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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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わかりきった話



 新入生のない年。

 去年まで行われていた授業のいくつかは消えたし、交流会だってその中の一つだ。

 挙句に神前試合の前倒し。


 今年は今までとは明らかに異なりすぎているとは理解していたけれど、その変化に当たり前のようについていけるわけではない。

 突然今までよりは比較的平和な催しをやると言われても、学園の生徒たち同様学院の生徒たちも悩みはしたのだ。


 学園祭をやるっていうなら、じゃあ客として参加してもいいのかな……?

 でも別に命のやり取りはしないんだっけ?

 っていうか、こんな平和的なイベントとかほんとにやるの? 罠じゃなくて?


 そんな風に疑う者も勿論いた。


 ただ、ほぼ同じタイミングで学院も同じく学院祭を開始すると教師に言われてしまったので。


 別に何かを競い合うとかではないんだよね……?


 と学院の生徒たちも大いに困惑しながらも、それなりに楽しんで準備をしたり当日を満喫してはいたのだ。


 ちなみに催しの大半は学園とそこまで変わりはない。

 場合によっては外部からの客もくるから初っ端殺しにかかるようなものは禁止と言われていたので、そうなると大体学園側と似たり寄ったりな内容になってしまうのだ。

 若干の違いはあれど、大まかに見ると大差ない。


 その違いを楽しめばいい。

 そう割り切って、学院の生徒たちも突発的とも言えるイベントをなんだかんだ楽しんではいたようだ。



 クラスの展示は大体どこもあっさり決まったけれど、悩んだのはクラブ側だ。

 学院が崩壊して学園がある島に間借りした状態でもある今、以前と色々と勝手が違っているのが現状である。


 空間拡張の魔法によって校舎は前とそこまで変わらない広さになったけれど、敷地という点では以前よりも縮小されている。なので、部活動に関してもちょっとだけ揉めたりもしていたのだ。

 何せ学院では部活に使う教室はこうして強制的な引っ越しをする以前であっても、特に余っていなかったので。

 部室を共有する部活はまだマシな方で、場合によっては部室を得るために戦って勝ち取るみたいな事もあったくらいだ。


 学園では教室はいくつか余っていたくらいなのに学院で余っていなかったのは、それだけ学院側の方が部活や同好会の立ち上げが多かったからというのもある。

 部室がないかわりにグラウンドの使用権だとか、邪魔にならない場所でテント張ってそこを部室代わりに、なんてやってるところもあったのである。


 だが、そんな前と同じノリでここでテントを張っての部活動は流石に問題がある。学園の生徒がいるからだ。

 ここで下手に領土問題みたいないざこざを起こせば、各々の教師たちからお叱りを受ける可能性があるし、教師すっ飛ばして学園長や学院長が出てくるかもしれない。


 神前試合が終わったのにまた神前試合みたいな殺し合いをするにしても、それはどちらにもメリットがなさすぎたのだ。そりゃあ、部活動に使える土地が増える、と考えたら一部の者にとっては利点かもしれないが、それと同時に上からお叱りを受けるという事を考えるとやっぱり得策ではない。

 お叱りだけで済むわけがないのだ。下手をすると課題が馬鹿みたいに出される。

 得意分野ならまだしも、大体にしてそういう時は苦手分野を山盛り出されると知っている生徒たちからすると、そうまでして揉めて土地を奪い合う流れはできれば避けたかったのだ。


 率先して自分から学ぶならまだしも、やりたくないなぁ苦手だなぁと思ってる分野の課題をどっさり、とは考えるだけでも憂鬱である。


 なので大まかに学園側とやってる事は変わらなくても、学院側はなるべく場所をとらないように工夫していた。

 大がかりなものはないが、その分趣向を凝らしたところもあっていざ見回ってみれば意外と楽しめる仕様になっていたのだが……


 そんな中、とある同好会の出し物はちょっとどうかしていた。


 毒物作成チャレンジ! とどこからどう見てもアウトにしか思えない文字がカラフルかつポップに記された看板と、いくつか並べられた長テーブル。その上には見知った食べ物が並んでいる。

 材料だけを見れば毒物とは無縁である。


 チャレンジはまだしも、その作ったブツをどうするつもりなのか。

 成功か失敗かの基準は。


 そんな疑問を抱きながらも、イアはその催しに足を運んだのだ。

 何故って、モノリスフィアでお誘いを受けてしまったから。


 誘ったのは言うまでもなく学院の生徒――ワイアットである。

 ガチでバチバチな殺し合いをしていた言わば敵対校からのお誘い。

 普通に考えたら危険である事は間違いない。

 いくらそれなりに緩和されたといってもそれは極最近の話であって、まだ禍根もしがらみも残りまくっているような状況だ。


 それなのにのこのこと出向くのは危ないのでは……? と思うのも仕方のない事だろう。

 実際、学院側の催しを見に行く学園の生徒たちは単身で乗り込むというよりは、複数で警戒しつつも足を運ぶ者たちが多かった。

 出し物を見にいくだけで学院側の生徒も初っ端から攻撃を仕掛けられない限りは学園の生徒に手を出す事はない、と言われてもまだ完全に信用できない状態なのだ。


 けれどもイアは単身で行った。

 というかここから先は学院の区画、学園と学院の狭間みたいなところに迎えを寄こしておくから、とワイアットからモノリスフィアで連絡されて、できればあんまり行きたくないなと思いながらも、それでも若干の好奇心に従って足を運べばそこにはアンネが待っていたのだ。


 イアはアンネの事を嫌ってはいない。

 ただ、かつて、学院に潜入した時にやけに気に入られてしまったらしいという事と、その後自分が学園の生徒であると知られたせいでよくも騙したな、と恨まれているのではないだろうかと思ってできる事なら極力関わりたくはなかったのだ。

 イアにアンネを騙す意図がなかったとしても結果的にそうなってしまった事は確かな事実だし、であればいくらあの時はそんなつもりがなかったと言ったところで、アンネからすればそんなものは言い訳にしか聞こえないだろうし。


 まぁ仮にわだかまりがあったとしても、先の神前試合で吹っ切ったと思いたい。


 神前試合に参加したイアを大層苦しめてくれたのは、間違いなくアンネである。

 見た目から全然凄そうには見えなくても、ワイアットと平然とつるんでいるような相手だ。見た目はさておき中身が普通であるはずもない。


 地味で平凡で、間違いなく学園や学院の外で見かけても記憶に残らないだろう外見だが、中身は劇物みたいな存在である。

 彼女の魔法薬と魔術や魔法を組み合わせた攻撃は相当手を焼いたのだ。イアの武器が遠距離からの攻撃もどうにかできたから何とかなった部分もあったけれど、近接武器しかもっていなかったら間違いなく早い段階で潰されていた。


 もう終わった事と思っているのか、やけに上機嫌なアンネに手を繋がれて連れられていったのもあって、学院の生徒たちはイアを見てもなんだか不憫な生き物を見るような目を向けてくるだけで、絡んでくるような事はなかった。


 なので道中危険な目に遭う事はこれっぽっちもないままに、ワイアットの所へたどり着いてしまったのである。



「毒物って言っても普通の食材しかなかったんだろ?」

「そだよ。実際に毒を使うとなると一般のお客さんが来たら危ないから」

「あ、そういうところはきちんとしてるんだ」


 学園に襲い掛かってくる光景を思い返すと最低限のルールさえ守っていれば後はどれだけえげつない作戦を実行しようとも問題ないと考えてそうなイメージがあるが、別にそんな事はなかったのだとちょっと安心する。

 まぁ、一応勇者としての肩書を背負う形になっているのだ。敵ではない一般人相手にまでそんな殺意の高さを見せたりはしないという事か。


「で、その、普通の食べ物しかないわけだからさ、それで毒って言われても……って話でしょ?」

「まぁ確かにな。一応、野菜の中には微量の毒を含んだ物もあるし店で売られてる事もあるけど、微量すぎてその毒だけでどうにかするためには馬鹿みたいな量を摂取しないといけない、なんてくらいだからな……微量の毒成分を抽出して濃度を高めるとかすれば……いやでも一般家庭でそれやるのは無理がありすぎるな」

「うん、だからね、どっちかっていうといかにして不味い組み合わせの料理を作るか、みたいな流れになりつつあったの。少なくともあたしが行った時はそう」


 言われてみれば、まぁわからないでもないのだ。


 野菜に含まれた苦み成分とか、辛み成分だとかを極限まで出し切って更に何か……人体に悪影響だと本能的に身体が忌避するレベルまでやらかせばもうそれ毒みたいなものだろ、とはなるけれど、まずもって一般的ではない。学院でそういった機材を用意して実行できなくはないと思うが、流石に大仰すぎる。


 かといって単純に腐った物を出すにしても、見た目やにおいで一発でバレるようなものを出されたところで果たして誰が口にするというのか。こっそり混入させるにしても、物によってはバレバレである。


「そこで用意されてた食べ物の中に、さも食べられますよって感じで毒キノコとかあったりは?」

「流石にないよ。だって誰の口に入るかわかんないんだよ? 生徒が自爆するだけならまだしも、足を運んでくれた一般客が被害に遭ったら大問題じゃん」


「ま、そうなるか」


 そう言われると、イアが招待されたそこは思っていたより安全そうだった。


「ん? じゃあ別にそこまで賑わったりしてなかったからイアが呼ばれたって事か?」

「そうだったらよかったんだけどねぇ~」


 イア曰く、大層賑わっていたそうだ。

 大盛況と言ってもいい。


 何故なら審査員は毒耐性のある者が担当していて、参加者はいかにして審査員を打ち倒すかに執念を燃やしていたらしいので。


 そして審査員の一人にワイアットがいたのだ。


 それを聞けばウェズンもアレスも「あぁ~」となんとも言えない声を出して納得するしかなかった。


 ウェズンにとっては未だによくあれに勝てたな、と思っている。神前試合で皆がいたからどうにかなったようなものだけど、あれがタイマンでの勝負だったら負けていた。不意打ちや卑怯な手段を思いつく限り実行したところで一対一なら負けていたのだ。というか神前試合が終わった今でもよく五体満足で生き延びられたなと思うくらいだ。


 ウェズンからすればもう次はあいつと戦いたくない……と割と切実に訴えたいくらいの出来事だった。

 ウェズンにとってはそういった意味での厄介な人物だからこそ、であったがアレスは少し違う。


 彼は元々学院の生徒であった。

 本来ならばワイアットは味方であるはずなのだ。

 ところがワイアットは最早人類にカテゴライズするよりもワイアットと言う名の生命体だと思った方がマシなレベルでどうしようもない生き物なので。


 味方のはずであろうとも、割とその時のノリや勢いで殺しにかかってくる事もあった。

 アレスはそれなりに実力があったからどうにかなっていたけれど、それでも一度リングを奪うためだけに手首を切り落とされている。即座にリングを回収されて、切り落とされた手首は治癒魔法で治されたけれど、治ったからいいってものでもない。

 顔を合わせるたびに蒸し返す程のものでもないが、とりあえず根には持っている。


 アレスは一応五体満足無事ではあるが、だからといって他の生徒たちがそうだったか、となると別の話だ。

 強者であるワイアットのそばにいて己の安全を確保しようとした者であっても、ワイアットはわざわざ守るかというとそうでもない。邪魔にならない程度なら多少の庇護も与えるが、邪魔になりそうなら自らの手で切り捨てるタイプだ。


 あとは面白半分で喧嘩吹っ掛ける事もよくある話だったので、学院の生徒たちがワイアットに向ける感情は恐れや畏怖といったものが多く、友好的なものは少ない。


 だがしかし、ワイアットがそうだからとてではこちらから仕掛けてあいつ潰そうぜ、となったとしてもだ。

 ワイアットが強すぎて成功しないのである。それどころか下手をすればそうやってちょっかいかけた時点でワイアットに存在を認識される。そうなると最悪だ。

 陰湿な虐めの方がまだマシに思えるレベルで死にそうな目に遭うのだから。

 周囲に助けを求めようにも先に手を出した以上は誰も助けてはくれない。

 仮にこちらから手出ししなくたって、助けがあるかは微妙なところなのだが。



 ともあれ、こういったイベントで堂々とワイアットに嫌がらせができる、と察した学院の生徒たちはこぞって参加したのである。

 お前どんだけヘイト集めてんだよ……とウェズンは危うく突っ込みそうになった。


 まぁ彼の場合は波風立てないようにするどころか自ら嵐を起こしにいっているようなものなので同情は全くできない。



 参加者の数があまりにも多いために、そこでのルールとしてはシンプルだった。

 提出物を審査員が摂取するのは精々一口。場合によっては二口か三口の場合もあるかもしれないが、参加者が多すぎるのもあって出された物全てを胃袋におさめるのは不可能と早々に判断されたからこその追加ルールだ。


 つまり、一口目で相当なインパクトを叩き出し、ワイアットをノックダウンさせる事が求められたのである。


 一品一口。食べきれなかったのはどうなるかというと、一応リングに収納されて後日消費されるらしい。


 捨てます、とか言われていたら流石にウェズンも食べ物で遊ぶなと後日ワイアットと会った時に言ってしまうかもしれなかった。


 まぁ結局、そうやって作られた品々をワイアットは「うわマッズ」の一言で終わらせたりしていたようなのだ。


 食べ物にしろ、飲み物にしろ。


 他の審査員たちがダウンしていようとも、ワイアットだけが一切変わらぬまま。


 ちくしょうあいつにもうちょっとでもダメージを与えられないのかよ! と彼に恨みを抱いた生徒たちも叫んだのだとか。

 そこに参戦したのがイアである。


 結果は言われるまでもない。彼女が抱えているトロフィーで一目瞭然だ。


「……ワイアットもね、調理過程に何ら不審な点もないのになんでこんな事になるんだ……って不思議がってたよ」

「まぁそうだろうな。正直それは皆思ってる事だと思う」


 深掘りしてみたところで、やっぱり予想通りだったな、という感想に行きついて。


「で、急遽用意されたトロフィー抱えて戻る途中で、なんか知らない人に絡まれたんだけどさ」

「おっと、今までのは前置きだったか」

「絡まれた割にこうして合流した時点ではいなかったって事はそこまでオオゴトになってはなかったんだろうけど……聞くだけ聞こうか」

「うん。聞いておにい。あたしもちょっと納得いってないからさ」


 割と大抵の事はさらっと流すイアにしては、珍しい反応だった。

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