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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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やり直すには遅すぎて



 多少の変化があったからと言われても、すぐさま大きな何かがあったわけではない。


 学園側は基本的にそこまで何かがガラッと変わるような事もなく、そういう意味では概ね普段通りだった。

 季節は気付けばすっかり夏になっていて、本来ならば交流会に関しての話が出てきてもおかしくはない頃合い……だったが。


「今年から交流会はなくなったから、代わりに別の何かを考えてるようなんだけどな。

 正直教員からは何の案も出てない。お前らなんかある?」


 とても軽いノリで、テラが言った。


「そう言われてもあると思うか?」


 呆れたように返したのはレイだ。

 そりゃあ教師のほとんどはかつてこの学園の生徒で神前試合に出たりしたこともある者たちだが、それ故に学院とはバチバチにやりあうもの、という認識があるのだろう。

 出した案のどれもこれもが物騒なものだったらしい。

 それは勿論、テラの意見もそうだったようで。


 それならまだそこまでバチバチにやりあっていない生徒なら……と思ったようだが、それでなくても既に何度か学院側と戦う事になっていたのだ。こちらとて。


 そこで今更になって、殺し合いじゃないイベントなんかある? とか言われましても……という話だ。


 殺し合いをしないとなっても、じゃあすぐさま手と手をとって仲良くできるか、となればそれも難しいわけで。


 既にこの学園や学院にいる生徒たちは一度でもお互い戦っているようなものだ。中には友人を失う事になった者だっている。

 それが今更、今までの事は水に流して仲良くしてね! とか言われても……となるのは仕方のない事だった。


 生徒たちから案を募ろう、となったのはわからなくもないが、しかし生徒側とてそんな簡単に新しい案など出せるはずもない。

 結局数分無意味な沈黙が続いて、テラは早々にこれ以上は無意味だと判断したのだろう。


 とりあえず、こっちでも考えるけどなんかいい案あったら連絡くれ、と言ってさっさと本来の授業に戻った。


 その変わり身の早さにウェズンは少しばかりの新鮮さを覚えたくらいだ。

 前世の学校なら、その案がある程度出るまで延々と続けられるのだ。勿論、授業中という限られた時間内ではあるけれど。決まっても決まらなくても定められた授業の時間の間だけはぐだぐだと。

 これが帰りのホームルームなどであれば、下手をすれば帰りの時間が遅くなることもあるけれど、そういう事を決める話し合いをしますよ、と割り振られた授業時間内であるのなら、間違いなくその時間分は無駄に費やされていた。



 実際その後誰かが何かいい案が浮かぶかどうかはさておき、変化はあっさりと日常に飲み込まれていったのである。




 ――それと大して変わらない時間軸にて。


 あの世界から颯爽と逃げ出したレスカは、己の世界へと逃げ込んでいた。


 他の世界の神々が集まる場所でも良かったのだが、そちらで他の誰かを巻き込むような事になると色々と面倒だというのもあった。

 ほとぼりが冷めるまで己の世界に逃げ込んでいれば、他の世界の神とてスピカから事情を説明されたとしても、わざわざここまでやっては来ないだろうという考えもあった。


 元より今までだって、時々自分の世界の様子をあちらの世界から窺ってはいたのだ。

 自分が留守にしている間に滅ぶような事になれば堪ったものではない。

 だが、事前にあちらの世界であれこれ実験と実践を繰り返した結果、こちらの世界で起きた問題はレスカが離れた場所にいても対処可能にまでなっていたため、レスカの創り上げた世界は彼女が世界から離れる前と変わらず穏やかなもの。


「全く……いい迷惑だわ」


 あの契約を持ち掛けた時点で、気付こうと思えば気付けるものだったのに、それに気付かず契約を結んでおいて今更それは望んだものではなかった、なんて。

 あの子は昔からそうだった。

 スピカはレスカの事を仲の良い親友だと思っていたのかもしれないが、レスカからすればスピカは邪魔な相手でしかなかった。


 最初はそうじゃなかったと思う。


 それこそ最初の、まだ自分たちが世界を創る許可を与えられる前までは、確かに仲の良い友人と言われてもレスカだってそこまでの不快感はなかった。

 それが不快に思えるようになったのは、果たしていつからだったか。


 明確な何かがあったわけではない。

 ただある日、本当にふっと気付いてしまったようなもの。


 スピカよりもレスカの方が大抵先に何かをやる事が多かった。

 それは単純にスピカよりもレスカの方が先に生まれ落ちていたからというのもあるし、スピカよりもレスカの方が能力も高かったから、というのもあっただろう。

 ともあれ、スピカはレスカにとって友人でありながら同時に手のかかる妹分のようなものであり、後輩のようなものだった。


 レスカが試行錯誤して乗り越えた問題も、スピカはレスカに教えを請う形で乗り越えてきた。

 最初から全部をアテにしていたわけではない。一応自分で取り組んでみて、それで駄目だった時に教えを請う形ではあった。

 最初の方はそれこそ、レスカだってスピカに色々と教えてきたのだ。

 それはまるで妹を見守る姉のような気持ちであり、同時に後輩を教え導く先輩のように。


 師弟、とまではいかなかったがそれでもスピカにとってレスカは頼れる相手であったし、レスカにとってスピカは己の自尊心を満たす存在であったのは否定できない。


 けれども、その関係が永遠に続くはずもなく。


 ある時、本当にふとした瞬間にレスカは嫌気がさしてしまったのだ。

 だってまるで、彼女の問題を解決するために自分が先にその問題を解かされているようなものではないか。


 勿論そんな事はなかったのだが、しかしそう思える事が何度もあればそんなことはない、と浮かんだ考えを振り払う事もできなくて、内心でどうして自分がこの子のために、と思う事も増えつつあった。


 本当の姉妹であったなら、手のかかる妹を仕方がないと諦めて受け入れたかもしれない。

 けれどもレスカとスピカの関係性はあくまでも友人である。

 だからこそ時折酷く面倒な気分になって、毎回自分に聞かないでたまにはもっと考えてみなよ、と突き放した事だってあったけれど。


 それでもスピカは何度かチャレンジしてダメだった場合、やっぱダメだった、とレスカにしょんぼりした様子で言うものだから。


 今の今までそれなりに手を貸してきた事があったせいで、レスカの中でスピカに対する嫌気があっても見捨てる、という選択肢はどうしたって残り続けていたのである。

 友人として決別するつもりで見捨てる事ができていれば、こんな事になっていなかったとは思うが、レスカはこれで小心な部分もあるが故に第三者である他の神がこの件を耳にした時、軽率にスピカの味方をされた場合、自分が悪者になった時を考えたらどうしても見捨てるまでの度胸はなかった。


 しかし結局それはレスカの心の中で鬱屈した思いを育てるだけになってしまい、そうして――


 きっと、一番選んではいけない選択を選び取ってしまった。

 誰に何と言われようとも、さっさと友人である事をやめてスピカと決別していれば別の未来に至っていた事だろう。


「……後悔なんてしてないけど……でも、このままなのも不味いわね……」


 何の問題もない自分が創り上げた世界。

 そこで心が癒されるのを感じながらも、しかし同時に焦燥もあった。


 スピカが黙って何も言わず今回の件をなかった事にするとはレスカだって思っていない。

 自分の世界を乗っ取られ、挙句壊されるところだったのだ。

 レスカだったら間違いなく自由を得た直後さっさと然るべき場に文句をつけにいっている。


 ただ、上だって他の問題を抱えているようなので末端の些末事に手をかけるのに多少なりとも時間はかかるはずだ。それまでに、こちらでもどうにか最悪の事態を回避できる理由を考えておかねばならない。


 スピカの世界を壊そうとしたことに後悔なんてしていないけれど。

 だが我が身を破滅させるつもりまではなかったので。


 いっそあの世界が滅びてしまえば。

 ついでにあの子も消滅してしまっていれば。


 そんな風に思うものの、しかしその結末は回避された。


「……いえ、待って?

 そういえばいくつか仕込んでおいたはずのやつがまだ――」


 自分のあの計画が何もかも上手くいくとは思っていなかった。

 だから万が一を考えていくつかあの世界には嫌がらせになりそうなものを仕込んである。

 最終的にあの世界が勝手に自滅するようであればそれも良し、しかしそうならなかった時の事を考えての、本当に万が一といったもの。


 あの場から逃げる時にいくつかは仕掛けが発動するようにしておいたけれど、どうせなら全部そうなるように仕向ければいい。

 ここからでもそれは可能で、だからこそレスカは思いついた直後にそうなるように作動するためのカギとなるワードを発動させた。


「これで良し、精々いっぱい苦労すればいいんだわ」


 そうなっても、次からはそう簡単に誰かに頼る事もできないだろう。

 スピカの一番の友はレスカで、それ以外の友人がいないわけではなかったけれど、長い年月をあの世界に封印されたようなものだったのだ。

 付き合いが途絶えた間で、他のスピカの友人たちにも別の交友関係ができて、縁なんてとっくに切れた者も少なくはない。

 今更そちらに助けを求めたとして、快く助けてくれそうな相手が果たしてどれだけいる事か……


 スピカの状況を聞いて同情する相手はいても、自分の貴重な時間を割いて手助けをしてくれる相手がいるかどうかは――正直賭けだ。

 そうでなくとも、今まで一番の友人だと思っていた相手に裏切られたようなものなのだから、スピカだって他の神にまたも助けを求めるなんてそう軽率にできないだろうという思いもある。


 であれば後はもうあの世界の住人達を上手く導いて問題を解決していくしかない。

 それはきっと、全て終わるまでに相当な時間がかかる事だろう。


「……いい気味だわ」


 別段スピカに踏み台として扱われたわけではないとレスカだってわかっている。

 それでも、どうしたって彼女の問題解決のための露払いをさせられたような気持ちは拭いきれない。

「もっと早くに決別してればよかった」

 呟く。

 どうしてかつての自分はこんな簡単な選択をしなかったのだろう。


 ……いや、それもわかっている。


 レスカにとってもあの頃はまだスピカは友人だったからだ。

 今はもうそんな風に思ってすらいないけれど、それでもあの頃はまだ。


 憎いと思う感情もあるが、それでも同時に友人であるという意識が確かにあった。

 一緒にいて楽しかったのだ。まだあの頃は。

 けれどもどんどんスピカに対する嫌な気持ちが増えていって、とうとう好きな気持ちより嫌いな感情の方が大きくなってしまって。


 どこかでやり直せるとしたら、果たしてどこが分岐点だったのだろうか。


 そんな風に考えたところで、レスカにはもうわからなかった。


「どっちにしたって、もうあの頃には戻れない」


 わかっているが、改めてそう言葉に出すと途端に虚しさを覚えた。


「そうだね、取り返しはもうつかない」

「――っ!?」


 レスカしかいなかったはずの場所。

 独り言でしかなかったそれに言葉が返ってくるとは思わずに。


 レスカは声にならない悲鳴を上げていた。

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