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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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ふたを開けてみた結果



 奈落の底から引き上げられるような感覚がして、彼女は目を開ける。


 てっきり暗い場所にでもいるのではないかと思ったが、反してそこは明るかった。


 空だ。


 周囲に何があるでもなく、ただただ広がっているのは蒼穹。

 そこに、彼女は浮いていた。


 風が吹いて、髪を巻き上げる。


 金色と黒が混じり合ったそれは、プレーンとココアのマーブルクッキーみたいで。


「え?」


 マーブルクッキー? なんだっけ、それ。


 そんな疑問が浮かんで、女は自分が今どういう状況に置かれているのかを考え始める。


 少し考えて、あぁ、マーブルクッキーってアレか、と思い至って。

 食べたこともないから思い出すまでに時間がかかってしまったな、と理解はしたものの。


「あれ?」


 どうして自分に意識があるのか。


 次に浮かんだ疑問はそれだった。



 いやだって。


 封印、されてたよね……?


 声に出さずに思う。


 そうだ。確か、自分を創った相手が直々に封じたのだ。

 前に創った奴が言う事聞かないでどっか行っちゃったから、失敗作だったって嘆いていて。

 同じころに創ったこっちも同じように失敗作かもしれないから、調整は時間をみてやろうとかなんとか言って、意識を封じて存在そのものを誰の目に触れる事のないようにしたはずだ。


 そうだ、思い出した。


「私は失敗作じゃない」


 声に出す。


 出したからといっても、誰かからの返事はこなかった。


 てっきり創造主が封印を解いて以前言ってた調整とやらをしようとしていたのではないかと思ったのだけれど。


 しかし最後に見た景色と異なる。だって空だ。どこまでも広がる青い、青い空。


 こんな所から落ちたなら、普通の人間なら確実に死んでる高さだ。


 なんでこんなところを自分は漂っているのだろう……?


 身体の向きを変えてみる。仰向けからうつ伏せへ。

 そうすると今度は地上が見えた。


 そのままゆっくりと下へ移動しようと試みる。


 ゆっくりと。


 下手に勢いをつけたら流石にこの高さは危険なので、慎重に、ゆっくりと。


「あ」


 ところが寝起きだったからか加減を間違えて、思った以上に速度が出たまま落下してしまった。



 ばごん。


 そんな音がして大地にめり込む。


「いっ……たたた」


 普通の人間なら死んでるぞ。

 そう思いながら彼女は自分の身体で作り出してしまった穴から這い出て地面に座る。

 頑丈なのが取り柄だからか、怪我はしていなかった。


「えーっ、今一体どういう状況なんだろ……」


 何もわからない。


 失敗作じゃないと判断して創造主が自分を自由にしたとしても、何の説明もなく空にぽいは酷すぎる。


 ちょっと創造主~、と脳内で呼びかけるも返事はなかった。


 そのかわりに。


「んー? え、あれ? えっ、ちょっ……!?」


 一気に情報が流れ込んできた。


 それは、彼女の創造主が最後に残した彼女宛のメッセージとも言うべきものだったのだろう。


 一度に受け取るには膨大すぎる情報量だったが、どうにか彼女はそれらをきちんと脳内に収める事ができた。


 できた、のだが。


「え、嘘。なんか私とんでもなく面倒な事押し付けられてない?

 てかこれ詰んでない?

 一人で? いや、いくつかの権能解放されたみたいだけど、一人で!?」


 叫ぶ。


 創造主は既にこの世界から手を引いたらしく、彼女の呼びかけに応えてくれることはないらしい。

 更に、今をもって与えた力以上のものもこれ以上追加される事もない。


 必要な物があるのなら自力で調達しないといけないし、必要な力を得るためには創造主からの能力の追加などではなくこちらもやはり自力でどうにかしなければならない、となれば。


「うわー、めんどくさー。

 えー、やんなきゃだめぇ? あでも、このままだとこの世界の神様に見つかったらヤバイのか……

 えぇ~? なんでこんな初っ端から難易度高くして放逐するかな……いや、タイミング的に最後の嫌がらせみたいな感じなんだろうけど。

 それともある程度時間をおいて、ほとぼりが冷めたあたりで戻って来るんだろうか……?」


 創造主の考えがわからない。

 この世界を崩壊に導けみたいな意思は感じ取れたけど、明確にハッキリとした命令は下されていないので、もしかしたら自分がそう思い込んだだけで実際は違うなんて事だってあるかもしれない。


「気は進まないけど……まぁ、やるか……

 とてもやりたくないけど。このまま何もしないで見つかって処分されるのもヤだし。

 でも今どういう状況なんだろこれ……」


 周囲を見回したところで、広がっているのは大自然だけ。

 人が生活しているらしき場所は見当たらない。


 人のいる場所でこんなド派手に落下していようものなら、考えを纏める以前に大変な事になっていたかもしれないから、それはそれでいいんだけども。



「うーん……仕方ない。まずは情報収集といきますか……」


 創造主からの情報がどこまで正しいかも確認しないといけないし、そうでなくともタイムラグが発生して送られてきた情報はとっくに古くて使い物になりませんでした、では自分の今後に大きく関わってしまう。


 この世界を破滅に導くにしても、どういう方法を取るべきか。そこら辺をよく考えて行動しなければ、きっとこの世界の神に呆気なくこちらがやられる可能性は高い。


 正直に出て行って、こっちは危害を加えないからこの世界で滞在してもいい許可を貰おうにも、きっと厳しいだろう。

 創造主はこの世界の神を騙すような形で一時的に力を奪っていたようだし。


 それなのに、そんな相手が創った存在が私は無害ですなんて言ったところでそれをどこまで信じられるかという話だ。

 自分だったら信じないな、と即座に結論が出た時点で答えは出たも同然だった。


 どれくらい封印されていたかはわからない。

 今しがた頭の中に送り付けられてきた情報からかなりの年月が経過しているであろう事はわかるが、正確にどれくらい経過したかは不明のままだ。


 創造主がどれくらいの間この世界の神を押さえつけていたかで、この世界の神のお怒り具合も変わってこようというもの。

 下手に姿を現したら、こっちの弁明など聞く耳持たずに出会い頭にパァン! なんてこっちが消滅させられるかもしれないとなれば、恐ろしくてとてもじゃないが姿を見せようなんて選択はしたくない。

 無事でいられる可能性よりも、消される可能性の方がとても高いはずだ。

 案外大丈夫かも、なんて楽観的に考えていざそうなった時にあっさり死ぬような事になったら死ぬ直前に自分の間抜けさを呪うしかない。


 今の今まで封印されていたのもあって、そんな簡単に自分の命を捨てるような真似はしたくなかった。


 むしろ、折角自由の身になったのだ。


「生き延びてやる……! なんとしてでもね……!」


 そうなればやはりまず最初にすべきことは、創造主が送り付けた情報以外の情報。

 あと、どっか行った失敗作がまだ存命かどうかも調べておくべきだろう。

 もしいるのなら、同じような存在という事でちょっとくらい助けてほしい気持ちがある。


「……そういや私の事ってあちらさんはどこまで知ってる感じなんだろ」


 何も知らないままなら、こっちも何食わぬ顔でしれっとどこぞの人里に紛れ込めそうだけど、もしそうじゃなかったら目立つ真似は避けなければならない。


 まぁ、考えたところで答えがこの場で出るわけでもない。


 それも含めて慎重に調べていくしかないのだろう。



 そう結論を出して、彼女は「よし!」と軽く気合を入れてから歩き出した。



 レスカが最後の嫌がらせにと解き放った、新たな神の眷属として創り出された存在はしかし当初の予定と異なる代物になってしまったが故に、レスカは野放しにするのも後が面倒だと考えて一時的に封印していた。


 封印を解かれた彼女は創造主――レスカから最後の力を使ってこれからするべき事を指示されたとは思ってもいない。

 知りようがないのだ。既にレスカが死んでしまった事など。


 だからこそ彼女――レジーナという名を与えられていた――は、別にその命令に従わなくても叱られる事はないのだと、気付くはずもなかったのだ。

 知っていたなら間違いなくそんな面倒な事やらなくていいんだねやったー! とレジーナはレスカの命令を無視していた。


 そもそも封印されていた原因の一つが、そのやる気の無さである。


 いざ封印を解かれたからといっても、素直に従ってすぐさま行動に移るほどのアグレッシブさはなかったのだ。



 それでも嫌がらせくらいにはなるだろうからとレスカはレジーナを解放したわけだが、しかしそのせいで命を落とす事になると知っていたのなら。


 こんなやる気のない相手の封印など解かずにほとぼりが冷めるのを素直に待っていた事だろう。

 レスカの命令を素直に聞いてすぐさま実行するつもりはレジーナにはないけれど。

 しかしレスカがまだ生きていると思っているのでこちらもやる気はないが、いずれ行動に出るつもりではあった。



 レスカが死んだ事と、この世界に更なる何かを仕掛けた、という事だけは知らされているスピカが、仕掛けた何かがこのレジーナであると知ったならそこまで警戒はしなかったかもしれない。

 しかし、スピカだってそこまで詳しくは知らないままなので。


 双方が、無駄にお互いを警戒し合う形となってしまったのである。

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