「レジーナ?」


「ん? あ、えっ!? 誰……あっ!」


 名を口にしたのはウェズンだったが、レジーナはウェズンと面識はない。

 故に最初、困惑した様子だったが。


 そこから少し離れた位置にいるイアを見て表情を変えて指を突き付ける。


「一体何しに来たのよ今更!」

「今更も何も……え? 今更なの?」


 そうして叫ばれた言葉に。


 イアは今更っていう程何かあったかな……? という気持ちを隠し切れずに周囲に問いかけた。


 今更かどうかで言えば。


 多分違うと思う。

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