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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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セルフかくれんぼ



 静かな室内には二人きり。

 男と女がたった二人で、と聞けば人によっては色恋沙汰かと思うかもしれないが残念ながら違った。


 そもそもお互いにそんな感情を持ち合わせていない相手だ。


「それで、何の用?」

「早急に隠れて下さい」


 呼び出されてやって来てみれば、わけのわからない事を言われてリィトは思わず「は?」と聞き返した。

 思わずといった様子で表情を崩したリィトに、その原因を口にしたクロナはしかし表情を崩さない。


「貴方が学園から持ち出したあの増幅器を持ったまま、とにかく一時的に絶対誰にも見つからないような場所に雲隠れて下さい」

「話が見えないんだけど?」

「見えない? いつからそんな察しが悪くなったのですか。さてはもうボケました? 兄より先にボケるとか勘弁して下さいよ」

「わぁ、ボロクソ言うじゃん。いや、増幅器持って、って時点で薄々わかってはいるけどさ。

 でも、なんで今」

「あいつが動き始めたからに決まってるじゃないですか」

「へぇ? おかしいな、あいつが動くならまだ先だと思ってたけど」

「えぇ、えぇ。ですが」


 クロナはそこで一度言葉を切った。


 どう言えばいいのか。適した言葉がみつからなかったのだ。


「観察者、いえ、発見者? どうにもしっくりきませんね……ともあれ、希望とも言える存在にあいつが目をつけたのです」

「……ってことは、まだいるんだね?」

「勿論です。今もまだ、いますとも」


「増幅器、他の奴に託すのは?」

「どうでしょうね。貴方が一番小賢しくて逃げ回るのも得意でとっても鬱陶しくてイラッとさせる事に関しては優れているから、貴方が適任だと思うのですが」

「……それ、褒めてる?」

「褒めていますよ。柔軟な対応ができるからこそ、貴方は学園から学院に移った。貴方がここに来た日の事を思い出すと、本当に心の底から思うのです。

 最低なタイミングで来ちゃったなぁ、って」

「なんだよそれ、最高のタイミングだっただろ。

 学園を裏切ってこっちに来たって考えたらとってもベストなタイミングだっただろ!?」

「えぇ、おかげで一部の精霊たちには本気で敵視されてますね、貴方」

「ははっ、いい感じじゃないか。余計な慣れ合いなんてしないから、程よく敵対してるようにしか見えないだろう?」


「ここで貴方が仲良くしている相手がよりにもよってあの子ですから余計にね」

「おっと、そこは大目に見てほしいな。ボクにだって友は必要だ。そうだろう?」


「……まぁいいです。

 ともあれ、急いでその増幅器を持って逃げ隠れて下さい。その上でこっちの動向に注意しつつできれば最高で最悪のタイミングでもって参戦してくれると助かるのですが」

「わぁ、指示がとても雑すぎないかな? でもそれって、ボクの事信頼してくれてる?」

「調子に乗ってるとはっ倒しますよ」

「こっわ。見た目だけなら絶対そんな感じじゃないくせにいざ実力行使したら君、お姉さんより怖いよね」

「あれは妹でボクが姉です!」


「おっと、ごめんって。悪かったよ。見た目だけならあっちがそう見えるからさ……いやあの、ほんと、ごめんね?」

「次間違えたらカチ割りますからね」

「どこを」

「覚えの悪い脳天を」


「はい、すみません」


 先程まではどこか揶揄いが混じっていた部分もあったが、しかしこの謝罪に関してはとても素直に、それでいて真摯であった。何故ってもし本当に次やらかせばクロナは躊躇わずに実行するだろう。流石にリィトも脳天をカチ割られる体験は正直したくはない。

 クロナはリィトを殺すつもりはないだろうから、恐らく絶妙な加減をしてギリギリで生きてる状態に留めるだろう。

 つまり、頭がカチ割られたという感覚がしっかりと感じられるわけだ。嫌すぎる。

 治癒魔法で治せるといっても、だからってカチ割られていいとかそんな事は断じてないのだ。


 治るから好きなだけ怪我し放題、なんて理屈をリィトは持ち合わせていなかった。


「それにしても隠れろ、ねぇ……

 もしかして次危ないのってもしかしてここ?」


 全然そんな気はしないけど、なんてリィトはとても気軽に言った。

 本気でそう思っていたわけではない。ほんの軽い気持ちからだ。

 大体、ここがそんな危険な目に遭うなんて事、あるはずが――


「そうですけど」

「えっ!?」


「何を驚いて……あぁ、だって考えてもみて。

 ここだって、敵地じゃないですか」


 敵地。

 その言葉がクロナから出ると思っていなかったリィトは少しばかり口を閉じて――


「そう、言われてみると……?」


 納得してしまった。


「一見するとそう思えないのかもしれないけれど、でも敵も味方も最初からハッキリしていた。それが途中から分裂して敵が増えて、味方も増えたように見えるだけ。でも、何も変わっていない。

 それは貴方が裏切った事も含めてです」

「まぁ、確かにそうだけど……」

「所属が変わっただけで貴方がやってる事は何の違いもない。

 そして、いい加減向こうも焦れたのでしょうね。

 解除された結界はまだ全てではないけれど、それでもこのままいけばあと何度かの神前試合でそれは達成される。かつて、愚かな連中が出来レースなどやらかさなければもっと早くに終わっていたかもしれないけれど。

 ……けれど、再びの結界で人類は悟った。愚かな策を用いたところで無意味だと。それどころかもっと状況が悪くなると。

 それこそ『次』が本当になくなるかもしれないと。


 だからこそ、この先の神前試合で何かを仕出かす者はそう現れないはず。

 けれど、それを本当にあれが望んでいるでしょうか?」


「ないね。だってあいつはそういう奴だ。

 籠の中に閉じ込めた虫が、出られるわけもないのに出口を求めて彷徨う様をほくそ笑んで見てるようなものだろ?

 そしてそれに飽きたら閉じ込めた虫の存在なんてどうなったところで知ったこっちゃない」


「えぇ、わかっているではないですか。

 つまりは、そういう事です。

 幸いにしてここはあいつに知られていない。だからここでの会話を聞かれる事はない。

 ここを出たらすぐさま行動に移りなさい」

「わぁ、突然すぎるな。別れの言葉も言えないのかな?」

「悠長にしている暇があると思ってます?

 あいつがいつ動くかはわからないけど、それでももうあまり時間がないというのがボクの見立て。

 嬉しくないけどあいつに近しい立場だからね。十年に一度の殺し合いを娯楽にしてそれであいつが本当に満足するとでも?

 そうでなくとも、前から退屈になればあいつはあからさまでなくとも世界のあちこちに干渉していた。

 ……ボクの経験ではそろそろだ。目の前に神前試合が控えていたとしても、それでも退屈に飢えたあいつが大人しく次の試合を待つとは思えない」


「…………了解。わかったよ。

 ただ、一ついいかい?」


 クロナは何も言わなかった。ただ視線でどうぞと促す。


「犠牲は最小限に抑えるだろうと思うけど、その」

「貴方の友は大丈夫でしょう。そう簡単に死ぬようなやわな子ではありません」


「そうだね。それもあるけど。

 その犠牲を極力出さない、の部分に君は含まれてる?

 言ったところで信じちゃくれないだろうけど、でも、君が犠牲になるのをボクは望んでいない」


「おや、まぁ」


 まるで思ってもみない事を言われた、みたいにクロナは思わずぽかんとしてしまった。


「な、なんだよ」

「いえ、随分と……その、可愛らしい事を言ったものだなと。

 よくもまぁこんな場所で情緒教育が成功したのだと思うと感慨深いものがありますね」

「あれそれ褒められてる?」

「いえ、貶しています」

「なんだよそれ」

「ボクの心配をするなんてそれこそ一億年早いんですよ。

 いいから貴方はとっとと身を隠しなさい。見事やり通せたのなら、その時は褒めてあげます」


「このっ……わかった、わかったよやるよやればいいんだろう。

 ……死ぬなよババァ」

「突然口悪くなるじゃないですか。あまりふざけた態度も過ぎるとぶちのめしたくなるので程々にしておきましょうね。今ここで死にたくはないでしょう?」


「うん、ごめんねクロナ。それじゃ行ってくる」

「はい、いってらっしゃい」


 自分クロナの心配をするよりも自分リィトの心配をしろとあまりにもあっさりと言われてイラッとしたのは確かだけど。

 実際クロナから見ればリィトなど赤子も同然なのだという事を思い出す。


 そしてそんなクロナが言うのだから、本当に近々あいつが行動に出るのは間違いないのだろう。


 学園には様々な貴重品が置かれている。それは世界が作られた直後からあるようなアーティファクトと呼ばれるような物も含めて。

 その中でもリィトが学園から盗み出してきた増幅器が今もまだ学園にあったままであるのなら、あいつは間違いなくそのまま学園に仕掛けてきたはずだ。

 だが今それは、学院にいるリィトの手にある。

 であれば、狙われるのは当然ここだ。


 あえてリィトにそうするように仕向けさせたクロナは、果たしていつからこの事を見越していたのか。

 リィトには考えたところでわからない。

 わからないからこそ。


 呼び出された部屋を出て、学院の中を適当に回る。

 そうして自分は今もさっきも学院内を適当に徘徊していましたよと言わんばかりに生徒たちの目に触れるようにした上で。


 適当なところで忽然と姿を消したのである。

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