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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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一つの終焉



 レスカの世界には、生命体がいないわけではないけれど。

 しかし発展は緩やかだった。


 知的生命体がいないわけではないけれど、人間種族やそれ以外の種族といったものはほとんどいない。

 それというのも、他の世界の様子を見ても人間が増えてくるに従って、確かに世界は発展していくけれどその分色々な問題も大量に発生するからだ。

 世界が異なっても人間というものに大きな違いはないようで、平和な時はまだしもちょっと争いが起きると一気に被害が加速するのだ。下手をすると世界を滅ぼしかねない勢いで争う事もあるので、こちらが手を回す前に自滅する危険性を持っている。

 それもあってレスカは自分の世界に関してはまだ人間を生み出すつもりもなく、進化してそういった生命体になりそうな種族もそれとなく選別して場合によっては事前に処分する事さえあった。


 目まぐるしい変化こそないが、穏やかで平穏な世界。

 それが、レスカの創り上げた世界だった。


 いつかはこの世界にも人間種族を生み出す必要があるかもしれないが、それはまだ先の話だ。

 スピカの世界で既にある程度のデータは収集できた。それを元に、少しずつゆっくりと自分の世界を発展させていけばいい。


 そんな風に考えてすらいたというのに。


「何を驚いてるのさ」

「ど、うして……」


 いつの間にやらレスカの背後に忍び寄っていた相手に、レスカは震えそうになる声をどうにか誤魔化しながら問いかけた。

 振り返ったついでに、相手に露骨に気付かれない程度に後退り距離を取ろうと試みる。

 しかし相手にはどうやら距離を取ろうとしたのが早々にバレてしまったらしく、ちらりと一瞥した後彼はふん、と小さく鼻を鳴らした。

 逃げたいなら逃げてもいいけど、でも逃げられると本当に思っている? とでも言いそうな表情をしていた。


 それがレスカの思い込みであるのならいいが、恐らく実際そう思っているのだろう。


「一体何をしに来たの? 神同士での交流は禁止されていないとはいえ、でも相手の世界に何の連絡もなしにやってくるのは問題があったと思うのだけど」

「あぁ、それ? 問題ないよ。それはあくまでも神同士であってボクには関係ないから」


「特権? 確かにありそうだけど。

 でも、だとしても。

 一体ここに何をしにきたわけ? 友達に会いに、って感じじゃないでしょ。だって別に友達でもなんでもないもの。

 ねぇ、テロス?」


「そうだね、友達になった覚えはないよ。

 なに、ただの仕事さ」

「仕事?」


 そう口にして、レスカは途端に嫌な予感に見舞われていた。


 わざわざ彼がこうしてここにやって来るような理由に心当たりがなければ、自分のところには途中たまたま立ち寄ったのだろうと思うだけで済んだかもしれない。

 しかしスピカとの一件があるせいで、心当たりが全くないとは言い切れない状況になっているのが今だ。


 上からの叱責が来る事を覚悟していたけれど、それはまだ先の話だと思っていた。


 そうだ、まだ先のはず。

 テロスは確かに上の立場にいるけれど、しかし直接的な上ではない。


「上は今色々と忙しくしていてね。そんな光景をのんきに煎餅かじりながら見物していたボクにとばっちりが来たってだけの話だよ。

 つまりは、君の処分に来た」


 ひゅっ、と悲鳴こそ上げなかったものの、しかし呼吸がおかしな音を立てたのを、レスカは確かに感じていた。


「確かにボクは神ではない。でも、立場や権利という意味において君よりは上だからね。

 面倒な事を、と思ったけど、だからって片付けないままだともっと面倒事が増えるからさ」


 やれやれ、とばかりに首を緩く振ったテロスは、次の瞬間ひたとレスカを見据えた。


「確かに普段であるのなら、ちょっときついお仕置とお叱りを受けるだけで済んだとは思うんだけどね。

 でも、さっきから少し見てたけど、君、例の世界に仕掛けておいたやつ、あえて発動させただろ?

 それがなければ説教と多少の面倒な雑用で済ませたけど、あれのせいで君、反省の意思なしって思われても仕方ないんだよね。君がどう思ってやらかしたのかはさておき、悪手だったね」



 ――見られていた……!?


 テロスの言葉にレスカは一体いつから!? と思うばかりだった。

 だって、この世界に戻って来てからここには、レスカ以外誰もいなかったはずだ。

 少なくともこの周辺には自分以外の誰かがいるなんて事はなかった。

 この世界の神である以上、この世界の生命体がやって来るなら気づけたし、そうでなくとも、他の世界の神がやってきたとしても気付けるはずだったのに、しかしレスカはこうして背後からテロスに声をかけられるまで気付けなかった。


 黒髪と金色の瞳を持つ、ある程度の世界にならいてもおかしくはない風貌の少年。

 それがテロスだ。

 奇抜な見た目であるだとか、そういうわけでもない。

 かといって地味で目立たないというわけでもない。

 正直レスカから見て上の立場にいると言われても、そこまでの威厳があるようにも見えない相手。

 それが、レスカにとってのテロスだった。


 だからこそ、知らぬ間にいた、という事実に驚きを隠せない。


「まさか、一方の言い分だけを鵜呑みにしてこっちに処分を下しにきたとか言わないでしょうね!?」

「勿論。ちゃんと確認したさ。

 結果としてよくある事だと結論付けた。

 他にもいたからね。自分にできない事を既に他の誰かがやっているからと、できた相手に知恵を借りようっていうのは別におかしな話でもない。

 そこからずるずると依存関係に発展する事もあるけれど、今回の場合はそこまでではなかった。

 勿論、君がもっと我慢を重ね続けていたのなら、アレは君に頼りきりになって依存していた可能性もあったかもしれないけれど。

 けど、そうなる前に君は手を打った。

 もう少し我慢して依存させておけば、君の処遇ももうちょっと考慮されたかもしれないけど、アレが依存していない事で君がやらかしたあれこれはやりすぎだという結論が出た。


 君にも精神的なストレスがかかった、という点は考慮されるべきかもしれないけれどね。

 ただ、ここに戻って来てからもまだ何か、仕掛けてあったものを開放したわけだろう?

 せめて表向きもうちょっと殊勝に、お友達と行き過ぎた喧嘩して仲直りの切っ掛けがつかめない……みたいに振舞ってくれてれば、騙されてあげたのにね」


 コツ、と硬質な音がして、見ればテロスの目の前に長い杖が出現していた。その杖をテロスはおもむろに掴む。


「あっちの世界にいる状態でアレと戦うのであればまだしも、こうして離れた状態で攻撃を仕掛けるような形にした時点で君の結末は定まった。

 お別れの時間だ、シェルリーナレスカ」


「ま、まって! おかしい! おかしいわ! 神同士での戦いは――」

「ただの喧嘩の範疇なら問題なかったよ。あぁ、もしかして今の状況についてを言っているのなら。

 そもそもの前提が異なっている」

「前提……?」


「君はボクが君と同じ神だと思っているのかもしれないけれど。

 生憎とボクは他の神が創った一つの世界だ。君たちが想像する世界の形とはまるで異なろうともね。

 つまりこれは神同士での戦いにならない。

 それもあってつまりは――」


 テロスが杖を軽く振る。

 それで、それだけで充分だった。


「あっ……」


 びゅう、と風が吹いただけのように感じられたが、しかし直後にレスカは気付く。

 自らの形が崩れていっている事に。


 それはまるで、小麦粉に卵やミルクを混ぜたものの量が足りず、一つの塊にならずにボロボロの小さな塊にしかならないように。

 痛みはない。

 痛みはないけれど、自らの形が崩壊していく様を見る羽目になったのだから当然レスカとしては悲鳴を上げる事になったのだが。


「――……!?」


 声はもう、出なかった。


「君とボクが争ったところで何も問題はないって事だよ」


 そうは言っても、争う以前に決着はついてしまったようだが。


「言い訳だけ並べ立ててるだけなら説教と再教育で済んだんだけどね。

 あと直接相手と殴り合うくらいなら喧嘩両成敗で両方ぶん殴って終わらせたんだけど。

 どうしてかな、普段から割とそう言ってるのにあえて最悪の選択をする連中が後を絶たないんだ」


 溜息を一つ零してそう言うものの、その頃には既にレスカの姿は残っていなかった。


「……情操教育ってやつが足りてないのかな」


 レスカが直前までいた場所を見下ろしてそんな風に言ってみるが、しかしここに他の――テロスにとっての仲間がいたのであれば、お前が言うなと秒で突っ込まれた事だろう。


「神が死んだ以上この世界も緩やかに死に絶える事が決まったわけだけど……

 …………うわ、何これ。

 発展どころか元から緩やかに滅びに向かってるようなものじゃないか。あっちの世界を実験台にしてるとか報告にはあったような気がするけど、危機回避し続けた結果一番利のない選択を選び続けて結果発展も見込めないとか……正気を疑うね」

 ある程度発展しているのであればいきなり滅ぼすような真似をテロスだってするつもりはなかったけれど、しかしそうではなかった。

 レスカは上手い事やっているつもりだったのかもしれないが、しかしその実延命処置に処置を重ねているような状況というのがテロスの目から見たレスカの世界である。


 知的生命体と呼べる種族が少ないのも原因の一つだった。

 発展させようにも手数が足りず、結果知的生命体は自らの知恵を活かす事もできず、現状を維持し続けるだけでやっとという状態であったからだ。


 レスカにとっては緩やかで穏やかな平穏な世界であったのかもしれないが、同じ世界であるテロスの目から見るとこの世界は終末を病院で過ごす患者のようなものと言ってもいい。


 下手にこの世界の住人である動植物を他の世界に救い上げたとしても、外来種になったところでこれでは早々に淘汰されて終わるだろう。


 であれば――


「ここでボクが引導を渡さなくても、この世界はいずれ終わる、か」


 場合によっては世界そのものを終わらせるために更にやる事が増えるところだったので、手間がないのであればそれに越した事はない。

 報告書だって当初想像していたよりも簡潔に済む。


「……ま、あっちの世界に関して彼女が遺したモノに関しては向こうでどうにかしてもらえばいいか。流石にそこまではボクの仕事じゃないわけだし」


 スピカにも多少の説教をする羽目になるかと思ったが、後始末を自分たちでやるという事で手打ちとすればいい。

 それすらやらずにこちらに泣きつくようであれば、その時は特大の雷を落とす事になるだろう。


 だが、恐らくそれもない。

 であれば、やるべき事はあとはもう報告書を提出するだけだ。

「さっさと終わらせて帰って寝よ……」


 くぁ、と小さなあくびを一つした直後、テロスの姿が消える。


 そうして後に残ったのは、神が死に、緩やかに滅びる事が確定してしまった、ちっぽけな世界だけだった。

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