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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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詳しい説明はできませんが



 もう図書室を閉める時間だし明日じゃダメか? という問いに、ウェズンは手遅れになるかもしれないんです! と力強く宣言した。


 ウェッジはウェズンを担当している教師ではない。

 たまたま自分の作業を時々手伝ってもらったりした程度で、授業を受け持ったりしたわけでもない。

 けれども、少ししか関わっていないがそれでもウェズンという生徒の事はなんとなく把握している。


 嘘や冗談でこんなことを言い出すとは思っていなかった。

 だからこそ、本当に何か大変な事が起きているのだろう、と判断してまずは図書室の扉を閉める。


 開いたままだとまだ利用できると思った他の生徒が駆け込んでくる可能性もあるからだ。


「どうした?」

「このあたりに島ってありませんか!?」


 バン、と机の上に地図を広げてウェズンが指さしたそこには、何もない。

 地図上では海があるだけだ。


「島……?

 いや、地図にないならないと思うが……いや、待てよ?

 確かそこって……」


 言いながら、ウェッジは司書室へ移動した。

 言葉の途中で別の場所に移動されたせいで、ウェズンとしてはどうなんだろうなぁ、という不安しかなかったが今はどんな情報でも欲しい。

 しぶしぶではあるがじっと待つ。


 そうして数分、ウェッジは司書室から古びた紙を持ってきた。

 大きなそれはポスターのように丸められているが、日に当たり変色していてボロボロだった。

 広げるだけでも崩れ落ちそうだという不安しかない。

 しかしウェッジは丁寧にそれらを広げていく。


 すっかり色褪せてしまって所々わかりにくい部分もあったが、先程ウェズンが見ていた地図と違い、そこには確かに島があった。


「あっ」

「あぁ、やはりか。

 この島はとっくに水没している」

「水没!?」


 叫んでしまったが仕方がない。

 いつの話か知らないが遥か昔にはそこに確かに島があって、しかしそこそこ新しく更新された地図にはない。つまりはそういう事だ、と言われてしまえばそうなのだけれど。


「ただ、その……」


 一瞬言葉を探すようにウェッジの視線がどこかを彷徨うように移動したが、あぁでもそういえば……と何かに気付いたらしい。

「そういえばテラプロメに乗り込んだのってお前か」

「え、はい。そうですけど」

「そうか。

 この世界地図は、遥か昔に様々な技術でもって作られた。

 その後、神の居場所を探すためにと作られた空中移動都市からある程度情報を得ていた事もあるわけだが」

「え、はい、あの……?」


 それが一体何だというのか、とばかりに困惑するウェズンにウェッジは苦笑を浮かべた。


「その頃には世界各地に結界ができて、神の楔での移動が主になってしまっただろう?

 つまり、その後の――今、こちらに置かれている地図は新しいといってもそれなりに古い物ではあるんだ。

 なにせ、いつのころからかすっかりテラプロメとの連絡もなかったみたいだからね。

 一応、テラプロメから人がやってこなかったわけではないんだけども……そういった情報は持っていない者ばかりだったから」


「それは、つまり……」


「島が水没した、という情報はあったけれど、本当にそれが事実であるかは定かではない」

「という事は、そこにいけば島が普通に存在している可能性はある、と……?」

「可能性はあるね。

 ただ……」

「ただ?」

「この近辺に神の楔が存在しないというのは事実だ」


「と、いう事は……」


「行こうと思っても簡単に行ける場所ではない、という事になるかな」


 広げてあった地図を再び綺麗に丸めて、端をとんと机で軽く整えるウェッジからそれ以上言える事はなかった。


「どうしても行かなきゃならないにしても。

 そこに一番近い神の楔を使って移動するにしても恐らく数日はかかるはずだ。

 陸路なら」


「陸路なら……」


「あぁ、どちらかといえば、その向かい側の大陸から空でも飛んでいければ近いかもしれない」


 そっち、と言われてウェズンは自分が広げに広げていた地図に視線を向ける。


「船でもあれば海から行けると思うのかもしれないけれど、そこら辺は暗礁が多くて船が通るには適さないところだから。だから、そこにある町は港町ではないんだ。空って言ったのはそういう理由からかな」


 暗礁のないルートを通るとなると、恐らく相当遠回りになりそうだな……とウェズンも思う。

 あぁ、だから空からって……と納得もした。


 だが納得できたからといって、解決したわけでもない。


 明確な制限時間があるわけではないけれど、悠長にしていられる余裕もなさそうだった。


 精霊の力を借りるにしても、恐らくそれは無理。

 ハッキリ断言したわけではないが、ウェズンの想像が正しければあの島に近づく事もできないだろう。

 むしろそれでも無視して近づくのであれば、きっと彼らの存在そのものが危うくなる可能性がとても高い。


 考えても、いい案が浮かばない。


「さて、島については答えられる範囲で答えた。

 流石にこれ以上ここを開けたままにはできないから、そろそろ君も戻りなさい」


 ウェッジにそう言われ、ウェズンとしては従うしかなかった。

 これ以上ここに留まっていても、困らせるだけなのはわかりきっているので。


『事情はまぁ、見てたからわかるが。

 地図で見たら近いけど実際の距離はかなりあるぞ。下手に魔法で空飛んでいくにしても行くだけで力尽きると思うが』


 図書室を出た矢先、脳内に声が響く。オルドだ。


 言われるまでもなくそれくらいの事はわかっていた。

 確かに地図で見る分にはとても近く思える。

 だが、地図の見方なんて前世も今世も変わりはないので。


 地図上ではご近所レベルに近く見えるといっても、実際そこを突っ切るとなればそう簡単な話じゃない事くらい、言われなくたってわかってはいるのだ。

 そこが海路ではなく陸路であったならもっと話は早かったのだが、しかしそう思ったからとて海がなくなるわけでもない。

 もし陸路であったなら、まっすぐ突っ切ればいいだけの話だが、それでもきっと徒歩でいくなら数時間はかかるだろう。その数時間というのだって、ある種希望的観測に過ぎない。


 潮の満ち欠けで少しの間でも渡れそう、というような事があったとしても、恐らく短時間で渡りきる事は無理だろうなぁ、とも思う。


「それでも、急がないといけない気がするんだ」


 オルドに答えたつもりではあるが、誰もいない廊下でそんな事を声に出してしまったので、もしここに誰かがいればウェズンは突然そんな独り言を言いだしたようにしか見えなかっただろう。

 普段はそういう事にもう少し気をつけていたが、しかし今回はそこまで意識を回す余裕もなかった。


 だって。


 どう考えても。


 あの光景を見て大丈夫だなんて、とてもじゃないが言えるわけがない。


『よくはわからんが、とりあえず空を移動できればいいわけだな?

 方法がないわけじゃないが』


 ふむぅ、とオルドはやや悩んだ様子でもって告げる。


『ただ、危険な事にはかわりがないと思う』

(それってどんな方法?)


 危険だろうと何だろうと、とりあえず今はどういう手段があるのかすらわかっていない状況だ。

 その方法を選択するかどうか決めるにしても、まずどんな方法かを知ってからでも遅くはないだろう。


『なに、空を飛べる種族の力を借りればいいわけだろ?

 じゃあ、一応いるだろ。

 半端な事になってはいるが、ドラゴンが』


 ドラゴン、と言われウェズンの脳裏に浮かんだのは言うまでもなくジークだ。


 ウェズンの事を兄上と呼ぶ――実際はウェズンの中にいるらしきオルドに対してなのだが――あのイルミナの母親の肉体を使っているドラゴン。

 既に肉体はドラゴンではないが、それでも確かに彼女の背中から羽が生えた事があったのを知ってはいる。

 精霊の助けを借りる事はできない。面と向かって言われたわけではないが、察してはいる。

 それこそ、ウェズンの想像が間違っていなければどの精霊に声をかけても結果は同じだろうとも。


 そして、精霊がダメなら勿論メルトやクロナもアウトだろう。

 クロナとは話をしたことも何度かあるが、正直ウェズンはメルトとはあまり面識がない。

 けれども、こちらもウェズンの想像に間違いがなければ精霊以上に手出しはできないだろうと思っている。


 だが、ドラゴンは。


 そう言えば、そもそも世界に存在していても人前にほとんど姿を見せない相手だ。

 そうでなくともドラゴンの体内にあるとされる魔晶核は浄化機の重要なパーツだからこそ、人からすればドラゴンは敵というよりは自分たちの生活を守るために必要な道具と言ってもいい。


 恐らく、小細工をしなくたって、手を貸すなんて事はないと思われたのかもしれない。


 そもそも、もしダメならオルドがこんな風に言うはずもないのだろう。


(ジークって今どこにいるんだっけ……?)

『職員寮にいるだろ。というか、モノリスフィアで呼べばいいではないか』


 あまりにも気軽に言われて、いいのかな……という気になってしまったが。


 モノリスフィアで連絡を入れて、ついでにそのまま職員寮へと向かう事にする。

 これならモノリスフィアのメッセージに気付かず返信を待つだけよりもマシだと判断して。


 上手く事情説明なんてできないけれど、それでも。


「あ、そうだ」


 どうせなら、とウェズンは更に他の相手にメッセージを送る事にしたのである。

 こういう場合、頼りになる助っ人は少ないよりは多い方がいいと考えて。

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