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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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いい年して迷子



 魔物退治は基本的に冒険者たちが討伐しているけれど、しかし冒険者だけで手が回るわけでもない。

 それもあってグラドルーシュ学園に限った話ではないが、勇者だとか魔王を目指している他の学校の生徒たちも定期的に各地で実習という形で魔物退治に出る事がある、というのを知ったのは勿論学園に入ってからの話だった。


 魔物退治は冒険者たちにとって仕事であり、冒険者ギルドで依頼も出るもの。

 故にウェズンたちが魔物を倒した場合も一応倒した魔物次第で報酬が出ると言われていた。


 魔物を倒した事をどうやって学園に知らせるか、という疑問は案外簡単に解決された。

 この手のやつって自己申告で虚偽申請とかできそうだよな……と思っていたが、そんな心配は無用であった。


 最初の課外授業を終えて、そこからいくつかの授業をこなした後、ウェズンたちはテラから学園支給のアイテム――モノリスフィアとか呼ばれていた気がするが、見た目は完全にスマホである――を渡された。

 これにより魔物とエンカウントした場合どの魔物と遭遇したかが記録され、そして倒した場合も記録されるのだとか。倒せなくとも相手に仕掛けた攻撃だとかがある程度記録に残るらしい。

 なのでアシストばかりで魔物を退治できなくとも、その貢献度合いによって多少の報酬は出されるらしい。その魔物が他の誰かに倒された場合によるが。


 見た目は完全にスマホだな、と思ったもののスマホと異なる点は勿論あった。


 通話に関しては学園内であれば問題なくできる。とはいえ、それはお互いに連絡先を交換した相手に限る。

 メール機能もあった。

 離れていても連絡がとれる、となれば大変便利だと思えるがなんとこの機能、学外では使えない場合もあるのだとか。


 えっ、それ意味あるの?

 と思うのも無理はない。


 勿論そんな声を上げた生徒はいた。

 けれどもテラは頭を振って、

「仕方ないだろう。瘴気の影響でどうしたって不具合が生じるんだ」

 と、自分の力ではどうにもできないと言ってのけたのだ。


 瘴気。


 なるほど瘴気か。


 それなら仕方がない。

 生徒たちとしてもそれが原因であると言われれば流石に諦める他ない。

 どうにかしようにもそもそもずっと昔からの問題である瘴気だ。

 今更ちょっと浄化の魔法を使った程度でどうにかなるものでもないし、浄化機を用いたところで解決するならとっくに解決している案件である。


 瘴気濃度が高すぎれば、最悪人体に影響を及ぼすがまさか道具にまで影響するのか……と生徒たち一同は戦慄するしかなかった。


 一応学外でも連絡は取れるが、瘴気濃度如何によっては無理。

 つまりそれは、自分が今いる場所の瘴気濃度を測る事ができる、って事にもなるな……なんてウェズンが思ったものの、実際瘴気濃度を数値化する機能もあった。学園がある島に関して瘴気汚染度はあっても精々一桁で済んでいるが、学外に出て調べてみれば余裕で二桁になっている。10%程度の汚染度なら可愛いものだが、場所によっては50を超える所もあった。流石にそこからは帰る時に浄化魔法を使わないと転移機能も発動しなかったので、そこで暮らしていて尚且つ浄化魔法が使えない人物からすれば毎日がさぞ恐ろしいものとなっているだろう。


 瘴気汚染が進めばいつ異形化するかもわからないのだから。


 その土地から逃げたくとも浄化魔法は使えず、そして他者に対して浄化魔法が使える相手がいないのであればそういった者はその時点で詰んでいるとも言える。

 成程、そういう相手が学園だとかの生徒で浄化魔法が得意だとかの話を聞いたら縋り付いてくるのだな、とウェズンは声に出さずに納得した。

 話で聞いていてまぁありそうだな、と思っていたものの正直あまりピンときていなかったのだ。


 一応、体内の瘴気を浄化する、というアイテムがないわけではないのだがそれだって焼け石に水程度でしかない。完全に浄化できるのであればそもそも浄化魔法とかそういうものは必要なくなるわけだし。


 思っていた以上に世界ヤバいんだな……という感想しか出てこなかった。


 ちなみに、いくら見た目がスマホそのものといってもネットとかそういうものがないので悲しい事に娯楽機能は一切無い。ウェズンはまだしも、もしこの世界に転生していたのが前世の自分の弟――重度のゲームオタク――であったなら、ソシャゲもできないスマホとかただの板じゃん! と叫んでいたに違いないだろう。

 弟にとってスマホは他人と連絡をとれるアイテムではなく完全にゲーム機扱いだったので。



 とりあえず今回ウェズンたちが訪れた町は、ウェズンの実家近所の町とどこか似た雰囲気の、それなりに平和そうでそこそこ長閑なところだった。田舎と言い切るにはちょっと……といった感じである。


 その町の外――少し離れたところにある森にて、最近やたらと魔物を目撃する事が多くなってきたとの話だ。

 瘴気の浄化に関しては浄化機での浄化、浄化魔法での浄化、大きく分ければこんなところだが、人間に自浄作用があるように自然にも自浄作用がないわけではない。ただ、自然に浄化するよりも瘴気が溢れる方が大きいせいでじわじわ蝕まれていくところが多いだけで。


 自然の少ない土地よりも自然が多い土地の方が自浄作用も期待できるという事で、土地に余裕がある場所などは町や村の近くに植林したりしてどうにか自分たちが暮らす場所周辺だけでもなんとかしようという試みがあった。この町もそういったものの一つである。


 すぐさま効果が出るか、と言われれば長い目でみないといけない代物ではあるが、だからといって諦めて何もしなければ未来でもっと大変な事になりかねない。けれども、そうしてある程度育って森となったそこに、草や木の実を食べる動物たちが集まり、それを目当てに肉食動物が集まり、そこから更に賑わってとうとう魔物までやってきてしまったのだとか。


 瘴気を取り込む魔物が自浄作用を期待されて育てられた森に出るというのもおかしな話だが、魔物は瘴気だけを栄養にしているというわけでもない。動植物を普通に食べるやつもいれば、人間を餌と認識している種もいる。


 植林などしなければ動物たちが集まる事もなかったかもしれないが、そうなると緩やかだろうと瘴気の浄化も望めない。何をしたところで悪い方向に転がるとか、勘弁してほしいものである。


(まぁ、この世界神様に見捨てられてるもんな……)

 そりゃ人間ちゃんが何したって悪い方向に結果が出ますわ。


 ウェズンはとても雑にそう納得している。


 とりあえず、森の中で見かけた魔物はまだそこまで強そうな感じではなかった、というのが町の人の証言だった。冒険者たちも何度か森に入り討伐を試みたものの、いかんせん数が多い。

 ゲームと違い朝から晩まで日が暮れるまで休憩も無しで延々戦い続けるとか土台無理な話なので、この町を拠点としている冒険者たちも休み休み魔物を退治してはいるようなのだが、とにかく数が多すぎる。

 無理をして深追いした結果大怪我をした場合、魔法や魔術で治したとしても、行き着く結果はまた同じところだろう。


 まだそこまで強くないとはいえ、放置し続ければそいつらが手に負えないレベルで強くなってました、という事にもなりかねない。

 学園はどうやら冒険者ギルドとそれなりに繋がっているらしく、応援要請がきたとかどうとかテラが言っていた。詳しい部分は聞き流していたのでウェズンはよく覚えていない。


 そんな森にヴァンとイルミナとやってきて。



「はいはぐれた」


 ウェズンは早々に二人を見失っていた。


 バカなの? とは既に自分で自分に突っ込んだ。

 魔物が出るっていうのにどうして自分ははぐれてしまったのか。

 こんな所で一人になって、魔物と遭遇したら間違いなく危険ではないか。

 わかっているけれど、しかしはぐれてしまったのである。


 いやなんで?

 という疑問は今もウェズンの中にある。


 森の中に足を踏み入れた直後はちゃんと二人と一緒だった。


 ただ、いくら町の人たちが昔に木を植えて育てていたといっても、ある程度育ってからはあまり森の奥までは行かないようにしていたという話も聞いた。あまり奥へ行くと戻る時が大変だからとかなんとか。


 まぁ、わからないでもない。

 まだ植えたばかりの木しかなかったころは見晴らしもそれなりに良かっただろうし。

 けれどもある程度育ってしまうと、伸びた枝葉で影ができて場所によっては昼でも暗くなるなんて事もある。そんなところに魔物じゃなくとも動物がいた場合、やって来た人間にビックリして咄嗟に襲い掛かるなんて事もある。野ネズミだとかウサギあたりなら可愛いものだが、鹿だとかイノシシだとかはたまた熊、狼なんてのがいた場合、当たり所によっては死ぬ。鹿ならまだしもそれ以外の肉食動物の場合、そこで死んだ場合人間を餌として食べてしまうかもしれない。そうして人の肉の味を覚えたのなら、次に危険なのは近くにある町だ。


 それもあって、町の人たちはある程度森が育ってからはあまり奥まで行かなくなっていた。

 動物の姿をちらほら見かけていたからというのもある。

 けれども、まさかそこにさらに魔物まで追加されるとは思っていなかったのだ。気付いた時には遅かった。思った以上に数がいた。こうなると今度はいつ魔物たちが町にやってくるかわかったものではない。


 今のところ町に襲いにやって来た魔物はいないが、だからといって安心しきっていいはずもない。


 という、なんとも緊迫した状態であったはずなのに。

 そんな油断したら死ぬぞ、ってのがわかりきった森の中で、ウェズンは早々に二人とはぐれたのである。馬鹿なの? などと言ってはいけない。


 人が足を踏み入れなくなって結構経つであろう森の中は、足元が不安定であった。

 折れた木の枝。伸びに伸びた草。油断してれば足を絡めとるような蔦植物だって引っかかるのだ。

 木の枝も太さがバラバラで、それこそ箸のような細いものならともかく、ウェズンの太ももよりも太い――もうそれ枝っていうか幹じゃん、とか言いたくなるようなものまで落ちているのだ。

 嵐がきた時に折れて真っ二つになった木、なんていうのもあった。日の光を求めた結果なのか、真っ直ぐに伸びずおかしな方向にうねうねと曲がりくねった状態で育った木もあって、足場は悪いしかといって足元だけを見て歩いていたら思わぬところから伸びていた木の枝に頭をぶつける、なんて事もありそうで。


 ウェズンは進もうとしていた所にクモが巣を作っていただろう痕跡を見つけてしまい、そのまま突き進んだら頭にクモの糸がくっつくな、と思って足元を確認して少しずれて移動したのだ。

 そうして次に顔を上げた時には、二人の姿はどこにも見えなくなっていた。


「こんな一瞬で見失う事ある?」


 思わず声を出したのは、それによって近くに二人がいた場合気付いてくれないかなぁ、というのもあった。

 まぁ、大声を出したわけではないので気付けも何もあった話ではないのだが。

 大声で叫ぼう、とは思わなかった。二人より先に魔物が近寄ってくる可能性があるからだ。


 一対一のタイマン勝負ならどうにかなるかもしれない、と思いたいけれど向こうが数の暴力でやって来た場合、逃げ場も失って人生が強制的に終了してしまうかもしれない、と思えば下手に大声を上げるわけにもいかない。

 既に囲まれていてもうどうしようもなくなったら叫ぶかもしれないが、まだそうなっていないうちから叫んでみよう、とはとてもじゃないが思えなかった。


 カカカカカッ、という音が聞こえて思わず音の発生源を探れば、どうやら鳥が木の幹を突いた音だったらしい。動物がいる。

 その事実に少しだけ安心する。

 あまりにも一瞬で一人になったせいで、一人だけ自分以外の生物はいない異世界にでも迷い込んだのではないか、なんて突拍子もない事を想像してしまったからだ。ウェズンからすれば前世の記憶のせいでここが異世界なわけだが。


 とりあえず。

 いきなり周囲に一切の物音がしなくなって生命の気配もなくなって、何か知らん化け物とかに追いかけられるホラーが始まるだとかはなさそうだ。


 安心するところはそこではない、と思いつつもウェズンは安堵の息を吐いていた。

 全然安心できないのに。

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