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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
九章 訪れますは世界の危機

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知らず、死亡フラグ



 ルシアは結局のところ学園に残るつもりでいた。

 だがしかし、そうなると来年度の学費は必要なわけで。


 しかし先の事などロクに考えていなかったルシアは、そこまで金銭を貯め込むような事はしていなかった。

 仮に都市に戻って生贄として使われた時に、ルチルに自分が所持していた物を渡そうにも恐らくそれは元老院が許可しないだろうし、それを見越してこっそりと渡したとしてもあの都市から脱出する事もできないままのルチルには逆に邪魔な荷物になってしまうかもしれない。

 せめて自分の事を憶えていてほしい。そのための何か、贈り物をというのも少しは考えたりもしたけれど。


 それが逆にルチルの枷になるような事は望んでいなかった。



 まぁ、そんなルシアなりの気遣いめいた考えは、ルシアが学園に行った直後にルチルが殺されていたという事で全くの無意味に終わったわけだが。


 とにもかくにも金がない。

 学園でバイトして稼ぐにしても、正直それだと微妙なのだ。

 全く稼ぎがないわけじゃない。学園で生活してちょっとしたお小遣い欲しさ程度であれば、何の問題もないのだ。

 だがしかし、一年分の学費をこれから貯めるとなると明らかに間に合わない。

 学外授業で出向いた先で何か金になりそうなものがあればいいのだが、それだって運だ。

 授業が休みの日に外に出て金策に走ろうにも、ルシアは今までテラプロメで幽閉同然に生活していただけなので、ぶっちゃけてしまうと地上に詳しいわけではない。

 学園に来て、授業の一環で外に出て少しは把握したけれど、今まで訪れた場所でどかんと一年分の学費を稼ぐような事ができるか……となると正直さっぱりわからなかった。


 もういっそこのツラの良さを利用して誰かから金を巻き上げるしかないのか……!? と大分アウト寄りな考えに至りつつあったのだ。思いつめるにはまだ少々早すぎたとしても。


 そんな中、ある人物から突然の連絡。


 ある人物、と濁したところで意味がないのはわかっているが、ルシアにとっても正直ちょっと信じられなかったのだ。


 ルシアに連絡を取った相手は、ウェインストレーゼ。

 ウェズンの父親であり、ルシアが本来のターゲットとして狙っていた人物でもあった。


 ウェズンを殺して、そうして彼を引きずり出すつもりだった。

 けれどもテラプロメが落ちた今となっては――いや、それよりももっと早い段階でウェズンを殺す事を諦めたルシアにとって、この先関わる事はないだろう相手だと思っていたのに。



 テラプロメが落ちた事で、レッドラム一族はもういない。

 新たに作ろうにもその機能を備えた都市は海の底。ウェズンの話を聞く限りではほとんど原型なんて留めていないだろうし、海の底から都市の一部を引き上げたとしても、都市で使われていた魔道具や都市のシステムを復活させるためには、それこそかなりの時間がかかるだろう。

 それどころか長い時間と労力をかけても無駄に終わる可能性すらある。


 ハイリスクハイリターンですらない。リスクは高いくせにリターンはローどころか皆無、ゼロである可能性すらあるのだ。

 確実にリターンが見込めるという自信と根拠があるならともかく、そうじゃなければチャレンジしようなんて思う者が果たしてどれだけいるというのか。


 落ちたところも周辺に大陸が見えないような海のど真ん中らしいし。


 レイのような海賊や莫大な財を持つ商人が船に乗り都市が落ちたであろうところへ行くにしても、都市を落とす場所を決めたのはワイアットだ。

 間違いなくそんな簡単に行ける場所でもないだろうし、ましてや引き上げる作業が簡単にいくようなところでもない。リングのような収納魔法がかけられたアイテムに食料やら物資をたっぷり詰め込んで行くにしても、海の天気は山と同じくらい変化しやすいと聞く。荒れに荒れた場合、結果が出る前に引き返さなければ船そのものが危ない、なんてことだって有り得るだろう。



 ――都市についてはどうでもいい。もう落ちてしまったのだから。


 ともあれ、ルシアの一族はもう誰もいないのだ。

 元より自分にとっての家族はルチルだけだと思っていたが、それでも。

 それでも、遠い親戚くらいの認識がないわけじゃなかった。同じレッドラム一族の面々とロクに会話もした事がないけれど、それでもほんのちょっとはそう思っていたのだ。


 ところがレッドラム一族はルシアだけではなかった。


 既に都市から脱出したとはいえ、ウェズンの母でもあるファーゼルフィテューネもまたレッドラム一族だったのだ。ウェインについては元老院から聞かされていたが、ファムについてルシアはさらっと聞き流していた。

 恐らくウェズンを殺したとして、出てくるのは父親だろうと思っていたし、母親が出てくる可能性はとても低いと元老院も最初に前置いていたので。正直そちらの事はそこまで意識してすらいなかった。


 けれども、言われてみれば確かにファムはレッドラム一族で、ウェインと共に都市を脱出しその後学園に身を寄せ神前試合にて神の興味をひいた上でテラプロメからの直接的な干渉を避けたのだ。

 勿論その約束をテラプロメの元老院が素直に聞くかは微妙なところではあるが、確実にちょっかいかけてくるんだろうなぁ、というのから表立って攻撃してはこない、までには変わったわけで。


 どちらにしても、ルシアにとってファムという存在は完全に意識的蚊帳の外であったのだ。



 流石に全員の面倒は見切れないけど、残ったのが一人だけなら、そして行くアテがないのなら、とファムがウェインに話を持ち掛けたらしい。

 ルシアにとってはありがたい話だ。学費に関しても援助可能と言われて、ついでに帰る家もできる。

 先の事なんて何も考えてなかった。いずれ死ぬのだと思っていたからこそ余計に。

 けれどもこうして先の事を考えなくてはならなくなって、まず学園に残る事を決めた。

 学費という問題を解決できたとして、ではその先は。学園を卒業した後の事もやはり今のルシアにはこれっぽっちも考え付いていなかった。


 そのまま学園に居座り続けるにしても、それだって永遠にいられるわけもない。いつかは卒業する日がやってくる。そうなった時、行くアテも帰る場所もないとなると困るのは目に見えている。

 だが、帰る家として受け入れてくれる先ができるのであれば、それこそルシアにとって何も悪い話ではない。


 それ以前にどうやってルシアの状況を知ったのだろうか、と疑問に思いもしたが、よく考えたらウェインは学園に時々姿を見せていたらしいし――ルシアはタイミングが一切合わなかったので見かける事などなかったが――学園の教師からそういった情報を得たとしても不思議ではない。


 ……実際のところ、フリオから聞いたのだがルシアはフリオの存在を知らないので真相にたどり着く事はないけれど。

 それでも、今後の人生に関してまさに迷子状態だったルシアにとっては渡りに船。


 ファムが同じくレッドラム一族であるというただそれだけの理由で援助どころか養子――家族として迎え入れてくれる、というのはあまりにも出来過ぎた話ではあるけれど。

 それ以前に――


「ウェズンはさ、いいの?」

「いいのも何ももう決まったんだろ? 何を今更」


 まさか、実の息子であるウェズンに何の相談もなく養子になるとは思っていなかったので、養子の話が出た時点でルシアはてっきりウェズンやイアに話をした上で、その上でそうしたと思っていたのに。

 全然そんな事はなかったと知って、とても気まずい思いをしたのである。


 養子になって数日後、ウェズンに、

「そういや養子になったって聞いたんだけど」

 と言われて、えっ? 話通ってなかったの? とルシアも驚いた。

 大体の事情は聞いたとは言われたが改めてルシアの口からも説明し、

「まぁそれ知ったの昨日なんだけど」

 と言われれば驚くのは当然と言える。むしろ驚かない方がどうかしている。


「あー。そういやあたしにも連絡きたわ」

 イアにも事後報告。いいのかそれで。


「あ、でもあたしの中でルシアはルシアだから、おにいみたいな呼び方はしないと思う」

「そうだね、イアにおにいとかちいにいとか言われてもちょっとピンとこないから今までどおりでお願いしたいかな……」


 ウェズンを殺そうと目論んだ時に、まずは妹に近づいてそこから……と考えていた事もあったから、どちらかと言えばウェズンよりイアとの仲が良いと言えなくもない。

 だがあの時のそれは、兄妹というより学友としてのものであったし、それがそのまま家族に移行されたところで。

 違和感が半端ないのだ。


「そうなんだよね。こっちもいきなりルシアに兄さんとか言われても聞き慣れなさすぎて反応できない気しかしない」


 ウェズン曰く別に家族になるのは構わないとの事なので、気安く兄と呼ぶなとかそういう事ではないらしい。

 でも確かに、言われなくてもわかるのだ。

 ルシアだってある日突然今日からこの人が家族になりました、とか言われたとして。

 すぐに順応できるか、と言われると困惑と戸惑いが先に出てしまうだろうなとは。


 少しばかり驚いたらしいウェズンは、しかし既に受け入れているようなのでルシアの方が逆に居た堪れない気がしてきたくらいだ。


「あ、って事はルシアはルシア・レッドラムじゃなくてこれからはルシア・グラックロームになるって事?」

 家名なんぞそうそう名乗る事はないとは思うが、つまりはそうなるのだろう。

「うん、でも学園にいる間は今までどおりルシア・レッドラムで通す事になってるよ」

「そっか、その方がいいかもね」

「え?」


「いやあの、この前のテラプロメ脱出の時にさ、ワイアットが、その」


 どこか言いにくそうにするウェズンからワイアットの名が出て、ルシアは何となく嫌な予感を察知する。

 そう言えばアイツはルチルの仇であるのは揺らぐ事のない事実だが、しかしそういえばイアとも友人になっているのであった。まぁ、ルシアがルチルの仇ー! とか言いながらワイアットに攻撃を仕掛ける事そのものに関しては何も言われないだろうけれど。あっさり返り討ちにあって死ぬような事にでもならない限りは。


「僕のことを兄さんと呼びたいがためにイアと結婚する事を想定しだして」

「え、なんそれ初耳」

「言おうと思って言い出せなくて……イアにワイアットの事を恋愛的な意味でどう思う? とかあまり気軽に聞けなくて」

「あー、恋バナってやつかぁ、そういうのあんま考えた事ないかなぁ」

「イアの気持ちが大事だし、僕としてもイアの手料理を嫌な顔しないで完食できることが最低条件だとは言ってあるんだけど」

「それできるの今のところおにいだけじゃん」


「そういった方法じゃなくて、養子という形で僕の弟におさまったルシアに、ワイアットが八つ当たりしたりしないかなっていう、不安がね?」

「あ」


 ホントだその通りだ、とばかりに口をパカッと開けてこっちを見たイアに。


「ボク、もしかしなくても危ないのでは?」

「その事実が知られたら割とそんな気がする」

「あ、だから家名」

 家名なんてそう名乗る機会はないはずだから、知られる機会もないんじゃないか、とは思って一瞬安心したけれど。

 でもワイアットだしなぁ、と思うと全然安心できなかった。


 もしかしなくても、早まったかもしれない。

 そう思ったところで後の祭りである。

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