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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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いつかどこかで



 ほう、と感嘆の溜息を吐く。


「ウェズン様……」

 そうして別れ際に聞いた名を呟いて、少女は神の楔で本来行くはずだった町へと転移した。



 町に戻ってきて、そのままウェズンは少女と別れるはずだった。

 けれども助けてもらって礼の一つも無しというのは、と少女に食い下がられ、困り果てたウェズンはひとまず次どこかで会えたらその時でいい、と言ってしまった。

 お礼は次会えたら、なんてある意味で社交辞令だ。本気で言ってるわけじゃない。

 ウェズンだって実のところ町までの道のりがわからなくなりつつあったので、むしろ渡りに船だった。


 だから、別にお礼とかそういうのは求めても望んでもいなかった。

 けれども少女からしてみればそんな事は知ったこっちゃなかったのである。


 少女目線で見たウェズンは、魔物が出る森の中を一人で移動し、そうして困っていた自分を助けてくれて、多分用事があって森の中にいたはずなのにわざわざそれを中断して町まで同行してくれたとても親切な人、というものだ。

 ありがたいなぁ、という気持ちこそあれど迷惑だなぁと思うはずがない。


 それに、あの制服は。


 魔王を養成する学園として知られているグラドルーシュ学園のものではなかっただろうか。


 では、つまり、森の中にいたのは魔物退治と言う名の学外授業だろう。

 わざわざそれを中断してまで自分に付き添ってくれるだなんて、なんて親切な人なのだろう。

 学外授業は本人の裁量次第で自由時間をいくらでも捻出できるけれど、さぼってばかりでは成績も悪くなり最悪学園に居られなくなることだってあり得る。過去にそうして本当に学園にいられなくなって別の学校に転校した人の話というのを知っていた少女は、このちょっとした時間が彼の不利になったりはしないだろうかと心配していたのだが、ウェズンはなんて事のないように大丈夫だと言ってくれたのだ。


 もしかしたら虚勢だったかもしれない。

 お礼だって次会ったら、なんて言っていたけれど、もう会わないと思っているからそんな風にやんわりと濁しただけだ、と薄々感付いてしまった。


 けれど、彼があの学園の生徒であるというのなら。


「そう遠くないうちに、また会えるのですね……」


 頬に手を添えて、少女は嬉しそうにそう呟いたのである。




 神の楔で本来の目的地へと転移したであろう少女を見送ったウェズンは、とりあえず配布されたばかりのモノリスフィアを取り出してヴァンかイルミナに連絡が取れないかと試してみる事にした。


 瘴気濃度如何で連絡ができなくなると言われていたので、最悪繋がらなくても仕方がない。


 駄目元で通話機能を使ってみたら、ヴァンの方にはつながらなかったけれどイルミナの方には一応繋がった。


「ウェズン? 貴方一体どこに」

「すまない町に戻ってきた」

「町ぃ? 何もしかして怪我したの?」

「いや、途中で人を見つけて、町に送り届けた」

「人? え、町の人?」

「いや、迷子。詳しい話はあとでいいかな。とにかくそっちと合流したい。今どのあたり?」


 途中プツプツとノイズめいた音がしたものの、それでもどうにかイルミナと話をする事はできた。

 だがしかし、何とも不安定な感じがするのでそう長々と話をする余裕はなさそうだと判断して、とりあえずどのあたりにいるかだけでも聞いておこうとすれば、イルミナは少し悩んだ末に、大体森の中心部、と答える。


 しばらくここにいるから、急いで合流してちょうだい。


 そう言われ、わかったと返すよりも先にノイズの音が大きくなって通話は強制的に切れてしまった。


「中心ね……それならまぁ、どうにか」


 目印になるかどうかもわからない何かを目印に言われていたら流石にわからん、と返すしかなかったけれど、中心と言われれば何となくどうにかなりそうな気がした。


 あの森の中でウェズンが倒した魔物はトレントが数体である。

 流石にそれだけでは今回の成績に加点されるかどうかも疑わしい。一応人助けもしたとはいえ、それが成績に加点されるかとなるととても微妙だった。



 別れ際、何かお礼を、と言ってきた少女であったが、ウェズンからすれば本当にそういうの望んでないんでとしか言いようがなかったので、どうにか有耶無耶にしてしまおうと次会えたら、なんて言ってしまった。


 まるで次に会う約束をしたような言い方だが、ウェズンにそういう気は一切無い。

 けれども少女はそこで一応納得してくれたらしく、ではせめてお名前を、とお互い自己紹介する流れになってしまった。


 自分の本来の名前は長ったるいのでウェズンとだけ名乗ったが、まぁ特に問題はないはずだ。

 少女はファラムと名乗った。


 もう会う事はないだろうと思っているので、その名を覚える必要は無いと思えたが、まぁしばらくは記憶しておいた方がよさそうだと判断して、

「それじゃあまた、ファラム」

 とまるで次があるような言い方をして別れたのである。


 ウェズンは制服を着ているので調べようと思えば所属がどこかくらいは流石にわかるだろうけれど、流石に学園に連絡を入れてまで何かしてくる事もないだろう。



 イア曰くこの世界が小説かゲームかともあれ原作があるという代物であるわけで、そんな中でいかにもな出会い方をした相手ではあるのだけれど。

 名前程度しか知らない相手だ。そう何度も会う事などあるはずもない。

 大体、連絡先も何も知らないままだ。

 前世の基準で考えるなら、まず縁のない相手。


 名前だけ知っていようとも、少女の名が本当に本名であるかもわからないし、どこに住んでるかも不明。連絡先もわからないし、本来の目的地がどの町であるかも聞かなかった。

 名前しか知らない相手。

 そんな状態で女の子と知り合いました、とか言ったところでイマジナリーフレンドか何かを疑われてもおかしくはない、とウェズンは思っている。



 もしこの場にイアがいたならば。


「おにい、それフラグっていうんだよ」


 くらいは言ったかもしれない。原作の内容ほとんど忘れてるイアであっても、その出会いは多分何かのフラグであると断言しただろう。

 フラグが立った。

 くらいは言ったかもしれない。


 だがしかし、もしそんな事を言われたとしてもウェズンからすれば、いやその程度で? と思ったかもしれない。

 ウェズンが自らも転生者であると明かしていたなら、立っていいのはクララだけだ、とかボケた可能性もあるのだが。


 どちらにしてもウェズンからすれば知り合いこそすれど、次に会うこともないだろう相手という認識しかない。完全にフラグである。


 ともあれ、ファラムを無事に町まで送り届けてそうして再び森へと向かい、中心部を目指して突き進んでいく。途中で遭遇した魔物はそう強いものではなかったので、サクッと撃破できた。

 出てくる魔物は一度に出てくる数が少なかったのもあって苦戦する事もなく。


 これが一度にもっとたくさん出てきていたら移動するのも精一杯、となっていたかもしれないが、そういう事もなかったので案外あっさりと中心部と思しき場所まで辿り着くことができた。


「あ、いた」

「やっと来たわね。もうちょっとしたら移動しようかって話になってたところよ」

「そっか、悪い」


 倒れたぶっとい木の幹に腰を下ろしていたヴァンと、そこから少し離れた場所で周囲を見回していたイルミナ。二人の様子を見る限りこちらも魔物と遭遇してもそこまで苦戦していた様子はない。

 とはいえ、延々森の中を移動していたわけなので、ヴァンは水分補給をしているところだった。

 水を流し込んで、ボトルをリングに収納する。

「一応そこそこ倒したとは思うが、何となくまだそれなりにいる感じはする」

「そうね、時々物音とか聞こえるし、動物かもしれないけどなんていうか……多分魔物なんじゃないかなぁ、って感じはするわね」


 ヴァンの言葉にイルミナも頷いた。


「そこそこ倒したっていうなら、多分今この辺りにいる魔物はこちらの実力を見て油断できないと判断してどうにかやりすごそうと身を隠すか、隙をみつけて攻撃仕掛けて仕留めようとするかのどっちか、かな?」

「恐らくは」

「森から逃げる、って選択肢があったらそうするかもね」


 肩を竦めておどけるようにイルミナが言うが、それができる魔物は限られていると思われる。

 ウェズンが遭遇したトレントのようなパッと見木にしか見えない魔物が森から出た場合、逆に目立つのではないだろうかという気がする。

 勿論ただの木にいちいち注目することはないけれど、それにしたって周囲に他の木がないような場所にいるなら、木陰で休憩しようとする誰かがやってくるかもしれないし、鳥なんかが枝で休もうとやってくるかもしれない。獲物が勝手にやって来た、と考えれば都合がいいのかもしれないけれど、その逆にちょっとした動きもすぐに気づかれる可能性が上がる。


 周囲が木に囲まれているなら気のせいだとか見間違いだとかを疑うかもしれないけれど、周囲に何もないのに何かが動いた気がする……なんて事になれば人間だろうと動物だろうと警戒はするだろう。


 森全体が焼き払われて、とかであればそんなことを気にする余裕もなく森から逃げ出すとは思うが、そうでなければトレントなどの魔物はそのまま森に居着くと考えられる。


「ここで遭遇した魔物トレントだけなんだけど、そっちはどんな魔物と遭遇したわけ?」

「トレントね」

「というかそれしか見てない」

「……他の魔物とか」

「知らないわ」


 あまりにもあっさりと言われ、そっか、としか言えなかった。

 てっきり他に森を住処とする動物タイプの魔物とかがいてもおかしくないと思っていたのだが。


「他にもいるかもしれないけれど、多分そういうの早々にここを出て一時避難してるんじゃないかと思うわ」

「……戻ってくるまで待つわけにもいかないし、ましてや森を出て他の場所を探すのもな……」


 魔物を倒さず放置し続ければ瘴気を取り込み強くなるのでなるべくなら倒してしまうのが望ましいけれど。

 しかしこちらから逃げるようにしてしまった魔物を追いかけるというのも中々に至難の業だ。


「じゃ、そこら辺は先生に報告して定期的に様子見とかかな……」


 町の冒険者たちの仕事でもあるけれど、彼らに全てを任せておけるか、となるとそれも微妙な話だ。

 常駐しているのが充分な人数で戦力的にここは大丈夫、と言えるならまだしも、そうでなければ放置して気付いた時には辺り一帯が魔物によって滅んでました、なんて事もあり得る。


「じゃ、今回はトレント退治になるわけか……」


 こっちが油断していると思い込んで向こうから襲い掛かってくるならともかく、そうでなければ木か魔物かをチェックしていかなければならない、と考えると中々に面倒な作業である。


「ま、時間はかかりそうだけど手間さえかければある程度どうにかなるタイプのやつならまだマシな方でしょ」


 正直とても面倒くさい作業だが、確かにイルミナの言うとおりだった。

 倒すのにギリギリの死闘を繰り広げなければならないようなのが相手じゃないだけ全然マシである。


「次ははぐれるなよ」


 ヴァンに言われ、ウェズンとしては乾いた笑いを浮かべるしかなかった。

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