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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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前向きアサシン



 授業が終わり、生徒たちはそれぞれ思い思いに行動する。


 ちなみに先程までの授業内容は、この世界に住む謎言語を使う一部の住民たちについてだった。

 イアとレイ、そしてイルミナ以外にもその話に反応を示した者がいたので、そういうのは一定数存在しているのだろう。


 基本的に彼らはこちらの言葉を理解した上で、自分たちの縄張りに引きこもり生活をしているのだとか。

 部分的な鎖国みたいなもんだな、と言うテラの言葉に身も蓋もないな、とウェズンが思うのも無理のない事だった。


 いずれ世界が滅ぶだろう事は確定していると決めつけて、そうしてだからこそ周囲との関わりを絶っているのだとか。

 こちらも関わらないようにする事が多いが、それでもどうしても関わりを持たなければならない事もある。数日前に行われた課外授業の一部もその一環だったのだとか。


 関わる必要性、とは……?


 と思ったが、瘴気問題とかでな……とやや言葉を濁すテラに察するしかない。

 あー、なんか面倒なアレコレがあったんですね……と雑に納得するしかなかった。

 あまり詳しくやる場合これテストに出すけどいいか? と聞かれたのだ。

 テストが面倒になりそうな予感を察知した生徒たちは、じゃあ詳しくやらなくていいです、と揃って首を振った。勿論横にである。



 さて、そんな雑に終わらせて本当に良かったのかもわからない授業が終わった後、ウェズンは特にやることもなかったのでさっさと部屋に戻っていた。ナビの手によってどこぞのホテルのスウィートルームか? というくらいに快適になっている室内だが、最近ウェズンはそこにキッチンを追加で取り付けた。

 食事に関しては食堂へオーダーすればナビが取りに行ってくれたりするけれど、ふと遅い時間に小腹が空いた時、わざわざ食堂を使うのもな……と思ってしまったのだ。

 あと、食堂のメニューはある程度決まっているので、そこにないやつが食べたい気分になった時などはやはり自分でどうにかするしかない。


 食堂のメニュー自体に文句はないが、やはりふとした瞬間、なんだかモーレツにジャンクな味を欲する事だってあるのだ。

 前世のおっさんだったウェズンなら、流石に深夜にそんなこってりしたりガッツリしてるものを食べようとは思わなかっただろうけれど、しかし今のウェズンは成長期で食べ盛り伸び盛りと言っていいくらいである。

 ちょっと重たい物を食べても翌日の胃に響かないってなんていい感じなんだ! と言いたくなるくらいに、ウェズンは今の人生を謳歌していた。


 若さっていいな。今のうちに目一杯楽しもう。


 そんなエンジョイ勢気分である。

 どうせ年をとったらあれこれ節制しなければならなくなるわけだし。多少の無茶がきく今がチャンスだ。そんな気持ちであった。とはいえ、あまりにも度を越えると若くても節制生活突入しそうなので、一応そこら辺は気を付けている。


 そんなわけで最近追加したキッチンで作った大味なチャーハンを食べていれば、どうやら来客が来たらしい。イアかな……? と自分の部屋に訪れる心当たりがそれくらいしかなかったので、ウェズンは特に気にする事なく部屋のドアを開けた。


「お……」

「や、やぁ、今大丈夫かな?」


「問題ないぞ。小腹空いたから飯食ってたけど」


 おうどうした、なんて気軽に出迎えようとしたものの、そこにいたのは妹ではなかった。

 知った顔とはいえ、知人以上友人未満といった間柄だ。少し前の課外授業で一緒に行動する事になったルシアである。


「へぇ、食事中……なんかごめんね?」

「いやいいけど。どうした?」

「あっ、その、これ。前に借りてたコートを。洗ったから返しに来た」

「そうか。さっき作ったチャーハンで良ければくってくか?」

「いやいいよ、もうちょっとしたら夕飯食堂からもらってくるからさ」


 はは、と笑ってルシアはコートが入った紙袋をウェズンへ渡す。

 受け取ったのを確認すれば、ルシアは「それじゃ」とにこやかに微笑んだまま立ち去って行った。


 その背を見送って、振り返る事も立ち止まる事もなく去っていったルシアの姿が見えなくなってから、ウェズンは部屋に引っ込んだ。

 そういや貸してたなコート。わざわざ洗って返すとか律義な奴。


 そんな風にしか思っていなかった。

 とりあえず戻ってきたコートを紙袋から取り出して、そのままリングへ収納する。


 ウェズンからすれば、その程度の日常の範囲内としか言いようのない出来事であったのだが。





「は……何アレおかしいだろ……?」


 日常で済ませられなかったのはルシアである。

 ルシアは別にウェズンに恨みを抱いているわけではないが、ちょっとした諸事情から彼の事を殺すつもりであった。

 課外授業で世話になっておきながら、恩を仇で返すような行為であるけれど背に腹は代えられない。そんな気持ちでもって、コートを返すという口実で彼の部屋へ行き、そこで彼を殺害するつもりでいたのだ。


 人間関係という点で見るなら、ルシアとウェズンの仲は良くも悪くもない。課外授業で一緒になっただけ。別にそこで人間関係に亀裂が生じるようなナニカがあったわけでもないし、だからこそ殺すにしてもあからさまな殺意だとか敵意を出さなければ不意打ちは可能。そう考えていた。


 コートを返しにきた、というだけの相手が自分を殺そうなどと一体誰が思おうか。


 武器はリングに入っているし、すぐさま取り出せる。向こうも同じように武器はリングに収納されているだろうけれど、奇襲攻撃に対して咄嗟に対処できるかは不明。むしろ、殺される理由がない相手であれば、何故だとかどうしてだとかの疑問が出て初動は遅れる。その隙に、事を成すつもりであった。


 だがしかし、ルシアはそれを実行する事ができなかった。

 別に情が、とかそんな理由ではない。


 ドアが開いて見えた向こう側、つまりはウェズンの部屋。


 見えた瞬間何事かと思った。


 ルシアの寮室は未だほとんど手をつけていない状態であった。魔力で部屋の広さや温度を変えたりできるとはいえ、変えたところで他に手を加えられそうな部分があるでもなし、家具だってロクにそろえてもいないのだ。それなら最初の状態の室内のままで充分だ、そう思っていたのである。

 勿論、既に多少手を加えたという人の話を耳にした事はある。同じクラスの人間だったり、別のクラスの奴の話だったりで聞こえてきたので、まったく何も変えていない、という奴ばかりではないとルシアも知っていた。


 知っていたけれど。


 見えた部屋は、ちょっと手を加えました、程度じゃ済まないレベルで違っていたのだ。驚きの声を上げないだけルシアは頑張った方であった。


 えっ、何あの何か凄い部屋。


 語彙力が途端に消失して何かもう凄いとしか言いようのないあの部屋は、勿論ウェズンが手を加えた結果なのだろう。しかも家具までそろっていた。


 あれ? 実家が太い方だった……?

 いやまさかそんな。

 そりゃあ、金が全くないとは思ってないけど、それにしたって……あれおかしいな、事前に聞かされた情報と違う。


 そんな疑問が口から出なかっただけ良しとするしかなかった。


 まって、もしかしてあの部屋迎撃システムとかもあったりする?

 そんな風に思ってしまってもおかしくないくらいに、あの部屋は色々と凄かったのだ。チラッと見えただけであっても。


 動揺するなと言う方が無理だった。

 そんな状態で、いくらウェズンが警戒していなくて隙があったとしても、ルシアはあの瞬間攻撃をするというそれだけの事を実行できる気がまるでしなかったのだ。

 それでも強引に事を成そうとしたのであれば、もしかしたら、あの部屋の世話係が防衛に回っていたに違いない。一瞬の隙を突いて、一度だけなら奇襲攻撃も成功するとは思う。思うのだが、それを実行してすぐさま逃げに徹さなければ世話係が攻撃をしてこないとも限らない。


 頭の中で何度も何度も事態を想定して、よしやるぞ! と意気込んでいたというのに、しかし結局のところルシアは想定していなかった部屋の豪華さに目を奪われて攻撃を仕掛ける、という事すらできなかった。

 意識がそちらへもっていかれて、万全の状態とは言い難くなってしまった。


 想定外の事に対処できないまま実行して、それで果たして成功できるか……となればルシアは早々に「無理だ」と判断してしまったのである。


 いやまだだ、まだ機会チャンスはある。


 そう自分に言い聞かせる。


 実際まだ学園には入ったばかりだ。時間はまだある。

 今回コートを返すついでに、と思っていたのにそれができなくなったのは痛かったが、しかしこれから先の機会全てが途絶えたわけではないのだ。

 これから少しでも彼と関わって、近くにいても疑問に思われない程度の距離感を得る事ができればチャンスは増える。時間がないならいざ知らず、時間はあるのだ。だから、じっくりゆっくり距離を詰めればいい。


 前向きにそう考えて、ルシアは両手で軽く頬を叩く。


「よし……! がんばるぞ……!!」


 自室に戻ってきたルシアは、そうして気合を入れたのであった。

 ルシアの部屋の世話係は勿論そんな彼を見て、まさか同じ生徒を殺そうとしているなんて思うはずもない。

 だからこそ、なんだかやる気に満ちているなぁ……なんて温かい眼差しでもってルシアを見ていた。


 彼の暗殺チャレンジは、まだ始まったばかりであった。

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