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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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それはきっと天啓のように



(おかしい……あの時はそれどころじゃなかったから考える余裕もなかったけど、でもやっぱり変)


 声には出さないもののエルアはそんな風に思いながら、目についた本を棚から取り出す。

 そうして気になった本を数冊取り出した後、適当に空いてる席に座った。


 エルアが選んだ本は魔女に関するものだ。

 魔女、といっても生まれついての魔女と後天的に魔女と化した者がいる。

 魔女というものがどういった存在であるのか、正直エルアはよくわかっていない。

 血筋で決まるのか、それとも別の何かか。


 魔法や魔術に長けている、というだけならエルフがいるしそれ以外の特徴も何だかよくわからないのだ。


 学園に入ってできた友人に、

「魔女ってどんな感じなの?」

 と聞かれた事があるが、どんなも何も、としか答えられなかった。


 学園に入って浄化魔法を覚えるために精霊と契約をするとはいえ、エルアは別にそこらにいるであろう精霊を見る優れた目を持っているとかではない。

 実体化できるような力の強い精霊がいるのであれば、それは別に特殊な目を持たなくとも見えるだろうけれど、エルアには生憎そんな目は持ち合わせていなかった。

 精霊との契約はエルアが思っていたよりはすんなりできたと思う。


 けれど、では。

 それが魔女の力によるものなのか、と聞かれるとよくわからないのだ。


 ただ自分は魔女で、そういうもの、と心の奥底で理解している……というのが一番言語化するにあたって近いだろうか。

 魔女だと思う以前の、ただの人であった頃と比べて明確な違いが出たかと言われるとわからないのだ。


 だからエルアはそんな質問をしてきた友人にこう聞いた。

「人間てどんな感じ?」

 そう言われた友人は、自分が同じような質問をしたとそこで気付いて、あぁ……となんとも言えない声を出した。

 どんなも何も、と言いたかったのだろう。エルアもそうだ。


 夢の中で自分を助けてくれた恩人であるウェズンが危険な目に遭うと知って、それを助けたいがためにテラプロメへと乗り込んだのは記憶に新しい。

 自分一人だけで乗り込むのは無謀だと判断して、そこで彼に近しいであろう人物を見かけて強引に巻き込んだ。

 自分が見た未来を変えるには、いくつかの変化を用意すればいい。


 これは完全に例えばの話ではあるけれど。

 もし、少し先の未来で自分が怪我をするといったものが視えたとして。

 その未来を変えるためにはどうするか。夢と同じ行動をしないようにする。これに限る。

 とはいえ、気を付けていても夢と同じ状況になることはある。けれどもそういった時に、夢の中で周囲に誰もいないのであれば、現実では誰か一人でも近くにいてくれれば多少なりとも結果が変わる事になる。

 勿論その程度で変わらない場合もあるけれど、自分が視た未来の光景からいかにかけ離れた状態に持ち込めるか。

 それが未来を変えるコツであった。


 自分が視たウェズンの危機では彼は一人だった。

 だから助けに乗り込めば、そしてどうにか合流できれば一人きりという展開は回避できる。


 他にも乗り込んだ仲間がいたとはいえ、合流できてもすぐに別れたりしていたらしいし、結局エルアが視た未来は起こらなかったようだけど。


(でも、それじゃあ余計おかしいわ)


 本のページを捲りながら自分の疑問を解決できそうな部分を探すが、本に記されていた魔女と自分はどうにも一致しない。

 魔女と一言で言ってもそれらの存在全てが同一というわけでもない。本に記されている魔女はあくまでも彼女に関してのみで、別の魔女にも該当するわけではない。

 既に分かっていた事だが、それでもエルアは書物の魔女と自分との共通点を探そうとしていた。



 エルアが疑問に思っているのはテラプロメに行った時の事だ。


 あの時イルミナと地下を移動して、そうして途中で眠気に襲われ寝落ちした。

 未来を視るのに夢という方法でしかできないので、そしてまた自分の意思で自在に視る事ができるというわけでもないので。

 あの時は本当にイルミナがいて良かったと思う。

 もし一人で乗り込んでいたら、あの場で寝落ちしたらそのまま倒れて身体を強かに打ち付けていたに違いない。打ち所が悪ければ目覚めるまでに相当時間がかかったかもしれないし、もしそのままぐっすり起きることがないままであったなら。

 あの都市と心中していたかもしれない。


 それを思うと一人で乗り込まなくて良かったとは思う。


 思うのだが……


 あの地下で視た未来。

 そしてその後……


(一体何が分岐して夢と異なるものになったのか……)


 エルアが地下で予知夢に誘われた時視たものは、レッドラム一族の現状だった。

 現状、だったと思いたい。

 その時はまだ、酷いものではなかったのだ。

 足の腱が切られたりしていた者もいたが、それでも手足はついていたし、一応自分たちで遅くはあれど動けない状態にされていたわけでもなかった。

 彼らを連れて逃げ出すと言われたならば相当大変な目に遭ったかもしれないが、それでも彼らは自分で動けないわけではなかったのだ。


 だがしかし実際はどうだ。

 夢で見た内容よりも酷い状態になっていた。

 明らかにおかしいのだ。


 あの時は実際の光景が夢以上に酷すぎて言葉を失って、そこに思い至る余裕がなかった。


 けれど徐々におかしいぞと思うようになっていった。


 エルアが視た未来が何らかの出来事で変わった、という考えはある。

 あるけれど、エルアたちが何かをした結果変わったというわけでもなさそうだ。

 では、他の誰かの行動で変化したと考えるのが普通だが、それにしたって早すぎるのだ。


 これがテラプロメに乗り込む前に視たものであったなら、本来テラプロメに行く事のなかったエルアが行った事で何らかの変化が生じたと考えられる。

 しかしエルアが視たのはテラプロメに行って、そして地下を移動していた時だ。

 目覚めた後は何か余計な事をした覚えもなく、そのままレッドラム一族が押し込められている所へとたどり着いていた。


 エルアが夢を見てから、その未来が変わるまでの間があまりにも早すぎる。


 何がどうしてあんな最悪の事態に転がったのか。


 いや、それ以前に、彼らの様子を思い返す。

 正直思い返したいものではないが、それでも彼らは間違いなくもっと前からああなっていた。


 であるのなら、エルアが視た未来はあの時点で外れているといってもいい。


 有り得たかもしれない未来の光景。それを視たとして、では果たして何が変わるというのか。


 変化があるとするならば、もっと前でなければならなかった。


 もしくは、逆であったなら。


 視た方のレッドラム一族が四肢を切り落とされていたのであれば、そして実際目にした彼らの姿がまだ手足のついている状態であったならば。


 未来が変わりマシになったと思っただろう。何がどうしてそう変わったかまでわからなくとも、それでも未来は変わったのだと信じたに違いない。


 だが逆なのだ。

 エルアが視たものがマシな方で、実際はそれ以上に酷いものだった。


 未来ではなく過去を視た、と言われれば納得ができる。それならばまだ、わからないでもないのだ。

 しかしエルアが夢で視たものは今まで全て未来に関するものであったはずで。過去を、という事は一度もなかった。たまたまあの時だけ過去を視る事になった、というにしても不自然さしかない。

 過去を、誰も知らないような出来事を汲み取ったというのであったにしても、あの時だけというのがどうしても解せない。たまたまあの時にそういった方向に能力が発動したとしても。


 未来を少しだけ覗き見るような能力を持つ魔女の話は知っている。

 けれど、過去を視る、という魔女がいたという話は聞いた事がない。

 仮にいたとしても今更過去をみたところで……となるから誰にも知られないようにしているだけかもしれないけれど、そうであったとしてもその能力を完全に秘匿するだろうか?

 エルアは魔女についての情報があまりにも足りない現状に焦れたように本を捲り、そうして目ぼしい情報が無かった事に落胆し、本を戻すべく立ち上がる。


 それを何度か繰り返して――


 あ、と声には出さないが思い出す。


 無意識に避けていたけれど、兄が死ぬ原因ともなってしまった魔女。

 少なくとも魔女であるという自覚があっても魔女とはなんぞや? という質問に答えられないエルアや、魔女の血族であるはずなのに魔女とは無縁そうなイルミナよりはずっと長く生きているし、彼女であれば魔女について自分以上に情報を持っているはずだ。


 対価を用意しなければならないが、逆に言えば対価があれば望みのものを得る事が可能なわけで。


 自分が知りたい情報と釣り合う対価とはなんだろうか……と考えて。


 どうせ図書室でエルアが望むような情報は得られないだろうなと諦めたので、一先ず本を全て片付ける。


 その間にも対価について考えたが結局答えは出なかった。



(あ、そうか。先に質問をしてその上でその答えに見合う対価を聞いて、それを用意してから答えを聞けばいいのか)


 図書室を出て寮へと戻る途中でふとそんな考えに至る。

 かつて視た兄の死は、対価を支払えない状態で品物を手に入れようとしたからああなってしまったけれど。


 でも先に取引の意思を伝え、見合う対価を用意してからであれば。

 兄を殺した魔女、という部分に思う事がないわけではない。

 だが、あの魔女が作り上げた霊薬によって自分が生きながらえたのも事実だ。


 対価がすぐ用意できるものであればいいが、もしそうでなければ答えを得るのに時間がかかる。


 そう考えると、居ても立っても居られなくなってしまった。

 善は急げだ。


 そう決めて、エルアは寮の自室へ戻ってきたばかりだというのにすぐさま部屋を飛び出した。

 学園の授業がお休みの日まで待っていたら、行こうという気力が消えてなくなりそうだったから。


 どうしたって兄を殺した魔女という事実は変わらない。

 時間が経てばそんな魔女に会おうなんて思えなくなってしまうかもしれない。

 ならば今。

 やる気と勢いがあるうちに行くしかなかった。


 重い足取りで嫌々行くより、今ならまだ走って行って帰ってくるくらいの元気はある。じゃあ行くしかない。


 エルアの中ではすっかりそれが最善の手段に思えてしまったから。


 彼女は寮を出るなり駆け出して神の楔で転移したのである。



 ――これが、エルアが学園にいた最後の日となった。

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