表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
八章 バカンスは強制するものじゃない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

376/466

奇妙な合致



(それにしてもどういう事なんだろう……?)


 アレスが以前見かけた神の子が作ったオブジェと似た彫刻があった家。

 そこに入ってみれば、外と異なるハイテク感あふれるところで。

 どう考えてももっと厳重に警備されていなければならないはずなのに。

 ここに至る道が隠されていたから、もしかして放置しておいても問題ないと思われていたのだろうか。


 イアが困惑する横で、アレスも似たように困惑――というか難しい顔をしていた。


 床下収納みたいな隠し通路はカーペットで隠されていたとはいえ、それだけだった。

 そもそもこの都市に、誰かの家に侵入するような犯罪者がいない、と考えるのならちょっと隠すだけで事足りているのかもしれないけれど、それにしたって……と思ってしまうわけで。

 現にこうしてアレスとイアはここまで忍び込んでしまった。


 とは言うもののアレスはここで何ができるのか、正直よくわかっていない。

 機械がやたらあるけれど、アレスの今までの人生でこういったものと関わる機会がそもそもなかったからだ。

 何となく使い方が分かるものもあるにはある。学院で似たようなものを見たことがあるので。

 だが、学院と同じノリでここにあるものを適当に操作するのはマズイ気がした。

 気が、というか実際にマズイと思う。


 いくらこの都市を潰すという目的があるにしても、一緒に自滅したいわけではないので。

 なんかわからんがとりあえず適当に操作してみるかー、でやらかした挙句自分がそこで死ぬような目には遭いたくない。

 なのでここにある機械を操作するにしても、せめて何がどうなるのかがわかってからじゃないと手が出せなかった。


 故にアレスとしては難しい顔をしながらもさてどうするべきかと悩んでいた。


 ところがイアはそうではなかった。

 なんというか、似ていたのだ。


 前世、自分が暮らしていた場所にあった施設の一つに。


 前世で見た映画やアニメにも、こういった場所はあった。そして自分が暮らしている場所にも、似たような場所がある、と知って。

 前世のイアは興味本位で見学して、特に問題のないやつがあるとの事で操作をしてみたりもした。

 イアが触れた部分は恐らくダミーか何かだったのではないか、と思われる。キーを押しても特に何があったわけでもない。入力した文字が目の前の画面に映し出されて、それで何らかのコマンドを……みたいな雰囲気を体験できるだけのもの。


 イア達が触れてはならないとされていた方はまだ使われていたようだけど、イア達が興味本位で見てみたい、と言って触る事を許された限られた範囲は、本当にどこのキーを入力しようともどんな滅茶苦茶なコードを入力したところで、一切何の影響も及ぼさない部分だった。


 アニメの中のワンシーンや、映画に出てきた指令室みたいなところで、映像作品として見るのと直接目の前にあるものを見るのとではまた違った感覚で。


 イアは意味もなく何度もキーを押して自分もアニメや映画に出てきていた登場人物の一人になったみたいな感じで遊んでいた事もあったのだ。


 その場所に、なんだかとてもよく似ていて。


 だからつい、前世の記憶に導かれるままにイアは目の前にあった数々のキーを、前世のように押して――


「えっ!?」


 どうやらパスワードが解除されたらしく、一斉にいくつかあったモニターに映像が映し出された。


「イア、今何した?」

「えっ、えっ、あの、なんとなく押しただけなんだけど」

「偶然にしても凄すぎるだろ……これは……都市の各地を映し出してるみたいだけど」

「そう、みたいだね。多分街のあちこちに監視カメラみたいなのがあるって事だよね、これ」

「じゃなきゃこんな映らないだろ」

「それもそっか……」



 前世で一人、ごっこ遊びのようにしていたのと同じように入力した結果、それがここの起動パスワードだったなんて偶然にしては出来過ぎている感じがするが、今はそれについてとやかく言っている場合ではない。どのみち何の情報も得られないままでいるよりは全然マシだ。


 都市の中の様子を映し出すにはモニターの数が足りていないので、一定時間ごとに別の場所が映るように切り替わっているが、そもそも見慣れない街並みだ。一体どこを見ていいのかわからずイアとアレスは見る場所こそ違っているようだが、同じようにその視線は彷徨っていた。


「あ」

「何かあったか?」

「あの画面、あれ、ヴァンとファラムじゃないかな?」

「どれ――どれだ?」

「あっ、切り替わっちゃった」


 えーっと、と言いながらイアは再びキー入力を開始して、一つのモニターに先程見た部分が映るようにする。

「なんでお前それ操作できてんの?」

「えっ? なんでって……なんで?」

「……いや、いい」


 アレスからすると当たり前のように操作しているイアに疑問しかなかったが、イアはその疑問をどうしてぶつけられたのかわからないといった表情で首を傾げていたので。


 アレスは、なんだパッションとか勢いってやつか……と雑に納得する事にした。

 実際イアからすれば前世で散々いじり倒したものなのでなんとなく覚えてるものなんだなぁと感慨深い気持ちでいただけだし、そういう意味で操作できている事はイアにとって当たり前の事だったからアレスの疑問の意図が理解できなかったのだ。


「あっ、なんか警備隊みたいな人たちと戦闘してるね」

「そうみたいだな……というか、こういう場所にこそああいった人材がいないのおかしいだろ」

「そうなんだよね、ここのセキュリティどうなってんだろね?」


 画面を切り替えてヴァンとファラムが映し出されたモニターには、ついでにこの都市の警備を担っているであろう相手も複数名映し出されていた。

 そしてそんな連中とヴァンとファラムは戦いを繰り広げていたのである。


「……なんていうか、数で見ればこっちが圧倒的に不利なのに余裕だね」

「あぁ、というか、あいつら弱すぎないか?」

「そだね」


 本来ならばこんなところで見てる場合じゃない、急いで助けにいかなくちゃ! とか言い出してもおかしくない展開になっていたっておかしくないはずなのに、そう言いだす必要をまったく感じさせないくらい二人が優勢だった。


 もっと言うならファラムはモノリスフィアで何やらポチポチ入力しているっぽかったので、恐らく誰かしらと連絡をとっているらしい。

 少なくともイアとアレスでない事は確かなので、そうなるとウェズンか、レイやウィルあたりか。

 戦闘中にやらかしてる時点で相当余裕というか、相手からすれば舐め腐っている態度と思ってもいいくらいに余裕をかましている。


 ファラムが何やら連絡を取り合っているので、実質その間ヴァン一人で警備隊とやりあっているのだが、危機的状況に陥りそうな感じがこれっぽっちもしなかった。


「ちょっとまって、ウィルとかどうしてるんだろ」


 言いつつイアは別のモニターにレイとウィルがいないか、視線を移動させて、見つからなかったためキー入力を開始して探し始める。

 都市の中で人らしき姿がほとんど見受けられない状態だったから、見つけ出すのは案外簡単であった。


 レイとウィルはどこぞの建物に侵入していたらしく、少々姿が遮蔽物にさえぎられる形になっていたがそれでもカメラに映る範囲にいたためイアとアレスは向こうも無事である、と知って安堵の息を吐く。

 どうやらファラムがモノリスフィアで連絡していた相手はウィルだったらしく、彼女もまたモノリスフィアを手に何やらやりとりをした後、レイにモノリスフィアを向けて何やら喋っていた。


 映像は映し出されているものの音声は聞こえてこないので、何を喋っているかまではわからなかったが、悪い話ではなさそうだ。少なくとも見える範囲での二人の様子からそう判断できる。


 音声が聞こえるようにできれば、というか向こうと直接やりとりできればいいのかもしれないが、しかしイアが見る限りその操作がわからない。

 仮に音が聞こえるようになったとして、モニターに映っている場所から聞こえる音が一斉に聞こえてくるかもしれないのだ。

 街中に人がいなくて静かそうではあるけれど、逆にこちらの音も向こう側、それこそ都市全体に聞こえるような事になるのはよろしくない。


 今のところ映し出されているのはほとんど無人状態の都市の外と、然程重要そうではない建物の内部だ。


 ウェズンがどこにいるのかはわからなかった。外にいたとしても、もしかしたら絶妙なタイミングでカメラに映らないだけという可能性もあるが、なんというかそこまで危機的状況に陥ってる気はしなかった。

 最強の番人とやらと戦うためにワイアットが巻き込んだはずなのに。


 とりあえず全員無事だろうとアタリをつけてイアはざっと都市の様子を確認していく。

 そうしていくつか重要そうな施設を発見し、これ破壊しておいたらテラプロメも大打撃確実じゃない? と思ったところをチェックしていって。


 そこでウェズンから連絡がきたのである。


 相変わらずモニターに彼の姿が見えたりはしないけれど、無事である事が確定した。

 どうやら既に最強の番人とやらは倒した後らしく、であればイアとしては兄と合流したいというのが本音だったが、もし他に同じ立場の最強の番人がいたとしたら……なんていう、個体名と見せかけてチーム名だった説を示唆されて。


 イアもまたモノリスフィアでワイアットに連絡を取る事にしたのである。


 彼が今どこで何をしているのかはさっぱりだし、都市を移動している皆と違ってもしかしたらのっぴきならない状況になっているかもしれないけれど。

 現時点一番情報を持っているのはワイアットで、場合によっては彼のところに助太刀にいかなきゃいけない可能性もあるので。


 イアはウェズンと違ってもし自分の連絡が相手を致命的状況に追い込んだら……なんて考えず、一先ずダメ元でメッセージを送りつけたのである。

 すぐに気づいてくれればいいが、そうでなければ……なんて思っているうちに、案外あっさり返信がきて。


 どうやらワイアットはワイアットで自分の目的のため動いているようで、随分と簡潔な返信ではあったが、それでもこちらにやってほしい事を指示だけはしてきた。


 この都市にある重要な施設の破壊。


 どのみちこのあとイア達もやろうと思っていた事だ。それは何も問題ない。

 ついでにウェズンに返信もして、その時ちょうどモニターに彼の姿が映し出されたので。


 あっ、さっきワイアットに言われた場所の一つに近いところじゃない? と思ったからこそイアはとある施設の破壊を兄に頼んだのである。


 まぁそれが住人を作り出すとかいうところだったのだが。生憎とイアはそこまで理解していなかった。

 ただ、破壊しておかないと後々面倒な事になる、とワイアットが言っていたからじゃあそうしておこうか、というくらいの軽いノリだ。


 その後ファラムやウィルからモノリスフィアにメッセージが届いたので、いくつか壊せそうな施設の場所を教えて、他に何かないかと画面を切り替えて都市の様子を探っていく事しばし。


 ルシアからイアへモノリスフィアに連絡がやってきて。


 あれっ、ルシアってあたしたちが来てる事知ってたの? と驚いたものの、聞けばどうやらイルミナたちと合流したらしい。


「イルミナも来てるのか? 待機するって言ってたくせに?」

「うん、なんか、エルアって子につれてこられたみたい」

「エルア……? 誰だそれは」

「さぁ? でもそれは今重要じゃないと思うの。ウィルにもファラムにも聞かれてるけど、ある程度したら合流しないといけないじゃん?」

「まぁ、そうだな。帰るにしてもここでは確か神の楔は使用許可がなければ地上に行けないっていってたし」

「そう。で、帰るためにはそろそろワイアットと合流しないとなんだけど……その前に皆との合流しておいた方がいいよねきっと」

「そうだな」

「それで、二人は今どのあたりにいる感じ?」


「ちょっと待て、確認してみる」


 既に画面に仲間の姿は映っていないので、今現在どこにいるかはイアでもわかっていない。

 ずっと仲間の動向が映っていればわかりやすかったのだが、カメラのない場所に移動されてしまえばどうしようもないのだ。


「……もしかしたらウィルとファラム、案外近くにいるんじゃないか? 周囲に見える景色について送られてきたけど、何かそんな気がする」

「んー、それじゃ、なんかわかりやすいところに集合、かなぁ?」

「……了解、だってさ」

「ん」


 ――と、まぁ、映像とはいえそれなりに情報を収集して仲間たちと合流の目途が立ったわけだが。


 ザッ、と突如モニターにノイズが走り、画面から映像が一斉に消える。


「えっ」

「イア、こっちだ」


 声を潜めつつアレスがイアの腕を引っ張って、どうにか物陰に身を隠せば。


 どうやら知らぬ間に誰かがここに近づいてきていたらしい。

 硬質な足音が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ