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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
十章 迷走学園生活

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前倒された神前試合



 夏の暑さがそろそろ終わりを迎えようという頃。

 気付けばそんなところまで、時間は進んでいた。


 夏の間、実に様々な出来事があったのだけれど、ウェズンからしてそれは一つずつ丁寧に思い浮かべるようなものではなかった。


 本来ならば学院側との交流会の時期だったが、しかし今年は色々イレギュラーが発生しすぎた事もあって交流会は行われる事がなかった。

 というか、学院が襲われ学園の敷地内、その一画にやって来た時点で今まで学園に襲いにきていた命がけの授業は見送られたし、他にもいくつかの変更点があったせいで授業内容も迷走していた部分があったのだ。

 振り回されているのは学園側だけではなく、学院側もだった。


 そんな中、突貫工事のように他クラスとのトーナメント戦が行われ――内容は特に何があるでもなく普通に戦って終わった――本来交流会を行うであろう頃に前倒しした神前試合が行われる事となった。


 今までの神はレスカだった。

 彼女が世界を神の楔の結界で分断し、自由に行き来できないようにしてあったのを神前試合で一つずつ解除する仕様だった。

 ところがレスカはもういない。

 いるのは本来の神であるスピカで、彼女は別に世界を滅ぼすつもりはこれっぽっちもない。

 ない……のだが、まぁレスカが残していった色々によって、レスカがやらかした事をスピカだけの力で全部なかったことにもできない。


 結界の解除に関してはどうやら神の楔に宿されていた番人とやらと戦わなければならないようだし、それさえ倒せば結界は解除される。

 一度目の分断結界も、二度目に張り巡らされたものも。

 閉じられた状態で瘴気が蔓延し続けていた土地は、次の神前試合を待たなくても番人を倒せば結界の解除が可能になる。今まで十年に一度だった神前試合は、番人の力を抑えるための儀式と化したが学園と学院の生徒が殺し合う必要もなくなった事でもっと短期でやっても問題はなさそうだ、という結論にも至ったらしい。


 そもそもレスカが神だった時の神前試合であれば気まぐれで願いを一つ叶えるなんて事もやっていたようだけど、スピカはそこまでするつもりはない。ない、というか手が回らないというのが正しい。

 色々ありすぎて眷属であるメルトとクロナの手を借りているが、それでもまだレスカの仕出かした全容がわかっていない状態である。


 異変があったとしても、それがレスカのやらかしの結果なのか、それとも元々この世界で普通に起きた事象なのか。

 調べる事が多岐に渡りすぎてかつて学園や学院に在籍し卒業した生徒だった者たちの協力も取り付けて調べているようだが、解決に至るまでの道筋は未だ見えていなかった。


 協力者の数は多いが、まず各地を調べるにしても番人を倒さないといけない場所もあるので。


 番人の力は放っておくと勝手に強くなるらしく、それを抑えるのが神前試合との事だが、つまりは時期をずらして早めたところでこちらにとってデメリットはない。むしろ、上がりつつある力を抑える事ができるのなら早くやっておくに越したことはないだろう――というのが、神前試合が本来交流会を行っている時期に開始された理由だった。


 本来ならばもう少し参加メンバーもじっくり選考するようになっていたのだが、前倒しに前倒した事でそこら辺も大分ざっくりとした形となったのだ。


 おかげでウェズンは何が何だかわからないままあれよあれよと戦って、なんか気付いたら勝ち残ってしまったのである。


 今回、神は願いを叶えない。というのも契約が見直されたからだ、という感じで教師は生徒たちに話をした。

 まぁ、今までの神と今の神は違いますよという説明まですると本当に大変なのでそこは省いて上手い事説明しろとなれば、契約変更になりましたが一番手っ取り早いのはウェズンでもわかる。

 真相を知っていればまぁ自分が説明する側に回るにしてもそうだろうなと思うし、知らないのであればそうなんだ……と理解するしかない。納得ができようとできなかろうと、相手が神である以上、こっちが何を言ったところで無駄に終わると思っている部分もあるのだろう。


 対等な関係ですらないのだから、こちらが有利に事を運ぼうと画策する事そのものが無謀ですらある。

 むしろ今までの話全部ポシャらせて今すぐ世界を滅ぼしたっていいんですよ、とか神が言い出さないだけマシなレベルだと、真相を知らなければ思うだろう。

 その神相手に契約の変更を持ち掛けそれを了承させたのであれば、むしろ以前よりマシな状況になったと思うべきだろう。


 実際、今までは十年に一度一つの場所の結界を解除されるだけだったのが、今は頑張れば複数の結界解除が可能になったのだから。


 ただ、番人の力はかなりのものなので、気軽に全部解除できるかとなると話はまた別なのだが。


 一度ウェズンも授業の一環で近場の結界にいる番人と戦う事があったが、かなり苦戦したのだ。

 番人の見た目は球体人形みたいで一見すると強そうには見えない。だがしかし、その見た目に油断すれば不味いというのはわかっていた。

 油断はしていなかったのに、それでも倒すまでにズタボロになったのだ。決してウェズンだけではなく仲間もいた上での戦いだったが、下手をすれば死人が出たっておかしくはなかった。


 神前試合を行う事でこれ以上の強化を抑えると言われれば、そりゃあ前倒しであろうとなんだろうとやってから番人退治に行くのがマシだという結論にもなる。


 かくしてトーナメント戦でウェズンは決勝戦、負けた。

 入学当初と同じく最後に戦う相手はレイだった。

 あの頃はこういう事があるよ、とイアに言われていたのもあって多少の心構えとか、事前準備みたいなのができていたが今回はそうじゃなかった。

 誰が相手になるかもわからないし、そうでなくとも最初の頃の明らかに手加減していたレイと違って今回は手加減なしだった。


 結果、ウェズンは負けたのだが、しかしレイが魔王の立場より好きに立ち回れる方がいいから、とか言い出して今回の神前試合での魔王の立場を押し付けられたのである。


 勝者の言葉でもあるのでウェズンが文句を言ったところで覆すのは難しく、またどのみちウェズンも神前試合に参加するつもりはあったのでじゃあわざわざ反論する必要もないかとなったのであった。

 イアの知っていた原作から相当乖離したような気がするので、魔王になるも何も……と思うのだが、それでも一応体裁だけは整えておこうという魂胆である。


 本来ならこのトーナメント戦で見事勝利をおさめた上で魔王に選ばれるべきだったのかもしれないが、多分何度やり直す機会があったとしても、レイが相手なら運がとても良い時じゃないと勝てない。

 まぁほら、ゲームにでも負けた事でイベントが進む話だっていくらでもあるし、とウェズンはあっさり自分を納得させたのであった。



 学院でも同じように神前試合に参加するメンバーを選ぶためトーナメント戦が行われていたようだが、あちらも予定調和ですとばかりにメンバーが決められていた。

 ワイアットとその仲間たちである。


 ワイアットと一緒に戦おうとする相手は限られていたので、あちらは少数精鋭状態だった。

 今回はウェズンたち魔王側の方が参加メンバーは多かったが、しかし相手がワイアットという時点で数の有利はあまり有利ではなかった。


 本来ならサマーホリデー期間で交流会の準備をしていたはずだが、今年はその期間でトーナメント戦が行われ、そうして二学期が始まってから神前試合が行われたのである。


 ちなみに神前試合は今までと同じ場所で行われたのだが、そこは別空間だった。

 学園から神前試合の時だけ開く扉をくぐり、そうして宇宙空間ですか? みたいな場所に出てそこで戦う事となった。学院は建物がそもそも以前のとは違うのであちらはどうするのだろうかと思ったが、クロナが空間に接続したので学院側があえて学園に来て同じ扉をくぐる事にはならなかった。



 戦いは、熾烈を極めた。


 命の奪い合いではなくなった、と言われても正直何度か死ぬかと思った。

 それもこれも全部ワイアットが原因である。


 神前試合にルシアは参加していなかったけれど、しかしワイアットはルシアは? なんて聞いてきて、参加していないという事実に大層機嫌を悪くしていた。

 どうやらルシアがウェズンの家の養子として迎え入れられた事をどこからか知ったらしい。

 戦闘中でありながら、彼は言った。


「おかしくない!? それでいったら僕だって引き取られても良くないかな!?」


 条件は微妙に備わっていそうな気がするのもあって、彼の叫びは完全シャットダウンとはいかなかった。

 そうは言っても、ルシアを引き取る事に決めたのはウェズンではなく両親なので、戦闘中にウェズンにそんな事を言われたところで困る以外何ができただろうか。

 そこから流れでイアに、

「家族になりたいから結婚しない?」

 とか言い出したのはどうかと思っているが。


 それに対するイアの反応は、

「ロマンチックさが足りない。出直して」

 であった。

 まぁ、その場のノリと勢いと命の危険を天秤にかけて屈したみたいに受け入れるような事になっていたら、ウェズンだって必死に阻止するつもりであったがウェズンの助けは必要ないとばかりのイアに、ウェズンとしてはうちの妹強いなぁ、と思う次第である。


 ちなみに神前試合を終わらせたその後、本当に改めてワイアットが己が思うロマンチックさを突き詰めてイアにプロポーズしたけれど、次に言われた言葉は、

「面白味が足りない。加味して」

 であった。


 お断りされているものの、しかしあんたなんかと結婚なんて絶対にイヤッ!! とかいう断られ方ではないので、ワイアットは多分そのうちロマンチックさに面白味を加味したプロポーズを次にやらかすのだろう。

 それでいいのか、と思わないでもないけれど。


 ウェズンとしては自分の命が脅かされる事がなければ、あとイアがそれでいいのであれば何も言うまい、というお気持ちだった。



 ちなみに今回の神前試合は、どうにかウェズンたち魔王側が勝った。

 勝ったけれど……本当にこれで良かったのかは疑問である。


 この件でひとまず神の楔に宿る番人たちの強化が抑えられた形になるらしいとはいえ、それでも強い奴は強いので安心はできない。だが世界各地の神の楔に宿っている番人全てを学園と学院の生徒たちだけで対処するわけではないので、絶望度合いとしてはそこまででもなかった。


 ただ、以前学園を襲ったりした魔物ですらない化け物がちらほらと未だ姿を見せているようなので、最近ではそちらの討伐の方が優先されているくらいだ。魔物よりもなんというか見た目がキモイのも討伐を優先する原因なのではないかとウェズンは思っている。本能的な忌避感が凄いので。

 なんだろう、アレ絶対ゴ〇ブリとかとタメ張ってる。人によってはGとアレならアレのがまだマシとか言い出す奴もいるかもしれないが、アレの方が無理って人もいる。つまりは同レベル。



 ともあれ、学園と学院による今回の神前試合は終わりを迎えた。

 予定を大分前倒しして。


 その結果、これから先は特にやる事もないだろう、と思われていたのだが……



「じゃ、ホームルーム始めるぞ。

 とりあえず、学園祭やる事になったから出し物について決める」


「はぁ!?」


 教室に入るなりそう言ったテラに、ウェズンは思わず素っ頓狂な声を上げていた。


 予定が前倒しになって神前試合が終わった。これは確かな事実だ。

 イアが知る原作もゲームの方だって、そもそも神前試合が終わった時点で恐らくエンディングなわけで、そうなると彼女の記憶にかすかに残されていたあれこれはもう完全に役目を終えたと言えなくもない。

 まぁ、途中で内容が相当変化したので早い段階で役に立ってなかったと言えばそうなのだが。


 そしてそういった原作が終わったとしても、ウェズンたちはここでこうして生きているので、その先があるのも当然ではあるのだが。



 まさか普通に学園ものみたいな導入がくるとは予想していなかったのである。

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