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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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さよならは言えない



 ウェズンがエルアの死を知ったのは、彼女が死んで数日が経過してからだった。

 最初はただいなくなっただけだと思われていた。

 ウェズンとエルアの学年は一つ違うし、テラプロメに来たと言ってもその後でウェズンとエルアが話をする機会はほとんどなかった。

 ウェズンは自分の学年の授業や他にやることもあったからそれなりに忙しかったし、エルアにしてもそれは同じだろう。

 今年は留学生がやってこないため、そちらに時間を取られる生徒がいたわけでもない。

 一年の授業は去年のウェズンたちよりはおとなしめだったと思われる。


 エルアがいなくなったと知ったのは、彼女がいなくなった直後というわけではない。

 三日ほど経過した後だろうか。

 一年の生徒がウェズンを訪ねてきたのである。


「あのすいません、エルアこっちに来てませんか……?」


 そんな控えめな質問にウェズンは何かあったのかと当然聞いた。

 エルアの友人と思しき少女はどうやら色々と話を聞いていたらしい。

 ウェズンに命を助けられたという話、そのために自分は先輩の役に立ちたいのだというのを、何度か聞かされていたのだと。


 おかげで少女は一度も会った事のない先輩であるウェズンの事を、なんとなく知った気になる程度になってしまっていた。


 そんなエルアが授業に出てこなかったので、モノリスフィアで連絡をしてみたのだ。

 具合でも悪いのなら、何か必要な物持ってくよ?

 そんな感じでメッセージを送って。


 しかし返信はなかった。

 授業中だったのもあってすぐさま駆けつける事はできなかったが、放課後寮に戻ってエルアの部屋を訪ねてみれば、そこにエルアはいなかった。

 部屋の管理をしているゴーレムに聞けば、何か思い出したみたいに部屋を飛び出していった、と言われ。

 けれどどこに行ったかはわからないとも言われたので、少女もその時点ではまだそこまで問題視していなかった。発作的にホームシックを患って神の楔で家に帰る生徒が少女のクラスにいたせいで。

 自宅に帰るといっても、帰ったっきり戻ってこないわけじゃない。

 明日には帰ってくるんじゃないかな、なんて思ったのだ。

 ところが次の日になっても戻ってこない。

 自宅に戻ったのではないのかしら……? それともまだ家にいる?

 モノリスフィアにメッセージを入れても一向に返事はこないまま。


 授業に出なくとも、何らかの課題とかそういうのがあっていないのかもしれないな……と思って教師に確認してみれば、エルアにそんな課題は出していないと言われ、授業に出てきていないという事実についても教師はそこまで問題だと思っていなかった。

 そもそも授業をサボる生徒はそれなりにいるのだ。毎年。


 勿論サボりにサボった結果成績を落とし落第するような者たちは学園を去る事になるけれど、そうでないのならそこまで問題視はしない。

 ただ、サボって学園の外に出た先で危険な目に遭ってる可能性もあるから念のためこちらでもエルアについて情報を集めてみる、と言われて。それからダメ元で少女はエルアの口からよく名前が出ていたウェズンのところへ来る事にしたのである。

 とはいえ、ウェズンがどのクラスにいるだとか、そういう情報はさっぱりだったのと、彼が男性である事で寮は別の場所だ。少女が気軽に訪ねるわけにもいかない異性の寮。

 もし既に彼が寮に戻ってしまっているのなら、会うのはとてもハードルが高い。


 下手に何でも恋愛に結び付けるようなクラスメイトにその光景を目撃されれば、どんな噂が生じる事か。

 そう考えて、少女はとりあえず次の日、授業の合間に教師に事情を説明してウェズンのクラスを聞いたうえでやって来た。


 先輩の助けになりたいから、とよく言っていたので。

 もしかしたら、こちらに来て何かしているのではないかしら?

 そう思ったので。


 ところがそう言われても、ウェズンのところにエルアがやって来たという事実がそもそも無い。

 テラプロメの件以降、ウェズンはエルアと話をする機会が全くなかったのだ。

 予知夢とやらで何やら自分の危機を知り、イルミナを連れて駆けつけてきてくれたというのは聞いたけれど。エルアが直接ウェズンの助けになったかはわからない。それでも、そう思ってやって来た事への感謝と、あとは危険なことに首を突っ込む無謀さに対する注意と。

 会った時には伝えておこうと思っていたが、けれどそれは今すぐやる必要のあるものだとウェズンは思っていなかった。

 他にやる事もあったし、そもそも気付けば義理の弟が増えるという事態にもなっていたのだ。

 正直少女がやってくるまでエルアの事はすっぽ抜けてたと言ってもいい。


 エルアとの付き合いなどほとんどない。そう断言したっていいくらいに関わりは少なかった。そのため少女にエルアについて聞かれても、彼女がどこに行ったかなんて心当たり、ウェズンには一つとして思いつかなかった。

 なので言えたのは精々、

「家に帰った、とかではなくて?」

 この程度である。


「一応連絡してみたけど、どうも違うみたいで」

「そっか。もし見かけたら戻るか連絡返すかするように言っておくよ」

「お願いします」


 ぺこりと少女が頭を下げて、そうして去っていく。


 学園の中にいないのであれば、どこか外に出たわけで。

 しかしエルアが行きそうな場所なんてウェズンは思いつかない。家以外では。

 なので家に帰っていないと言われてしまえば、それ以上の行き先の心当たりなどあるはずもなく。


 まぁ、学外授業で外に出た時にエルアっぽい人がいるかくらいは注意して見てみるか……くらいにしか思っていなかった。


 これがたとえば、エルアと仲の悪い相手と常にバチバチにやりあってただとか、彼女が学院の生徒でこっちに転校してきただとか。

 そういったトラブルを抱えていたのであれば、もしかして……? と悪い想像も浮かんだかもしれない。

 けれどもウェズンはエルアの対人関係なんてまったくわからない程度の間柄でしかないし、友人がわざわざ少ない可能性でもってウェズンのところに訪ねてくる程度には人間関係は良好なのだろう。であれば、気まぐれで出かけた可能性もある。


 ウェズンだって前世の記憶を思い返してみれば、学校と家を往復するだけの日々にちょっとだけうんざりして、ちょっとだけ授業をさぼった事だってあった。勿論あまりさぼりすぎると後で困るのは自分なのでそう何度も……というわけではなかったがそれでも。


 ふと見上げた空の青さに、なんだかこれから学校に行く、というのがどうしてもイヤになってしまって。

 本来降りる予定の駅で降りずそのままいくつか先の駅まで行ってふらっと、なんてしたことだってあったのだ。


 この世界での学校は、そりゃもう必死に学ばないと死ぬかもしれない事もある。前世の学校と同じノリでいれば間違いなく将来困るだろうことも確かで。

 けれどそれでも、時々そんな事放り出してしまいたい気分になるかもしれないな、とも思うのだ。

 なのでちょっと気分転換にどこかに行ったのかもしれない。もう少ししたら帰ってくるかもしれない。

 だが、もし神の楔の転移事故でどこか、瘴気汚染度が高い場所に飛ばされた可能性も無いとは言い切れない。

 それなら連絡が返ってこないのもわかる。

 その可能性も捨てきれないからこそ、一応教師の方でも調べているのだろう。


 早く見つかればいいし、大した事がなければいい。

 そう思って更に数日後。


「そういやお前、一つ下の学年のエルアって生徒と知り合いだったか」


 授業終わりに、テラがそんな風に言ってきたので、なんとなくイヤな予感はした。


「え、あ、はい、そうですね」

 そのせいで答えるまでに少し時間がかかったのと、どうにも歯切れの悪い返事になってしまったのは仕方ない。テラもウェズンが嫌な予感を感じ取った事を察したのだろう。


「他の教師から連絡が来てな。

 あいつが死体で発見されたと。

 もしお前が学外授業の際に外であいつの事をついでに探しているようなら、もうその必要はない、と伝えてくれと頼まれた」

「は……」

「話は以上だ」

「え、いや、ちょっと待ってください。死体で、ってそれ」

「瘴気汚染度は高くない場所だったから魔物に死体をぐちゃぐちゃにされたとかではなかったようだが、魔物ではない野生動物に食い荒らされかけていたところを他クラスの生徒が発見したそうだ。

 その時点で損壊はかなり酷かったようだが……エルアが身につけていたリングの魔力痕から本人であると確定した」

「魔物にやられたわけじゃないなら、じゃあ」

「知らん。学院の生徒と遭遇でもして戦って死んだか、それ以外か。そこまでの判別はつけられない。

 いなくなった、という話が出た時点でエルアのクラスの教師もエルアのリングにある魔力痕からの追跡ができないかと調べたそうだが、その時点で反応はほぼ無し。

 恐らくはその時点で死んでいたんだろうな。ただ、反応がなくてもリングを意図的に外す奴もいるからそれだけで死んだと断定するには早かった」


 確かに学園に入学した時にリングを渡されて、その時に自分の魔力を流して個別認証したのは覚えている。

 あの魔力を辿って探す事もあると聞いたような記憶もあった。ただ、それをするのは余程の事がない限りはしないとも言われていたし、それを使う事例がめったにないのもあってウェズンはすっかり忘れていたのだ。


 そもそもリングは普段、便利なアイテム収納ができる装備品という認識しかなかった。勿論入学した直後は物珍しさもあってリングについてのあれこれを教えてもらって憶えていたはずなのだけれど、緊急事態と言えるような展開にならなかったのもあってすっかり忘却していた。


 それに、魔力痕の追跡というのは案外面倒なので。

 できなくはないけれど実際にやる事は滅多にない。



「死んでから数日が経過しているが、その死体は魔術か魔法かはわからんが一時的に凍っていた可能性もある。でなければ死体はとっくに腐敗していただろう。見つかったのが気温のやや低いところだったから、魔法ではなく普通に凍っただけの可能性もあるからそうだ、と断言はできないが」

「そう、ですか……」

「あぁ、伝言は以上だ」

「……はい」


 言うだけ言ってテラは立ち去っていく。

 人が死ぬのを見た事がないわけじゃない。この世界に生まれて人が死ぬのを見たのも、戦ってこちらが命を奪った事もある。

 けれど、こうして人から聞かされるという事はあまりなかったように思う。


 エルアとはそこまで関わったわけではないけれど。

 それでも、学院の生徒たちに殺されたこちら側の生徒との違いは、顔見知りかどうかだ。

 いや、学院の生徒にやられた連中の中には顔見知りがいなかったわけじゃないが、それでもエルア程の衝撃はなかった。

 思えばエルアはこちらと関わりを持とうとしていたのもあったから、そのせいだろうか。

 友好的な存在であったというのもあるのだろう。


「……思ってたより、キッツイなぁ……」

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