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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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ありきたりな真相



 世界を創り出す事ができる神というのは、それなりにいるけれど。

 しかし神全てに許されているわけでもない。

 ある程度成長した神にだけ許されているものではあった。


 スピカはそうしてある程度成長してから許可を得て、初めての世界を創り出してその成長を見守っていたのだ。


 けれど、その成長は順調とは言い難く。


 折角作った世界だ。

 できるだけ長持ちしてほしい。


 そう思って、色々な手段を試したものの効果はそこまで出なかった。


 それもあって、スピカはその時点で自分より先に世界を創り出す事ができていた友人に相談をしたのだ。


 それが、とんでもない事になるなんて思わずに。


 最初の相談の時は問題がなかった。

 というか、何度かした相談はどれもスピカにとって頼りになるもので、実際その時点での問題を解決に導くものだったから。


 だから。


 信用したと言える。


 元々友人だと思っていたのもあって信用していたのはそうだけど、しかし相談をして悩みが解決できたこともあって更に信頼したと言うべきか。


 世界は発展していった。

 けれど、発展していけばその分更なる問題も増えていく。


 一つ一つはどうにかできても、複数同時に発生してスピカの手に負えなくなるくらいそこかしこで問題が多発したものだから、どうしたって犠牲が出てしまった。

 勿論、解決できるなら全部一瞬でなかったことにしたいくらいではあるけれど。

 でもそういった力技は文字通り原因を丸ごと消去、つまり世界を一度まっさらに戻すしかないとなるわけで。


 そこまでは望まなかったし、新しく世界を創る、という事だって簡単な話ではない。

 だからこそ、創った世界が滅びないよう上手い事やっていくしかなかったのだ。


 けれど、手が回らなすぎて出た犠牲。

 こういう時ってどうするのが良かったんだろう……

 そんな風に悩んで落ち込んで、次こそは失敗しないぞと思っていても、またやらかして。


 前回同様同じ案件でやらかすならともかく、トラブルの内容は毎回異なる。

 前と同じ対処をすれば逆に問題が発生する、なんてこともあったが故に。


 折角発展を遂げていた世界は再び衰退しかけていたのだ。


 あまり友人に頼りきりはよくない、と思っていても今の自分では打つ手がなくて。


 友人も自分の世界の管理に忙しいのは言うまでもなかったけれど、それでも他に頼れそうな相手がいなかったから。


 だから。


 何度も頼って申し訳ないなと思いながらも、それでもスピカは友人であるレスカに頼ったのである。


 それが、レスカの企みであると気付かずに。


 これは結構酷い事になったわね……


 なんて深刻そうに言われてしまって、スピカは元々不安に思っていたものが、もっと不安になってしまった。

 レスカにこれくらいならどうにかなると思う、と言われるものだと思っていたのに、そのレスカにまで問題しかないと言われて、不安が一気に増したのだ。


 このままだと諦めるしかなくなるかもしれない……


 そう言われて、それでもスピカは諦めきれなかった。

 折角創造した世界だ。

 最初の頃と比べて生き物だっていっぱい増えたし、種族の違いから分かり合えない者たちもいたけれど、それでも同じ世界で精一杯生きている者たちを眺めるのはスピカにとって今までの頑張りの結果でもあったから。


 手塩にかけて育ててきた世界。

 自分の頑張りの結果である世界。


 それを、かなり不味い状況であるといわれてもそう簡単に諦めたくなかった。


 それに、世界を創る事を許されたといっても、複数の世界を創る事が許されているのは極わずか。

 そのわずかな中にスピカは入っていなかった。

 この世界が滅んだからといって、それじゃあすぐに新しく違う世界を創りましょう、とはならないのだ。


 滅びかけていたとしても、まだ滅んだわけじゃない。

 けれどスピカには、もう何をどうすればいいのかわからなくて。


 頼れる友人に助けを求めたのである。


 流石にここまで問題が多発してる世界にちょっと手助けしたくらいじゃ、どうにもならないと思う。

 レスカは深刻な表情でもって言った。


 それに、もし。


 手助けしてもダメだった場合、そのせいでダメになった、とか言われても困るから……とレスカは今回ばかりは手を貸す事を渋った。

 今まではまだ本当にちょっとしたアドバイスであったりだとか、実際に解決できる範囲だったからスピカの悩みに応えてきたけれど、今回ばかりは規模が違うのだとレスカは断った。


 けれどスピカもだからといって簡単に諦められなかった。

 レスカの言う事を聞いてダメだったとしても、レスカのせいにはしないから。

 そう必死に訴えた。


 口約束だけなら何とでも言える。


 だから、そこまで言うのなら……とレスカは契約を持ち掛けた。


 スピカの世界を存続させるためにレスカが世界に手を加える事の許可も、その他諸々の事も。

 目に見えた問題だけさらっと解決できたように見えたとしても、実際根深い問題は解決できたとは言い難い。

 そういったものもしっかりと解決させないと、中途半端に手を出したくらいじゃどうにもならないからとレスカは長期的に手を出す許可を求めたのだ。


 解決までに長い時間がかかる、と言われてスピカも流石に戸惑いはした。


 だが、このまま放置していても事態は何も解決しないし、それどころか悪化する一方なのはスピカにもわかっていた。

 そして、自分がこれ以上何をしたところで事態が好転する兆しもないという事を。


 だからこそ、世界の権利を一時的とはいえレスカに渡す事を、内心不安に思いつつもそれでも。


 それでも、選んでしまった。



 それが、罠だったと気づいた時には手遅れだったが。


 この世界にとっての神はスピカだったが、レスカがスピカの力も借り受ける形となった上で、この世界の神となったのだ。

 この世界に手を加える権利だけだと思っていたスピカは、まさか自分の力も自在に使う事を許可したつもりはなかった。契約書を読まなかったわけではない。

 けれどレスカの方が一枚も二枚も上手だった。それだけの話だ。


 そうしてこの世界の神となったレスカは、自分の世界ではない事をいい事に実に様々な事をやらかしてくれた。


 神がスピカからレスカに変わった事は、この世界でスピカの助けをしてきた眷属たちは当然気付いたし、反発だってした。


 何故って最初、様々な問題を抱えていてもそれでもどうにかこの世界を救うべく奔走していたのに、レスカは容赦なく様々なものを切り捨てにかかったから。


 そうして告げたのは、この世界の終了だ。


 どうして。

 約束が違う。


 スピカは勿論レスカにそう食って掛かろうとしたけれど。


 その時には結ばれた契約のせいでスピカはレスカに対して何も言えなくなってしまっていた。


 世界に手を加えるのに許可が必要で、毎回それをやってたら時間がかかるから手っ取り早くその部分を省けば少しは早く解決できるという言葉に、甘言に、スピカはまんまと騙される形となったのだ。

 今まで頼りにしていた相手だからこそ、ここで騙すだなんて考えもしていなかった。

 怪しいと思うような素振りもなかったから、気付いた時には完全に手遅れだったのだ。


 世界を終わらせる、というレスカの決定に食ってかかったのはスピカだけではない。

 スピカの手となり足となっていた眷属たちにもそれは適用された。


 折角事態を解決に導こうとしても、眷属がうっかり邪魔をするような事になったら大変だから……そんな風に言われて眷属たちですらレスカに対して逆らえないように結ばれた契約。

 それによって、メルトとクロナ以外にもいた眷属たちはほとんどがその時点で死に至った。


 唯一残されたメルトとクロナは、自分たちまで他の眷属の二の舞にならないよう注意して、そうしてどうにか世界を延命させるため、色々と足掻いたのだ。


 この時点でスピカは邪魔をしないように、とレスカによって世界との繋がりを限りなく薄められてしまい、その姿を見る事ができる者が限られてしまっていたので。



 メルトとクロナは主であるスピカの存在を感知できても、その姿を見る事も声を聞く事もできなくなっていた。

 このまま世界から認識されず存在が消滅してしまえば、完全にレスカによってこの世界は乗っ取られる。


 レスカは実に様々な策を巡らせて、眷属だけではない。精霊たちからも余計な手出しができないようにしていた。人間たちまでその契約に含まれなかったのは、眷属と精霊たちは神と関わる事も多々あったが人間たちはそうではなかったからだ。神が直々に人間と関わる事はほとんどなく、関わる場合があっても間に眷属が挟まっていた。


 だが、その眷属や更に下にいる精霊たちがレスカに反抗する手立てを封じられた事で。


 こうして今の世界へと成ったのである。


 黙ってみているだけなら当然もっと早くにこの世界は終わりを迎えていたけれど。

 しかしクロナやメルトが機転を利かせたからこそ。

 学園と学院による神前試合が始まる形となったのだ。



 レスカにとってはどうせ滅ぼすつもりの世界だからこそ、そこにいる生き物が殺し合うために力をつける催しは、本当に単なる娯楽でしかなかった。気紛れに褒美として望みを叶える事もあったけれど、それだって人の欲望を加速させるためだけのものだ。

 欲を叶えるために、人は時として大切な仲間を裏切る事も厭わないが故に。



「レスカはこの世界を実験場にしたのです。

 自分の世界を小さな失敗だけでよりよく運営できるように。

 今までわたしが相談した困りごとの解決策も、後になって知りましたが完全に一時しのぎのものだった。

 そうして一時的に解決したと思ったところで、結局は後になって更なる問題が出てきて……それすらレスカにとっては……」


 スピカはそれ以上言葉を続けられなかった。


 友人だと信じていた相手は、しかしこちらの事などなんとも思っていなかった。

 利用できる存在としか見ていなかった。

 気付いたところで、すぐに縁を切る事もその時には手遅れで。


 この世界で色んなことを試して、そうして自分の世界では要領良く失敗を減らして、順調に運営していく。

 試しにやってみようと思いついた事はこちらの世界で試して、結果が良ければ自分の世界で。ダメならそのまま。


 結界で区切られたのだって、いくつかのケースを試すためでしかなかったらしい。


 ただ、レスカの持ち掛けた契約はそれこそほぼこちらが手出しできないようになっていたけれど、しかし完璧というわけでもなかった。


 スピカは世界から存在をほぼ隔絶された状態ではいたけれど、しかし完全に切り離されてしまうと存在が消滅する事になりかねなかったし、そうなればスピカの力を借りていたレスカはその力を失う。

 更には予定していたよりも早くに世界も滅びてしまうし、そうなると実験場として機能しなくなる。


 だからこそ、生かさず殺さずのギリギリ加減でスピカは永い年月を彷徨っていたのだ。


 なにせ、眷属にも精霊にも自分の姿が見えなくなってしまったし、助けを求めるにしても声すら届かない。

 彷徨うといっても、世界各地を巡れたわけでもない。


「わたしは今までほとんどを、この学園がある土地で過ごしていました。

 力がほとんどなかったせいで、離れるのが難しかった、というのもありますが……ここなら、時々わたしの事を見る事ができる人がいたから。

 世界との繋がりが極限まで薄められてしまったわたしが消滅しないためには、そんな稀に現れるわたしを認識してくれる人に、どうにかその存在を留めてもらうしかなかったから」


 そうは言っても、見えたとしても次に会う時にはもう存在を忘却されているなんて事も何度もあった。

 折角認識されても、元々世界から弾かれるかどうかのギリギリな存在だ。

 本来ならこの世界の神であるという絶対に忘れられる事のない存在は、しかしレスカによっていつ消えてもおかしくない存在に成り下がってしまっていた。


「レスカの契約には、わたしたちが余計な口出しができないようにするだけで、人間たちは含まれていませんでした。そもそも人間種族まで契約に含めると、あまりにも数が多すぎるしそうなればイレギュラーが発生するのは目に見えていました。

 いつかわたしが消滅するにしても、その時間を限りなく引き伸ばしながら、こちらが邪魔をできないよう、実に様々な策を講じていたのです」


 ――そう。

 今ならレスカの言葉など何一つ信用しなかっただろうけれど。

 しかし当時はそうじゃなかった。

 頼りになる友人だった。

 そんな友人の言葉を信じていた。

 だからこそ、彼女の持ち掛けてきた契約も、戸惑いこそしたが必要な事だからと言われて信じてしまった。



 契約をなかったことにする方法も一応存在してはいた。


 だが、その方法だって本来この契約の事を知らない第三者である人間が、神の名を口にする事であったが故に。


 スピカの名を呼び彼女の存在を強固なものにさせ、レスカの正体を知る人間。

 正確な名を呼ばねば意味がないものとされたそれ。


 だが、スピカが直接教える事はできないし、眷属や精霊たちもそうだ。

 契約には結託できないようにされていたし、であれば少しの干渉ができたとしても微々たるヒントを与えられるかどうか。

 契約に堂々と反すると各々苦痛を伴うし、下手をすれば命を落とす。

 実際それで消滅した精霊だっていたのだ。


 真の名を縛る事で、この世界の神と異世界の神との契約に異議を唱える事とする。


 スピカがレスカの意思以外で解放されるのには、これしかなかったのだ。



 けれど、過去スピカを見る事ができた者のほとんどはそこに至れなかった。

 一度姿を見ても次に会ったらすっかり忘れられていたり、何度か会ってどうにか助けを求めようにも邪魔だと判断したレスカにそれとなく誘導されて破滅したり。


 世界の破滅がスピカの最期だと、そんな風に思う事も増えつつあった。

 昔のようにまだどうにかなると希望を抱ける気持ちはすっかりなくなりつつあった。


 だから。


 ウェズンがスピカを認識できた時、期待はあったけれど。

 それでも内心どこかで諦めてもいたのだ。


 ただ、ウェズンは簡単にスピカを忘れたりしなかったから。

 おかげでスピカは消滅する寸前みたいな状態から脱して他の人に見えなくても、それでもある程度動き回れるようになったりウェズンの夢に干渉したりできるようになったけれど。



「……まさか、本当に解放されるとは思わなかった」

「あぁ、うん……」


 スピカから語られた話は、ウェズンからすればそこまで突拍子のない話でもなかったからこそ。

 どういう反応をするべきなのかわからずに、完全に話についていけてません、みたいなものになってしまっていた。

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