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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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再会の時



 学外での課題を終えて戻ってきてみれば、たまたま教師と思しき人が台車を引いているのを目撃した。


 それだけならまぁ、別にそこまで注目するような事でもない。荷台を引くのなんて別に珍しい行動でもないのだから。

 とはいえ、それは学園以外でなら、という話でもあった。学園ここならむしろ教師がそんな事をするよりも、ゴーレムがやるのが適切なのではないか、という気がしたので。


 だからこそウェズンからしてみれば、ちょっとした興味本位だった。


「何してるんですか?」

「ん? あぁ、これから植え替え作業をするんだよ」


 服装からして多分教師だろうな、という雰囲気だったが言ってる内容が完全に用務員さんである。


「……話しかけといてなんですけど、先生、ですよね?」

「そうだよ」


 にこりと人好きのしそうな笑みを浮かべて頷くその人に、そうだよね用務員さんならその服装はちょっと作業に適してないもんな……と改めて思う。

 なんというか、いかにも魔術師っぽい服装なのである。

 ずるずると引きずりそうなローブとかで用務員としての仕事は明らかに向いていない。


「植え替えってどこにです?」

「あぁ、これらは温室から向こうの……空地にね」


 外からのを温室に植え替えるのならわかるけど、その逆という事でウェズンは一瞬「ん?」という反応をして首を傾げてしまった。

「ある程度は授業だとかで使うんだけど、数が増えてきたから。かといって全て刈り取るわけにもいかないし、空いてるところに植え替えておくのさ。それで枯れたらまぁ、仕方ないけど案外増えすぎたりしない程度に咲いてくれるからね」

「へぇ……」


 相槌を打ちながら、台車を見る。

 何かわさわさしてんなぁ、と思っていたそれは言われてみれば確かに根っこと周囲の土ごと回収された植物が大半で。

 むしろこれだけ引っこ抜かれてきたって事は今温室とやらはさぞ穴ぼこだらけなのではないだろうか。そんな気がする。


「興味あるんでついてっていいですか?」


 どうせ今日はもう課題も終わっているし授業もない。暇を持て余したウェズンは丁度いい暇つぶしを見つけたとばかりに言った。

 まさかそんな事を言われるとは思わなかったのだろう。教師はぱちくりと目を瞬かせ、数瞬考えた後、


「構わないよ。それじゃあ行こうか」


 やはりにこやかな笑みを浮かべたままそう言ったのである。


 ――空地、と言われたその場所は、学園から少し離れたところにあった。

 普段寮と学園を往復する程度でまだそれ以外の場所を移動したりはしなかったので、なんというか新鮮さすら感じていた。学園に来た時に使った神の楔はここよりも上の方にある。浮島を渡るように下りてきたから学園とその周辺をその時に見下ろしていたけれど。


 暇があるからといってじゃあこの島を探検しよう! なんて事にはならなかったのだ。

 単純にそこまでの元気がなかったというのもある。

 精霊と契約する際に学園周辺を彷徨った生徒もいたようだが、ウェズンは知らぬ間に契約されていたのでそうやって学園の周囲をあちこち彷徨う事もなかったので、特に用もなくそこら辺を散歩するにしても……といった感じで結局うろついたのなんて寮の周辺をさらっと程度だ。


「この辺りにとりあえず植えて、ある程度増えたらまた採取していく感じかなぁ……温室の方は採取するのも許可がいるけど、ここいら一帯に生えてるやつは必要に応じて採っていって構わないよ」

「そうなんですね。へぇ……」


 暇つぶしがてらついて来たものの、流石にその作業を見るだけというのもな、と思って手伝いを申し出れば、教師――ウェッジと名乗った――は本当にいいのかい? なんて破顔して、ウェズンにあれこれと教えてくれた。

 基本的に薬草の材料になるようなのがこの辺り一帯には植えられている。あからさますぎる程の毒草は流石に危険なので植えるにしてももうちょっと人が立ち入らない場所に植えているのだとか。

 必要に応じてここから採取していい、という話は流石に知らなかったのでウェズンとしてもいい事聞いたな、といった感想であった。

 とはいえ、見回せば薬草以外にも結構な勢いで普通の花も咲いている。

 人の手が入っているようには到底見えず、なんというかそれこそ勝手に生えて自生してますといった具合に見えた。


「あぁ、空いてる所に適当に植えてきたからね、気付けば随分と……もうちょっと考えて植えておけば、見た目も綺麗になったのかもしれないね」


 ウェズンのそんな視線をどう思ったのか、ウェッジは照れたような笑みを浮かべた。それでもその手は穴を掘るのを止めていない。

 ウェズンも同じように開けた場所にいくつかの穴を掘って、台車に乗っていた植物をそこそこの間隔をあけて埋めていった。


「手慣れてるね」

「そうですか?」


 そう言われてもピンとこない。

 大体穴を掘ってそこに植物を植え替えるだけの作業だ。特殊な技能が必要というわけでもないし、穴掘って埋めるだけ、というそれだけに苦戦するような事など特にないはずだ。


「そうだよ。慣れてないとね、まずどれくらいの規模の穴を掘っていいのかわかんなくてそこで時間をかける事が多い」

「そういうものですか」


 まぁ確かに、慣れていなければそういう事もあるだろう。

 ウェズンとしては前世で妹の一人がやっていた家庭菜園を手伝う時に、買ってきた苗を植えかえるのを手伝ったくらいだ。その時のノリというか感覚でやっていたにすぎない。


 ごちゃっと引っこ抜いた感じではなく、これから植え替えるというのもあってウェッジが台車に乗せていた植物の大半は根の部分も見たところ傷ついた様子もないくらい綺麗であった。なので見れば大体どれくらいの穴を掘って埋めればいいかというのもわかりやすい。

 ザクザクと小気味よい音を立てながら土を掘り、そうしてそこに植物を埋めて土をかけて穴を埋めていく。


「作業が丁寧で安心できる。受け持った生徒の中には慣れてないっていうのもあるけど、植えかえるだけでも見ててハラハラするのがいたから」

「はぁ、そう、ですか」


 何というか褒められても微妙に困る部分で褒められて、どう反応すればいいのかわからない。

 そうでしょうそうでしょう、植え替えマスターと呼んで下さい、と調子に乗るわけにもいかないだろう。これが友人同士のやりとりならちょっとおどけてそう言う事もあったかもしれないが、今日初めて見かけた教師だ。流石に初対面でそのノリはウェズンもちょっと躊躇う。


 ウェッジがもうちょっと軽いノリの持ち主ならウェズンもそれに合わせたかもしれないが、穏やかな、それこそまるで縁側で猫を膝の上に乗せて日向ぼっこしてるおじいちゃんとかおばあちゃんみたいな雰囲気の持ち主だ。ウェーイ、みたいなノリは流石についてきてくれないだろう。


 植え替えつつも何となく周囲を見る。


 そんなウェズンの様子をウェッジもわかっていたのか、作業をしながらそれは何に使う薬草で、だとかを丁寧に教えてくれた。それらを聞きつつ、ふと気になった事を問う。


「薬草以外の花は……? あの辺に咲いてるのチューリップですよね」


 春先によく見かけた花だ。それに形もわかりやすく花に詳しくない人間でも流石に名前を知ってるくらいには、知名度が高いものだとウェズンは思っている。家庭菜園の苗が売られるよりも少し早めに球根がホームセンターで売られていたりするのもあるし、初心者にも育てやすいからというのもあってか、庭のある家とかでよく育てているのを目にしていた。あとは街路樹のあるあたりにセットで咲いてたりするのも記憶に残っている。


 こちらの世界は四季というものがあるにはあるが、前世の日本と比べるとあまりはっきりしていない。

 どちらかといえば土地ごとに季節が固定されているような部分もある。

 北に行けば一年中雪に覆われているし、南の方は一年中真夏のようなところだってある。それはまぁ、前世の世界でも同じようなものかもしれないけれど。


 ウェズンの中ではもう春はそこそこ経過した気分であったから、てっきり花も開ききってるとかもう咲いてないとかでもおかしくはなかったのだが、ウェズンの視界に入っているチューリップはまだ完全に花開いた様子はなく、これからが見ごろといったものだ。

 思い返せばウェズンが住んでいた家の近くの町にもよく咲いていた気がする。


 異世界の割に元の世界との共通点はそれなりにあるものなんだなぁ……となんとも言えない気持ちになった。共通点がある事は素直に喜んでいいとは思うのだが。正直何一つ馴染みのない世界よりは、精神衛生的にマシだと思うので。


「あぁ、あのあたりのは何か気付いたら咲いてたな。別に誰が育ててるとかでもないから、気に入ったなら持ってっていいよ」


 ウェッジの言葉はあまりにもあっさりとしていた。

 えっ、そんな気軽に言っちゃっていいんだろうか……?

 そもそもウェズンは別に花とか興味はない。ないけれど、まぁ、室内に飾るとかしてもいいかな……? とちょっと思いはした。なんというかあまりにも豪華な内装すぎて落ち着かないという部分もあるので。

 なので、まぁ、見慣れた何かを飾るのもいいのでは? なんて思ってしまったわけだ。


 花瓶とかは多分ナビに聞けば出してくれる気がする。なかったらないで、代用できそうな物を用意すればいいだろう。探せば多分あるはずだ。


 それなら……という事で植え替えを終えてからウェズンははさみを借りてチューリップをいくつか切って持っていく事にした。


 全部同じ色はな……と思ったので目についた範囲で違う色を数本。

 よく見る色はさておき、珍しい色合いのがあったのでそれも持っていこうと思ったものの、そちらはやけに距離をあけて咲いていたので一本だけにした。

 まぁ、他の色の中に一つだけ変わった色があってもそこまでおかしな事にはならないだろう。多分。


 普段花なんて飾らないタイプなので、見栄えだとかそこら辺は完全に考えていないしとりあえずパッと見そこまでおかしな感じじゃなきゃいいや、とかいう雑な判定である。


 そうしてはさみをウェッジに返して、ウェズンは寮へ戻ることにした。ウェッジは他にもやることがあるらしく、更に先へ進むようだ。

 暇つぶしにまだついていってもいいかな、と思ったものの既にチューリップを切ってしまったので、さっさと戻って花瓶にでも入れておくべきだろう。リングの中に収納すれば別に問題ないのだがなんというかそのままうっかり忘れそうな気がしたので抱えて持って帰って、すぐに部屋に戻って飾ろうと思ったのだ。


 花とかガラじゃないとか言われそうだなぁ……なんて思いながらも、別に誰が部屋に来るわけでもない。途中で誰かに見られても、わざわざ絡んで来るようなのもいないだろう。



 そう思って、寮へ戻ってきてみれば。


「みつけた。みつけたわ……ここで会ったが百年目よ……!」


 そんな声が背後からかけられたのである。

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