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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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予定調和



 事前に通達されていたとはいえ、本当に学院の生徒が教師たちと共に学園にやってきたという事実は、中々どうしてすぐに納得できるものではなかった。


 特に相手の学校に友人を殺される形となってしまった者たちであれば尚更。


 だがしかし、周囲で剣呑な雰囲気を浴びる羽目になった生徒たちの心配はそこまで続かなかった。


 何せもう随分と昔の話ではあるが元はここで勇者も魔王も育成されていたのだから。


 更にそこに学園長でもあるメルトが姿を現して、敵を見誤るなと告げ、一触即発状態になっていた生徒たちにピンポイントで魔術をぶち当てた。

 威力はそこまででもなかったため大怪我をするような生徒はいなかったが、一触即発状態になっていた生徒たちは何も一塊になっていたわけではない。

 そこかしこで分散していたのに、それらを的確に術で気をそらしたのだ。かなり手荒い方法ではあったけれど。


 その後は少し遅れて姿を現したクロナとメルトによって学院が崩壊したので今後は学院をこちらに移して授業をする旨を伝えられた。


 学園がある島はそれなりに広く、学園とは離れた場所に新たに学院と寮を作るくらいは可能であると言われ――どころか既にこの事態を見越して学院と寮は用意してあるとメルトが宣言した。

 いつの間に。

 学園の生徒からすればそんなもの初耳である。


 どうやら認識疎外の術を使って目隠ししていたらしく、その術が解除されたと同時に遠くの方に学園に似た建物が見えた。

 あっちってそういや立ち入り禁止にされてたところじゃないか? なんて誰かの声がして、そういや言われてたな……とほとんどの生徒が思い出した。

 今年は留学生の廃止だなんだと例年通りとはいかなかったのもあって、そのついでに向こう側立ち入り禁止だから、と言われていてもあまり記憶に残っていなかったのだ。


 それ以前にそこまで行く必要性も何もなかったからほとんどの生徒は足を運ぼうとかこれっぽっちも思わなかった。


 立ち入り禁止と言われたら、お年頃の生徒であれば反抗期とかちょっとした肝試し感覚で忍び込むくらいはしたかもしれない。しかしどういう理由で立ち入り禁止なのかまでは言われていなかったので、下手に近づいた結果教師が何らかの研究を行っているだとか、そういうちょっとした危険がありそうな状況である可能性も考えたのだろう。

 巻き添えで怪我をするのは馬鹿らしいし、そうでなくとも立ち入り禁止だと言われている場所に行って挙句バレたなら一体どんなペナルティが与えられることか。


 損得勘定でどう考えても近づかぬが吉。近づくと絶対ロクな事にならないけど、近づかなければ少なくとも自分に対する不利益はない。


 大体近づくも何も、あのあたり特になんもなかったしな……と入学当初島のあちこちを見て回った者たちの話から近づくメリットが何一つとして存在していないのだ。そんな事よりもっと他にやることあるし有意義な時間の使い方はいくらでもある、とばかりに誰も近づかなかったけれど、まさかそこでもう一つの学舎が作られていようとは。


 ともあれ、同じ島で生活することになったのは確かだが、授業や寝泊りに関しては同じ建物の中、というわけではなさそうだ。

 今までのように学園と学院で対抗して行う授業はある程度方法を見直されるかもしれないが。


 多くの生徒たちは困惑しながらも受け入れるしかない。

 嫌なら学園を去るのも一つの手だと言われてしまったのもある。

 だがしかし、そこで学園を去るにしてもなんだか逃げるみたいで嫌だったのだろう。

 結局あいつらと一緒の敷地内で勉強なんてできるかよ! とか言い出して学園を去っていくようなのは誰もいなかった。


 結局のところやることはそこまで変わらないのだ。

 ただ、物理的な距離が文字通り縮まっただけで。


 敵討ちだのなんだのと言って向こうとやり合おうっていうのなら止めないが、一応決闘に関する手順は守れよ、なんて教師に言われて生徒達には新たなマニュアルが渡された。


 決闘の手引き、とかどう突っ込んでいいのかわからない物を渡されて、ウェズンたちは大いに戸惑ったのである。


 今までは学院の生徒と遭遇するのは学外がほとんどだった。

 学園に攻撃を仕掛けに来ることもあったけれど、それだって不定期というわけではない。一応時期は決められていた。

 けれどもこうして同じ島内に学び舎ができてしまったとなれば、うっかり遭遇する機会は増えるだろう。

 そのたびに戦っていたら、実力差があるならともかくそうでなければ無駄に戦闘が長引いて周辺に被害が出ないとも限らない。

 そこら辺を踏まえた結果、なのだろう。



 ちなみに決闘の際は地下闘技場でやれとも。


(あるんだ……父さんの言い方だともうとっくになくなったみたいな感じだったけど、あるんだ……)

 流石に声には出せなかったが、ウェズンとしてはとっくの昔に崩壊したとかそんな話が出ていながらしれっと直されている事の方が驚きである。

 まさかこれを見越して……!? いやまさかそんな。


 ウェズンはそう思うだけだったが、他の生徒はそもそも地下闘技場の存在を知らなかったらしい。

 何それぇ? とばかりに声があがっていた。



 ともあれ、同じ敷地内だからとて常に一緒に授業を受けるわけではない。

 これだけは確かな事で、今後関わるにしても新入生が受ける洗礼とも言うような襲撃はないだろう。襲撃なのか生徒たちが自主的に襲ってきたのかわからなくなると、神前試合を前にますますお互いがギスギスするのが目に見えているので。


 向こうも学園と同じ敷地内という事で今までとは勝手が違うだろうし、当面はそんなすぐにこっちにちょっかいかけに来たりもしないはずだ。

 そう思ったので、ウェズンとしては現段階ではそれ以上学院側について考える事はなかった。


 考えたくなかった、というのもある。


 今まではそう関わらなかった相手が急にご近所さんになってしまった、というのはなんだかいらぬ厄介事を起こしそうだったので。




「――どうにかあの場での殺し合いは避けられましたね」


 学園の一室、他からの干渉を遮断する部屋にてクロナがほぅ、と安堵の息を吐いた。


「事前に説明した相手も限られてたんでしょ? 生徒はほとんど何も知らないままなら下手したら本当にあの場で殺し合いになってたよ。私上手く止められないんじゃないかと焦っちゃった」


 そんなクロナにメルトがじとっとした視線を向ける。


「で、学院があったところでどうなったの?」

「どう、と言われましてもね……ボクの姿を模して作っておいた人形は完全に壊れました。ついでに増幅器のイミテーションは予定通り奪われましたね」

「じゃ、一応こっちの想定のまま事が運んだってこと?」

「ひとまずは」

「それにしたって無謀が過ぎるよ。もしバレたらどうするつもりだったのさ」

「その時はこちらにも被害が及んだかもしれませんね。

 でも、そうなったらなったで予定が大幅に繰り上がっただけの事」

「いや、大分やばいでしょそれ」


 もしそうなっていたら学園の生徒を避難させるにしても丁度いい避難場所がない。

 学院の生徒がこっちに来た時点で更に避難させなければならないとなっていれば、きっと適切な場所もないので避難までに時間がかかり最悪ここで全滅の危機だってありえた。

 そうならなくて何よりである。


「ともあれ、クロナが無事で良かったよ」

「無事で、と言いますが。ボクはあれに自分の力の95パーセントを移して使いました。そして人形は壊れた。今のボクは力を使い果たして何の役にも立たない。無事、と言っていいか微妙なところですね」

「生きてるなら力なんてそのうち回復するでしょ。確かにそりゃ、代償としては結構使ったなって思うけど」

「ほぼ100パーセントの力をもってしても、ボク一人ではあいつに勝てなかった。

 それがわかっただけでも良かったのかもしれません」

「あ、うん。そだね。

 契約のせいで私もあいつには歯向かえないようになってるから、それでも無理をおして戦おうものならクロナと二人でも勝ててたかどうか」

「まず負けたでしょうね」


 即答されてしまってはどうしようもない。否定したい気持ちはあるけれど、クロナがこうもきっぱりというのだ。反論できる材料もない以上メルトはそっか、と頷くしかなかった。


 増幅器を狙ってあいつが――レスカが近々学院にやってくるであろう事は想定の範囲内だった。

 だからこそリィトには増幅器を持って雲隠れしろと言ったのだ。

 そしてリィトがいなくなってからクロナは自分の力を使って増幅器のレプリカを作成した。

 あのレプリカは本物と比べて出力がかなり抑えられている。本物の半分も効果を発揮しないだろう。

 本当なら見た目だけそっくりの一切何の力もない偽物をつかませてやろうと思ったが、あの場で奪ってすぐさま試しに使ってみよう、なんてされた場合もし完全なる偽物だと知られればどんな八つ当たりが発生するかわかったものではない。

 だからこそ、なんか思ってたより威力低いな……? と思う程度に留めるよう苦労したのだ。

 そうでなくとも、あの場で使わなくたって。

 増幅器を奪ってクロナをその場に置いてとんずらかまして別の所で試しに使ってみよう、としたとして。

 そこで見た目だけそっくりの何の力も持っていない偽物でした、となればきっとレスカは戻ってくる。確実に文句をつけに来る。

 けれどその頃にはクロナが自分の分身として作った人形だってその時点ではもうお役御免になっているし、戻ってきてそこでクロナさえも本物ではないと知られれば。


 次にやってくるのは学園である。

 流石に学園で暴れられるのも困るから、そういう意味ではあの場でレプリカ増幅器を試してみようと思われなくて正解だったし、他のところで試しに使うにしても出力が低めならまだ最初だし調子悪いのかな、で誤魔化しがきく。すぐにクロナのところへ戻ってこなければ、あとは自分とリンクしている人形をどうにかするだけだ。


 本体ではないとはいえ、それでもレスカと戦う事になった結果、契約違反のダメージはきっちりと本体にフィードバックされていた。

 そのせいで学院の生徒や教師たちが学園に避難してきた時、すぐに姿を現すことはできなかったのだ。

 現在はどうにか動けるけれど、レスカと戦った人形のように動き回れるかと言われると無理だ。

 簡単に人形が壊れないよう自分の力のほとんどをあちらに移した結果、本体が脆くなりすぎた。生きてるのが奇跡である。


「当分は、自由に身動きがとれそうにありませんね……」

「うん、ゆっくり休んでよ。

 あいつが次にこっちに狙いを定めてちょっかいかけてくるとして、せめて少しでも遅い事を願うしかないね」

「どうでしょうねぇ……絶対近々手を出してきそうな気がするんですよ。

 まぁ、でも」

「うん?」

「増幅器はリィトが持っているから。あのレプリカで何かやらかしても、どうにかなるんじゃないかなって」

「……うん。そうだといいね」


 本物よりは性能が劣るといっても、それでもクロナがレスカの目を誤魔化すために作り上げたレプリカだ。すぐに偽物だと気づきはしないだろうけれど、それでもいつかは気付かれるはずで。

 何も知らない人間たちであれば騙されたままでいてくれたかもしれないが、レスカを相手にずっと騙し続けるのは無理がありすぎる。


「学院があった場所よりは、守りの力が強いから持ちこたえられるとは思うけど……大丈夫かな……?」

「大丈夫だと思うしかないでしょう。もとよりここは世界樹があった地。そういう意味ではレスカもそう簡単に手出しはできない」

「そっか、うん、そうだよね」


「ただ」

「うん?」

「学院があんなことになってしまった以上、このままでいられるわけがない。どうにかしないといけないのはそうだけど、だけど打つ手が今のところ存在しない。

 ……希望を潰えるような事だけは、避けなくては」

「難しい事言うね」

「仕方ないでしょう」


 あまりにもしれっとクロナが言うものだから。

 相変わらず無茶言うなぁ、なんてメルトは思ったのである。


 しばらくの間離れて過ごしていたし、話をする機会も減っていたけれど。

 こういうとこは昔から変わんないな、なんてどこか呆れて。

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