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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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僕の知ってる学園祭ではない



 学園祭、という言葉そのものはウェズンだって知っている。

 イアもそうではあるのだが、しかしクラスメイト達にとってその言葉は若干縁遠いものであったらしい。


 学園祭と聞いてウェズンの脳裏に浮かんだのは、模擬店とか展示物といったいかにもなものではあるけれど。


「交流会がなくなったから、そっち系統の催しみたいなのをやるって事?」

「あー、でもあの島使えないならもっと限られた空間でやる事になるんだろ?」

「だったらトラップハウスでも作るか」

「でもそれなら普通に突破されるから、なんかこう……他の条件つけようぜ」

「そうだな、一定のポーズをとらないとクリアできないとかどうよ? 罠のある場所で指定されたポーズをいかに罠を作動させないようにしてやるか」

「あ、いいね。制限時間とかつけたら難易度もそこそこ上がりそうだし、案外いけるかも」


 あえて言わせてもらうのならば。


「思考がとても物騒」


 ウェズンは正直に思った事を口にしていた。


 学園祭ってそういうものじゃなかったよな……と思うも、しかし周囲はそれらの会話の何がおかしいのかをまったく理解していないようだった。むしろウェズンの方がマイノリティみたいな認識をされているような気配さえする。


 思わずイアに視線を向ければ、イアはそっと首を横に振った。


「そういう展示物とか催しっていうのならそれでいいんだけどな。

 一応クラスでの出し物と、同好会でもやるところはやるみたいだから、そっち所属してる奴らはそこら辺の兼ね合いとか気をつけろよ。下手するとやる事ばっかで大変な事になるぞ」


 ホームルームを始める、とか出し物についての話し合いとか言っておきながら、テラはさっさと椅子に座って雑誌を見ていた。完全放置である。

 生徒たちは最初戸惑いながらも話し合いを始め、そして何故だか今、トラップハウスを作る方向性に話が進んでいる。


 学園祭というものを知らない者たちによる学園祭とは? というものからまさかこんな物騒な方向に舵を切るとはウェズンだって思ってなかった。


「いやあのさ、神前試合も終わって、わざわざ殺し合う必要もなくなったっていうならもっと平和的なのでもいいんじゃないかな……?」


 一応、そう提案してはみたものの、トラップハウスくらいなら平和なものだろ、の一言で終了された。


 えっ、この学園祭って誰が参加するやつなの……? 一般っていうのがあるなら流石に危険すぎるのでは……?


 そんな疑問も彼らにとっては、大半学院の生徒だろ来るの、の一言で終了である。


 実際テラに確認をとってみれば、一般、というか外部が来るかは微妙なところらしい。

 一応告知はするけれど、来るとしても戦えないような相手ではなく、かつて学園か学院に在籍していたとかの卒業生とかが多くなるのではないか、との事。


 言われてみれば、戦えない、ゲームで言うところの完全なる村人とか魔物の一撃で命を落としかねないくらい弱い相手が遠路はるばる神の楔を使ってここまで来るか、と言われると確かになんていうか……なさそうだなぁ、と思えるわけで。

 結界の番人とやらもいくつかは倒したようだが、しかしまだまだ残っている。

 ゲームだったら倒した後でHPとかMPを回復させてすぐさま他のボス戦に挑む事もできるけれど、現実でそれをやると疲労感が半端なく、回復薬で無理矢理元気いっぱいにして強引に乗り切れば後からくるのだ。


 切羽詰まって追い詰められてそうするしかない、という状況であるならまだしも、そうじゃないならわざわざ無理をしてまで……というわけで。


 学園の瘴気汚染度に関しては全然問題ないからここに来たところで瘴気汚染されて帰れないなんて事にはならないけれど、それにしたって学園と学院の生徒同士のいざこざに巻き込む可能性を考えると一般の非戦闘員に該当する人は来ない方がいいかもしれない。

 もし危なさそうな出し物にそういった相手が参加しようとしたら止めるくらいはするだろうか……いや、それとも生徒が入学する時みたいに死んでも文句言いませんっていう誓約書とか必要になるんだろうか……?


 ウェズンはつらつらと疑問を浮かべるが、そこで思い出した。

 そうだ、誓約書とか書かされてるんだ。命を落とす可能性があります、死んでも自己責任だよ、みたいな誓約書がある時点で、前世基準の学園祭を想像するのが馬鹿だった。


 そんな学園に物見遊山で無防備にやってくるようなのがいる方がどうかしている。


「そっか、僕がおかしいのかこれ……」

「価値観の相違ってやつだよおにい」


 イアはむしろこうなる事が予想できていたかのような口振りだった。

 冷静に思い返せばこの妹も前世持ちとはいえ自分とは別の世界出身だった。


「そっか、マイノリティなのか僕が」


 なんだかとても解せぬ。


 思わずそう呟いたのは、仕方のない事だった。



 ――結局のところ、部活というか同好会として出し物をしたい、という者もいたために、クラスでの出し物はなるべく楽なものにしよう、という、そういう部分だけウェズンの知ってる前世と一致する形となった。


 準備にも当日にも人手が必要となると、同好会として参加したい者たちからすると時間も労力もそれ以外の必要な物全てが圧倒的に不足しているという事で、クラスでの出し物はとてもシンプルなものに決まった。


 そう、最初に言われていたトラップハウスである。


 罠の修理とかリタイアした客の回収とかはゴーレムに任せればいい、となって、じゃあ自分たちはまず作るだけ作って当日は他の同好会の出し物に手をかけたり、他のクラスの出し物見に行こうぜ、となったのである。

 多分他のクラスも考え方としては似たり寄ったりな気がするけれど、その分同好会側の出し物に手がかかる事は明らかなので、まぁ……いいか……とウェズンはテラも特に何も言ってないし、で無理矢理納得する事にした。

 どうせこれ以上何言ったところでどうにもならないとわかっていたので。


 思い立ったら一人でも作って立ち上げる事が可能な同好会がやたらと多いせいで、恐らく準備一つでもとんでもない事になりそうだな……とは思ったが、ウェズンは同好会に所属していないのでそこは他人事だった。場合によっては手伝いを求められるかもしれないが、手伝うかどうかはその時の状況次第だな……とも。


 外部からの客と言っても、精々以前学園や学院にいた元生徒、つまりは卒業した者であるだとか、生徒の親だとか、まぁそこら辺だろうと言われている。あとは他の学校の生徒とかだろうか。


 無関係の一般人がやって来る可能性は低い。


 教師たちはそのように想定していたし、だからこそ多少物騒な催しであっても止められる事はなかったのだろう。


 それでも多少危険なものに関しては事前にある程度の告知をするようにと通達された。

 どれくらいの危険度か、に関しては人によって違いが生じるせいで明確なラインは作られていなかったけれど。


 まぁ、それでもないよりはマシなのかもしれない。

 前世だったらその程度の雑な注意だと逆に炎上しそうだが、この世界での安全基準とかそもそも基準値を出すのも難しそうなのでこれが精一杯なのだろう。

 大体学園の授業で場合によっては死ぬこともあります、って言われてるようなところなのだから、むしろ注意書きが事前にあるだけでも充分優しい――多分この世界ならきっとそう言われる。

 ウェズンはもうそうやって内心で納得するしかなかった。


 交流会の時のように、学院の生徒を皆殺しにする勢いで罠作れ、というわけでもないので今回クラスで作るトラップハウスに関しては、そこまで命の危険を感じる物を考えなくてもいい。

 だからといって、クオリティが適当すぎるものだとそれはそれでテラが口を出すだろう事もわかってしまったために、生徒たちは真面目に取り組む形となったのである。


 部活側の出し物に関しては、ほとんどが少数の同好会なのでむしろそちらも参加するとなればクラス以上に手間も時間も色々とかかるのを見越して、掛け持ちを決めた生徒たちはクラスの出し物に関してひたすら積極的だった。何故ってこっちがある程度終わらないと同好会の方に参加もできないからだ。


 そしてある程度形ができてくれば、同好会に入っていない者に至っては暇ができる。


 そうしてそこから、手伝いと言う名の人手確保――と言う名の狩りが行われるようになり、学園内部の治安は一時期酷い有様だった。



 だが、まぁ。


 その甲斐あってかどうにか学園祭は開幕したのである。

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