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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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見えてる地雷



 ――結局学園祭と言っても、なんというか外部からの客というものはほとんど来なかった。

 お知らせしていないわけでもなかったが、いくつかの結界が完全解除されたといっても長年瘴気濃度によって他所に移動する事を控えていた者が、急に自分の行動範囲を超えて活動するのは難しいというのもあったのだろう。

 学園がある島は瘴気濃度問題はないのだが、それでも今の今まで一般人が足を踏み入れる機会はほとんどなかったところだ。学生から話を聞いたとしても、やはりどこか遠い世界のような認識だったのかもしれない。


(まぁ、考えてみれば魔物と戦ったりできる程度に鍛えられてる連中が大勢いるわけだから、前の世界で言うなら軍隊を見学するみたいな感じなのか……?

 そういうツアーならともかく一人で行ってこいってなったら確かに尻込みするよな……)


 そうでなくとも、急に決まったようなもの。

 一応ちらほらと外部から来たであろう客がいないわけでもないが、やはりウェズンの思い出にある学園祭の一般開放日に来た人数と比べると大分少ない。


 生徒の親とか授業参観のノリで来るかと思いきや、そちらもそこまでではなかった。


(考えたら、それもそうかってなるな。僕はもう今更だから開き直れるけど)


 実年齢こそ異なれど、中学生か高校生くらいの精神年齢してるだろう連中だ。クラスメイトに親と一緒にいるところを見られて揶揄われるのも、逆に親が友人に親しくいつもお世話になってます~とか言い出されるのも、避けたい気持ちはあるのだろう。


 そのせいで一般開放日のはずが、実際そこまでそういう感じではない、というオチがついているわけだが、その分のんびり見て回れるのでまぁいいかと思い直す。


 ウェズンのクラスでトラップハウス作ろうぜ、なんて事になっていたものだから、他のクラスもさぞ物騒方面に振り切るのだろうなと戦々恐々としていたものだが、しかし実際当日になってあちこち見回ってみれば、思いのほかそうではなかったと知る事ができた。


 確かになんていうか、ちょっと物騒な出し物は他にもあったけれど、いくつかはウェズンの前世でも当たり前のように存在していた模擬店らしきものも存在していた。


 ただ、焼きそばとかクレープとかあとは……たませんあたりだろうか、そういうB級グルメにぶちこまれそうなメニューではなく、どこぞの郷土料理みたいなものが多かったのだが。

 聞けば神の楔で世界各地を移動できるといっても、それは結局浄化魔法が使える人物に限られてくるし、なおかつ浄化魔法がそこまで得意じゃなければ下手な場所に行けば帰る事が困難な場合もある。

 だからこそ、どれだけ世界を自由に移動できるといっても実際それを最大限有効活用できる者というのはそういなかったわけで。


 それに食堂にはかなりのメニューもあるけれど、それでも故郷の味がない、という事もあって。


 じゃあいっそ広めるか! となったらしい。

 クラスでの出し物ではなく同好会でもいくつか似たような成り立ちで模擬店やってるところがあった。


 ただ、まぁ。


 回転率を上げてより多く売ろうというよりはあくまでも我が故郷の味をお試しあれ! というのが強めなので思っているより繁盛している感じではなかった。


「仕方ないんじゃないか? 胃袋には容量の限界が存在する」

「そうなんだよね。テイクアウトしてアイテム収納するのもなんか違う気するし」


 ウェズンたちのクラスはトラップハウスを作り終えた時点で当日はもうゴーレムに管理を任せる事になったので、全員が思い思いに行動している。

 別に示し合わせたわけでもなかったが、気付けばウェズンはアレスと共に行動していた。


 最初ウェズンはファラムを誘おうかと思っていたのだが、それよりも早く他の友人たちに連れられていってしまったのだ。ファラムが。


 デートの機会が潰れたな、なんて言うアレスにお前はどうなんだよと言えば、最初からそんな相手はいないと返されてしまって。


 思い切り気まずいわけではないけれど、それでもなんとなく微妙な空気が流れた結果なんとなくで一緒に行動する流れになってしまったのである。


 ぶっちゃけると危険そうな出し物に参加するつもりはこれっぽっちもない。

 そうなれば行きつく先はほとんどが模擬店である。

 回転率の早い店ではないためか、料理が提供されるまでそこそこ時間がかかって、食べ終わるのもそれなりなので時間を潰すという点では丁度いいのかもしれない。



「そういえば学院側も一応出し物やってるんだっけ?」

「そうらしかったな。正直興味がない」

「ないんだ……」


 この手の催しにもうちょっと興味持って盛り上がるべきなのでは……? とも思ったが、恐らくやってることはこちらとそう変わらないのだと思うとまぁ、確かにそこまで興味は持てないか……とウェズンも納得してしまった。学院に仲のいい友人でもいれば話は別かもしれないが、そこまで仲が良いかと言われると……となるので。


 一応話をするくらいの、言ってしまえば顔見知り程度の相手はいるけれど、そういう相手しかいないのにそちらの催しにいそいそと参加を決めるかとなると……まぁ、余程の陽キャじゃないと無理じゃないかなぁと思うわけで。


「そうでなくともあっちは俺の事を良く思ってないだろうしな」

「…………あー、うん。そう、かも……ね?」


 そう言われてしまうとなんとも言えない。


 確かに以前アレスは学院にいたから顔見知りとか友人と呼べそうな相手はいたかもしれないけれど、しかしワイアットの取り巻きと化していたであろう数名をぶち殺してこっちにやって来たのだ。

 言ってしまえば裏切り者。

 下手をすれば学園側からも学院側からも敵として狙われたっておかしくないわけで。


 ウェズンにとってアレスは自分の敵として明確にガチなバトルを繰り広げたわけでもないので、話が通じる相手と認識しているが、学院側の目線で見ればまぁ、ウェズンと同じ認識は難しいだろうなと理解はできる。

 というかウェズンからしても、またいつ裏切るかもわからない相手とみなしたっておかしくないのだ。


 といっても、ジークがこちら側にいる以上はそうならないだろうなと思っているからそこまで警戒する必要もないと思っているけれど。

 ウェズンがジークとそれなりに良好な関係を築いているからこそ、アレスは敵に回る事はないと思っている。

 だが、ジークとは単なる生徒と教師の関係でしかない他の生徒であれば、アレスは確かに信用ならない奴なのかもしれない。


「……色々と複雑なものだね」

「そんなものだろ」


 別に慰めようと思って口にしたわけではないが、アレスはちょっと達観しすぎではないだろうか。


(まぁ、前世の世界と違ってこっちは色んな危険があるからその分嫌でも大人になるしかなかった、ってのもあるのかなぁ……?)


 どっちがいい、とかではないのはわかっているけれど。

 それでも、もうちょっとこう、若さゆえのノリと勢いがあってもいいんじゃないか……? とはどうしたって思ってしまうわけで。

 ただそれを言われたところでアレスだって困るだろう事はわかっているから、あと少し残っていた料理を食べきるためにウェズンは会話を打ち切った。


 そうして黙々と食べ終えて模擬店から出た後は、別の模擬店で気になった所へ入ってというのを何度か繰り返して。



「あっ、おにい!」


「イアか。どうした?」


 ててて、とウェズンの姿を見かけて小走りで寄ってきたイアに思わずウェズンは足を止めていた。

 隣を歩いていたアレスも二歩遅れて立ち止まる。


「いやちょっとまて、ホントにそれどうした?」


 イアが手に持つというよりは抱えていた物を見て、怪訝そうな顔をする以外何ができただろうか。

 イアはやたらとでっかいトロフィーのような物を持ったまま移動していた。


「これは、なんていうか……優勝したって事らしくて」

「優勝?」


 体験型の展示にでも行ってきたという事か、と雑に納得しながらも、しかしはて、優勝とかそういうのあったっけ? とも思う。


 ウェズンのクラスのトラップハウスもそうだが、他のクラスの似たような展示に関しても、参加してクリアできたからと言って別段何か凄い景品が出るとかではない。

 最速クリアや芸術展の高いクリアとか、スコアとしては残るが優勝だのなんだのというものはなかったはずだ。

 あったらあったでもうちょっと賑わっていたかもしれないが、仮にそういうのをやった場合優勝しそうな奴が最初から目にみえていたというのもあって、あえてそうしなかったのだ。


 そのかわり、と言ってはなんだがクリアまでの時間やその他の芸術点だとか技術点といったものをスコアとして得点の高い者の名前を貼りだす事にしてある。

 それなら本来さくっと優勝しそうな相手とは別の方法で高得点を獲得できるかもしれない、となった次第だ。


 最高得点をとった者が優勝といえばそうなるが、しかし別に優勝賞品だとかは用意していない。

 スコア次第では学園や学院内で今後もちょっとくらいは自慢できるかもしれないね、といった細やかなものでしかない。


 なので、優勝トロフィーみたいな物を抱えているイアは、逆に目立っていた。


「リング収納とかしないのか、それ」

「えっ、うーん、実のところ結構容量が一杯になってきちゃってさぁ。だからこれ入れるのちょっとなーって」

「それで持ち運んでるのか……」


 まぁ、他のリングに収納しているアイテムとを比べてそのトロフィーをどうしても収納しないといけない、と考えるだろうかとなると……

 ゴミしかないとかいうのならまだしも、イアの場合は流石にそこまでいっていないだろうし……そうなるとトロフィーのスペースを作るために他のアイテムを処分という事もしなさそうだ。


 けれども流石にこんなでっかいトロフィーをそこらに捨てていくとなると、誰が捨てたか即座にバレる。

 だからこそこうして抱えて移動しているというのは理解できた。


 恐らく一度寮に戻って自室に置いてくるとか、そういう事なのだろうな、と自己完結はできた。まさかこちらにそれを押し付けるとかはしないだろう。


「で、何の優勝なんだそれ」

 トロフィーに視線を向けても、特にこれといった文字が記されてはいなかった。

 下の方に〇〇大会優勝! みたいな事でも書いてあればわかりやすいが、そういった文字は一文字も記されていない。これから文字を刻むのだと言われたら納得しそうなくらいシンプルなトロフィーである。


「毒薬調合コンテスト」

「ちょっとまって」


 思わず片手をバッと前に突き出すようにしてマテという姿勢をとる。


 やってたかなぁそんな物騒なコンテスト。

 そんな思いをこめてアレスを見れば、アレスはそっと首を横に振った。


 そうだよな、やってないよなそんな物騒な代物。少なくともやってたら記憶に絶対残るはずだし、それ以前に流石にそういう危険な催しは教師が中止させているのではなかろうか。


「あ、これ学院の方の催しだからね、おにい」

「学院どうなってんの」


 既に神前試合は終えたとはいえ、それでも一応学院は勇者サイドとしての出場なのに、やってること勇者からかけ離れすぎてはいやしないか。


「あと、若干非公式」

「駄目だろ教師呼んで摘発してしまえそんなアングラなイベント」

「確かに何か間違いが起きてからでは遅いしな」


 ウェズンの言葉にアレスも同意したので、多分他の誰に言っても賛同を得られるとウェズンは確信した。


「あー、大丈夫だよさっき終わったからさ」

「終わったから大丈夫、とは何か違う気しかしないんだが」

「それ以前に、そのコンテストはどういう基準で審査されるものなんだ?」


「えっとねぇ、実際に毒を使うわけじゃなかったんだよ。でもさ、ほら、組み合わせ次第では毒みたいな味になるような物とかあるでしょ。そういうのを作ってみようっていうチャレンジ系のやつだったの」


「あっ」


 察し。

 そんな言葉が脳裏をよぎる。

「そんなんイアの独壇場じゃん」

「不本意ながらホントそれ」


 本来なら傷つきそうな本当の事だが、しかしイアも充分理解しているため「ひっどいおにい!」なんて言う事もなくむしろ真顔で頷いていた。


 学園でイアが有名かと聞かれると、まぁそれなりに顔は広い方ではある。

 イアは案外好奇心の塊みたいなものなので、同好会も気になった時にあちこち顔を出したりしているし、そういう部分でウェズンの把握していない知り合いも数多くいる。

 なので、イアの料理の腕前が何故だか壊滅的というのも知られてはいるのだ。


 なので仮に、毒を使わないで食べ物でいかに毒物っぽい物ができるかチャレンジしてみよう、なんて事をした場合、どう足掻いてもイアが勝者である。微妙に不味いな、という感想で終わればマシな方だが、材料も手順も何もおかしな部分がないのに何故だか悶絶するレベルだとか、意識を失うレベルの代物ができあがるのだ。

 実際にその不味さを体験した者は少数だが、それでも既に学園の中ではそこそこ知られているのではなかろうか。


 なので学園でそんな催しをすれば、イアが自ら足を運ぶか、誰かが連れてきた時点で勝敗は確定する。


 であれば、そんなわかりきった事をするはずがない。


 けれども学院の催しとなれば。


 まぁ、知らない奴の方が多いだろうなとわかるものなので。


「あー、ね」

「あぁ……うん」


 ウェズンとアレスの反応は自然と同じようなものになるのであった。

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メシマズは結婚まで隠しきればワンチャンありそうなのに コンテストで同世代に周知しちゃったら旦那さん貰うの絶望的なんよ(一部例外除く
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