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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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廃墟と呼ぶのもおこがましい



 テラプロメ旧市街地。

 そう言われていたとしても、ウェズンには正直ピンとこなかった。

 しかし今、こうしてこの光景を眺めれば確かにここはテラプロメだったのだとわかる。


 既に崩壊しぐちゃぐちゃになっているビルがもし、今も整然と並んでいたのであれば。

 きっと前世のような都会であるといやでも理解させられたからだ。


 テラプロメに乗り込んだ時もそういった前世に対する懐かしさのようなものを感じていたが、しかしテラプロメは既に存在しない。崩壊し、落ちて、海の底だ。

 あれはウェズンの故郷ではない。しかし、それでも故郷ととても似た場所であった。


 そんな懐かしさを覚える場所であったが、もう二度と足を踏み入れる事は叶わなくなってしまった場所でもある。


 いつか、あのような都市が他の場所にも作られるかもしれない。

 そのいつか、が果たしていつになるかまではウェズンにも知りようがないが。


 きっと整備されていた道があったはずだが、しかしそれらはビルだった残骸のせいで覆われている。


「乗り越えてくには難しいかな」

「魔術で吹っ飛ばす?」

「いや、流石にそれは……とりあえず魔術で浮いた方がまだマシかも」

「まぁ確かにそれもそうか」


 そんな風にアレスと言いながら、一先ずウェズンは宙に浮いた。一部分だけが崩れていてそれをどうにかすれば後は通れる、というのであれば魔術で吹っ飛ばすという方法でも良かったが、宙に浮いて見れば残骸は数メートル先まで続いている。これだけの物を吹き飛ばすとなれば、結構な重労働だ。


 それこそ、大技をドカンと一発ぶちかます勢いは必要だし、一発だけで済むかと問われると微妙なところだ。


 皆で協力すれば一度でいけるか……? とは思うが、この先何があるかもわからないうちから、全員が仲良く消耗するのは軽率すぎる。

 そうでなくとも、もしここにレジーナがいたとして。


 ドカンと一発瓦礫を吹き飛ばすにしても、その音でこちらの存在に気付かれたら面倒な事になるかもしれない。


 そう考えると、多少面倒であっても宙に浮いて移動した方がいいだろう。


 アレスやワイアットは問題なくスイスイ宙を移動しているが、シュヴェルはあまりその手の魔術は得意ではないらしく移動にはやや時間がかかった。

 まぁそれで痺れを切らしてやっぱ建物吹っ飛ばせばいいだろ、なんて結論になられても困るので、多少進みが遅くなる程度で済むのなら、とウェズンたちも周囲に注意を払いながら慎重に移動していく。

 そうして進むうちに、街の中心部だったであろう部分が見えてきた。


 ぽっかりと、大きな穴が広がっている。


「あれって……」

「間違いなくテラプロメだったところだろうね」


 ウェズンの呟きにワイアットが「わぁ壮観」なんて心にもない事を言う。

 あまりにも大きな穴だ。


 壊れたビル群の残骸をあの穴に全ていれても、きっとまだ余裕があるだろうくらいには。


「あれ、でも、穴の近くにも壊れた建物がいっぱいあるんだけど」

「生憎当初のテラプロメに関して詳しくはないけれど、必要な施設を固めておいて、上に行ってから外側の特に必要じゃない建物も壊したんじゃないかな。そうしてある程度の空間を確保した」


「言われてみればあの都市、そこまでギュウギュウではなかったっけ」


 施設がよくわからない配置にあったような気がするけれど、ワイアットの言うとおり確かにあまり都市の端っこには重要な施設といったものはなかったような気がする。


「いくつかの施設は空中に移動してから廃棄されて、そこに新たな別の施設を……なんて事になってたんだったかな。都市の開発計画とかもあったから、そうだったと思う」

「開発計画も何も……って気はするんだけどね」

「ま、地上で言われる開発計画とは意味も中身も異なるだろうね」


 ワイアットの言葉は特に否定する部分もない。

 実際に用途と目的が異なるのだ。地上と、空中を移動するテラプロメとでは。


「それに確か……テラプロメの建物のうち六割が確か何度か建て直されたり取り壊されて新たに建築されてた、とかなんか記録されてたはずだから」


 だから。

 ここいら一帯がテラプロメとして大空へ打ち上げられたとして、それでもずっとそのままでいたわけではないはずだと言われてしまえば。


「じゃあこの旧市街地は」

「言わずもがな、いらない部分だった、って事じゃないかな」


「わぁ……」


 イアが引いたとばかりの声を出す。

 実際ウェズンもそんな心境なのだが、イアが先に反応したせいでリアクションをしそこねた。


「あー、ところでその、アレを見てほしいんすけど……」


 気まずそうにザインが指さすその先を見れば、崩れた瓦礫の間に何やら黒い物が見えた。


 建物の一部かと思いきや、しかしあまりのどす黒さにそこだけ妙に浮いて見えるからこそ、ザインも気付いたのだろう。ザインが気付かなくても、そのうち誰かしら気付いたに違いなかった。


 ウェズンたちから少しばかり離れた位置にあるそれに、そっと近づいてみる。

 長さはそこまでではない。建物が崩壊した際に押しつぶされてひしゃげた、と言われれば素直に納得できるだろう。

 長さは恐らくイアとそう変わらない。

 途中でへし折れたような形跡があるので、そうでなければイアよりも長いという事になる。だが異様なほどの黒さではあるものの、それが柱や建材として使われていたとは到底思えない。細すぎるのだ。

 芯のように使われるにしても、ここいらにあるビルに使われるとはとてもじゃないが思えないし、柱の中に埋め込んでいましたと言われてもどうにも奇妙に思えた。


「これ、もしかしなくても神の楔じゃないか?」

「えっ? いやでもこんな」


 アレスの言葉に反射的に否定しかけるも、途中で言葉を止めてウェズンはその黒い棒をまじまじと見つめた。


「神の楔って壊れるものだったっけ……?」


 黒ずんでいて微妙にわかりにくいが、それでもよく見ればそんな気がしてくる。

 だが、こんな風にへし折れた神の楔というものを今の今までウェズンは一度も見たことがないし、ましてや神の楔が破壊できるとは聞いた事がない。


 実際魔術がぶつかっても特に壊れたりはしなかったし、武器をぶん回して命中しても武器の方が弾かれたくらいだ。壊れる、というのがどうにも信じられない。


 壊れなくとも、神の楔に衝撃を与えた事で誤作動が起きて転移事故が発生するのは知っているが、その事故に巻き込まれたウェズンとて、そうなっても神の楔が壊れそうな状況になるか、と言われるとちょっと否定したかった。


「考えられるのはプロトタイプだったとか? 一応テラプロメでも神の楔を作り出してたから、ここに置いたのがそれだった、っていうのなら、耐久性に問題があって壊れたとしても変な話じゃないよ」


 ワイアットがそう言うも、しかしワイアット自身がその説を信じているようには到底聞こえなかった。


「え、じゃあつまり……どゆこと?」

「知るかよチビ」

「なにおぅ!? またチビって言ったな!」


 てやー! とイアがシュヴェルにチョップをかまそうとするも、悲しい事に肩甲骨に当てるのが精一杯で脳天には到底届かなかった。先程の平手打ちの時点でお察しだが。


 ウェズンも一応考えてはみるものの、正直さっぱりである。


 アレスとワイアットが無言のまま思案に暮れているようなので、ウェズンは二人がどういう結論を出すのか待つことにした。丸投げである。


 ザインはというと「おれもさっぱりっす」とか言って早々に思考を放棄しているのだが、とりあえず周辺を見回しているのでザインの事はそのままでいいだろう。何か他に発見するかもしれない。


「……とりあえず、中心部には何もないわけだから、他に移動しない?」


 先に考えるのを止めたのはワイアットらしく、そんな提案を口に出した。


「まぁ、確かにな」


 魔術で宙に浮いて移動してみたものの、中心部にあるのは大きな穴だけだ。

 穴の底に何かがある、と明確にわかっているならまだしも、恐らくは何もないだろうと思える。

 であれば、むしろこの辺りは安全とも言い難い。周辺に他に何かがありそうな感じもしない以上、確かに場所を移動した方がよさそうだ、となって。


 一同は来た道を引き返すのではなく、少しだけ瓦礫や建物の残骸が少ない方へと移動を開始したのであった。

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