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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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後出し報連相



 元老院をぶち倒したので神の楔の使用許可を出すから、急いで脱出してね。

 逃げ遅れても責任は取らないよ。


 そんな、物騒極まりないメッセージが届いた事に最初に気づいたのはルシアだった。


「は? 目的達成? いやそれいいんだけど、え、何、本気で言ってる?

 いやアイツの事だから本気なんだろうけど。

 脱出って神の楔で? いやそうだよね」


 メッセージに視線を落としてほとんど無意識に言葉を漏らす。


 思えばルシアは元老院の連中のところまで連れてこられはしたものの、その後はワイアットによってその場から逃げるように指示されて、すぐさま別行動したからワイアットが今まで何をしていたのか、なんて頭の片隅ですら思い浮かべるような事がなかったのだ。


 その後もとりあえず脱出しようとして警備の連中やりすごして逃げて隠れて、ともかく自分が一番わかりやすい場所に行ってからどうにか今後の事を考えるべきかな、なんて。


 同胞をどうにかして解放できたらそいつらが暴れてくれたりしないだろうか、とか。


 そんな風に考えていたはずなのだ。

 まだ同胞たちの惨状を知らなかったから。


「え、何。脱出するの? でもまだ皆と合流できてすらいないんだけど?」


 イルミナの言い分ももっともだろう。


 元々イルミナは学園で待機するつもりだったのに、あれよあれよと連れてこられたのだ。


 ほとんど何もしていないと言ってもいい。

 一応多少はやらかしたけど、イルミナがやった事なんて都市からすれば微々たるものすぎて噂の元老院とやらも放置しておけとか言い出しかねないようなもの。


 レッドラム一族の世話というか管理をしていた連中の意識をそらすのにちょっとした魔法を使った程度である。


 同胞たちはもうどうしようもなかったからルシアが魔術でもって一思いにトドメを刺した。

 魔晶核としての役割だけを望まれていた者たちは、ただ生きているだけの、あとは道具として使われる事を待つだけの物と化していた。ルシアたちには彼らを助ける手段など持ち得ていなかったし、それならばいっそ……とルシアが思い切った結果でもあったが。


 レッドラム一族たちの息の根を止められた事で、上から叱られると思った世話役の連中が文句を言ってきたけれど、それをイルミナが悪戯魔法でいなしつつ、エルアが眠らせた。

 ちなみに二度と目覚めないタイプの眠りである。


 これでもうレッドラム一族を魔晶核の代替品として浄化機に使う事はできなくなるし、世話役たちもその場で全滅させたので、上に報告がすぐ行くような事にもならないだろう。


 そう判断して、とりあえずこれからどうしようか……となってルシアは他に都市にやってきているという事でまずヴァンに連絡を取る事にした。


 レイとかウィルとかそっち側に連絡を取るのは何となく躊躇った。

 お前今何してんの? は? 何それやる意味あんの?

 とかレイあたりからそんなメッセージが来たらと思うと……いや、流石にそこまで言わないと思うけれども。

 でもなんとなく、もしそんな返事がきたらちょっと心に傷を負いそうだったので。


 ここはまぁ、浄化機が地上に比べて頻繁に使われているから瘴気なんてない事もあって、体調を崩してダウンしてはいないだろうヴァンの方がまだ穏やかに話ができるんじゃないかと思った次第であった。


 そうしてヴァンとファラムはレイたちとは別行動で都市の各地を破壊に導いている事を知ったのである。


 イアとアレスもいる、と聞いてはいたけれどそちらはなんというかヴァンたちのように普通に破壊活動をしているように思えなかったので、しばらくの間ヴァンから情報を受け取って、それじゃそろそろ自分たちも地上に出て破壊活動に参加とかしつつウェズンあたりと合流した方がいいのかな、と思ったところで。



 マネキン大量発生のお知らせである。


 ルシアはそれなりに元老院の連中と面識があったけれど、マネキンに関しては知らなかった。

 そういえば新しく入った人がちょっと身体の弱い人で……みたいな事は聞いた気がするが、元老院に呼ばれた時には顔を合わせたりもした記憶がないので、面識はないのだろう。

 何か知らない事になってる……!

 と驚愕しつつも、それじゃあ今地上に出たらマネキンぶっ壊しレースとかそういうのが始まるって事? とイルミナとエルアに問えば、まぁそうなんじゃない? とイルミナも困惑しながら答え、エルアに至っては無駄な時間じゃないですか、と一蹴した。


 まぁヴァンからのメッセージによると、イア経由でヴァンも知ったらしいが本体の入っていないマネキンはちょっと尋常じゃない数があって、それらを壊し続けても正直焼け石に水。

 本体が入っているマネキンを壊しても次々新しい身体に移動するから一斉に周辺のマネキンを破壊し尽すくらいの勢いじゃないと……とメッセージが送られて、それなら元を絶つべきだという結論になり。


 マネキンなんて作ってる場所あったかな……?


 いや、本体は今マネキン間を移動しているのなら、本来のボディとして扱ってるブツを壊せばいいのか?

 などと相談しつつ、それなら多分元老院の連中がいる場所に行けば可能性は高いだろう、となって。


 そうしてワイアットと別れたあの建物へ戻ろうかとなったところで。



 ワイアットからのメッセージである。


 一体自分らは何をしていたんだろう、と言い始めるのも仕方がないくらい何かを成し遂げた感じがしなかった。やった事を述べると同胞を楽にしてあげて世話してる連中ぶち倒しました、くらいの事しかしていない。

 言い方をマイルドにしているが、身も蓋もなく言えば同族殺しである。


「つまり地上に出ても大丈夫、という事かな」

「恐らくはそうなんじゃない? でも、マネキンが大量にあった、って事はそいつらが壊れてたならそこかしこ破片が凄そう」

「蹴散らしながら行くにしても、邪魔でしょうね。

 かといって、いつまでもここにいるわけにもいかない。

 そのワイアットって人が元老院を倒したって事は、次に何をするつもりか」

「何って、そりゃまぁここ落とすって言ってるんだから……

 落とすんだろうよ。

 え? 何それヤバくない?」


 元老院が倒される、というのも半ば半信半疑状態だった。

 だが倒したというのなら、そうなのだろう。

 流石にワイアットが笑えもしない冗談で元老院を倒したなんて言うはずがない、とルシアは思っている。


 そして次、と言われてルシアは特に何も考えず、思った事をそのまま口にして。

 それから気づいたのだ。

 現状、どれだけヤバイ事になっているのかを。


 ワイアットの事だから文字通り地上に都市を落っことして二度と空を移動できないようにするつもりなのだろう。

 その際、丁寧に着地させるなんて事するはずがない。

 大体この都市に存在している物のいくつかは明らかに地上では禁忌とされているものもあるし、ましてやこの都市に存在する浄化機は地上に比べてそれなりに使える物だ。

 下手に残しておけば、今度はそれらの情報を聞きつけた各地の人たちが奪い合いに発展させかねない。


 平等に分配できるだけの数の浄化機があるわけではないのだ。

 それらを下手に分配すれば後々間違いなく地上で争いの種になる。


 ワイアットは戦う事を娯楽にしているような部分がある奴だけど、だがあえて地上を戦乱の渦に叩き落そうとまで考えているとは思っていない。

 規模が大きすぎる戦いになると、ワイアット個人が戦える相手は限られてくる。

 それどころか下手をすれば指揮官みたいな立場になってしまえば逆に戦えなくなる。

 まぁ、そういう立場での戦いもたまにはいいよね、とか言い出しかねないのがワイアットなのだが。


(というかだ、ホントに何であいつ今更になって元老院に反旗を翻したんだ……?)


 生憎とほとんど地下にいたルシアには、ワイアットが何故そのような事をしようと思ったかなんて聞くタイミングもなければ知りようもない。

 何かがあった、くらいは想像できるけれどその何かがわからないのだ。


(なんだろ、もしかしてただでさえヤバイ都市のもっとヤバイ深淵でも見ちゃったとか……?

 それで都市を落とそうとしている……?

 まぁ有り得なくはないな。下手に地上のどこかにでもこの都市のあれこれが流れたら、有効利用しようとか考えるのが出てもおかしくないし)


 どちらにしても、ルシアが想像したワイアットが都市を落とす、というのは文字通り物理的に墜落させるという意味だろうし、であるならば大急ぎでここから脱出する必要がある。

 流石にいくらなんでもルシアだってこの都市と人生の最期を共にするつもりはなかった。


 ここがいくら、自分にとって大切だった相手がいた場所であったとしても。

 ルチルが死んだ場所であったとしても、ここで死んであの世で一緒に、なんて考えになるはずもない。

 大体そんな事をしたところで、もし本当にあの世とやらがあったとしてルチルと出会えたとしても。


(絶対罵倒されるだけだもんな……)


 無駄死にか犬死にのどっちかは言われる。

 そうしてあの世でハイパーお説教タイムになるに違いないのだ。

 まぁ本当にあの世とやらがあって、そこでルチルと出会えたならば、というのが前提になるのだが。


 ともあれルシアは大急ぎでワイアットからのメッセージをヴァンに、こんなの送られてきたけどそっちはどうなってる!? と確認する事にした。

 先程までの情報のやり取りに関しては移動しながらだったり立ち止まったりとのんびりしていたが、今はもう移動しながらだ。

 ワイアットがいつ都市を落っことしにかかるかはわからない。

 わからないが、元老院の連中がいた建物のどこかでそれを実行するはずだ。


 けれどルシアたちが引き返してその建物にたどり着く頃には、間違いなく実行されているだろう。

 つまり、残された時間は正確にわからずとも然程残されてはいないはず。


 ワイアットはそもそも他の面々がこの都市に来た事を知っているのか、ルシアにはよくわかっていなかった。

 イアとやりとりをしていたのであればわかっているかもしれないが、ヴァンからの返信を見る限りワイアットはヴァンやファラムにはそのメッセージを送っていない事が発覚する。


 えっ、それじゃあもっとヤバイじゃん、となってルシアは更に急いでウィルとイアにもメッセージを送ってみた。

 ついでにウィルにはレイと一緒だよね? そうじゃなかったらこのメッセージレイにも送ってね、と付け加え、イアにはアレスとはぐれたならアレスにも連絡入れといて、と付け足している。


 ルシアにメッセージが来たのなら、ワイアットは巻き込んだウェズンにも同じように送っているはずなので、そちらに送るかどうか一応考えて……

 念のため確認する事にした。


 ルシアがウェズンにメッセージを送ってから数秒の後、


『今気づいた。ワイアットからのメッセージも今確認した。

 こっちはこっちで脱出するから、そっちも早めに脱出した方がいい』


 簡潔な文が返ってくる。


 ワイアットからのメッセージにすぐさま気付けない状況にあった、というのがちょっと気になったが、それでも今気づいたのなら大丈夫だろう。

 ここで合流して一緒に行こうとかやらかしてたら、それこそ最悪お互い間に合わない可能性も出てくる。


 そもそも最初ウェズンが危機的状況になるかもしれないとの事で都市にやってきたエルアは、そのウェズンと一度も合流できないまま脱出するという事に少しばかり不満げな様子だったが、我儘を言うには状況が悪すぎる。


「先輩なら大丈夫。先輩なら大丈夫。先輩ならきっと大丈夫……!」


 まるで願うように、自分に言い聞かせるように小声で唱えて、それから、

「行きましょう。とはいえ、ここから地上に出て神の楔がある場所、というのがどこになるのかちょっとわからないんですけど」

 きっぱりと宣言したかと思えば即座に眉をへにゃりと下げた。


 神の楔を使ってやってはきたものの、正規の手段ではなかったためかイルミナたちがこの都市に来た地点の周辺で神の楔を見た覚えがないので、ルシアが頼りである。

 それを察したルシアは、

「まずは地上に出よう。元老院がもういないのなら、都市で何らかの妨害に遭う事もないはずだし」


 地上で警備の連中と出くわす可能性もあったからこそ、ルシアはそもそも地下をこそこそする羽目にもなっていたのだ。

 だがそれがないのなら、間違いなく地上に出た方がいい。


 地下に来た当初、一人だった時は二人と遭遇して心強くはあったけれど。

 今は自分がそう思われている側なのだと理解すれば、慌てふためいたりできるはずもない。

 自分がしっかりしないとマジでこの面子全滅の可能性あるぞ……!? と思えばルシアは気合を入れるしかなかったのだ。

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