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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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初心の勝利



 レイとシュヴェルが番人と戦っていた頃、ウェズンとファラム、そしてイアも自由に動いている番人と遭遇していた。

 神の楔に宿っている番人であればこうまで自由に動いているはずもない、と思った三人はともあれ戦闘態勢に移り倒す事に成功した。

 一人で遭遇していた場合負けて最悪死んでいた可能性もあるが、しかし三人いたがために連携を上手く取り合って倒す事ができた。そういう意味では運が良かった。

 大きな怪我をする事もなく。全員無事である。


 倒した後、他の場所にももしかして同じように番人がいるのではないか、と思ったものの、モノリスフィアで連絡するよりもまずは急いで教師に報告をする事を選んだ。

 仮にメッセージを入れて注意喚起をしたところで、既に遭遇している場合モノリスフィアを見る暇がない可能性が高く、またそのせいで他の誰かの意識を逸らして危機に陥らせる可能性も充分に存在していたからだ。


 勝ち目がないと判断して隠れてどうにか逃げようとしていた矢先にモノリスフィアからのメッセージが届いた音なんてものが出れば、隠れた意味すらなくなってしまう。

 これが学外へ魔物退治に出かけている時なら音が出ないマナーモードにしている事も有り得たが、学園の敷地内の場合そうしている方が少ないだろう。授業中ならともかく。


 なのでウェズンたちは大急ぎで教師の元へと駆け込むべく、校舎へと向かっていた。


 そんなウェズンたちが番人と戦った場所から少し離れた場所で、たった一人で番人と対峙している者がいた。


 イルミナである。


 うっかりモノリスフィアから通知音が鳴ろうものなら、一瞬注意がそれて危険な状況に陥ったかもしれないが、幸いにしてその展開はなかった。

 けれども、それだけだ。


 周囲に誰かいるような気配はなく、イルミナはただ一人だけで番人をどうにかしないといけない状況である事にかわりはなかった。

 戦うにしても逃げるにしても。

 どちらも厳しい状況であるのは確かだ。


 最初は逃げようかとも思ったが、しかし思いのほか素早かった番人に回り込まれ、逃げ道を塞がれてしまった結果戦う事を余儀なくされた。

 救いだったのは、魔術や魔法がそれなりに通用するという事だけだ。


 もし物理攻撃しか効果がない、なんて事になっていたのなら、間違いなくイルミナに勝ち目はなかっただろう。

 一応彼女もある程度武術は授業で教わっているとはいえ、それだけを頼りに戦うのであればジリ貧になるのは確実で、そうなれば負けは目に見えていた。


 だが、いくら魔法が通用するといってもそれでも厳しい状況だった。

 番人の耐久力がイルミナの想定を軽く上回っていたからだ。


 イルミナはこれでも魔女の血を引いているので、魔法や魔術が全く駄目、というわけでもない。

 まぁ、魔女には向いていないと身内が判断していたので、魔女といっても落ちこぼれであるという部分は否めないが。


 最初は魔術をマトモに使えなくて、苦労をしたりもしていた。

 それでもウェズンを師と仰ぎ、彼の助言を受けながらもコツコツと努力を積み重ねていった結果、魔女というにはちょっと……と思われるところから、半人前くらいにはなれたのではないかとイルミナ本人は思っている。


 一人前の魔女、と自分で名乗るのは、流石にまだ無理だと理解はしているのだ。


 それでも、イルミナの母の友人でもあった妖精たちから借り受けた妖精魔法……というか悪戯魔法によって、イルミナもそれなりに魔女としての道を着々と歩んでいた……はずだ。

 最初はどうすればいいのかわからなかった悪戯魔法も、クラスメイト達の助言によってどうにか使いこなせるようになってきたし、基礎はともかく応用が苦手なイルミナにとってそれは大きな一歩と言っても良かった。


 ところがその悪戯魔法が、番人相手には全く通用しなかったのである。


 落ち着いて考えてみれば当然だった。


 悪戯魔法は人間相手に使う事を想定されているのだろう。魔物あたりでも使い方次第では効果を発揮するとは思うけれど、どうしたって人間相手の方が効果を発揮しやすい。

 番人は一応人の形だけはしているが、しかし中身まで人間かと問われると違うとしか言いようがない。

 それ故に、対人間用の魔法を使ったところで、そこまでの効果を発揮できないのだ。

 一時的に動きを止めるくらいはできるかもしれない。けれどもそれだけだ。

 悪戯の使い方次第では人間相手だとうっかり死ぬ事もあるけれど、番人相手にその結果を期待するのは難しい。


 ならば、と普通の攻撃魔法や魔術を使ってみたもののしかしそれらも思い切り通用するわけじゃない。

 相手もある意味で魔法生物だ。だからこそ、無防備に敵が放った魔法を食らうなどという事もなく。


 炎の魔術は水で打ち消され、氷の魔術は炎で溶かされる。

 そうやって発動させた術は適切に処理されてしまって、どれだけ攻撃を仕掛けても中々決め手にはならなかったのだ。

 時折それでも攻撃が命中する事もあるけれど、しかしその一撃は決定打にはなり得ない。

 攻撃が全く通用しないわけではないから、勝ち目がないわけではないけれど、しかし現状その勝ち目はあまりにも可能性として低いものだった。


 誰かがこの場にやってくれば、もしかしたら打開策が見つかるかもしれない……


 だがしかし、助けを求めようにもそんな余裕はイルミナにはないし、大声をあげて誰かを呼ぶにしても、結果誰も来なかったら余計な隙を作るだけになる。

 頭上に向けて魔法を一発ぶちかませば誰かが様子を見に来るかもしれない……が生憎と学園があるこの島では割とそこかしこで何かしらの騒動が起きているのもあって、なんだまたか、で済まされる可能性もある。

 その場合魔力の無駄遣い、魔法の無駄撃ちである。


 ダメ元で助けを求めるために無茶をしたとして、助けが来る前にイルミナが倒される可能性の方が高いとなれば、イルミナとて自分の命を犠牲に周囲に助けを求める、という選択肢を選び取る事ができなかった。自分の命はやはり惜しい。


 このまま一人で戦っても負ける可能性もあるが、逃げに徹するよりも戦う方がまだ生き残れそうだ、と自分の勘が囁いていた。

 その勘が、アテになるかは別として。


 いっそもっと派手に魔法をぶちかませば誰かが気付いてくれるかもしれない。

 最初から誰かに知らせるために上空に魔法を放つよりは、まだマシな気がする。



 ――そう考えて、一人で戦う事数分。


 若干押してはいるけれど、しかしやはり決定打には至らない。

 このままだとジリ貧になるんじゃないかしら……という結論に至る。


 今通じている攻撃は、相手が防ごうとしたもののそれらをすり抜けるか、攻撃を弾いたがその勢いで掠った時に……といったものだ。あまりにもちまちまとしたものでしかない。


 これがまだ続くようなら、魔力切れを起こすだろうし、そうなればイルミナはどうにかして逃げるしかない。逃げられなければその時点で終わる。

 魔力など気にせず攻撃し続ける事ができればいいが、生憎そうはならないし、であればあとイルミナが攻撃を仕掛けられる回数にも限度がある。


(あと数回の攻撃でこの場を切り抜けないと……!)


 そう思ったところで、いい案がすぐに浮かぶはずもなく。

 番人が仕掛けてきた攻撃をどうにか躱してこのまま逃げる方向にどうにかした方がいいのでは……? と何度目かの考えがよぎる。

 だがイルミナが逃げようとすると番人が察知するのか、徹底的に防がれるのだ。

 そのせいで逃げるにしても難しく、結局戦って勝つしかない、という結論に辿り着く。


 だが勝つにしても……という状況だ。


(せめて相手に攻撃を防がれずに直撃できれば……)

 そう考えても、それが都合の良い話である事にかわりはない。

 そのためにどうするか、と考えても自分一人だけでできる案が浮かばない。


(せめて他に何人か……いえ、あと一人、私以外に誰かがいれば……)


 ひょっこり誰か通らないだろうか。

 そんな場合じゃないのはわかっているが、どうしたってそんな考えがよぎる。

 現実逃避と言えなくもないが、もしここに自分以外に誰かがせめてもう一人くらいいれば、協力して何とかできたかもしれないのに。


 来るかもわからない助けを待っていても仕方がない。

 わかっては、いるのだ。


(あぁでもせめて――)


 こんな時、他の皆ならどうしただろうか?


 考える。


 イアならきっと武器を使って魔力の糸で相手を封じるか、はたまた足場を作って番人から逃げるルートを新たに作り出せたかもしれない。

 レイだって魔法が苦手でも、あれだけのフィジカルなら逃げる事も可能そう。

 ファラムやウィル、アレスもなんだかんだ自力で切り抜けられそうな気がする。

 ルシアは……なんか負けそう。

 ヴァンは……どうだろう。瘴気濃度が高い場所じゃなければどうにかできそうな気がする。


 ウェズンであれば……


「あ」


 色々と他の人ならこの状況をどう切り抜けるかを考えていくうちに、最後にイルミナが師と仰ぐ相手に辿り着く。

 彼であれば、きっと何だかんだどうにかしてそうだな、とは思ったけれど、しかしそうではない。


 魔術がまだあまり得意ではない、どころか苦手だった頃、ウェズンによってイルミナはどうにか魔術もそれなりに扱えるようになってきた。

 その後も何度か助言をもらっていたし、イルミナにとってウェズンはこの先もずっと師であるのだ。


 そんな師の言葉をふと思い出す。


「正確に魔術を相殺してくるっていうのなら……これならどう!?」


 ――まぁ、たまには初心に返るのもいいと思うよ。


 何かの折にそんな事を言われて。

 あぁそうだ、あれは妖精から貸し出された悪戯魔法の使い方に慣れてきた頃だ。

 すっかり悪戯魔法ばかりを使っていた時に言われたのだ。


 あの時は確かに、と頷いた。

 妖精たちは貸してやると言ったけれど、いつまで、とは言っていなかった。

 まだ当分貸してくれるとは思っているけれど、しかし同時に今から返せと言われる事だってあり得るのだ。


 もしそうなったなら。

 すっかり悪戯魔法ばかりを使うようになってそれがなくなったなら。

 普通の魔法や魔術を悪戯魔法を使う以前のように使いこなせなくなっているかもしれなかった。


 ウェズンとしてはそれを危惧して言ってくれたのだろう、とはイルミナも思う。

 けれどその言葉は、今は別の意味で捉えた。


 最初の頃、イルミナがまだ魔術が苦手だった頃。


 発動こそすれど、何がどうなってか泥みたいな闇なのだ。どの属性の魔術であっても。


 炎の術を使おうとしても。

 氷の術を使おうとしても。

 風の術も、地の術も。

 光も、闇も。


 いずれも等しく泥ついた闇。


 どぉん……! と鈍い音が響く。

 番人がイルミナの術を防ごうとして、しかし直撃した音だった。


 相反する属性であればさっきまでと同じように相殺されていただろう。

 そうじゃなかったとしても、多少威力を抑えられていたかもしれない。

 だが、同じ属性であったなら。

 番人に向かった攻撃と同じ属性の術。

 番人の方が圧倒的な威力であったなら、イルミナの術をかき消したかもしれないが、そうではなかった。番人は相殺するために術を発動させていたので、それ以上の威力の術を……とはならなかった。

 結果として、同じ属性であったがために。

 番人のすぐ近くで二つの術が合わさって、結果番人はイルミナの術と番人自身の術までをも食らう形となったのだ。



「よしっ! 通じる!」


 そう理解した時点でイルミナはかつて、あれだけどうにかしなければと思っていた術のまま、立て続けに発動させる。

 番人はそれらを相殺しようとしたものの、しかしどの属性の術かすらわかっていないせいで何発かは威力を抑えられたものの、それ以上に自分の術と合わさって威力が増したそれらをモロに食らっていた。


 かすり傷程度でしかダメージを与えられなかったのがあったからか、もっと頑丈かと思っていた番人はしかしそこまでではなかったらしい。


 何発かの攻撃を叩き込んだ時点で――


 ドゥ……! と大きな音を立てて、番人が倒れ、直後、全体に亀裂が入る。


 倒れた時とは打って変わってパキンと澄んだ音を立てて、番人は消滅したのである。

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