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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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関わりたくない後始末



 学園に謎の化け物がやってきた後、特に学園に脅威がやってきた、というような事にはならなかった。

 あの化け物の正体がハッキリとはしていないままだが、立て続けに襲われるという事もないのならば、日常に戻るのは案外早い。


 といっても、学園以外の場所でもアレと同じではないが、しかしどう見ても魔物めいた姿のくせに倒しても消滅しない魔物ではなさそうな異形、という存在は各地で報告されるようになっていた。

 魔物でない異形、という点で、最初は瘴気汚染が進んだ結果異形化した人間ではないか? となったのだが、しかしその異形が出現した地域は瘴気汚染度も高くはない場所で。

 高濃度汚染され異形化した何者かがその土地にやって来るとなれば、神の楔を使うしかないがしかしそういった形跡もない。

 もし神の楔を利用しての移動であるのなら、神の楔が街中にあるようなところは警備を強化しなければならないが、しかし現状そういった報告も特にどこからも届いていなかった。


 魔物ではない異形、化け物が出たという報告のあった場所はいずれも人里から離れた山や森といった大自然の中である。


 瘴気汚染度が低くとも、それでも魔物が発生しないとも限らないので冒険者たちが見回る形で足を運び、そうしてそこで化け物とエンカウントした。

 大体の報告はそういった状況だった。


 とはいえ、幸いといっていいのかわからないが、学園にやってきた化け物よりは弱いものばかりであったので、被害だけが増えていく、というような事にはならなかったらしい。

 一切被害が出なかったというわけではないが、それでもあの日、学園にやって来た化け物が出した犠牲に比べれば少ない方だ。



 だから、というわけでもないけれど。

 学園でも学院でも学外での授業として魔物退治に出かける際に、もし魔物と違う化け物を見つけたならば。

 倒せそうなら倒した上でその死骸を持ち帰る事が決定されてしまった。

 本当に瘴気汚染から人間が異形化した、というだけであればまだいいが、もし違うのであればこの化け物がどうして発生したのかを調べなければならない。

 発生源を見つけなければ根本からの対処もできないが、しかしこの化け物の生態もなにもわからないうちは発生源を探すにもあまりにも手掛かりがなさすぎる。


 勿論、倒せそうにないと判断した場合はその化け物の見た目と遭遇した場所を報告し、遭遇した者たちよりも更に実力のある相手が行く事になっている。放置というのは最悪の選択なので。


 学外授業に出て、ウェズンも二度ほどそういった倒したのに死骸が残ったままの化け物に出くわした。

 学園にやって来たような、魔物にしたって見た目がどうかと思うようなやつならすぐに気づけたかもしれないが、ウェズンが出くわしたのは一度目も二度目も普通の魔物に見えたのだ。


 倒した後でよく見たら異形めいた部分もあるなとなったので、こういう見た目のやつもいるのか……となりはしたが。


 一見すると狼のような魔物だった。けれども倒した後、気付いてしまったのだ。

 あごの下に人の目のようなものがついている事に。

 正直そんなところに目がついている、というのもどうかと思うが気付いた事で軽率なホラー体験をする羽目になってしまった。


 その時一緒にいたルシアが、可憐な乙女のような悲鳴を上げたのは言うまでもない。


 戦っている時は、本当に気付かなかったのだ。



 そして二度目の遭遇の時はというと。


 木に擬態する魔物、要はトレントである。

 こちらも倒した後で、洞のように穴が開いてそこからびっしりと人の目のようなものがこちらを覗いていた。死んだ後なので瞬きなどはしないけれど、しかし瞬きもしない人の目が複数、じっとこちらを見ているだけというのもとても嫌な感じだった。

 じっとりとした恐怖を感じたと言ってもいい。


 うわきっめぇ!!


 その時一緒だったレイが叫んだ。

 ウェズンはそのせいでタイミングを逃して叫び損ねた。


 一度目の時も、二度目の時も。


 えっ、倒しはしたけど、本当にこいつ持ち帰るの?

 リングに入れて?

 嫌すぎるんだが?

 誰が持って……リングの容量一杯だからお前が持て?

 うわ嫌すぎる~、僕も容量一杯だからって言いて~。


 そんな感じで嫌々持ち帰る事となったのだ。

 レイはウェズンに比べると魔力量が少ないので容量少なめと言われてもまだわかるけれど、ルシアは絶対嘘だろお前……となってしまったが化け物の死骸を前に嫌々言い争っていても、何の解決にもならないのだ。

 本当に嫌すぎるが、しかしリングに収納せず持ち帰るにしてもこんなの直接手で持つのも嫌すぎたので。


 どっちも嫌だけど、それならまだリング収納のがマシかな……となったのである。


 魔物を倒してその素材を武器や防具、その他生活に使われる道具にする、なんていう話を前世で見たような気がするウェズンは、こっちの世界の魔物は倒すと消えるのかぁ、それじゃあ素材にはできないんだなぁ……と少しばかり物足りないというか寂しいような気分にもなった事があったけれど。

 しかし今なら言える。


 きれいさっぱり消えてくれる方が後片付けの面からするととても楽なんだな、と。


 魔物の肉が美味しい世界線なら倒しても旨味はあるけれど、今回のような化け物は流石に食べようとは思わない。

 身体の一部に人間らしきパーツがあるせいで、なんとなくもしかしてこれ、元は人間だったとかそういう嫌な事あったりする……? と思ってしまうのだ。

 もしこれが元人間ならいくら見た目が変わろうと人肉食になるから嫌すぎるし、人間じゃなかったとしてもそれはそれでとても嫌。


 見た目からして美味しそうな生き物ならちょっと悩んだかもしれないが、悩む以前の話ですらある。



 夢の中で忠告された事もあって、もしかしなくてもこれって自分が狙われてるんだろうか……? と思った事もあったけれど。

 しかし学外授業で出向いた先でこの手の化け物と遭遇して戦った、という生徒たちは他にも大勢いるのだ。

 これがウェズンだけを集中的に狙っているというのならもっと確信をもって言えただろうけれど、そうではない。

 それどころかむしろウェズンよりも多く遭遇して戦う事になっている生徒もいるようなので、この化け物たちが警告されたものである、とはあまり思いたくなかった。


 あんな忠告をされたこともあってもしかしたら……と思ったのはそうだけど、全く無関係の可能性もある。

 考えすぎかもしれないな……と思いながらも、ウェズンは学園から言われた場所へ向かい、そうして三度目の化け物遭遇となったのである。



「で、今回もまた僕のリングに収納する感じなわけ?」

「そうだな。というか既に二度提出してるんだろう? じゃあもうその方が提出する際の教師との話もスムーズになるんじゃないか?」


 今回の学外授業、というか魔物退治はヴァンとハイネとの組み合わせだった。


 倒した魔物は全部消えたけれど、その中に紛れていた化け物が一匹だけ残される。

 見た目は今回倒した魔物とほとんど変わらない。けれども消えない死骸を確認すれば。


「なんでこう……人間の目みたいなのがついてるんだろうな……」


 本来目があるはずじゃない場所。

 耳の裏にそれはあった。

 背後からの攻撃ももしかしてこれで見えているなら有利かもしれないが、しかし身体的な能力は他の魔物と変わらず、周囲を巻き込む形で展開された魔術で一緒くたに仕留められたので正直あまり役に立っているという感じはしない。

 もう少し身体能力が高ければまた違ったかもしれないが、今回の魔物と同じくらいの能力であれば学園の生徒の誰であっても対処は可能だと言える。


 気づきたくもない共通点を確認して、嫌々リングにしまい込む。


「化け物って言われてるけどこれ合成獣キメラの可能性は?」


 ふとハイネがそんな事を言い出した。


「いや、それは違うみたいだよ。回収した死骸を調べた教師の話だから、どこまで本当かはわからないけど」


 それにすかさずヴァンが答える。


 全部が嘘というわけでもないが、全部が本当というわけでもない。ヴァンはどうやらそう思っているらしい。


「まぁ、人間のパーツが、というか目がある時点で合成獣キメラならそこに人間が使われてるわけで。

 でもそうなると、ある程度行方不明者とか出てもおかしくないんだよな……そんなのが各地であるならそれこそ冒険者ギルドの方からこっちにも通達が来てるはずだし」


 一人や二人くらいなら気付かれないかもしれないが、既に学園で回収された化け物のパーツから人間の目だけを数えるなら数十人できかないくらいに行方不明者が出ていなければおかしい。各地で一人ずつ、合計で数十人というのであればまだ気づかない可能性もあるけれど、化け物についている人間の目は一定しているわけでもない。

 同じような見た目でも目が一つしかついていないとか、三つくっついてるだとか、不ぞろいなので。


 周辺を見回って、これ以上魔物がいる気配もないと判断したので会話を切り上げて学園へと戻る事にする。


 学園に最初やって来たあの化け物に比べれば弱いのばかりなので今はまだいいが、もし少数で出向いた先で学園にやって来たあの蜘蛛のような化け物と遭遇したら。

 そう考えると正直かなり恐ろしいものがある。


 教師たちもそれを想定しているのか、最近は難しい顔をしている者が多かった。

 いつもの――と言ってもまだ三度目だが――ように化け物の死骸を提出して、そうして寮へと戻ろうとしたところで。


「あれ?」


「どうした?」

「どうかしたかい? 親友」


 ザッ、という音が聞こえた気がしてウェズンは思わず足を止めた。

 聞こえた音はどちらかと言えば靴底が地面を擦ったような音ではなく、例えるならば……電波状況が悪い時のような、さながらノイズのような音だった。

 近くにラジオやテレビといったものがあるのなら、その音は聞こえたところで気にしなかっただろうけれど、しかし今ウェズンたちがいるのは学園の敷地内、寮へ戻る道の途中だ。

 草木や花といった自然はあれど、そういったノイズ音が生じるような物は少なくとも近辺にはない。


 ジジ、ジ……と更に続けて音が聞こえる。


「いや、今音が……なんかノイズみたいな」


「ノイズ? 聞こえなかったけど」


 聞こえた? とハイネが聞けばヴァンはいいや、とばかりに首を振った。


 二人には聞こえていないらしい。

 だが、微弱な音であるのなら聞こえないというのもわかるけれど、ウェズンの耳にはしっかりと聞こえているのだ。

 もしかして自分の耳の奥の方からなってるんだろうか……とやや不安に駆られそうな事を考えるも、しかし次の瞬間音は間違いなく正面から聞こえてきた。



 ジジ、ジ、ザザッ……


 そんな風に断続的なノイズ音が聞こえてくる。


「あ」


 そうして音の発生源が果たしてどこなのか……なんて突き止める間もなく。


 目の前の空間が歪む。


 音は、間違いなくそこから聞こえていた。

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