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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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どうでもいい事に意識を飛ばす



 学園での授業は座学の合間に学外での授業といった感じで進んでいた。

 座学に関しては世界情勢だったり、地域による何かやっちゃいけないタブーだとかを教わったりだとか、まぁ色々多岐にわたる。

 そもそも細かく結界で閉じ込められた状態なのに国として機能するのか、という疑問がウェズンにはあったが、どうやら一応機能してはいるらしい。


 イアたちが遭遇した謎言語の住人達も、ある種のタブーになるのだろうか。

 そんな風に思う。

 下手に事前知識を知った状態で行くと余計な事を言い出す者もいるらしく、何も知らない相手をお使いに行かせることもあるのだが、知らないが故にいらんことを言って殺される者もいるのだとか。というかイアが遭遇したその課題の生徒のうち二名はそうだったとか。


 知ってても知らなくても危険だとか、何でそんなのに関わらせるんだ……と言いたいが、言った所で多分マトモな答えは返ってこない気がする。


 ウェズンのクラスでは五名が課外授業で命を落としたらしいけれど、生憎とウェズンが認識していない相手だったので死んだ、と言われても正直ピンとこなかった。イアもそこまで仲良くしていた相手ではなかったようなので、小説だとかゲームだとかで言うならば完全にモブだったのかもしれない。

 いや、原作の内容を忘れているのでもしかしたら……という思いもあるけれど、流石に主要キャラがそんな序盤であっさり死ぬ事ってあるか……? という気がしているので、モブだと思い込みたいだけと言われれば否定はできない。


 この頃には精霊と契約できなかった生徒たちも大体契約が済んでいた。


 遅れて契約した生徒たちもまた課外授業へと赴いて、そうして無事に帰ってきた次第である。

 とはいえ、最初の課外授業を終えた後の学外授業はとても雑に魔物退治を言い遣わされたわけだが。


 魔物退治と言っても必ず倒さなければいけないわけではない。勝ち目がないと判断したらすぐさま撤退しろと言われていた。そのためか、今のところは怪我をした生徒はいても魔物退治で死んだ生徒はいない。


 学園で座学以外の授業となると、後は実践訓練であるとばかりに生徒同士だったり教師との戦闘をさせられたりもした。

 テラは馬鹿みたいに強かった事だけを述べておく。


 この頃にはウェズンも浄化魔法を使える事はあまり大っぴらにするなよ、というテラの言葉の意味を何となく理解し始めていた。


 ウェズンの浄化魔法はそれなりに威力があった。自分だけではなく、他のものも浄化できると気づいたのは最近だ。とはいえ、たまたま浄化魔法を使った時に足元にあった瘴気の影響で枯れかけていた花も復活した事でそうと気付いただけの事なのだが。


 とはいえ、ろくに浄化魔法が使えない相手からすればそれでも充分なものに見えるのだろう。

 瘴気に蝕まれているのであれば、なおの事救いの手に見えるのだろうな、と理解するしかない。


 冒険者、と呼ばれている者たちの中にも浄化魔法を使える者は多い。魔王や勇者を目指そうとして、そうならなかった者たちが行きついた先というのもある。けれども、冒険者の中には浄化魔法を使えない者も確かにいるのだ。


 浄化魔法が使える者たちすべてが冒険者になるわけでもない。他の職に就くのに使えた方が有利である、なんてものもある。

 使えない者たちからすれば使える相手は利用できる救い手であり、使える者たちからしても、利用できるという点ではやはり同じく。


 今現在学園にいる生徒たちは全員精霊と契約を済ませているので、浄化魔法が使えて当たり前の存在だ。だからこそ、かつて学園にいた、だとか似たような学校にいた者たちからすれば、そんなものは言われなくとも理解できるものであった。

 使える人材を自分たちの派閥に取り込みたい、と思う者はいるらしく、時々学外で遭遇する人間の中にはこちらに探りを入れてくるようなのも見受けられた。


 よく言えば青田買い、とかそういうアレなんだろうなと思うけれど、ウェズンは何となく嫌な予感しかしなかったので個人情報については徹底的にぼかした。田舎の噂話じゃないけど、一体どこまで自分の個人情報がやりとりされるかわからないというのは恐怖しかない。

 学園の生徒だとわかって声をかけてくる相手と関わりたくないな、と思ってもこちらは制服を着ているので向こうからすればそれで一目瞭然というのもある。

 だがしかし、制服ではなく私服で学外の授業に出るというのは推奨されていなかった。


 理由は単純に防御力である。


 別に私服で行ってもいいけど、その服ちゃんとしてるやつ? とテラに言われた生徒がいた。

 服にあまり頓着していないウェズンからすれば、この学園の制服に文句はない。けれども一部の女子生徒は不服というか不満があったらしい。

 まぁ、確かになんていうかカッチリしすぎているので、可愛い服とかを着たい、という年頃の女性からすれば堅苦しい事この上ないだろう。だから、制服じゃなくて私服で出てもいいですか? なんていう質問が出てもおかしな話だとウェズンは思わなかった。制服じゃなければ学園の人間だと素性がバレる事もないだろうし、であれば下手に自分たちの傘下に加えよう、みたいな勧誘めいた言葉をかけられることもない。



 いいけど死んでも文句言うなよ、というのがその質問に対するテラの答えだ。


 学園の制服はとにかく防御力主体で作られているのだとか。

 物理攻撃は勿論、ある程度の魔法に関しても守りの術がかかるようなまじないが施されている。

 そして着用者の魔力を少しずつ吸収し、その力を更に強めていくのだとか。


 けれども制服以外の服はそうもいかない。

 そこらの町や村で住人の方々が着ているような一般的な服にはそういった守りはないのだとか。

 成程ただの布の服。厚手の布の服だとか、ちょっと違いがあるかもしれないがその違いは何の意味もないやつ。


 そもそもそういった守りのあれこれを付与する技術もそれなりに使える者が限られていて、尚且つ普通の服にそんなのを施そうとするとただの布の服には耐えきれないらしく、そういう防具と言える服には素材からしてそれなりの金がかかる。

 テラが口にした制服一着分の値段は、大体貴族が新しくドレス一着仕立てるのと同じかそれ以上と言われてしまえば嫌でも理解するしかない。


 いくら見た目が可愛かろうと防御力がほぼないと言える服を着ての学外授業はちょっと……と質問していた女子生徒も諦めていた。休憩時間に町の中を移動するときに着替えるとかならまだしも、魔物が出るとわかりきったところにお気に入りのお洋服で、とは流石に命の危険がありすぎる。

 どれくらい危険かと言えば、普通の服なんて防御力とか無縁の存在なのでぶっちゃけ全裸でいるのと同じである。脱げば脱ぐほど強くなる、みたいなスキルでもあればまだしも、そういった面白愉快なスキルはないはずだ。あったら多分耳にしている。


 そういった服を着る機会は、そう考えるとあまりなさそうだな……とウェズンは質問していた女子生徒をぼんやりと眺めていた。授業の無い日だとか、戦闘とは無縁の学外授業に当たった時くらいだろうか。

 イアはそういや服装がどうとかって言った事なかったな……うちの妹そういうの興味ないんだろうか。


 そして次に思ったのはこれだった。


 ウェズンの前世では弟と妹がそれなりにいた。一人二人とかではなくそれ以上。


 大家族、と言うとなんだか貧乏子だくさんみたいなイメージが植え付けられている気もするが、経済的に困窮していた事もない。ウェズンの前世でもあったおっさんの記憶を思い返してみてもそこそこ裕福だったと思う。インドア派、アウトドア派に分かれていたけれど、妹たちに関してはどちらもそれなりにお洒落に関心がなかったわけじゃない。バンバン友達と外に遊びに行くタイプの妹は言うまでもなく、またあまり外に出ないでひっそりとオタク活動を楽しんでいるタイプの妹もイベントに行く時など推しに会いに行くのだとか言った時はしっかりばっちりお洒落をしていた。

 そういうのあまり興味ないと思ってた、と別の弟が指摘した際にオタ活してた妹曰く。


「推しのファンがモサい女ばかりだとか思われたら、推しに失礼すぎるから……」


 だそうだ。メイクにもファッションにも興味はこれっぽっちもないけれど、推しのファンが不細工女ばっかり、とか言われないために一生懸命流行のメイクなどを勉強し、運動だって嫌いだけどそれなりに身体を動かし見られても大丈夫なプロポーションを維持し、それに見合うファッションを選ぶ。

 そうして傍から見るとオタクだとは思えない見た目になった上で、妹はイベントへ出かけて行った。

 妹以外の妹たちもお洒落に詳しいのとかいたから、相談相手もいたというのもあって見た目だけなら本当にそういう趣味の人とは思えない感じであったな……と思い返す。


 お洒落に興味が無いと言っていた妹ですらそうだったのだ。

 イアは、どうなんだろうか。


 うーん、と小さく呻きながらも考えてみる。


 そもそも前世のイアは、というかイアが住んでいた白亜都市メルヴェイユだったか……? そこのファッションってどうなってたんだろうか。

 マザーAIだかに統治されてたという話だったし、だからこそウェズンはそれなんてディストピア? と思ったわけだが。

 街の中がどうなっていたか、という細かな部分は聞いていない。ただ、ウェズンは勝手に白亜都市という名前からして建物とかは大体白を基調としてそうだなと思ったし、建物もなんていうか真四角の漫画とかなら間違いなく豆腐ハウスとか呼ばれてそうな何かを想像した。見た目凝りに凝ったデザインの建物があるとは思えなかった。そもそも誰がデザインして建築するというのか。マザーの指示でアンドロイドあたりがそれらの仕事を担ったとして、機能美と呼べるものがあったとしても見た目だけお洒落な特に意味のないタイプのデザインはされないのではないか。


 そして、そこで暮らす人間の服とか、もっとシンプル極まりないものなのではないか。

 古代ローマの人が着てそうな布のやつだとしてもウェズンはへぇそうなんだ、で納得できる自信しかない。


 過去にあった映画だとかその他娯楽作品などを見る事はあったと言えど、ファッションに興味を持つ人が一体その都市にどれだけいたのだろうか。

 そしてその中に前世のイアが果たしていたのだろうか。


 …………出会ってから今までのイアの事を思い返してみたけれど、ファッションに興味があるようなそぶりは無かった気がする。

 実の子ではないから、と遠慮している可能性もあるけれど、その可能性は正直な話小指の爪ほどもない気がしている。

 いや、全く興味がないわけではないはずだ。町に買い物に出かけた時に店のショーウィンドウに飾られていた服とか目をキラキラさせて見ていた事もあったし。

 欲しいなら買いましょうか? という母の言葉に首を横に振っていたけれど。遠慮しているというわけではなく、自分が着るつもりはない、という感じだった。



「……何してるんだ?」


 後ろから控えめに声をかけられて、そこでようやくウェズンは今の状況を思い出した。


 学外授業で魔物退治に出向いた先の小さな町。今はちょうどそこで情報収集をしていたところだった。

 ちなみに声をかけてきたのはヴァンだ。今回魔物退治に出向いたメンバーはウェズン、ヴァン、そしてイルミナの三名である。

 他のチームは四名だったのだがここだけ人数が足りなくて三名になってしまった。


 まぁ、倒せないと判断したら速やかに逃げ帰っていいという話なので他のチームと比べて一人足りない事はそこまで大きな枷にはならない。


「あぁ、ごめんごめん。この近辺に出る魔物の情報集めだったね。全然関係ない事に意識飛んでた」

「……服?」

「そう、ほら、前に制服以外の服で学外授業行ったら駄目なのか、って言ってたのあったじゃん」

「あぁ、あったな。魔物の攻撃を防げるほどの耐久度を持つ服なんてそうあるわけでもないし、知らなかったんだろうけれどあれを聞いた奴は中々にチャレンジャーだなと思ったものだよ」

「その流れで、うちの妹ってそういやあまりお洒落に興味持った感じじゃなかったなって」

「そうか」


 ヴァンは別にウェズンの妹に興味があるわけでもないからか、とてもあっさりとした相槌だった。


「元々家に居た時もあまり近所に同年代の子とか友達がいたわけじゃないから、興味があっても言えなかったのかなとか考えたんだけど」

「家族間だけでの関わりしかないのなら、めかし込んでも見る相手が限られているからな。自分以外の同性で比較対象がいて、とかならまだしも」

「やっぱりそう? うーん、学園で友達とかできたら多少はそういうの興味持つかなぁ……」


「少なくともそれを気にするのは親であって兄ではないのではないか? 一般的に」

「そうかもね」


 ヴァンの言い分もわからないでもない。


 ただ、イアに関しては両親よりもウェズンの方が理解している。それもあって、少しばかり余計なお世話というか、お節介というかな心配が出てしまっただけで。


「とりあえず、情報収集に戻るぞ。ほら」

「あぁうん、わかってる」


 ヴァンに促され、一先ずウェズンは何となく眺めていた店のショーウィンドウから離れる。

 ショーウィンドウに飾られていた服は、どちらにしてもイアの趣味ではなさそうなので本当にただ見ているだけだったが、流石に情報収集そっちのけにしてやることではなかった。

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