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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

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かくれんぼには至らない



 硬質な足音はてっきり固い素材の靴でも履いているからだろうと思っていた。

 しかしイアの予想をあっさりと裏切って先程までイアたちがいた場所にやって来たのは、人の形をしているけれど、しかし人ならざるモノだった。


 一応人の形をしてはいる。

 いる、けれども。

 ヒトというよりはマネキンと言った方が近しいかもしれなかった。


 服屋に置かれているマネキンと明らかに素材は異なる。どちらかといえば陶器のような素材かもしれない。そんなマネキンのようなナニカがやって来たのである。


 そいつが一歩歩くたびに、カツン、コツン、と床とそいつの足とがぶつかって音が出る。

 ヒトであったならもう少し早い段階で気配に気づけたかもしれない。

 けれどもどう足掻いても生き物ですらなさそうな、気配も何もあったものじゃないこれに気づくのは容易ではなかった。むしろ足音が聞こえて気づけただけでも大分マシだろう。

 もしこいつの素材がもっと柔らかい物で作られていたならば。

 気配も感じ取れず、そして足音にも気付けず、といった状況になっていたかもしれないのだ。


 それ以前にそもそも床に、ここに来るための入り口を隠すようにしていたようにカーペットを敷かれていたなら。

 間違いなくこいつの存在にはギリギリまで気付けなかっただろう。

 気づいた時にはこいつに背後をとられていた、なんてことになっていてもおかしくなかった。


 下までみっちり詰まった長机みたいな操作盤の裏側に回り込んでしゃがんで隠れているけれど、イアからすると正直気が気じゃなかった。何せピッタリ張り付くようにして隠れているが、それだけなのだ。

 こいつの視力がどうなっているかは定かではないが、もしちょっとでも下の方に目を向ければもしかしたら見えるかもしれないし、そうでなくても回り込んでこちらに来ないとも限らない。


 モニターが映している光景が明るめの場所のせいで室内はそこそこ暗いはずなのに、けれどそこまで暗さを感じる事がないのも見つかるんじゃないか、と冷や冷やさせる原因であった。モニターから出る光に照らされて、自分たちの存在に気づかれるのではないか……そんな風にどうしたって思ってしまったのである。


(ひえっ……何か昔に見たホラージャンルみたいな展開になってるううぅ……!)

 声には出さないが、そんな風に思う。

 とはいえ、イアが前世で見たホラー作品では、こうして追い詰められていると言っても過言ではない状態に陥っているのは大抵戦う術もない非力な者たちで、見つかった時点で逃げようとしても一歩及ばず殺されたりしていたけれど、少なくともイアとアレスには戦うための手段がある。


 初動をミスしなければどうにかなるはず、と信じているのでまだそこまで追い詰められたという感じはイアの中でなかったのだ。


 アレスもアレスで、怖いモノ見たさなのか結構ギリギリだというのに視線を上に向けてそいつを見上げていた。

 といっても、向こうが身を乗り出してこちら側に近づくような事でもない限り、そこまでハッキリとは見えないのだが。

 今はイアとアレス、二人ともしゃがみ込んでいるけれど、これが背中を預ける形で足を伸ばした状態で座っているだけであったなら、恐らくは足の先が向こうからは見えていたかもしれない。


 映像が映し出されているといっても音声は入っていないので、室内は静かな方だ。

 機械が動いているらしき駆動音はするけれど、それだってそこまで大きな音ではない。

 もっと大きな音が四六時中していたならば、アレスも間違いなくこいつの存在に気付けず背後をとられていたかもしれない。


 それなりに静かな室内で、先程のイアがキーを押して操作していた時のような音が連続して聞こえた。

 イアが押していた時よりもカチカチという音がやけに聞こえてしまうのは、そいつの素材が陶器みたいな固さがあるからだろう。

 カカッ、カタカタカタッ、とやたら素早い音がして、モニターの映像がいくつか切り替わる。


 イアが操作していたといっても、完全に使い方を理解していたわけでもない。

 ただ前世で使った事があるやつと似てる感じだな~、で操作していただけなので、イアが切り替えたりして見た映像は都市の中でもそこまで重要そうな施設の中とかではなかった。

 重要そうな建物のいくつかは見つけたけれど、その中を見るところまではできなかった。


 しかしそいつが操作し切り替えた先の光景は、イアが先程映し出した場所とは異なり、明らかに重要そうな施設の内部。

 とはいえ、既に破壊された場所もあるらしく映像が映る事なく砂嵐のような状態になってしまっているのもいくつかあった。


 レイたちは意外と順調に施設の破壊をしていたらしい。


 いくつかのモニターが砂嵐状態になった事に何を思ったのかはわからないが、そいつはすぐさまそれ以外の場所に映像を切り替えていた。

 頭上から更にキーを叩く音がして、画面が切り替わる。


「あっ」

「っ!?」


 そして切り替わった画面に映し出されたものを見て、イアは思わず声を上げてしまっていた。

 大きな声ではない。運がよければ相手には聞こえない程度だったと思う。

 けれど隣にいたアレスには聞こえてしまったので。

 アレスは咄嗟に上に視線を向けて相手の動向を探るが、特にこれといった変化はない……ような気がした。

 正直視界にバッチリ映し出されているわけではないし、相手が生物かもわからないものなので何か変化があったとしても気付きにくい。

 多分大丈夫……か? とやや不安ではあるものの、イアの声は聞こえていないはずだと思いたかった。


 そいつはイアの声が聞こえたかどうかはともかくとして、切り替えた画面を注視しているように見えた。

 イアもまた画面を見ていた。


 そこに映し出されていたのはウェズンだった。

 レイとウィルと行動を共にしていたようで、どこぞの施設で破壊活動に勤しんでいるようだった。

 床にぽっかりと開いた穴はウェズン達が開けたというよりは、最初からそういう仕様だったのだろう。そこから何かがせり出してきて――それは、イア達が先程見た彫刻に似ているような気がした。

 直接的に同じ物だ、と断言できないのはなんというかオリジナルを見た誰かがそれに似せて作ろうとして微妙に失敗した感が溢れていたからだ。


 何と言うべきだろうか。

 例えば同じ絵を描いたとしても、絵が得意な者と不得意な者とでは、同じ絵に見えない……といったような。


 イアたちがこの建物に入る時にあった彫刻は恐らく最初からそういう物を作りました、という感じではあった。何作ろうか迷ってるうちにこんなんなっちゃいました、みたいな雰囲気はなかったのだが、今ウェズン達の目の前に現れたそれは何かよくわからない物をとりあえず模写してみたけどやっぱりよくわかんない、みたいな雰囲気が漂っている。


 そしてそのよくわからない謎のオブジェめいたそれが、ぐいんとしなりウェズン達に襲い掛かる。


 とはいえ、それは自由に移動できる物ではないのか下から運ばれてそこから動く事もなくただぶんぶん回っているだけだ。

 紐に鍵などを括りつけて、その紐をぶん回した時のような……と言えば近いだろうか。その範囲外に退避してしまえば大した脅威になるはずもない。


 しかしその謎の物体は何度かぐりんぐりんと上半身――と言っていいのかは謎だが――を捩じるように回転させた後、閃光を放ち爆発した。


 流石にウェズン達もそうくるとは思っていなかったようで、咄嗟に障壁を展開したようではあるが一番近くにいたウェズンが障壁ごと吹っ飛ばされた――のをイアは見てしまって、それで声を上げた次第であった。


 おにい!? と叫ばなかっただけイアとしても頑張った方だ。状況を理解してはいた。自分たちも今は何かよくわからない物体の目を逃れるようにしているので、下手に動いたり喋ったりできない――とわかっていても、それでも家族が危険に陥った瞬間を見てしまったのだ。

 アレスもそれをわかっているからこそ、責めるつもりは一切ない。


 本来ならば耳を劈くような轟音がしていたかもしれないが、音声はこちら側に届いてはいない。

 だが、映像は爆発した直後、その部分を映していたカメラも諸共破壊されてしまったのか、映像は砂嵐に変わる。

 それを皮切りにしたのか、次々と他のモニターの映像も遮断されていった。

 他に映っていた映像は特に何か、破壊されただとかそういったわけではない。

 それなのにブラックアウトしていくというのは本来ならば有り得ないはずで。

 であるならば、そいつが映像をシャットダウンしているのだろう。


 都市の様子を確認して、それでこれ以上見る必要はない、と判断したのかもしれない。


 そう思ったのは確かで、けれど油断していたつもりはなかった。


 一瞬暗くなった画面によって室内もその分暗くなっていったけれど。


 この隙に行動に移るべきか、とイアとアレスは視線を交わし合って行動するにしても、ではどのタイミングで動くべきか……と相手の動向を探ろうとした矢先――


 再び画面が映し出される。


 パッ、と一斉に再びついた画面はどれも同じ場所を映し出していた。


「くそっ、最初からもしかしてバレていたのか!?」

「それっぽいね!」


 映っていたのは、そいつの目を逃れるようになるべく身体を縮こませていたイアとアレスだ。

 上手く相手の目からは見えていないようではあったらしいけれど、しかしこの部屋にもあったらしきカメラにはバッチリ映っていたのだと知って。


 今更声を潜める理由もなくなったのでアレスもイアもどこかやけくそ気味に叫んで。


 実力のほどはわからないが、ともあれ室内にいたそいつに向かって攻撃を仕掛ける事にしたのである。

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