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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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その後のあっさり顛末



「――って感じでようやく帰ってきたわけ」

「へー」


 当日中に課外授業から帰ってきたウェズンと違い、イアたちが帰ってきたのは翌日だった。

 一泊二日。そう考えるとそこまで大した話でもなさそうではあったが、ウェズンが体験した出来事以上にイアの方が命の危機の度合いが高すぎるにも関わらずけろっとしていて、ウェズンはどういうリアクションをすればいいのか悩んだ末になんだか生返事のようなものを返すのが精一杯だったのである。


 洞穴の中で一夜を過ごして、翌日には帰ってきている。


 これだけ聞けば何事もなかったかのように思えるが、実際は違った。


 日が沈んだあたりではまだ何もなかったけれど、すっかり暗くなってから実は集落の人間はイアたちを探しに周辺をうろついていたようなのだ。


 手に松明を持ち、わけのわからない言葉を喋りながら。


 その光景を想像して、ウェズンは「ホラージャンルにありがちなやつだな」ととても雑に認識した。

 幽霊だとかのホラーではなく、人間が怖い系のパニックホラーを想像して聞けばまぁ確かにそう思えなくもない。

 これが例えば敵国と戦争していて相手が殺そうとしてきた、とかであれば全然ホラーでもなんでもないのに、ちょっと状況が違うだけで途端にホラー成分マシマシとかどうかとすら思えてくる。


 ま、戦争の場合は争っているというのがわかりきっている事だけれど、今回の場合はそういう状況でないのは明らかで。最初から戦うつもりで行ったのであればまだしも、そうじゃなかったからこそ、というのもあるのだろう。


「それで、そのレポートは?」

「うん、一応書けって言われたから」


 教室の中でイアから課外授業どうだった? なんて話をされて、ウェズンの方はさらっと終わった、そっちは? と返した結果、イアは丁寧に自分が体験した出来事を語ってくれたわけだ。


 イアたちの課題は早々に終わったというのに帰りにまさかのアクシデントで行かなくていい場所に行く事になり、そうしてそこでトラブルに巻き込まれる。

 そう考えると確かに何かの話の導入っぽくはあるけれど、実際はそこから先、特に盛り上がるような展開もなく終わりを迎えた。


 洞穴に身を隠し身体を休め、明るくなってからどうにか一同は学園に帰るつもりでいた。

 今後どうするか、というのを話し合わずとも最終目標はそれだ。

 帰った後で今回の件を報告して、あの謎言語原住民についても話をしておけば、あとは教師の方でどうにかするなりあの地域へ行かないように通達するとか、何かそういう報せがあるだろうと思っていたのだ。きっと。レイやイルミナの中では。


 エイワーズという他教室の生徒もきっとそう考えていたかもしれない。


 けれども実際は。


 イアが母から届けられた武器を使いイアが住人たちを皆殺しにしたのである。


 とは言っても別に一人で洞穴から出て連中を殺して回ったわけではない。

 イアはただ、そっと糸を洞穴の外へ地面を這うように伸ばしていっただけだ。

 そうしてある一定の範囲を糸で張り巡らせただけ。

 夜になってもレイたちを追いかけていた住人たちが戻らなかった事で、流石に集落の連中も何かがあったのだと気づくわけで。

 女子供をその場に置いて――とできるほどその時点で集落の住人たちに余裕があるわけではなかった。

 百にも満たない人数で形成された場所。

 勝手知ったるなんとやら、というべきか、乳飲み子を抱えるような女がいなかったのもあって彼ら彼女らは二人から三人一組程度に固まって、そうして周辺を見回ったらしい。


 集落からあまり離れなかった相手はともかく、エイワーズの仲間が殺されたあの小屋の方へは勿論足を運んだ者がいたらしく、そこから騒ぎとなり警戒度合いが上がりレイたちの行方を探していたのは言うまでもない事で。


 そしてレイたちがたまたま見つけた洞穴の存在を、住人達全員が、というわけではないが知っていた者もいたらしく接近してきた数名をイアが糸で絡めとり全身の骨をあらぬ方角へへし曲げて始末し、その後更に糸を伸ばして集落近辺にいた者たちも同様に始末。

 糸はイアの魔力で作られたものなので、糸に触れたものが何であるのかは何となく感じ取る事ができたのだとか。


 とはいえ、あまりにも長く伸ばすと糸が触れているものを感じ取るのにもそう簡単にはいかず、少しばかり苦労したようだが。

 たまたま見張りの順番がイアになって、他に誰も何も言わないからこそこっそり試して実行した結果なのだと言っていた。

 本来ならば洞穴に近づいた連中がいた時点でレイたちを叩き起こすべきだったのだろう、とはウェズンも思うが……

 叩き起こしたとして、そこから一同で戦ったとして。

 間違いなく騒ぎが大きくなるし、場合によっては余計な被害も出たかもしれない。


「使い慣れないから中々に疲りた」


 とは糸を一杯出してあれこれした後のイアの感想である。

 渡されてまだそう日も経過していない武器だ。これを使いこなせるようになったら、さぞ厄介な事になりそうである。敵からすれば。そして使い慣れるまでは味方も場合によっては巻き込まれそうだな、と思ってしまった。


 そうして集落の連中皆殺しにして、イアたちは集落にあった神の楔から学園へ帰ってきたのである。

 ちなみにレイやイルミナ、エイワーズの反応は言うまでもない。


 ついでに内心でウェズンも「えぇ、マジか……」と軽く引いていたが、それは表に出す事がなかった。


 いや確かに何か物騒な世界だなと思ったし、そういうのもあったからこそいざとなった時に躊躇して自分が死ぬような事だけは回避しろよという意味で、ウェズンはイアに言い含めた部分もある。誰彼構わず殺して回れ、とは流石に言わないがそれでも敵対していて命の危険があるようなら躊躇うな、とは言った覚えがある。


 けれども、まさかこうもあっさりそれを実行してみせるとは思いもしなかったのだ。


(いや、でも)


 イアの前世を思い返せば、そうなる可能性もあった。

 一見すれば平和な場所で暮らしてきたけれど、実質何もかもを管理された環境。実際に自分が暴力をふるう事になるような展開が、果たしてあったか、と問われると恐らくはなかっただろうと思える。

 この世界に生まれて暴力をふるわれてそれが恐ろしいものである、という体験をしたとしても、自分がそれをする側になる時にその実感がやってくるかどうか……ウェズンの中では可能性としては半々であった。

 誰かを傷つける事を良しとせず躊躇う事も、躊躇わずに実行できる事も。


「……大丈夫そうか?」

「ん? だいじょぶだよ?」


 質問の意図を果たしてわかっているのだろうか。けろっとした様子で返された。


 ま、イアが何も知らぬ無垢な存在のままであったなら、いずれ倫理観とかが追い付いてきて深く後悔する事もあったかもしれない。けれども、前世の記憶がある時点で、何も知らない無垢なこどもではないのだ。知った上でやらかしている。


「それならいいや」


 それならばわざわざ掘り下げて彼女の心にあえて傷を作りに行く必要もない。そう判断してウェズンは中々埋まらぬ……と呻くイアのほぼ真っ白なレポートの紙を一瞥し、頑張れ、とばかりにイアの頭に手を置いた。



 それから三日が経過すれば、他の課外授業に行っていた者たちもほとんどが戻ってきたようだ。

 とはいえ、必ずしも生きて戻ってきた、というわけではなかったが。


 ウェズンたちが遭遇したアインたちのように、出向いた先で死んだ人間は他のグループにもいたらしい。

 一人でも生還できたグループはまだいい。中には全滅したところもあったらしく、たった数日で生徒の数は思った以上に減っていた。

 テラのクラスですら五名ほどの死者がでたが、他のクラスは減りすぎて他のクラスと生徒の数を合わせて丁度いい感じになった、なんてところもあったようだ。

 気付けば、クラスの数が減っていた。


 受け持つクラスがなくなったからといっても、やる事があるので教師の忙しさはそう変わらないんだよな、むしろクラスなくなった分他の仕事回されるんだわ。お前らは簡単に死ぬなよ。

 なんて、テラが溜息まじりに言っていたのを思い出す。

 じゃあ死なないような授業をお願いしますよ、と言いたいところだがその場合は間違いなく神前試合に選ばれるような優秀な生徒が出るかも微妙なところだ。

 見るに堪えない死合いをしたとなれば、今度こそ神が時間をかける事なく今すぐに滅ぼす、なんてことになるかもしれない。


 授業内容が理不尽だろうと、最終的に行きつく先――神前試合がそもそも理不尽の塊なので文句も言えやしないといったところか。


 なんとも優しくない世界である。

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