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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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追う側と追われる側と



 隠れていたつもりがバレていた、となってイアとアレスはマネキンへと攻撃を仕掛けた。

 そいつは見た目通りの素材でできていたらしく、ガチャン、とまるで食器を落っことしてしまった時のような音をたてて割れた。

 音だけを聞けば「あっ、やっちゃった……」となってしまいそうではあるが、今回に限っては余計な罪悪感を抱く事もない。

 位置的に攻撃を仕掛けるにはやや無茶な部分もあったけれど、腕をガッと上にあげたのと同時に魔術をそこから放った結果、マネキンの顔部分が割れたのは確かだ。


 ぐらり、とまるで人間みたいによろめいたマネキンはそれでもどうにか体勢を立て直そうとしたのだろう。だが結局それができずに勢いよく倒れ、先程以上の音を出して身体も粉々に割れる。


「なん、なんだったのこいつ」

「さてね。ただの人形ってわけでもなさそうだったけど」


 割れた破片がくっついて自動修復されて復活する、なんてこともなくマネキンはピクリとも動かない。

 イアは足の先でまだ多少形が残っていた部分を軽く踏んだり小突いたりしていたが、何度かそれをやってもう動かない、と確認ができてからようやく安心したのだろう。

 アレスに聞いたところでわかるはずのない質問を口にして、案の定アレスから答えなんて出てこなかった。


「ただ、明らかにこいつは目的をもって動いていた。

 こいつそのものに意思があるのか、それとも遠隔操作で動いていたのかにもよるけれど――」


 正解が分からない状態なので、推測以前に想像でしかない。

 だがそれを全部言い切る前にアレスは言葉を切った。


 離れた位置――この部屋の外側からコツ、コツ、と再び足音のようなものが聞こえたからだ。


 再び隠れようにも、この部屋に隠れられそうな場所はない。先程だって相手の死角になっているだろうと思って身を隠していただけだ。勿論上手く相手の死角に居続ける事ができれば理論上は完全に隠れられるわけだが、しかしモニターには今もイアとアレスが映し出されている。というか、この部屋の中が全体的に映し出されていた。


 そんな状態で物陰に身を潜めたところで、相手がここにやって来てモニターを見た時点であっさりといるのがバレる。

 えっ、また何か近づいてきてる!? とあわあわしながら隠れようかどうしようか悩んでいるイアに、隠れても無意味だと短く告げてアレスはいっそ出入口の真正面に対峙するかのように立った。

 少し遅れてイアもまたモニターに自分たちが映し出されたままなのを思い出したのだろう。

 隠れても無駄だと理解して、イアもまたアレスの隣に立った。


 新たな足音が聞こえてから数十秒程度の短い時間で、その足音の主はここにたどり着いた。


「サキホドハ ヨクモ ヤッテクレタナ」

「えっ、意識繋がってるタイプ!? 共有系!?」


 まるで今しがた破壊したマネキンが新しいボディで戻ってきたかのような言い方にイアが反応する。


「イシキノキョウユウゥ? ナニヲ バカナ。コレラハ スベテ ワタシノパーツデシカナイ」


「成程な……つまりお前を倒すにはこのマネキンをどうにかしたところで意味がなくて、本体をぶちのめすしかないってわけだ」


 イアよりもアレスの方が理解は早かった。


「ハン、デキルモノカ。ワタシガ ドコニイルカモ シラナイクセニ」

「まぁそうなんだけどさ。でも」


 アレスは一度そこで言葉を切って、片手に魔力を凝縮させた。

 それを見たマネキンはハ、とかすかに嗤う。


「ドノミチ オマエタチハ ニゲラレナイ。

 サイシュウテキニ ワレラノ アラタナ ウツワニシテヤロウ」

「お断りだ」

 凝縮させた魔力がマネキンに命中するが、その直前にマネキンはがくりと力をなくしたように倒れかけていた。

 アレスが狙ったのは胴体だったがそれより先にマネキンが倒れかけたため、頭が割れる。


「えっ、えっ、どゆこと!?」

「どうもこうも……」


 とにかくここを出よう。


 そう告げて、アレスは歩き始める。

 話は移動しながらでも確かにできるため、イアは足早に先を行くアレスにおいていかれないように小走りでついていった。


「さっきの奴は間違いなく元老院の一人だろう」

「ここの権力者ね」

「で、あいつはさっき人形に自分の意識を移して行動していた」

「そうなんだ」


 イアとしては全にして個、みたいなものを想像していたからか、てっきり親機みたいなのの意識を子機が共有しているものだと思っていたがアレスの言い分からすると違ったらしい。

 思い返せば実際確かにあいつは意識の共有という部分を馬鹿にするように嗤っていた。


「つまりあいつをどうにかするためには、あいつが意識を移す事が可能な――この場合はさっきのマネキンを全部破壊するか、本人をぶちのめすかなわけだ」

「あれ、でもさっきは本人をどうにかするしかない、って」

「マネキンの数がどれだけあるか不明だからね。

 数に限りがあって、あと何体壊せばいいってわかっているならともかく、どれくらいあるかもわからないやつを全部壊すのに時間を費やすくらいなら、最初から本体を探して直接ぶちのめした方が圧倒的に早い、だろ?」

「言われてみれば確かに」


 今壊した二体のマネキンが全部です、であればあとは本体を探すだけだが、もし他にもいるのであれば。

 一体一体丁寧に壊していくにしても、数が多ければ多い程手間はかかるし時間もかかるし、その間に本体がどこぞに逃げおおせないとも限らない。

 だからアレスは先程マネキンを全部壊す、という方法を選ばなかった。


「己の意識を別のものに移して、っていうのがまさかここでやってたとは思いもしなかったけど、でもまぁ閉ざされた空間である種の治外法権みたいな場所だからな。

 禁忌とされたものがそこらに溢れていても何もおかしくない」

「ほぁー」


 確かに何か、前に授業でやったなぁ、とイアはぼんやり思い出していた。


 肉体は精神の器であり、精神を別の容器に移す事ができれば肉体がいくら滅んだとしてもその存在はあり続ける。

 であれば、肉体を新しくし続ける事ができるのなら、精神が摩耗しない限りは永遠の命を得る事ができる、というのと同義ではないか。


 かつて、そんな風に考えた者もいたらしいし、実際異世界からの知識や技術の中からもそういったものがあったらしい、とは授業でやった。

 だがしかし、魔力あたりはまだ感じ取れるが、人の精神というのは感じ取る事ができる事の方が少ない。

 魔力を扱うのと同じ感覚で精神を分離させようとした結果、被験者の精神が崩壊した、なんて過去の実験例も授業では話していて、故にそういったものは大体禁忌、ととても雑にテラは締めくくっていたのである。

 魔力と精神がイコールで結ばれているのならともかく、そうではないので魔力と同じようにやろうとするとほぼ失敗する、というのが過去のあれこれで得られた情報である。


 他人の精神を取り出して、とかそういうのよりはまだ自分の精神を、とかそっちの方が結果として成功しそうな気はするけれど絶対成功できる確信があるならともかく、ちょっとでも失敗の可能性があるうちは流石に自分自身で実験しようなんて者もほぼ出てこないので、定期的に話題に出るけどまぁマジでやめとけ案件だ、ともテラは言っていた。


 この手の実験に関しては、大抵が不老不死目当てとの事なので、イアとしては早々に自分には関係ないなと思っていたのもあってこんな事がなければ言われるまで思い出す事もなかっただろう。

 テストの出題範囲に出る、と言われない限りは。


 短命であるなら長寿に憧れ不老不死を、とか思うのが出ても仕方ないかもしれないが、しかしこの世界の人間のほとんどは異種族の血と交配された結果かつての人間と比べて圧倒的に寿命が長くなってしまっている。そういう意味では不老不死への憧れも挑戦もかつてほどの熱量をもってやらかす存在は減った……とされている。

 隠れてこっそりやらかしてる奴までは知らないが。


「えっ、それじゃあその元老院のさっきの人って、その……そういう方面で不老不死をお求めって事?」

「そうなんじゃないか? 自分はその立場になった事がないからわからないが、権力を得て何でも自分の思い通りにいくようになれば、それがずっと続くことを願うんだろうさ」

「うぅん、そういうものなのかなぁ……?」

「何か?」

「や、まぁそういう考えだったとしてもだよ?

 でもさ、その新しい器がよりにもよってさっきのマネキンって……どうなんかなって」

「……繋ぎなんじゃないか、アレは。俺らを新しい器にしてやるみたいな事も言ってたし」

「え、でもあたしたちの精神とやらをすぽーんと取り除けたとしてだよ? そう簡単にあいつらの精神が入り込めるものなの?」


 生憎とそこら辺授業でも詳しく言われていないので、イアからすれば疑問だらけでしかない。

 臓器移植に比べれば何か上手くいきそうな気はするけれど、しかし精神なんて目にみえないものをどうやって肉体にぶち込むというのか。

 ……そこら辺を詳しくやると、そのうち何かを勘違いしたバカが自分ならうまくできる! とか思い込んで大惨事を生み出す可能性があるからテラもそのあたりの詳細を言わなかったのかもしれない。


「精神の可視化ができれば案外可能なのかもしれないが……ともあれ、上手くいくかいかないか、は俺たちが問題にするべきではない。

 直接的に俺らの身体を奪うとかじゃなくて、恐らく遺伝子データをとってそこから器としての肉体を作る、とかなのかもしれないし」


 実際住人を人工的に作り出してるようなところなのだ。

 正直アレスにだって詳しい方法は思い浮かばないが、それでも何かこう……自分たちの遺伝子情報とかゲットした上で新たな生命を生み出したりされそうだな、とか、本来ならば荒唐無稽な想像がここでは実現されそうなので。

 できるとかできないとか、アレスたちが論じる意味が果たしてあるのかも疑わしい。


 データを採取されてその後新たな生命体を、となればそれはアレス本人ではないけれど。

 しかしそれにしたって、そこに自分の何かが使われると考えると正直あまり気分のいいものではない。


 イアも前世でSF作品をいくつか嗜んだ事があるし、ファンタジーだってそれなりの数触れてきたので、もしかしたらそういった作品の中の何かが奇跡的にこの都市では技術として扱えるのかもしれないな、と思う事にした。

 精神と魂は同じ扱いにしていいのかどうなのか、などの疑問もある。

 魂というのは命そのもので、そこに精神がもたらす感情などは含まれないだとか、作品によって小難しい設定が作られていたりもしたので、ここでどういう方法を用いているのかなんてイアが考えたところでわかるはずもないし、仮にどういった手法を使っているかを元老院が親切丁寧に教えてくれたとしても理解できる気がしない。


 重要なのは、この都市をワイアットが潰そうと思った事と実際にそのために行動している事。

 あのワイアットが故郷を滅ぼそうと思うまでに至った以上、元老院とかマジで害悪なんだろうな、という事で。


 つまりは先程マネキンを動かしていた中の人をどうにかしないといけないという事だ。


「小難しく考えると大体ロクな事になんないからね! こういうのはシンプルにいこっか」

「そうか。じゃあまずは元老院だと思しきアイツがいるであろう場所を見つけるところからなんだが……」

「あ」

「……案外予想通りだったな」


 話をしながらの移動、途中で特に妨害もなかったので案外すんなりと来た道を引き返して外に出た二人であったが。


 いざ外に出てみれば、先程のマネキンがそれはもううじゃうじゃと徘徊していたのである。


「あれ中身全部元老院!?」

「まさか。

 権力者があんな大量発生しているわけないだろう」

「それもそっか。権力者がいっぱいいたら派閥争いでとっくにこの都市滅んでそうだもんね」


 もしイアの言う通りあれが全て元老院の連中であるのなら、下手したら住人より多いかもしれないのだ。

 あってたまるかそんなもの、とアレスが吐き捨てたっておかしくはない。


「オノレ サキホドハ ヨクモヤッテクレタナ!」


 大量にいたマネキンの中の一体が声を発する。

 咄嗟にアレスが放った魔術が命中し、マネキンが破壊された。


「ナニヲスル! ヒトノハナシヲ キカズニ イキナリコウゲキスルナンテ バンゾクカ キサマハ!」


 すぐ近くにいたマネキンが今度は声を発した。

 どうやら中の人は一人だけで、壊れたらすぐさま近くのマネキンに移っているらしい。


「成程ね」


 元老院の一人ではあるだろうけれど、既にこの都市にいる権力者がこいつだけ、とは限らないがそれでも。

 現時点で他の元老院の誰かがこちらに何かを仕掛けに来ている、とかではないらしい。


 そう判断したアレスはイアを呼ぶ。

「え? なぁに?」

「見るかどうかはわからないけど、情報共有だ。もし他の場所でこのマネキン見かけたら遠慮も容赦もなくぶち壊すようにメッセージを」

「あっ、りょーかい!」


「サセルカ!!」


「それはこっちのセリフだ!」


 メッセージを送る事で、他の仲間たちもマネキンを見かけたら破壊するようになるはずだ。

 運良くこのマネキンを作っている場所に誰かがいればこいつの避難場所のようなものはそれだけで大分減らせる。


 イアにメッセージを送る事を任せ、アレスはこちらを止めようと動き始めたマネキンに向けて術を放つ。

 自分たちを中心に外側に向かって吹き荒れる強風に押されるように何体かが倒れ、その勢いが強すぎたのかぶつかりあったマネキン同士が割れる。

 術の範囲外にいたマネキンたちが逃れるように遠ざかり、そうして――


「……逃げたな」


 アレスたちの近くにいたマネキンのほとんどは破壊されていたが、次に言葉を発するマネキンは現れず、どころか無事だったマネキンたちのほとんどはかなりの速度で撤退していくところだった。


「イア」

「はいな」

「とりあえず追いかけて破壊しつつ元老院がいそうな場所へ行くぞ」

「へい承知!」


 レイたちやヴァンたちと違ってアレスはまだ都市の中をそこまで移動して回ったわけではなかったので。


 端的に言うと無駄に元気が有り余っていた。

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