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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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襲いくるもの



 日々あれこれとやっているうちに、気づけば春になっていた。

 本来ならば入学式が行われているであろう頃。

 しかし今年は学園も学院も新入生の受け入れを停止したので、入学式という行事がない。


 だがしかし、その代わりと言ってはなんだが生徒たちが集められ、今年はいよいよ神前試合が行われる年でもあるので参加を考えている生徒は是非、一層励んでほしいというような感じの激励を教師たちから授けられた。


 神前試合に参加するつもりが元からない生徒たちはさておき、神前試合に参加するつもりがある生徒に関しては場合によってはクラス替えが行われるとの事。

 確かに参加しない生徒と参加したい生徒で同じ授業をしたところで、参加しない生徒からしたらハードすぎるとなるだろうし、参加したい生徒からすると温いと思うものも出るかもしれない。


 部活でいうところの全国大会目指すガチ勢と楽しくやりたいだけのエンジョイ勢みたいなやつか……と名前もロクに知らない教師の演説を聞いていたウェズンは思い切り雑に納得した。


 とりあえずそれ以外で言える事はというと……


(話が長い)


 最初のうちはそれでも一応聞いてはいたけれど、そろそろ集中力も続かなくなってきたし話の終わりがやって来る気がしないしで、そっと視線を巡らせれば周囲の生徒たちもとっくに飽きたらしく、隠す気もなく大きなあくびをしている者や、じっと視線を下に向けて爪をいじっている者、ポケットから飴玉を取り出して口に放り込む者などがいた。

 まずもってウェズンの周囲はほぼ話を聞いていない。


 ついでに話が終わらない教師がいる檀上へ目をむければ、後ろに控えている他の教師たちも真面目に聞いている風ではなかった。


 ウェズンが関わっていない知らない教師あたりはまだ終わらないのかとばかりに腕を組んでイライラしてる者とか、いいからはよ終われとばかりに睨みつけている者、どうせ後ろにいてわからないだろうと思って懐中時計で恐らく話の長さを計測している者、と実に様々である。


 ついでにウェズンが把握している教師もいるにはいるが、ウェッジは既に語っている教師の話なんぞこれっぽっちも聞いてませんとばかりに何かの本を読んでいるし、テラに至っては身体を軽く動かして柔軟体操をしていたりする。


 生徒以上にフリーダム。


 もう、ほとんど誰も聞いてなさそうだからそろそろ話を切り上げてもいいんじゃないか……? なんて思いでウェズンは生徒たちへの激励の言葉を語っている教師へ目を向けたが、大勢の生徒の中の一人が見たくらいで教師の言葉が止まるわけもなく。


 これってあとどれくらいで終わるのかな~、学院側も同じような感じで集会してるのかな~、と意識がここではない場所へ向きそうになる。


 異変は、直後の事だった。


 ドン、と何かがぶつかるような音が響く。


「な、なんだ……?」


 現在ウェズンたちがいるのは、校舎ではない。

 そこから少し離れた体育館みたいなところである。

 広さ的にはそんな感じだが、どちらかといえば講堂として使われる事が多い。

 窓は上の方にあるにはあるが、その数は少なくそしてまた小さいため窓の外の景色というよりは空の色がなんとなくわかるかな……? といったもので。

 しかしその窓から見える部分には特にこれといった異変らしきものはない。

 しかし確かに、建物全体に響くような鈍い音がしたのだ。


 それも、上から。



 流石に今日、学院の生徒たちがこちらに強襲仕掛けてくる、というような事はない。


 そもそも新入生を対象とした死亡フラグたっぷりのイベントであって、今年は新入生が学園にも学院にもいないのだからやらかしようがない。

 というか、仮にやるとしてもまだ先の話になるはずだ。

 少なくとも、本来ならば入学式が行われていたであろう日にそんな事を学院側がしでかす事はなかった。


 今年はちょっと授業内容変更しました、となるのは事前に知らされているが流石にこういう問答無用でやらかすような事はないはずだ。多分。


 ガン、ガン、と何やら打ち付けるような音が響いてくる。やはり上から。


 建物の上に何かがいるのは間違いないだろう。


 だが、学園の建物は校舎以外のものもかなりの強度を誇っている。そう簡単に壊れる事などあるはずがない……と思っていたが。


「うわぁ!?」


 どこかで悲鳴が上がる。

 少なくともウェズンの周囲ではない。それよりは離れていた。

 咄嗟にその声がした方を見れば、天井に穴が開いていた。


 ちょっとやそっとじゃ壊れるはずのない建物に、穴。

 その事実を理解するのに困ったことに数秒要した。


 穴? なんで?


 学園の強度を上回る何か。それが壊したというところまでは理解できるのだが、ではその何かが何なのかがわからない。

 というか――


「おい逃げろおおおおおお!」


 穴が開いた下にいた生徒が叫び、駆け出す。

 天井が塊で落ちてきたわけではなく、破片状になって落ちてきたからこそ下にいた生徒は怪我こそしていないようだったが、しかしそこから貫通しているそれが一度引っ込んで穴から空が見え――なかった。


 そこから見えたのは目だ。


 人の目のようなものが、ぽっかりとできた穴から覗き込んでいるのだ。

 天井にできた穴は決して小さくはない。

 もし壊された天井部分が、そのまま破片となって落ちてきたなら下にいた生徒は間違いなく大怪我をしていてもおかしくはなかった。

 ぱち、と穴から覗く目が瞬きをする。


 そうして次の瞬間――


 ぼごっ、という音がして穴に何かが刺さった。肌色のそれは、もしかしたら指なのかもしれない。

 では、この外にいるのは。


 もしかしなくても巨人だとでもいうのか。


 叫んで逃げ出した生徒につられるようにして数名の生徒たちもこの場から離れようとして――


「おい待て!」


 その生徒たちを制止しようと他の誰かが叫ぶ。


 べぎべぎっ、というような軋んだ音と一緒に天井が引きはがされていく。


「あ、あぁ、あ……」


 天井と壁に亀裂が入って、そこから更に剥がされ――


 ずどん!


 という音を立ててそれは落ちてきた。


 剥がされた天井部分は下へ落されたのだろう。扉を開けて逃げ出そうとしていた生徒はしかし、

「開かねぇ! 何かあってこれ以上開かねぇよぉ!」

 ほんの数センチしか開かない扉を一心不乱に押すも、そこで何かが押し留めているらしく全く開く様子がなかった。

 恐らく今しがた捨てられたであろう天井部分がそこに落ちたのかもしれない。


 悲鳴。絶叫。

 一瞬で混沌と化した場。


 ウェズンはその中心にいたわけではない。

 だからこそ、それを観察する余裕があった。


 穴から人の目のようなものが覗き込んできた時点で、てっきり巨人でもいるのかと思っていた。

 しかし違った。人ですらない。


 それを何と称するべきなのか。

 魔物。

 この一言で済ませられるなら、そうなのだろう。


 けれども学園は瘴気汚染などほとんどない土地だ。

 魔物が出る事などまずもってない。

 仮に出たとしても、小さく弱い魔物でしかないはずなのだ。


 しかし今天井から力尽くでもって入り口を作って落ちてきたそれは。


 人よりもはるかに大きい。これが弱い魔物であるはずがない。


 形だけを見れば蜘蛛と言うべきだろうか。

 肌色の、つるんとした表面はとても蜘蛛だとは思えないが、しかし形状は間違いなく蜘蛛だ。


 人間の手の指先のような足。爪もまるで人の指のようで悪趣味な作り物にしか見えなかった。


 そうして蜘蛛にある目の部分がいずれも人の目の形をしている。

 ただ、鼻や唇といったものは存在していない。

 髪の毛や産毛のようなものは一切ない。

 蜘蛛の口になる部分に人の唇があるのなら人を無理矢理蜘蛛の形に当てはめたものなのかもしれないと思えたが、しかし口部分はそのまま蜘蛛だった。人の肌と似たような質感でありながら、そこだけ蜘蛛そのものなのだ。


 見れば見るほどわけがわからなかった。


 そんな化け物が近くに落ちてきた生徒たちは一瞬でパニックに陥り悲鳴を上げて逃げ惑う。

 逃げはせずとも咄嗟に攻撃魔術を放った者もいた。


 しかし――


「ぎゃあっ!?」


 一見すると脆そうな皮膚状の蜘蛛の身体は、しかし魔術を跳ね返した。

 化け物は八本の脚を器用に動かして向きを変えると、びょんと跳ね飛び近くの生徒に襲い掛かる。


 更に上がる悲鳴。逃げ出そうとして出口に群がるも、しかし扉は開かない。


 扉部分に魔術をあてて勢いで吹っ飛ばそうと試みた生徒もいたが、しかし学園の建物は基本的に魔術や魔法で簡単に壊れないようになっている。

 全くの無意味だった。

 結果ますます混乱は増した。


 人より大きいとはいえ、この建物よりは小さい化け物は、近くの生徒を一本の指――いや、脚か、それでついっとなぞるように動かして――


「っひ……!?」


 いとも容易く生徒の首を刎ねた。

 人の指にしか見えないそれは、どう見てもそこまでの切れ味があるようには見えない。しかしそれでも、確かに今人の首は切り落とされたのだ。


 逃げようとする生徒、とにかく立ち向かおうとする教師。

 どうすればいいのかわからずただその光景を見ているだけの者。


 そんな混沌とした場において、ウェズンは――


「いやキモいて」


 一体緊迫感をどこに置いてきたのだと突っ込まれそうではあるものの。

 素直な感想を口にするしかなかったのである。

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