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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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真実で横殴り



 レスカ。

 それが彼女のこの世界における通称であった。


 名前の一部ではあるが、実際の名前はもう少し長い。

 けれど、その名を知る者は契約によってレスカの本当の名を口に出す事ができないようになっている。


 レスカという名だけを知られたところで、レスカにとってそれは何の痛手にもならないものだ。


 真の名が知られていないのであれば、レスカにとって恐れる事は何もない。


 神の名が記された書物などもあったはずだけど、それだってほとんどが失われている。

 遥か昔に。

 それでも少しだけ残されていたとは思うけれど、それだってテラプロメが保管していたはずだ。

 テラプロメで情報のやりとりはほとんどがデータ通信によるものだった。

 だからこそ、大昔の文献のような物は歴史的遺産とかそういう扱いで、誰の目にも触れるようなものではなかった。そうでなくとも、テラプロメの住人がアレに興味を示す事もなかったから長い年月、誰の手にも触れず、目にも触れず、という状態だった。

 そしてそのテラプロメは空から落ちて、今は海の底だ。

 しかもほとんどが崩壊した事で、貴重な歴史的資料と言えなくもない物のほとんどは復元すらできないだろう。


 この世界はレスカの掌の上も同然で、彼女の好き勝手できるものとなった。


 好き勝手やらかして、ある程度世界が滅茶苦茶になったりもしたけれど、それでもレスカの心はこれっぽっちも痛まなかった。むしろやりたい放題やらかした結果こうなった、というある意味当然の帰結を目の当たりにして、そういった意味では貴重な経験だと言えただろう。


 次があるならこういった失敗はしないようにしよう。


 そんな気持ちで。


 レスカは既にいくつかの失敗をしていたけれど、だがまだ次に活かせる状態であった。

 取り返しのつかない失敗はしていない。


 失敗例のサンプルはこの世界で充分に学んだ。

 この世界に関してはどうなったところでレスカの心は痛まないし、世界が壊れたところで、この世界の誰が死んだところで、これっぽっちもなんとも思わない。


 正直放置しても良かったのだけれど。

 しかし、その後生き残ったこの世界の住人がこちらの予想を上回るような何かを仕出かしたらと考えると。


 後始末が面倒な事になりそうだし、だったら自分で終わらせるべきだと思っていたのである。


 けれどもメルトやクロナがそれを阻止しようとするから。

 だから神前試合なんてものをやる事になった。

 昔の人間たちの寿命は今よりも短かったから、自分基準で次の試合までの時間を定めたら、あまりにも長すぎるとなって十年に一度にしたのは、そうやって勇者と魔王という役割をあてはめられた者たちが殺しあえばそのうち世界の人口も減っていくだろうと考えたからだ。


 自分でサクッと殺したって良かったけれど、正直それに関してはレスカにとって何の得にもならない。むしろ時間の無駄ですらあるし、労力を費やすだけの無意味なものだった。


 一生懸命己を鍛え上げ、切磋琢磨しやるべきことは殺し合い。

 かつてあえて殺さないよう手加減をしたりしていた事もあったけれど、それを禁じた事で生存率は大幅に下がった。

 実力か運か――生き延びる事ができる者もいたけれど、それでも死者の方が多く出たくらいだ。


 もし生き延びていたならもっといろいろな功績を出した者もいた事だろう。

 けれどもそういう者たちは敵対する側からすると脅威とみなされ、一切の加減も何もなしに攻撃されて重傷を負い、一命をとりとめる事もなく死んでいった。

 今までの神前試合によって生き残った者たちは、全体の二割いればいい方だろう。


 もっと沢山殺すように仕向けったって良かったけれど、大して強くもない相手を神前試合に大量投入したところで何も面白くない。


 このままじわじわと殺し合いを続けて数を少しずつ減らす方向にしておけば当分はいいだろう。


 そう思っていた。


 例外として出禁を言い渡した相手がまさかここにやってくるとは思ってなかったけれど。


 見ているだけでもその強さは充分すぎる程。

 だというのに今は直接戦っている。


 レスカが本気を出せば倒す事は可能だろうけれど、しかしここでそれをやると周囲への被害がとんでもない事になる。

 それはきっと、向こうも同じなのだろう。何せ連れがいる。

 レスカにとって殺しておこうと思っている相手はどうやら彼の息子らしいし、その相手を守るために今、ウェインは戦っているわけで。


 巻き添えで殺すような事になる戦いをあちらはやらない。

 そしてこちらも。


 近くに彼女がいるのが問題だった。


 動きを制限しているけれど、だがそれだけだ。

 直接手をかける事はできない。

 今だって封じているけどそれは力を弱めるだけで直接彼女を殺すためのものではない。

 弱った末に勝手に死ぬのであれば問題はないけれど、戦いの余波で巻き込んでの死は問題があった。


 ないだろうと思ってそういう契約を結んでおいたけれど、こんな事になるとわかっていたならもう少し考えて結ぶべきだった。そう思っても手遅れである。



 お互いに手加減をした状態での戦い。

 どちらかの力が尽きた時が決着の時、とはいえレスカは負けるつもりはなかった。


 長期戦は得意な方だ。

 面倒だから普段は短期決着でカタをつけたいけれど、時間をかけて決着をつけるのだって別に不得意というわけではない。

 相手の力がどれだけ強くとも、自分と永遠に戦い続ける事ができるなんて事ができるわけではないのだから、長期戦になれば最終的に勝つのは自分だ。


 レスカはそんな考えから余裕であった。


 彼女の力はほとんど封じた。

 だから余計な事を言えないようにしてある。

 そう、懸念すべきは彼女の存在を認知できている彼ではあるが――


(心配しなくたっていい。問題はない。我らの名を両方とも知る機会などあり得ないのだから。

 テラプロメで我が名を見たとしても、あれはほんの一部。全部知らなければ意味がない)


 ウェインの攻撃を弾きながら、彼女と向き合うようにしているウェズンを見る。

 何やら会話をしているようだったけれど、彼女の口から肝心の言葉を引き出す事はできない。

 どれだけ時間をかけたところで、彼女の口からは言えないようになっている。


 そういう契約なのだから。


 だから。


 すぐに片付かないとはいえ、それでもこの場は圧倒的にレスカにとって有利だった。

 有利なはずだった。



「――シェルリーナレスカ」


 ウェズンが自分の名を口に出すまでは。


「なっ……ぅあっ!?」


 まさか知られているはずがない。

 そう思っていたのもあって一瞬隙ができた。

 そしてその直後、ウェインの攻撃が容赦なく叩き込まれる。

 受け止める事も躱す事もできないまま、レスカは思い切り吹っ飛んだ。


「どうして……っ」


 知られる事なんてないはずだ。

 ないはずだった。


 テラプロメでもレスカとしか名乗らず、真の名は口に出す事もなかった。

 テラプロメ以外で、レスカの本当の名を知る者からその名を明かす事はできないようにしておいたはずなのに。


 契約を無視すれば最悪命を失う事になるはずだ。

 知る者は今捕らえている彼女と、メルト、クロナ。

 クロナは前に自分に対して攻撃を仕掛けて、そうして死んだ。

 であれば、可能性として残るのはメルトだが、まさか命を犠牲にして知らせたとでもいうのか……!?


 そんな風に考える余裕は、一秒にも満たなかった。


 ウェインが追撃に出たからだ。

 すぐさま崩れた体勢を立て直して行動に出なければ、一方的に攻撃を食らい続ける事になってしまう。


 しかし――


「どうした? 突然弱くなったな」

「ぐっ……!」


 ウェインの言う通り、明らかに先程までとは違った。


 先程までなら永遠に戦い続ける事も問題ないと言えたけれど、真の名が知られた今、それは途端に難しくなった。


「父さん! そいつは確かに神だけど、でもこの世界の神じゃない! だから殺したところでこの世界に影響は何もないよ!」

「なるほど?」


 万が一の偶然で真の名を口に出しただけ、という線は消えた。

 知られている。

 自分を殺せばこの世界も崩壊する、なんて言葉でウェインを止める事はこれでできなくなった。


 その話だって、他に広まる事はないように契約で結んで封じたというのに……!


「何故っ……何故それを知っている……!?」


「お前の名前もその事実も、彼女の日記に書かれていたからね!

 神話系統の書物にお前の名前がないのは当然だ! だってお前はこの世界とは無関係だった!

 この世界に残されていた僅かな神話で知る事ができる神の名は――スィルピードラチェカ、その名を縛る事でお前はこの世界で実権を得た。

 けれどそれももう終わりだ!」


 バキン、という音がして縛ってあった彼女の楔が解ける。

 瘴気を利用して作り上げた楔が崩れていく。


「人が……!?」


 ファムの驚いた声がする。

 今までこの世界のほとんどの者から見えないようになっていたはずの彼女は、たった今、それから解放されてしまった。


「貴方を信じたわたしが馬鹿でした! 食らえわたしの怒りの一撃!」


 解放されたばかりの彼女は、ふらつく身体をウェズンに支えられながら、しっかりと両の足で床を踏みしめていた。

 突き出した右腕から放たれた魔法の一撃がまっすぐレスカへと向かっていく。


「ひっ……!?」


 咄嗟にレスカはガードしたものの、そのガードを突き抜けてその光はレスカへ届いた。


「いっ……あああああああああああああッ!?」


「ファム! いけるか?」

「えぇ、今なら大丈夫そう」


 ウェインの言葉にファムが魔術を解き放つ。

 魔力でできた糸がレスカの身体に巻き付いて。


「ふぎゃ」

 レスカは立っていられずにびたんと音を立てて倒れこんだのであった。

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